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■夏の日の想い出・少女の秘密(19)
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この場面が流れている間、ネットには
「やはり和夫は性転換したのか?」
「きっとアクアも性転換済み」
などという書き込みが大量に流れる。
しかし番組の最後では、お布団で、すやすやと眠る和夫の顔が映る。そして和夫は「ハッ」とした顔で起きる。
「びっくりしたぁ。夢かぁ! もう真理子の奴、変なこというから、変な夢見ちゃったじゃん」
と言ってアクアは布団から出た。何だか可愛いブルーの花柄のパジャマを着ている。そしてアクアは階段を降りるとトイレに行った。そして便器に座った所で「え!?」と言って怪訝な表情をした。
そしてそこで
『時のどこかで・完』
というテロップが流れた。
「ちょっと待て〜!」
「こんな終わり方あるかよ?」
「続きは映画でとか?」
「いや、映画はアクアが多忙すぎるからしばらく作らないという話があった」
「じゃこれどうなった訳?」
「やはりアクア様、女の子になっちゃったのでは?」
「なんかそうとしか思えない終わり方だよなあ」
「夢落ちと見せて実は、というのはよくあるパターン」
この問題について放送局もアクアの事務所も質問されても
「この物語はここで終わりなので、後は自由に想像してください」
という回答しかしなかったので、この話題がこのあと一週間近くネットでは騒然とした雰囲気で議論されていた。
3月22日(水)、アクアの8枚目のシングルが発売された。今回は岡崎天音作詞・大宮万葉作曲の『星の向こうに』と、葵照子作詞・醍醐春海作曲の『ナースのパワー』である。後者は4月から始まるドラマ『ときめき病院物語III』のエンディングテーマとして使用される。
会見にはアクアと事務所社長の秋風コスモス、作曲者の大宮万葉(青葉)と醍醐春海(千里)、レコード会社の三田原課長の5人が出席した
いつものようにエレメントガードの生演奏をバックにアクアが生歌唱してから会見をおこなう。コスモスから今回の楽曲のあらましなどが説明された。
「バックバンドの方、少し変わりました?」
という質問がある。
「はい。キーボードとドラムスが交替しました。キーボードはハルからナツに、ドラムスはレイからユイに交替しています」
とコスモスが答える。
「交替の理由をお聞きしていいですか?」
「キーボードのハルは結婚に伴い引退しました。レイは最初は性転換手術を受けるのに退任したいと聞いたのですが」
とコスモスが言うので会見場がざわめく。
「それは冗談だったようで」
とコスモスが言葉をつなぐと爆笑となる。
「実際には彼女はアメリカ国籍でビザの期限が切れるので、延長は可能だったのですが、この機会にしばらく本国で過ごしたいということでしたので、退任となりました」
「アメリカ人だったんですか?」
「日系4世だそうです。お父さんが日系3世で、お母さんは中国系らしく、それで見た目はふつうに日本人でしたね」
『星の向こうに』の歌詞に歌われている内容の星空がひょっとして南半球の星空では?という質問が出ている。歌詞は事前公開していないのだが、この場でそれに気付くというのは、なかなか注意力の高い記者だ。青葉が答える。
「作詞者の岡崎天音さんは、相棒さんが別のユニットの制作で多忙なので暇を持てあまして、オーストラリア旅行に行って来たそうで、その時に書いた詩だそうです」
「岡崎天音さんってローズ+リリーのマリさんですよね?それで相棒というのはケイさんで、ケイさんはKARIONの蘭子さんなのでKARIONの制作で忙しいということですか?」
「そのあたりはご想像にお任せします」
「『ときめき病院物語』もとうとう3シーズン目になりますが、純一と友利恵の関係は何か進展があるのでしょうか?純一は大学生になりますよね?」
「そのあたりはドラマのスタッフさんに照会してください」
と三田原さんが答えた。
第1シーズンでは、アクア(現実では中2)は中3の佐斗志と中1の友利恵の二役を演じ、純一が高2で舞理奈が中2だった。シーズン毎に年齢も進んでいるので、今年は高校1年のアクアが高2の佐斗志と中3の友利恵を演じ、純一は(浪人していなければ)大学1年となり、舞理奈は高校1年になる。
「アクアさんが歌われたのはエンディングテーマということですが、主題歌はどなたが歌われますか?」
三田原さんとコスモスが顔を見合わせたが答えてもいいと判断したようだ。三田原さんが答える。
「主題歌は新任医師役でドラマ初登場となります元FireFly20の神尾有輝子さんが歌います」
この答えに「おぉ!」という声があがっていた。
「ところで『ナースのパワー』の歌詞ですが、途中、ナースではなくて茄子(なす)とか膾(なます)とか、直すとか、ナスカの地上絵とか、言っている所があるような気がしたのですが」
