広告:性転換―53歳で女性になった大学教授-文春文庫-ディアドラ・N-マクロスキー
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■夏の日の想い出・赤い服(21)

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アクアは3月から7月上旬にかけて2本続けて映画制作をした後、7月4-6日だけ(編曲の仕上がりを待つ間)お休みを頂いて八王子の家で過ごした。そのあと7月6日から8月5日まで掛けてアルバムの制作をした。
 
それで8月6-7日はお休みにしてもらい2人とも八王子の家で死んだように眠った。彩佳と理史も6日は八王子の家に行ったものの龍虎たちは寝ている。それで彩佳は、桐絵と宏恵も呼び寄せて(りっちゃんが迎えに行ってくれた)、理史君と4人で適当におやつなど食べながらおしゃべりしたり、囲碁とかオセロとかしながら1日過ごした。
 
2人の龍虎はトイレに行ったり水分補給したりする以外はひたすら眠り続けて、8月7日の昼近くになって、やっとFが目覚めた。
 
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「おはよう」
「最初自分がどこに居るのか分からなかった」
「よく寝てたね」
「みちおはまだ寝てるの?」
「みちお??」
 

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「ああ、ぼくたちミドルネーム使うことにしたから」
「へー!」
「F・Mの頭文字になるものを考えて、ぼくは田代ふじえ龍虎、Mは田代みちお龍虎」
 
「どっから、ふじえとかみちおとか」
「対になるもので名前付けようと話し合ったんだよ。それで最初太陽と月って考えたけど、太陽と月のどちらが男でどちらが女か分からないということになった」
「ああ」
「ギリシャ神話では太陽が男で月が女、日本神話では太陽が女で月が男、それに月って自分で光ってるわけじゃなくて、太陽の光を反射してるだけじゃん。主従が無くて対等なものがいいよねと話し合った」
 
「北と南というのも考えたけど、ウルトラマンAで、みなみは月に帰ってしまう」
「何だっけそれ?」
「左と右というのも考えたけど、英語では右と正しいが同じ right, 左には概して劣ってるとか下手(へた)という意味がある」
「セロ弾きのゴーシュとか」
 
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(ゴーシュはフランス語で左を表し、同時に下手糞という意味がある)
 

「それで1月と7月というのを考えたんだよ」
「ああ」
「睦月(むつき)と文月(ふづき)。うまい具合に頭文字がMとFなんだよね」
「うまくできてるね」
「ところが“ふづき”と“むつき”は音で聞いて紛らわしいという話になって」
「確かに紛らわしい」
「更に文月は女性の名前として使うけど、睦月はあまり男には使わない」
「うん」
「それで音をひとつずつずらして“みちか”にしてみた」
「更に女っぽくなった」
「それで少し変形して“みちお”にした」
「なるほどー」
「でも片方だけ音をずらすのはアンフェアじゃん」
「うん」
「それでぼくも音をずらして“ふじか”にして最後の音を同様に変化させて“ふじえ”にした」
 
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「よく分からないけど、それをどう使うの?」
「みんながぼくたちを呼ぶ時にどちらも龍虎じゃ紛らわしいから、ふじえとかみちおとか呼んでいいよ」
 
「ああ、それは使わせてもらうかも」
「私たちのためのものなのね」
「そそ。名前というものは自分のものなのに主として他人が使う」
「そういうなぞなぞがあったな」
 
なお、Nのミドルネームは“長月(ながつき)”から“なぎさ”に決めた。“なぎさ”は男でも女でもありえる名前だ。
 

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彩佳がMの様子を見てきたが熟睡しているようであった。
 
「あれなら寝てる内に性転換手術されても気付かないな」
などと彩佳は言っていた。
 
「Mちゃんは既に性転換したという情報もあるのだが」
と弘恵。
「ちんちんが無くなっておしっこが前では無く下に出るようになり、ヴァギナができただけだから性転換した訳ではない」
と彩佳。
「それはもう完全に女だという気がする」
と桐絵。
 
お昼過ぎにやっとM(みちお)が起きてきたので、りっちゃんも居間に呼んで7人で一緒にお昼を食べた。お昼は、お肉を解凍してホットプレートも2個出して焼肉をした。
 
「お肉美味しい」
「オージービーフだけどね」
「そういう所で龍たちって贅沢しないよね」
「野菜も美味しい」
「“らでぃっしゅぼーや”だよ」
「あれ?代々木の方はビオ・マルシェだっけ?」
「あちらは“大地を守る会”」
「代々木で受け取ったのは私たちで消費してた。八王子のはここ数ヶ月は浦和の千里さんとこに《りっちゃん》に持ってってもらってた」
「なるほどー」
 
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「まあ郵便物も代々木は私が、八王子は《りっちゃん》がチェックしてたし」
「というか、彩佳、ほぼ代々木に住んでたし」
「大学には代々木からのほうが近いからね」
「私もここに住んでます」
 
「りっちゃんには毎日、ここと越谷を往復してもらってた」
「大変そう」
「大変なのは龍虎さんたちです!」
「確かに。いくら2人でもきついよね」
「10人くらい居たら何とかなるのに」
「変なこと言わないで。作者が親切心起こしたら困る」
 

