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■夏の日の想い出・少女の秘密(17)
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(C)Eriko Kawaguchi 2017-06-05
3月13日の放送を見てのネットの感想は「がっかり!」という意見が大半をしめた。
「和夫の女体が偽装だったなんて」
「未来の医学だったら、チンコ切っても後で戻せそうなのになあ」
「もしかしたら法的に規制されているのかもね。そんなに何度もコロコロと性別変えられたら混乱するもん」
「やはり性転換は1度だけだよね〜」
「アクアは結局、おっぱい大きくしてないのか」
「それかなり疑惑あったけどなぁ」
「アクア様のやわらかいバストを夢見てたのに残念」
「でも、あのブラ跡はマジだよな?」
「アクアは頻繁に女役やってるから、ブラ跡が実際あるんだと思う」
「女役もしてるけど、絶対プライベートでもブラ着けてるんじゃないの?」
「アクア様はブラジャー着けてもスカート穿いてもいいんだよ、似合うから」
「でも和夫の声は放送開始の時よりトーンが高くなっているよ。録画しているのと聞き比べてみるとハッキリ分かる」
「アクア様、声変わりして、トーンが高くなっているのかも」
「そういう声変わりもあるのか?」
「アクアだったら、あり得る気がしてきた」
復興イベントが終わったので、KARIONのアルバム制作を再開する。
葵照子・醍醐春海からは『天神絵馬』『アクア人魚』という2曲をもらった。少年探偵シリーズの『電人M』と『悪魔人形』へのオマージュである。
『天神絵馬』は天神様に絵馬を奉納して願い事をする人々を描いた歌である。淡々とした蓮菜の詩に千里はストリングサウンドをフィーチャーしたスコアを書いてくれた。この部分を、これまでも何度もお付き合い頂いているカンパーナ・ダルキの人たちに入ってもらって演奏することにした。そのほか、箏とか篠笛とかが指定されていたので、篠笛は風花に吹いてもらい、箏は私自身が弾いて、千里の指定通り、和風っぽい雰囲気に仕上げた。
ところで篠笛には基本的に囃子用・唄用・ドレミ調律の3種類があるのだが、KARIONの制作で使っている篠笛は「純正律調律」という、世にも不思議な特製の篠笛である。唄用(俗楽音階)も純正律も、ドレミ調律(平均律)より合奏した時の響きが良い、つまり周波数が整数比になっているのだが、どういう整数比を採用するかの考え方が違うので、両者のピッチは結構異なる。下記は各々の「平均律との差(セント単位)」である。
純正律_俗楽
C4 15.64_-3.92
D4 19.55__0.00
E4 _1.96__3.94
F4 13.69_-5.86
G4 17.60_-1.97
A4 _0.00__1.96
B4 _3.91__5.86
C5 15.64_-3.92
(1セントは半音の100分の1の周波数比。440Hz付近なら半音が25Hz程度なので1セントは0.25Hz程度である)
日本音階は基本音(壱越Dを使う場合と双調Gを使う場合がある)から完全五度(周波数比率2:3)の響きだけを使って構成されており、こういうものを「ピタゴラス音階」と言う。ピタゴラス音階は5度の響きが美しいが三度は響かない。実は三度も美しいことは古くはあまり知られていなかったのである。三度を響かせるため、音階を作るのに五度を取る時に完全五度ではなく1/4コンマだけ狭い音程使うと4つ重ねた時に純正な長三度を得ることができる。これを中全音律と言う。中全音律は三度が美しいが五度は響かない。
そこで両者を折衷して「主な五度・三度」の響きがきれいに響くように構成したものが純正律である。
