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■夏の日の想い出・少女の秘密(9)
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(C)Eriko Kawaguchi 2017-05-27
さて、ローキューツであるが、お正月のオールジャパンではBEST16に終わったものの、再度次のオールジャパンに向けてクラブ選手権に挑んでいた。
12月3-4日に行われた千葉県クラブ選手権に優勝、2月4-5日の関東クラブ選手権でも優勝して、3月19-21日の全日本クラブ選手権と、9月3-4日の全日本クラブ選抜への出場を決めた。
ところが、今年新加入ながらもチームの中心選手として活躍した須佐ミナミが3月いっぱいで退団すると聞き、私はひじょうに残念に思った。私はチームが練習場に使っている千葉市郊外の体育館まで行き、話を聞いた。
「わあ、オーナーまで来て頂いてすみません」
とミナミは恐縮していた。
「留学するんだって?」
「実は私のプレイを見た、アメリカのKV大学から、うちに来ないかと誘われちゃって。私もこちらに入ってまだ1年目なのにと悩んだんですけど、揚羽さんに相談したら、そういうチャンスは逃すべきじゃないと言われて。行ってくることにしました」
「それは大きなチャンスだね」
「そういうことで、本当に1年しかいなかったのに申し訳ありません」
とミナミはぺこりと頭を下げた。
「ミナミちゃんからは、自分の後任にはこの子をって推薦された子がいて」
と揚羽副主将の妹・紫が言う。
「どんな子?」
「旭川N高校の3年生なんですよ。江向音歌といって、現在チームではスモールフォワードとして登録されていますが、実際の彼女のプレイを見ていると、むしろガード・フォワードという感じなんです。レッドインパルスの黒木不二子などに近いタイプですね。だから、確かにミナミちゃんが今してくれているポジションをそのまま継承可能なんですよ。よくこういう選手を見つけたなと思いました」
と紫は言っている。
「へー」
「それで凄く優秀な子なんですが、ケイさん、この子とプロ契約できませんか?」
「それはそれなりの実力のある子なら可能だけど・・・監督はその子のプレイ見られました?
「うん。ウィンターカップでも凄かった。ここ3年間の旭川N高校は福井英美のワンマンチームと思われがちだったけど、福井が活躍できたのは江向あってだと僕は思った」
と西原監督は言っている。
「大学とかには進学しないんですか?」
「凄い子なんだけど、あまり注目されていないみたいで。福井英美が何と言っても目立っていたから、その影に隠れていた感じで。江向君本人とは実は紫君が秋頃から接触していたらしいんですが、どこからもまだ勧誘は受けていないと言っているそうです。家庭が貧乏で大学進学は困難らしくて。だから最初は地元のどこかの企業に就職するつもりだったらしいです。バスケットは高校までと思っていたと言っていて」
「そういう優秀な子がバスケやめちゃうのはもったいないですね。それならプロ契約していいと思います」
「じゃその方向で向こうと接触します」
と揚羽。N高校の宇田監督に話を通すのだろう。
「ところで揚羽ちゃんも4月からはプロ契約に移行するよね?」
と私が言うと、揚羽は
「え〜〜〜!?」
と声をあげていた。
さて、KARIONのアルバム制作だが、1月下旬に頼んでいたサヌカイトのリソフォンができあがってきたので、早速『秘密の洞窟』の制作の続きをおこなった。
リソフォンを叩くのはむろん和泉である。
鉄琴みたいに強く叩くと割れる可能性がありますから、優しく叩いて下さい、と指示された。
しかしこの音が何とも不思議な雰囲気を醸し出し、いつものグロッケンとは違った感じで、色々と刺激されるものも多い。
私は和泉と話し合い、この曲には他にも幾つかのパーカッションを加えることにした。何種類かの太鼓(ボンゴ・コンガ・スルド)を加えて、これを小風に打たせる。美空にマラカスを振らせる。ついでにスターチャイムも任せる。
それでこの曲はふだんのKARIONの曲からすると色彩感がとても豊かな曲に仕上がった。
ひじょうに魅力的な曲なので、これをアルバムの最後に置くことにした。
『恋愛二十面相』は「怪人二十面相」(少年探偵シリーズ第一作)に掛けたもので、恋をしていると実に様々な表情、様々な態度を取ってしまうことを歌ったものである。