「気のせいです」
と千里が断言した。
「そういえば大宮万葉さんと醍醐春海さんは姉妹という噂を聞いたのですが、大宮万葉さんは震災で家族を全部無くされたとも聞いたのですが」
という質問がある。
青葉と千里は一瞬顔を見合わせたが
「私が説明します」
と千里が言って説明する。
「当時私は親友の仮名A子ちゃんと震災のボランティアのスタッフとして入っていて、避難所で偶然被災した大宮万葉に遭遇しました。当時私と彼女は初対面ではあったのですが、実は複数の友人を通して間接的なつながりがあったのです。そこで彼女が家族を全部無くしたと聞きまして、取り敢えず保護することにしました。最初は私かA子が彼女の後見人になるつもりだったのですが、私たちがまだ大学生ということもあり、最終的にA子のお母さんが、彼女の未成年後見人になってくれることになり、そちらの実家の富山県の中学に転入しました。それで私とA子は万葉の姉代わりということになっています」
アクアはその話はむろん知っているのだが、しんみりとした顔で聞いていた。両親を亡くしたのは、青葉もアクアも同様である。
「でも実際に遠い親戚だったんだよね」
と青葉が発言する。
「それ去年の春に初めて分かったんだよね〜」
と千里も言う。
記者たちが顔を見合わせているので千里が説明する。
「去年の春に親戚の女性と話している時にあれ?となりまして。確認してみたら、実は私と万葉は『又従姉妹違い』で、A子は万葉の『三従姉』だったんです。結果的に私とA子は、万葉という存在を通して物凄く遠い親戚にもなっていたことが分かりまして」
記者さんたちが考え込んでいるが、この千里の言葉はたぶん理解できた人は居ないだろうと私は思った。
「万葉という子は、実は様々な人と人とのつながりを作って行く才能を持っていて、それで私の友人グループは彼女のことを『クロスロード』、つまり交差点と呼んでいます」
「そういえば醍醐先生はアクアさんとも古い知り合いだそうですね」
と記者が質問する。
「はい。アクアは幼稚園の頃から小学1年の時まで2年近く入院していたのですが、その入院中に偶然知り合ったんですよ。ちょうどその日は彼が腫瘍を取り除く手術をする前日で、私はインターハイをやっている最中で、私たちは約束したんです。私たちが頑張って明日の試合に勝つから、アクアも手術頑張れ、と。結果は私たちのチームはほぼ負け確定の状況から奇跡の逆転勝利。アクアも手術中に心臓が一度停止する危機があったのを何とか乗り越えて無事手術成功で、それ以来の親交がありました」
「運が強いんですね」
「ええ。アクアは強運の子だと思います」
と千里は言った。
「ちなみにそのアクアと初めて会った日に私が書いた曲が『六合の飛行』で、これがLucky Blossomのデビューアルバムに収録されました」
「おぉ!」
青葉はこの記者会見に出ることを主目的として東京に出てきて、ついでに?フェイの赤ちゃんのメンテ、フェイ本人の産後の体調変化のメンテ、妊娠中の桃香のメンテなどもしたようである。
「経堂の桃香のアパートに泊まったの?」
「いえ。大宮の彪志のアパートに泊まりました」
「あ、そうか!」
「大宮万葉さんが大宮に泊まったのか」
などと政子が言っている。実際『大宮万葉』という名前を付けたのは政子だが、これは青葉が大宮生まれであることに由来する。
青葉は前日に東京に出てきて21日は忙しく飛び回っていたようだ。その21日は私も千里も前橋の全日本クラブ選手権の方に行っていたのだが、22日は千里に青葉やアクア、忙しくなかったらコスモスも連れてうちに来てと言った。それで結局コスモスも入れて4人で来てくれた。
ファンの人からもらった薩摩大使を開け、お茶を入れて飲みながら少しおしゃべりしていたら、そこに、スリファーズの3人が来訪する。彼女たちは青葉の1つ上の学年なので4月から大学3年生である。
「わっ、川上先生がいる!」
などと春奈が言う。彼女は性転換手術後のヒーリングを青葉にしてもらっている。
「先生はやめてくださいよ〜」
と青葉は照れて言っている。年上の人から「先生」と呼ばれるのは、むずかゆいようである。
「そういえば、スリファーズの3人はC学園だったね」
と私は言った。
「はい、そうです」
「4月からアクアがC学園高校に入学するんだよ」
「おお、凄い!」
「やはりアクアちゃん、女子高生になるんだ?」
「違いますよぉ。今年から芸術科に限って男子も入れることになったんです」
「なーんだ」
「でも考えてみたら、春奈ちゃん、当時は戸籍上は男の子だったのにC学園に入れたんだね」
と私は言った。
それについては最初に彩夏が当時の状況を説明した。
「あの時、私は公立落としてC学園に入って、春奈と千秋はちゃんと公立に合格したんですけど、その後で仕事が忙しくなって、私の学校は緩いので良かったんですが、公立の2人は、このままだと出席日数不足で留年する可能性もあるということになっちゃって」
「あぁ・・・」
