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■夏の日の想い出・赤い服(14)
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一方アクアを抱いて新館6階まで行った千里は609号室のドアホンを鳴らし
「龍ちゃん開けて。龍ちゃんが眠っちゃった」
と言う。アクアが出て来てドアを開けてくれる。千里はアクアを抱いたまま中に入る。アクアがベッドの毛布・布団をめくってくれたので、千里は抱えてきたアクアをベッドの上に寝かせる。そして毛布・布団を掛けてあげた。アクアは熟睡しているようだ。
「この子、歌いながら眠っちゃったんだよ」
「ああ、それぼくもやったことあります。じゃ今度はぼくが行きますね」
と言ってアクアが部屋を出ようとするので千里は止めた。
「1時間くらいお休みになったから少し休んでなよ」
「確かに倒れてすぐ出て行ったら心配するかな」
「そうそう」
「ところで千里さん少し相談があるんですけど」
「うん」
「ぼくたちどちらも龍虎だし、どちらもアクアでしょ?紛らわしいから名前変えてよなんて意見もあるんですけどね。例えば龍虎と龍美とか。でも龍虎は自分の名前だから、たとえ女らしくない名前だと言われても譲りたくないんですよ。それともし片方が名前を変えたら、龍虎でなくなった側は偽物ということになる気がして」
「まあ龍虎と龍美とか、あるいは龍男と龍虎とか、片方が名前を変えたら、その瞬間、変えた方は消滅するだろうね」
「やはり?千里さんに相談して良かった」
「やるとしたら、私がやってるみたいに各々にサブネームを付けちゃうことかな」
「ザブネーム?」
「アメリカでは、息子がお父さんと同じ名前。娘がお母さんと同じ名前というとこがよくある」
「そういえば、ビル・ゲイツのお父さんもお祖父さんもビル・ゲイツですね」
「そういう家庭ではお互いをミドルネームで呼び分けている(*43)」
「なるほどー。龍虎はあくまで龍虎で、それに付加的な名前を付けるわけですか」
「そうそう。Fは龍虎・不撓不屈で、Mは龍虎・真一文字とか」
「それ凄く嫌な感じなんですけど」
とアクアは本当に嫌そうに言う。
(*43) 千里は勘違いしている。実際には、ビル・ゲイツの父・祖父・曾祖父が全員、ミドルネームまで同じなので、ミドルネームで呼び分けることはできない。(ビルはウィリアムの愛称)
William Henry Gates (1955-) Microsoft創業者 "Trey"
William Henry Gates (1925-2020) 父。弁護士
William Henry Gates (1891-1969) 祖父
William Henry Gates (1860-1926,異説1857-1928) 曾祖父。家具屋経営
Joseph Stanton Gates (1811?-1863) 高祖父
Microsoft創業者のビルは"Trey"と呼ばれていたらしい。つまり家族内での何らかの呼ばれ方があったようである。なお、Microsoft創業者のビルには娘が2人と息子が1人いるが、息子はRory John Gatesで、Williamではない。
「私たちの場合はこう名前を付けている。これケイには秘密ね」
と言って、千里はホワイトボードに書いた。
千里1 Blue->Brenda
千里2 Red->Rose
千里3 Yellow->Yuri
「最初私たちは、赤・青・黄・白の4つに分裂した。それで初期の頃はそのまま赤・青・黄・白、あるいはRed, Blue, Yellow, White と呼んでたけど、頭文字だけ同じにして、もっと人間の名前っぽいものにしようよと話し合って、Brenda, Rose, Yuri という名前を決めたんだよ」
「へー」
と言ってからアクア(多分アクアF)は尋ねた。
「あれ?白は?」
「死んだ」
「え〜〜?」
2017年のクロガーとの対決の時、クロガーと相打ちする形で死んだのが白である。
「人が分裂するのは、そういう場合に備えてのことだと思うね」
「うーん・・・・」
アクアは指を数えていた。
「その説明はおかしいです。千里さんは現在でも4人以上います」
「どうしてそう思う?」
「1人は浦和の家に居て、妊娠しています。ひとりは東京に居て、アルバム制作のお手伝いをして下さっています。ひとりは富山に居て、妊娠なさった青葉さんのヘルプをしています。この東京の人と富山の人が、映画制作中に交替で顔を出していた人だという気がします。他にバスケットの女子日本代表をしている人がいます」