ピタゴラス音階や純正律は和声の響きがきれいであるが、移調・転調に弱い欠点がある。それを何とかしようとした物が「広義の平均律」で、主な調律法としてヴェルクマイスター第3の法、キルンベルガー第3の法などが古くから知られていた。キルンベルガーは「平均律クラビーア曲集」などを作ったバッハの弟子である。現代の(狭義の)「平均律」は20世紀初頭頃から使われるようになったもので、オクターブを数理的に12等分しているため移調転調に強いが「ひとつとして和音が響かない」という困った問題がある。
KARIONは初期の頃から、和音を重視して純正律で演奏を行ってきている。メインボーカルの和泉の声のピッチに完全に響き合うように、他の3人は声を出している。これはメンバーが全員精密な相対音感を持っているからできることである。ギター・ベースも純正律が出やすいように“変形フレット”を設置した特製のものを使用している。
KARIONで使用している箏も純正律の音が鳴る位置に琴柱を置いて演奏しているが、この置き方は箏の達人でありかつ洋楽マニアの風帆叔母と私が共同で考案したもので、こんな特殊な置き方をする人は他には居ないと思う(ローズ+リリーの制作ではふつうの和音階で調弦をしている)。
なお、千里や青葉などは横笛の名人なので、日本音階に調律された龍笛を使ってもちゃんと指の押さえ方や息の吹き込み方などを調整して、きれいに響き合う音を出してくれている。
『天神絵馬』のPVでは振袖を着たKARIONの4人がやはり振袖を着た海香さんと一緒に亀戸天神にお参りして絵馬を奉納する様子を撮影している。ちなみに絵馬に書いた願い事は、和泉が「芸事進展」、小風は「良縁成就」、美空は「良食歓迎」、私は「開運厄除」、海香さんは「学問成就」であった。
ちなみにこのPVを撮る時に黒木さんにも
「黒木さんも振袖着て映らない?」
と小風が誘っていたが
「それ俺の性的指向を誤解されるからやめとく」
と言っていた。
黒木さんは小風や美空が“連行”してくるのもあるが、しばしば女性用楽屋に来て、KARIONの4人や女性伴奏者などとおしゃべりしたりしているし、彼が女性用楽屋に居ても誰も違和感を覚えないので、小風にしても私などにしても彼の性的傾向に若干の疑惑を持っている。
「だいたい俺の背丈に合う振袖なんて無いよ」
と言うので
「友人の醍醐春海が身長200cmまでの人の振袖作れる所を知ってますよ。あの子バスケット選手なんで」
と私は言う。
「バスケット選手は背が高いもんな!しかし200cmなんて女子が居るんだ?」
「顔料インク印刷方式なら30分で振袖が作れますよ。耐久性は無いけど」
「30分!?すげー」
「コスプレ用に作る人があるんですよ。印刷でも酸性インク使って普通の作り方したら2ヶ月掛かります。これは耐久性のある普通の振袖になります」
「なるほどー!」
「作って着てみます?」
「やっぱやめとく。お婿さんに行けなくなるかも知れないし」
そんなことを言っていたら小風が
「SHINさん、お婿さんのもらい手が無かったら私がもらってあげるよ」
などと言う。
「コーちゃん、そういうの本気にするからやめて」
と黒木さんは言っていた。
江戸川乱歩の『悪魔人形』(一部の出版社の版では『魔法人形』)は、乱歩が少女雑誌上で発表したものなので、他の作品とは少しテイストが違っている。小林少年の女装に花崎マユミの男装まで見られて萌え度が高い。
「ぼく、女の子に変装します」
「ぼくのからだに合う女の子の洋服も和服も、いつでも使えるように事務所にちゃんと用意してあります」
「ほんとうは男の子なんだよ」
「あたし、男の服をきていくわ」
「男の服をきているが、どうも女らしいね」
しかし・・・・なぜ小林少年は女装し、マユミは男装しなければいけないのでしょう??女の子が潜入した方がいい所はマユミが行き、男の子がいい所は小林君が行けばいいと思うのに。明智さんの趣味か??