「それで取り敢えず千秋もC学園に転校することになったんです。千秋は女の子だから問題無く転校できた。そして困ったのが春奈だったんですよね〜」
「私、あの高校にはせっかく女子制服着て通学することを認めてもらったり色々便宜を図ってもらっていたのに、ほんとに申し訳なかったんですが、どうしても欠席が多くて。当時私たちは事務所の稼ぎ頭だったから、お仕事の話があると断りにくいというのもあったんですよね」
と春奈は言う。
その時期、△△社はスリファーズが急速にブレイクしたため、必死に増員し、ファンクラブなどの処理のためにコンピュータシステムなどにも投資していた。一時的にはスリファーズのための事務所の様相を呈していたので、そのスリファーズが万一こけた場合は、即倒産していたであろう。当時前からの予定で性転換手術を受けた春奈をいち早く現場復帰させなければならなかったのは、そういう事情もあった。
「それで半分ダメ元で、相談させてもらったんです。実は私の母がC学園の出身だったし、幼稚園から小学生の時まで習っていたピアノの講師の菱見先生がC学園のピアノ教師になっていたのもあって。だからお話は菱見先生を通して教頭先生にあげたんです。そしたら、取り敢えず1度来て下さいと言われたので母と一緒に行ったのですが、そもそも私、本人の姉か何かと間違えられて」
と春奈。
「なるほどー」
「それで戸籍は男だけど、既に性転換手術も終わっているし、中学も今の高校でも女子制服を着て通学しているというのであれば、女子として受け入れるのは問題無いと校長先生や理事長先生に言ってもらって、それで私もC学園に転校して、3人同じクラスにしてもらったんですよね」
「そういう経緯だったのか」
アクアがその話を興味深そうに聞いていたので、春奈が
「アクアちゃんも在学中に性転換して女の子になっても大丈夫だと思うよ」
と言うと
「ぼく性転換はしませんよぉ」
とアクアは慌てたように言った。
KARIONのアルバム制作はいよいよ山場にさしかかっていた。
『大安吉日』も年末のカウントダウンライブで公開した。
歌詞の内容はむしろ“日々是好日”という感じでもある。朝起きて学校に行き、友だちとたわいもないおしゃべりをし、お弁当を食べて、授業を受け、部活をして、帰りに神社でおみくじを引いたら大吉だった。そして帰宅すると今日の晩ご飯はスキヤキだよ、と言われて喜ぶという“小さな幸せ”を含んだ平凡な日常を描いた作品である。
カウントダウンライブの時はふつうのトラベリングベルズの伴奏で演奏したのだが、CD収録版は "Minimal Sound" にすることにした。ギター・ベース・ドラムスだけで伴奏している。MINO, SHINはお休みである。
PVでは美空の日常を描いている。
朝御飯として、山盛りのパンケーキにメイプルシロップを掛けて浸透させ、“ダイエット”と称してローズヒップ・ティーを飲んでいる様子に始まり、マリおよびシレーナソニカの穂花の3人で新梅田食堂街を歩いている様子が映される。お昼は3人でおしゃべりしながら、ひたすらお好み焼きを食べている。途中で穂花が取り出したスマホ(私物のLG Qua phone px)の壁紙には“目標!減量5kg”の文字が出ている。その後、3人はおやつ?にケーキを食べ、最後は3人で焼肉屋さんに行って、晩ご飯に山盛りのお肉を楽しそうに食べている様子が描かれている。
この曲の歌詞とPVのギャップが話題になることになる。
またこの曲の歌詞は、8小節単位の歌詞の先頭文字を拾うと“かれしほしい”になっているという言葉遊びが使われていた。
『黒と鹿毛』は黒猫と鹿毛(かげ)色の馬の物語である。
鹿毛の馬が颯爽と走っていく様子を偶然見た黒猫は、自分もあんなに速く走れたらと思う。それで走る練習をするけど、どうしてもあんなに速くはならない。他の猫から狩りに誘われても、飼い主が猫じゃらしで遊んでくれようとしてもひたすら階段の上り下りなどして鍛えている。そしてまた鹿毛の馬が走っていく様子を眺めている。
これは果てしない夢を見て日々努力する黒猫の物語。
PVには小風と、小風の家で飼っている黒猫のクロちゃんが登場している。
階段を走って上り下りしている所や、キャットタワーで遊ぶ様子なども映っているが、小風が膝に乗せている様子、丸まって寝ているいわゆるニャンモナイトになっている様子、立ち上がって窓から外を見ている様子なども映って、後で「クロちゃん可愛い!」という声が多数あがっていた。
鹿毛の馬は今年デビューした鹿毛の牝馬でフラワーマジックという馬に出演してもらっている。この馬が走っている様子や常歩(なみあし)で歩いている様子が映される。
ラストの方ではクロがフラワーマジックに跨がって走っている様子(CG)も入っている。
このPVの制作が3月一杯で終わり、これで『少女探偵団』の制作はマスタリングや広報用の写真撮影などを除いて、ほぼ完了した。
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