実はこの歌は曲まで和泉が書いている(クレジットはいつものように森之和泉+水沢歌月にしている)。和泉が秋田県の田沢湖を訪れた時に時間の経過で景色がどんどん変わって行くのを見て発想したらしい。
同時進行で制作したPVでも田沢湖の様子が映っており、秋田県内で活動している劇団の若手俳優さんに恋人役を演じてもらって、朝昼夕夜と雰囲気の変わる田沢湖を背景に恋人が戯れたり語り合ったりしている様子を撮影した。雪に覆われた冬の田沢湖がとても美しい。
今回のアルバムではPVの景色が美しいものが多かった。
『少女探偵隊』というタイトルの元ネタにした『少年探偵団』では小林少年の女装が出てくる。
「え?ぼくがですか。そんなことできるでしょうか」
「千代は少女ではありませんよ」
「へえー、おどろいたねえ、きみが男の子だったなんて」
ポプラ社版では、女装の小林君のイラストもなかなか萌え度が高い。
こちらの『少女探偵隊』は、道を歩いていたら、物凄いイケメンの男の子を見たので、思わず後をつけて、彼のことをもっと知りたい、と歌う歌である。この歌も実は和泉が曲まで書いている。
この曲のPVではKARIONの4人が歩いている所に実際にイケメン男子が通りかかり、4人が漫画の中に出てくるような探偵の姿(鹿撃ち帽をかぶり虫眼鏡とパイプを持っている)になって、そのイケメンの後をつけるという物語になっている。しかし最後にそのイケメンは美女と落ち合って一緒に歩き出し、4人は失恋してしまうのである。
このビデオは男鹿市で撮影した。田沢湖での『恋愛二十面相』に出演してもらった2人にこちらにも出演してもらっている。
男鹿半島の名物ともいうべき、なまはげ、八郎潟など、男鹿半島のあちこちの風景も映っていて、こちらもなかなか美しい映像になった。
「私たちが入ってない方がもっと美しくない?」
「それは言わない約束で」
『青銅の愛人』はブロンズ製の小さな人形をテーマにした可愛い曲である。実は栃木県の某神社で売っている恋のお守りで、男女ペアの形をした携帯ストラップである。昔は根付けとして売っていたようだが、時代に合わせて携帯ストラップ仕様にしたようである。本来はカップルで1個ずつ持って愛の証にするものだったのだが、これを1つの紐に両方通し、1人で一緒に持って恋愛成就を祈るというのを、20年ほど前にある少女漫画家さんが作品の中に描いたことから、その後、そういう持ち方が一時期流行ったらしい。神社でお守りを買う時に言うと、最初から1つの紐に通したものも売ってくれるようになっている。
歌詞の内容としては、このストラップを2個一緒に使っている少女が、彼に自分の思いが届きますようにと、この人形に願いを込めて独白をするものである。
この曲とPVの制作にあたっては★★レコードから神社に照会して使用の許可を取り、この実際のお守りを映すと共に神社の境内や周辺での撮影もおこなった。
それがまた美しい映像になっている。このPVには地元の中学生“男子”のタレント山本深草(みくさ)君に出演してもらっている。
最初実は彼はその《あこがれの人》を演じてもらうつもりで、もうひとり中学生女子のタレントさんを、作品のヒロインにするつもりで手配していた。ところが当日、その手配していた女子中学生が風邪を引いて来られないという話になり、誰か代わりのタレントさんをすぐ手配しなければ・・・と言っていた時、監督さんが山本君の“美貌”に目を留めたのである。
彼は最初「え〜〜〜!?」と言ったものの、監督さんにうまくおだてられて実際に衣装のセーラー服を着ると本当に美少女になってしまった。それで演じてもらったのだが、これがとても可愛かったのである。
それで結局このビデオでは彼は思われる男の子、思っている女の子の二役を演じることになったが、男装と女装で凄く雰囲気が変わるので、気をつけて見ないと同じ人物が演じていることには気付かない。
山本君には当初約束していたギャラの3倍のギャラを払った。
「ちなみにふだん女装とかしないの?」
「しませんよ〜」
「凄く可愛くなるのに」
「自分でもびっくりしました。ハマっちゃったらどうしよう?」
「このセーラー服、記念にあげようか?」
「遠慮しておきます。その気になっちゃったら恐いもん」
などと言っていたが、美空が彼の家に撮影で使ったセーラー服を「記念に」と言って送りつけたらしい!