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お昼を終えた後、少し休んでいたら九重(徳都)がやってくる。
 
「おい龍、帰ってきたのなら道路案内してやる」
「道路?」
「ああ。なんか作ってたね。完成したんだ?」
と《りっちゃん》。
 
「東に青龍棲む清流あり、北に玄武棲む丘陵あり、南に朱雀棲む湖沼あり、西に白虎棲む大道あり。その大道がまだ無かったからな。作ってた」
と九重。
 
「とうとう作ったのか」
とF(ふじえ)。
 
「ま、案内してやるから、みんな乗った乗った」
と九重は言っている。
 
「私お留守番してていいよね?」
と言って《りっちゃん》は残り、他の6人は九重が持って来たセレナ(8人乗り)に乗った。
 

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いつの間にか、ガレージ(北の対)の向こう側(西側)にゲートができているので、そのゲートをリモコンで開けて道路に出る。
 
道路はすぐにゲートを通ってトンネルに入る。
 
「このトンネルはカルバート工法(*54) だから簡単にできた」
と九重は言っている。
 
トンネル内の灯りはセンサー式のようで車が近づくと点灯する。このトンネルを5分くらい走ると、ゲートが自動的に開いて、林道か何かに出た。
 
「トンネルのゲートは入る時は開けないといけないけど、出る時は自動で開く。この林道は80km/hくらいまでは出せると思う」
 
「いや、ここはせいぜい40km/hまでだと思うなあ」
と龍虎(みちお)は言う。
 
要するにこの林道に出る道を作ってくれたのな?とこの時、龍虎は思った。
 
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九重は50km/hほどの速度でその曲がりくねった道を走っていく。道路は普通車がギリギリすれ違える程度の幅だが、一応両側にガードレールとデリネーターがある。4-5分走った所に製材所?があり、大量の木が積み上げられている。
 
「実はこの道路を作るのにたくさん木を“抜いた”から、その木の一部をここに積み上げた。大半はまだ現地で葉枯らし(自然乾燥)させてる」
「へー」
 
車はその木材置き場?の手前を左に曲がり走って行く。
 

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ここからはアスファルト舗装されている。センターラインにはキャッツアイが埋め込まれていて、両側にはガードレールがあり、デリネーターも立っている。これなら夜間でも走れそうだ。
 
「街灯は立ててない。灯りを点けてると動物が寄ってきて、結果的に多数の“犠牲”が出るから」
「ぼくも動物さんたち轢きたくないです」
 
「でも新しいですね」
と彩佳が言う。
 
「昨日(8/6)竣工したばかりだからな」
「へー」
 
「この道路が今回作った道路の本体だ。龍の家のすぐ裏手に造りたかったけど、上空から目立って、そこから、お前の家の所在がバレてしまうから、わざわざ自宅から離れた場所までトンネルと林道っぽい取り付け道路を作った」
 
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(*54) トンネル部品を並べて設置し、その上に土を掛けて結果的にトンネルにするのをカルバート工法という。その土の上に別の道路が通ったりする。今回の場合は上空から空撮されても龍虎の家と林道がつながっているのが分からないようにカモフラージュするためトンネルを作った。トンネルの上にはわざわざ木まで植えている。
 

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九重の車は、ひたすら走っていく。彼はどんどん速度をあげて100km/hを越える。
 
「じゅうちゃん、スピード出しすぎ」
と2列目に乗っているM(みちお)が言う。
 
「大丈夫だ。この道路は一部を除いて時速250kmで走れる。この車は150km/hくらいしか出ないからこの程度が限界だけどな」
と九重。
 
「質問です」
と彩佳が言った。
 
「この道は全長何キロですか?」
「正確には測ってないけど120kmくらいかなあ」
 
「120!?」
 
「この道、いったいどこまで続いてるのよ?」
と龍虎Fが呆れるように訊く。
 
八王子から西に120kmも走ると静岡市付近まで到達するはずである。
 
「いや単に山を登るだけだよ」
 
と言って九重は、その先にあった分岐を右に行った。それはY字路というより東名高速が左右に分かれる所のような緩やかな分岐だった。
 
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森の中の快走路が続くが、線形はずっと右曲がりである。
 
「山の周りをぐるっと周回する。それで頂上まで5周だったか6周だったかすると50kmくらいの長さになる」
 
彩佳は大雑把な暗算をした。直径6kmくらいの山の周りを1周すると約18kmだ。山の頂上まで周回しながら登って行くなら、50÷(18/2)=5.5で、確かに5-6周すると上まで行けそうだ。
 
「だから50km走って山の上まで行って、50km走って降りて、前後の道路も入れると120km近くになる。これを往復してくれば240km」
 
「それってわざわざ山に2回登るの?」
と彩佳が訊く。
 
「帰りはまっすぐ帰ってくるか一周だけして帰れば150kmくらいの旅だな。一周だけした場合、この道路で唯一の信号を通る」
 
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↓九重道路?のイメージ図(実際はもっと回数巻いている)