(実際は妊娠中が2A, 東京に居るのが6, 富山に居るのが4, バスケット日本代表をしているのは3. 龍虎は海外に居る1,2Bに気付いていない。むろん司令室の5など全く知らない。他に帰蝶・青龍・朱雀・天后・円(まどか)・虚空などが千里の振りをしていることがある。7番“魔女っ子千里ちゃん”は大人の姿で現れることは(多分)無い)
「龍ちゃん鋭いよ。実は2番が分裂しちゃったんだよ」
「え〜?」
「2A、2Bと呼んでるけど、元々2番には2つの人格が共存していたのが別れただけ。自然な分裂だと思っている。実を言うと、当初分裂した3人がいったん統合されてたのが再分裂する時、心と体の組み合わせが混線してしまったんだよね」
「ああ、やはり統合されることもあるんですね?」
「龍ちゃんも今FとNが統合されているのに近い」
「やはりそうですよね?」
千里はホワイトボードを消して書き直した。
千里1 Brenda Blue-w/Yellow
千里2A Paula Blue-s/Red
千里2B Olivia Yellow2/Red
千里3 Yuri Yellow1/Blue
「統合されている間にBlueは弱いBlue "Blue-weak" と強いBlue "Blue-strong"に分裂していた。Yellowはパワーが大きくなりすぎて1人の人間として存在できる限界を超えてYellow1, Yellow2 に分裂した。これは心の話。でも体は3つしかないから、2A, 2Bが同じRed の体を共有していた。それが2が妊娠したのをきっかけに肉体的にも2つに分裂してしまった」(*44)
「うーん・・・」
「まそれで2番が使っていた名前 "Rose" は廃止して、Blue on Red をPurple からPaula, Yellow on Red をOrange からOlivia と名付けた」
「ああ。分裂したらどちらかが名前変えるんじゃなくて両方変えるんですね」
「そそ。そのほうがマシ」
アクアはしばらくホワイトボードを見ていたが言った。
「先生、質問です。Redの心はどこに行ったんです?」
「君はほんとに鋭いよ。それが千里4。“最強の千里”Red からRobinだよ」
「その人の身体は?」
「別に身体とか無くてもいいんじゃない?」
「うーん・・・」
「1〜3が身体をキープしてるから、それ以上はエイリアスとして存在している」
「へー」
「龍ちゃん、もし身体を無くしたら、心だけで生きて理史君と結婚しなよ」
「はい!」
「心だけで生きる方法はバトラーの名著『魔法修行』に書かれている」
「読んでみようかな」
「でも気をつけてね。私の友人がこの方法で一時的に身体から心を分離した後、身体に戻れなくなって、身体が数時間死んでいたのと同じ状態になった結果、身体に重い障害が残ったから」
「こわ〜!」
「自分の身体が死ぬか消滅する時までは決して安易に試してはいけない」
「一発勝負ですね」
「ま、そんなものだね」
「ま、それもジョークだけどね」
と言って千里はホワイトボードを消した。
「どこまでがマジでどこからジョークなんですか〜?」
「千里は99%のジョークと1%の嘘でできている」
「真実は?」
「真実なんて幻想に過ぎない。そんなものは現実には存在しない」
「・・・そうかも」
「丸山アイとか凄い。彼は30%のジョークと70%の嘘でできている」
「アイさんには、いつも欺されます!」
「あはは。だから彼は日本最強の霊能者なんだよ」
と千里は明るく言った。
「ま、実際には千里2の身体は元々千里4の身体のコピーだったんだよ。コピーで少し耐久性が無かったから、妊娠を機に崩壊した面もある」
「つまり4番さんはRedの心と身体を持っているのか」
「そうそう。だから最強 Red King」
「マジなのかジョークなのか分からなくなった」
「私は99%ジョークだよ」
(*44) 凄く大雑把で不正確な説明だが、きちんと説明するには千里が“火取り”をしてきた時のことから説明を始めなければならないので、多分300行近くを要する(筆者の手元の簡易なメモたけで200行を越えている)。ここに書くには話が逸れすぎるので、そう遠くない時期に、青葉物語のほうで書く。
2Aが夕月を産むまでには書いておく必要があると思っている。
7月23-24日(土日).