KARION作品の『アクア人魚』は水の中の人魚という意味で人魚の女の子の恋物語である。ちょっと女子高生っぽい可愛いラブソングで、葵照子はこういう歌詞を書くのが本当にうまい。元々アイドル歌手向けに書いていたもののようだが、KARIONが歌うというので多少おとなっぽく調整したようである。
演奏は普通のトラベリングベルズ(ピアノは私でグロッケンは和泉)に夢美のヴァイオリンと風花のフルート、そして間奏部分に小風のウォーターグラスが入っている。水を入れたグラスを音階になるように調整して並べたものである。以前『Earth, Wind, Water and Fire』という曲でもこれを入れたことがあり、その時も小風が演奏している。
PVはアニメーションで制作した。南国っぽい海で多数の人魚の女の子が出てくる。顔を似せている訳ではないのだが、和泉・美空・蘭子・小風っぽい人魚も脇役として出てきており、赤・青・ピンク・黄色というパーソナルカラーのブラを着けている。
制作中にスタジオを訪れていたマリは「アクア人魚というタイトルならアクアを出演させて可愛い美女人魚姿のコスプレさせようよ」と言っていたが、“アクア・プロジェクトのディレクター”に就任した和泉から却下されていた。
3月19-21日には前橋市で「第43回全日本クラブバスケットボール選手権大会」が行われた。2018年度からはクラブ連盟と実業団連盟の統合が予定されてはいるものの、2018年3月の全日本クラブ選手権までは行われる予定である。つまりこの大会は来年が最終回となる。
この大会では40 minutesが優勝して3連覇を達成。ローキューツは準優勝であった。この大会で退団する愛沢国香主将と須佐ミナミに私は直接花束を渡した。
3月20日(祝)。
龍虎は母と一緒に、この日行われたC学園の入学準備説明会に出て行った。
龍虎が学校の第1体育館“黄金”に入って行くと、ざわめきが起きる。
龍虎はこれは自分の顔を知っている人が自分に注目したのと、女子高と思っていたのに男子が入って来たのと、両方があるかなという気がした。
受付を済ませる。4年1組になると言われるので、そのプラカードを持っている先生の所に行く。見ると、説明会の時に個別説明をしてくれた山科先生である。
「ごきげんよう、山科先生」
「ごきげんよう、龍虎さん」
同じ1組のプラカード前に並んでいた女生徒が驚いたような顔をして龍虎に訊く。
「まさかアクアさん?」
「はい、そうです。ごきげんよう」
「ごきげんよう。まさかアクアさん、性転換して女子高生になったんですか?」
「性転換してませんよ。今年から芸術科の高等部には男子も入ることになったんですよ」
「知らなかった!あ、そういえばスカートじゃない」
「服装は学生っぽいものならOKということだったんで、上だけ女子制服のブレザーを着て、下は同色のズボン穿いてみました」
「なるほどー!あ、私、植村瑞穂です」
「田代龍虎です。よろしく〜」
そんな感じで、その場で数人の生徒と龍虎は自己紹介し合う。周囲に居た子で日高洋子、池田由美、村上香代、田中成美という子と挨拶を交わした。洋子ちゃんは165cmくらいで秀才っぽい雰囲気の子、由美ちゃんは150cmくらいでおとなしそうな子、香代ちゃんは154cmくらいでやや太め、いかにもおしゃべり好きという雰囲気の子、成美ちゃんはすらりと背が高くてたぶん170cm近い。活発な雰囲気の子である。洋子ちゃんと成美ちゃんは芸術コースで、他の子は普通コースらしい。
龍虎たちの様子を少し離れた所から見ながらなにやら騒いでいる子たちもいる。
「やっほー」
と言って、以前からの友人、彩佳と桐絵がやってくる。
龍虎が手を振る。
「あ、こちらぼくの中学時代の同級生。うちの中学からはこの3人だけがこの高校に来たんだよ」
と龍虎は瑞穂たちに説明する。
「よろしくお願いします。南川彩佳です」
「よろしくお願いします。入野桐絵です」
と2人とも挨拶する。
「2人とも1組?」
「うん。一緒になった」
「よかった」
そこに「ごきげんよう、ごきげんよう」と言って寄ってくる女の子がいる。
「ごきげんよう、飛鳥ちゃん」
と龍虎が言うと
「ごきげんよう、龍虎ちゃん」
と彼女も言う。
「あのぉ、もしかして松梨詩恩ちゃんですか?」
と瑞穂が尋ねる。
「はい、その名前で出ています。本名は天羽飛鳥(あまば・あすか)です。私も1組です。よろしくお願いします」
「静夜ちゃん見た?」
と龍虎が訊く。
「うん。向こうの方でクラスメイトになる子につかまってる。あの子は3組」
と飛鳥(詩恩)。
瑞穂がそちらを見る。何だか人だかりがしている(こちらも実は結構な人だかりになりつつある感もある)。
「星原琥珀ちゃん!?」
「本名は岩下静夜(いわした・せいや)ちゃんね」
と龍虎がコメントする。
「個人的に分かっていた芸能人の新入生は私と龍ちゃんとセイちゃんの3人だけど、もしかしたら他にもいるかも」
「なんかお仲間がいて心強い。それに中学の同級生も2人入ってくれたし」
と龍虎は言う。
「私も中学の同級生が1人一緒に入ってくれたんだよ。まだ来てないみたいだけど。でもそれで凄く心強い」
と飛鳥。
「やはり色々不安だもんね〜」
と龍虎は言った。
「お嬢様学校みたいな所だったらどうしようと思った」
と飛鳥が言うと
「ああ、それは無い無い。そんな子は雙葉とか白百合に行く」
と瑞穂が言っている。
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