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■春雷(16)

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9月29日(金)に放送した番組内容の大半は9月16日(土)に収録しており、青葉もその収録に同行している(ただ乗り幽霊が現れていないことを確認する取材のみ9月23-24日に行われた)。
 
実際問題として9月16日にはHH院で今回の一連の事件のまとめをする法要と会議が行われ、これには神谷内、青葉、千里、タクシー協会の人、白田住職が出席して《後日談》として放送する内容についても確認した。実はこの段階でラクシュ加賀の屋上でおこなった作業については番組で触れないことにすることも決めたのである。
 
千里はここ1ヶ月ほど東京と高岡・金沢を何度も往復したが、リーグ戦が始まるのは9月29日からだから、今はまだ動けるのよね〜などと言っていた。
 
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千里は9月16日の夕方、高岡の自宅で一緒に御飯を食べてから、少し仮眠した後、母から桃香へのお土産も預かって、オーリスで帰って行った。これが夜0時すぎのことであった。
 

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ところが9月17日(日)の朝7時頃、千里から電話があるので取ると、千里が思わぬことを言った。
 
「青葉、私、青葉からも叱られるかも知れないけど、結婚することになった」
と千里は言った。
 
「え?貴司さんと結婚するの?貴司さん、阿倍子さんと離婚するの?」
と青葉は驚いて尋ねる。
 
「ううん。別の男の人」
「え〜〜〜〜!?」
 
千里が言うのを聞くと、こういうことであった。
 
先月末に仕事の関係で知り合った川島信次という人から、プロポーズされた。仕事にも絡むことなので困り、Jソフトの社長に相談したら、辛いかもしれないけど、性別を変更していることを相手に話して欲しいと要請された。結局、千里・社長、相手の人と向こうの所長さんと4人居る場で、千里は2012年に性転換手術を受けて、戸籍上の性別も変更したことを話した。ところが、それにも関わらず川島さんから自分は過去の性別は気にしないから結婚して欲しいと言われ、断るに断れない状況で同意してしまった。しかし相手の親が絶対承認しないだろうと思っていた。一方千里は以前から知り合いだった康子さんという女性から、息子が変な女と結婚したいと言っているので、その話を潰すために息子と見合いしてくれないかと頼まれ、そちらも断り切れずに昨日、見合いに行った。ところがその息子というのが千里にプロポーズした川島信次だった。
 
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それで千里はどさくさに紛れて、自分は身を引くから信次さんにはもっと素敵な女性を見つけてあげてと言い、信次は身を引くなんて言わずに結婚して欲しいと言い、ふたりが言い争うのを見ながら呆然としていた康子さんは千里に、自分は千里ちゃんのこと好きだから、息子と結婚してあげてと言った。それで結局千里はこの縁談が断るに断れない状況に陥ってしまった。
 
「ちー姉らしくない。自分がどうしたいかを貫けばいいのに」
「でもどうしたらいいか分からなくなってしまって」
 
そのあたりが全然千里らしくないと思った。青葉が認識している千里というのは、決断力と実行力にすぐれた性格だ。貴司さんが結婚してしまっても4年間じっと我慢して何とか貴司さんを取り戻そうと頑張っていた。その間、不倫なんてやめなさいよと随分友人たちからも言われていたようだが、自分の意志を貫いていた。それに千里姉って、霊的なものに対処する時も、青葉が思わず攻撃をためらうような場面でも、すべきことを断固として実行していた。それで青葉は何度も助けられている。
 
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その“強い千里”と、今流され流されて変な状況に追い込まれている千里というのが結びつかないのである。それにどうにも青葉には理解できないことがあった。
 
電話の向こうの千里姉に感じるオーラが物凄く弱々しいのである。昨日一緒にタクシーただ乗り幽霊の処理をしていた時は、以前の千里姉ほどではないものの、普通の霊感体質の人程度のオーラはあったのに。これではまるで病人のオーラだ。
 
「ちー姉、真剣に訊くけど、貴司さんのことはもういいの?」
「貴司のことは好きだよ。忘れられるものではないと思う」
「その信次さんのことは好きなの?」
「嫌いではないけど、どうしよう?と思ってる」
 
こんな優柔不断なことを言うのは、まるで千里ではないみたいだ。
 
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「悪いけど、私はちー姉のその結婚話に賛成できない」
と青葉はハッキリ言った。
 
「うん。私もまだ悩んでる」
と千里は言った。
 

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その後、千里は今度は朋子のスマホに掛けてきた。
 
そしてあらためて結婚することになったことを説明した。朋子は純粋に喜んでくれたようで
 
「良かったじゃない。なんて名前の人?」
「川島信次さんといって、千葉の建設会社に勤めているんですが」
「え?」
と朋子は声をあげた。
 
青葉はその朋子の反応の意味が分からなかった。
 
しかし朋子はすぐ気を取り直して相手の人のことや、いつ頃式をあげるのか?などといったことを尋ねた。しかし千里も昨日婚約したばかりで、まだ指輪も交換していないし、式の日程などはこれから詰めるといったことを言っていた。
 