第3回ビデオガールコンテストの本選を行った。
参加者は13名でまた例によってHonda-Jetを飛ばして付き添い2名以内(必ず親権者を含む)と一緒に金曜日、熊谷に集めた。
Red 佐賀→藺牟田→熊谷
Deep 米子→熊谷
Yellow 関空→熊谷
Tiger 富山(2)→熊谷
Silver 小牧(2)→熊谷
Gold 花巻(2)→熊谷
Blue 旭川→熊谷
舞音専用のOrange以外全てのHonda-Jetを使用した。これでも足りなければ千里のBlackを借りる!
なお関東から参加した2名はどちらも保護者の車で来場した。
ホテル赤城に1泊してもらい、翌日朝10時から審査を始める。STEP1は各自の部屋で、カメラ・大型モニターを通して行われる。
・ウォーキングテスト(実は緊張をほぐすのが目的で採点はしない)
・その場でモニターに映された400字程度の文章を朗読する。
・1曲歌う(事前に届け出ていた3曲の内のこちらから指定した1曲)
・審査員との質疑応答
全室の回線を繋いでおり、部屋でパフォーマンスしていてもそれが全候補者に見えている。例年パフォーマンスの順序は2次審査の成績順なのだが、今回は13名がほぼ横一線なので、ランダムに審査を行った。
1人7-8分で13人なので2時間ほどで終了する。
STEP2 はダンステストである。昨年まではこれも各自の部屋で行なったのだが、今年は全員をひとつの部屋に集めた。
例によってジュン広多さんが1度だけ踊ったパフォーマンスを見て10分間の練習の後、本番となって、先生と同じように踊るという課題である。コロナ以前ではこの練習の際に、候補者同士不確かな所を確認し合う姿が見られた。昨年・一昨年は個室審査だったのでそれが無かったのだが、今年はやはり教え合う姿が見られた。これはコミュニケーション能力・協調力も評価されることになる。
自分以外はライバルだという考え方の子はここで不利になる。たぶんそういう子は他の事務所向きである。
それで練習の後、実際に全員踊ってもらったが、今年は全員がほぼ完璧に踊って、ジュン広多さんが驚いていた。
「今年の受験生、レベルが高ーい」
普段の年ならちゃんと踊れるのは上位5-6人である。
やはり“舞音効果”で受験生が増えたこと、そして地方ガールズの制度が働き全体のレベルが高くなっているのだろう。
各自の部屋に戻り、お昼を取ってから午後の最終審査に進む。
最終審査は14時から熊谷分室の小ホールで始めた。STEP1とは別のランダム順にパフォーマンスしてもらう。審査員は9名である。
ケイ(§§ミュージック会長)、秋風コスモス(同社長)、川崎ゆりこ(同副社長)、シックスティーンの羽鳥編集長、スリーピーマイスの長丸穂津美、漫画家の平野麗子、作詩家の永田令子、§§ミュージックから品川ありさと白鳥リズム。
未発表の楽曲の譜面が13個用意されて封筒に入っている、
最初に恋珠ルビーが出て来て1曲歌う。歌い始めた所で最初の候補者が封筒を開けて譜面を読む。そして恋珠ルビーの歌が終わったら、最初の人がステージに出て行き、今読んだ譜面の曲を歌唱する。歌い始めた所で2番目の人が封筒を開けて自分に渡された譜面を読む。
これは他の人が歌っている中で初見の譜読みをして歌うという集中力が問われる審査である。最初にルビーが歌ったのは、先頭の人を他の人と同じ条件にするためである。
今回、全員がほぼ間違わずに歌唱した。
「なんてレベルが高いんだ!」
と羽鳥編集長が言った。
「全員合格にしたい」
と長丸穂津美。
「でも優勝は目に見えて明らかだった」
と永田令子さん。
「まあ皆さん同じ感想でしょうね」
と品川ありさ。
参加者には、いったん各自の部屋に戻ってもらった。
審査員は全員自分の付けた順位を端末に入力する。それで新増沢方式に準じたロジックで最終的な順位が決定される。
1位になったのは、全審査員が1位を付けた湯谷薫さん(中3/青森県むつ市)である。2次審査(リモート審査)で一般参加から唯一人1位になって本選に出て来た子である。やはりこういう子がいるから、ビデオガールコンテストもやめられないと私とコスモスは話した。
以下は契約の話になるので、ケイ・コスモス・ゆりこ以外の審査員は退席する。リズム・ありさはルビーと一緒に五反野に戻った。
湯谷さんは中3なので、デビューしてすぐに高校生になることになる。でも今の時点でも既に即戦力と思われるので、1月を待たずにデビューさせてもいいよね?と私たちは話した。
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夏の日の想い出・赤い服(14)