 
「あ、さっき信号があったね」
「感応式だけどな」
「定周期式にする意味は無いと思う」
「あそこを信号にしたのは、間違って進入すると山に登れずに1周しただけで抜けてしまうからだ」
 
(上図参照。右手の信号の所を右折すると山裙を一周しただけで上野原方面に抜ける)
 
「なるほど。信号を右折すれば、山に登らなくて済む訳だ」
 

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「でもこんな長い道路を勝手に作っていいわけ?」
 
「この山を丸ごと買ったから大丈夫。だからこの道路は私有地の中を走る私道になる。道路交通法が適用されないから、いくらスピード出してもいいし、免許持ってなくても運転できる」
 
「日本一長い私道だったりして」
「多分そうだと思う。宇部興産専用道路が32kmくらいだから」
 
ここまでの会話は九重と彩佳でしており、龍虎は呆れて聞いていた。
 

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「で、いくら掛かった訳〜?」
と龍虎は訊く。
 
「山は1億円しかしなかったよ。まあ取付道路作るのに買った山も入れて2億円かな」
「“しか”ねぇ」
 
「で道路の建築費は?」
「50億円くらいかな」
「一般的な相場の10分の1くらいだね」
と彩佳。
 
「道路作るのに金が掛かるのは人件費が大きいからな。人間は非力だから、多人数掛かるし時間もかかる。俺たちは工作機械もほとんど使わない。木を“抜いて”地面を踏み固めて、その上にアスファルト敷いただけ。だからこの道路は10人くらいで1ヶ月ほどで作った。1人10kmくらいずつ割り当てて競争で作らせて優勝した奴にはヒグマ10頭と日本酒10樽プレゼント」
 
「秀吉方式か」
 
「でも山買った代金も、道路の建設費も千里さんが出したんだよ」
「え?そうなの?」
と龍虎。
 
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「自分が走りたいからって」
「そうか!千里さん、自動車レースの趣味もあったんだった」
「毎年レースやラリーに出てるみたい。よくやるよなあ」
「ほんと忙しいのに」
 
「道路は名目上は、朱雀林業の木材運搬用道路」
「ああ」
「じゃ朱雀林業の人たちも使うの?」
「使わん。あいつらみんな木材は手で抱えて飛んで運ぶ」
「ああ」
「さっきあった製材所が朱雀林業か」
「そそ。朱雀林業八王子営業所(ということにした)」
 

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ガードレールの色が時々変化するが、担当した建設者ごとに違う色のガードレールを使わせたからだと言う。でも変化があっていいなと龍虎は思った。
 
九重の運転するセレナは30分ほどで山の頂上まで到達した。山の上付近は道路が赤いアスファルトになっていてそこは80km/h制限だと言う。最後の一周はコンクリートでそこは50km/h制限と言っていた。
 
頂上に30台ほど駐められる駐車場があり建物があって、中に自販機!も置かれている。
 
「ここの自販機を使う人があるわけ?」
「無いと寂しいからと千里さんが」
「確かにね〜」
 
「ここ全部100円なんだ!」
と桐絵が驚いている。
 
「お釣りが面倒くさいじゃん」
と九重。
 
「あ、おしることかコーンスープがある」
「ラーメンやおでんまである」
「カレースープって初めて見た!」
「できるだけ変なのを集めてみた」
と九重は得意そうである。
 
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一応コーラやお茶にコーヒーもある。
 
「女性ホルモン剤って何?」
「女性ホルモンは男龍虎に飲ませるためのものだな。女は飲まない方がいい。生理が乱れるから」
「断る」
とM(みちお)。
 
「よし。欺して飲ませよう」
 

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建物の中にはテーブルと椅子が置いてあり休憩できるスペースがあるので、一同は自販機で買った飲み物を飲んで休憩する。
 
ここの奥にはドアがあり、そこを九重がカードキーで開けると部屋が並んでいた。
 
「この部屋は事務室?」
「仮眠室だよ。鍵を渡しておくな」
と言って九重は龍虎に3枚カードを渡した。
 
「夜中に走ってて眠くなったらここで寝ればいいよ。左側の“3つ”が龍虎用だから」
「ありがとう」
 
3つというのは、1つはNの分である。
 
「中にはダブルベッド置いてるから彼氏と“2人で一緒に”寝ればいい」
「そうさせてもらう」
と龍虎は平気な顔で返したが、理史がドキドキした顔をしていた。
 

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山を登る時はずっと右カーブだったが、山を降りていく時は、ずっと左カーブである。
 
「登る時と降りる時は曲がり方が逆なんだね」
「人間は左に曲がるほうが安心できるから、降りる時に左曲がりの方がいいと千里さんは言ってた」
「なるほどー」
 
降りきった先に直線があり、その先の分岐を左に行って自宅に帰還したが、右に行けば上野原市の小さな家の裏手に出ると九重は説明した。
 
「その小さな家にも3つ部屋があるから休憩に使えばいいよ」
「了解。ありがとう」
 
(↑龍虎は“小さな家”と言われたので3LDK程度の家を想像している)
 

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夏の日の想い出・赤い服(21)

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