ところで「青銅」というのは、十円玉に使われている素材で、英語ではブロンズであり、実は決して青くはなく、むしろ茶色い。銅メダル(Bronze medal)の色である。この問題は結構質問が来ることも予想されたので、CDに封入した解説書にはそのことを書いている。いわゆる“青銅色”というのは、青銅に緑青が発生して緑色になった時の色である。
ちなみに五円玉は黄銅(真鍮:しんちゅう)、英語でブラス、百円玉が白銅、英語でキュプロニッケルである。
黄銅=銅+亜鉛 (五円玉)
青銅=銅+錫(すず) (十円玉)
白銅=銅+ニッケル (五十円玉・百円玉)
洋銀=銅+亜鉛+ニッケル(五百円玉)
喪ねのも--------------------
この3つの曲はみんなもスカっぽいアレンジにしたので管楽器奏者が必要になった。そこで『夢中快調』に参加してくれた横須賀マリーンブラスの栗山さんに連絡して打診してみた所、選抜メンバー(正確には時間の自由が利くメンバー)で参加してくれた。
おかげでこの3曲はひじょうに格好良い曲に仕上がった。
『青銅の愛人』は、年末のカウントダウンライブでも公開してひじょうに好評であったため、最終的にアルバムの先頭に置くことにした。なおカウントダウンライブの時は様々な管楽器の音はキーボードで代替し、サポートミュージシャンによって演奏されている。
2月中の『時のどこかで』はひたすら、和夫の《女体疑惑》がテーマとなる。相変わらずあちこちにタイムスリップしては、歴史の流れは変えずむしろ奇跡のような出来事の補助者になるのだが、学校では色々クラスメイトたちに疑惑を持たせる事態がある。
何人かのクラスメイト(男子も女子も)が、偶然にも和夫の胸に触り、女の子のバストのような感触があったと言う。
男子たちが、和夫はここ最近個室でしかトイレをしていないことを証言する。誰も和夫が立っておしっこをしている所を見ていないと言う。
体育の着替え中に、和夫のお股に触ってみないか?という意見もあるものの、もし「付いていなかったら」ヤバいという話になる。
更に「声」の疑惑まで起きる。
「芳山の声が最近少しトーン高い気がしない?」
「思ってた。喉の調子が悪いとか言ってたけど」
「音楽の時間の合唱のグループ分けでさ、芳山は最初低音部に入ってたはずなのに、最近あいつ高音部を歌っているよ」
「あ、だよね? 俺も『あれ?』と思ってた」
「低い声が出なくなって、高い声が出るようになっているのでは?」
「きっと身体が女性化して『逆声変わり』が起きたのでは?」
「やはり女性化してるよね?」
「たぶんその内、テノールも歌えなくなってアルトになる」
「あの子、そもそも声域広いから、今現在既にアルトは歌えると思う」
「そのうちソプラノになっちゃうかも」
「やはり、間違い無く、あいつ女になったとしか思えん」
「なんでも生まれた時は男の子だったのが、中学生くらいで身体が女に変化してしまう病気あるらしいよ」
「じゃ、それか?」
「あるいは性転換手術受けたとか?」
「あいつ、女の子になりたかったんだっけ?」
「いや、そんな話は聞いたこと無い」
「でも1年生の時、唆してセーラー服着せたことあったね」
「あれ、凄く可愛かった。女子中生で通ると思った」
「もし芳山君、女の子になっちゃったんなら、2学期からはセーラー服で通うように言おうよ」
物語の中の設定は現在6月である。
「どっちみち、来週からは体育の水泳の授業が始まる」
とひとりが言うと、みんなごくりとつばを飲み込む。
「女の身体になっていたら、男子水着にはなれないよな?」
「というか、間違い無く、おっぱいある」
「女子用スクール水着を着て出てきたりして」
「むしろ女子用スクール水着をプレゼントしてあげた方が良くない?」
という意見も出て、その場にいたみんなが顔を見合わせた。
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