また、自分は子供を産めない身体だけど、桃香との古い約束に基づき桃香から卵子をもらって信次の精子と体外受精させ、代理母の人に信次の子供を産んでもらい、それを特別養子縁組でふたりの子供にする計画であることも話した。その話には青葉も傍で聞いていて驚いた。結果的には遺伝子上は朋子の孫になる子供ができることになる。朋子はその話にも驚いていたが、計画には賛成していた。というよりも喜んでいた。
 
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電話を終えてから朋子は青葉に言った。
 
「千里ちゃんが不倫しているようだなというのは思っていた。でもそちらを諦めて、他の人と再婚するというのなら、それでいいんじゃないの?青葉は納得できない所があるかも知れないけど祝福してあげようよ」
 
「それはそうだけどさ」
 
と言いつつ、青葉はなぜ朋子が《再婚》ということばを使ったのか疑問を感じた。千里が貴司さんと実質結婚していたのに、別れて(?)阿倍子さんと結婚していたから、千里にとってもこの結婚は再婚になるのだろうか?などと考える。
 
それで青葉はしばらく朋子と話し合い、一応朋子に諭されて、千里の川島信次との結婚を容認することで同意した。しかし青葉としてはどうにも割り切れないものを感じた。
 
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千里(千里1)が青葉と朋子に電話していた頃、信次の方は優子に電話していた。
 
「実はさ、僕、結婚しようと思って」
「へー。とうとうお嫁さんになるの?」
「いや。お嫁さんをもらう」
「それはまた奇特な人がいたもんだ。分かった!そのお嫁さんって男の人なんでしょ?」
「実は元男性なんだよ」
 
「ああ、そういう人か。じゃ信次が法的な性別を女に変更して結婚するの?」
「いや、向こうが既に法的な性別を女に変更しているから、僕は男のまま結婚する」
「ふーん。相手は、わりと男っぽさが残る人?」
「それが全然そうではなくて、かなり女っぽい」
「信次がたとえ元男性とはいっても、そんな女らしい人と結婚しようと思うなんて、少し信じられない」
「うん。自分でも信じられないけど、けっこう相性がいいみたいでさ」
 
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「ふーん。入れてもらった?」
「まだ。こちらは向こうに入れた」
「入れてもらってから決断しなくてもよかったの?」
「向こうはたぶんレスビアンだと思う」
「ああ、それなら何とかなるかもね」
 
「でも僕結婚したら、あまりそちらに会いにいけなくなるかも」
「私は構わないけど、奏音(かなで)には会いに来て欲しい」
「3ヶ月くらいに1度でもいい?」
「まあそのくらいに1度は来て欲しいね。来る時は例によって女装してきてね」
「うん。それはちゃんと女装して会いに行く。あ、それとその人と結婚してもそちらへの養育費はちゃんと毎月送るから」
 
「それはちゃんとそうしてもらわなくちゃね。だったら新しい旦那に奏音のことも打ち明けるの?」
「それは隠しておこうかなと思ってって。だから給料は現金で手渡し。でも旦那じゃなくて奥さんだけど」
 
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「それはあり得ない。信次が結婚する以上、信次が奥さんでしょ?」
「結果的にはそうなるかも知れないな。でも養育費は銀行で毎月定期送金するように設定しているから、たとえ僕が死んでも大丈夫だよ。普通預金の残高が尽きても定期預金から自動借入れされるはずだし」
 
「ああ、それなら安心ね。定期預金の残高がある限りは送金されてくる訳ね」
「まあそんな感じかな」
 

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「ああ、それと僕、その結婚する人との間に子供作るから。奏音の妹か弟になるけど」
「え?相手は元男なんでしょ?妊娠できるの?」
「代理母を使う。体外受精させて」
「ふーん。卵子は信次のを使うとして精子はどうするの?相手はもう睾丸無いんでしょ?」
「僕には卵子は無いよ。彼女のお友達の卵子を借りて僕の精子と受精させる」
「信次。まだ精子があったんだ?」
「あるけど」
「信次もそろそろ去勢を考えた方がいいね」
「オナニーできなくなるから嫌だ」
「ちんちんなんて使わないくせに。ヴァギナ作ればもっと気持ち良くなれるよ。私がちんちん切ってあげようか?」
「僕は女になるつもりはないから」
「今更私に嘘つくこと無いのに」
 
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その日(9月17日)青葉が自分の部屋で悶々とした気分で判例集を読んでいた時、青葉のスマホにショートメールが着信する。千里姉からである。時刻は午前10時頃であった。
 
《青葉ごめーん。そちらに私のバッグ忘れてない?》
 
へ?
 
青葉が隣の桃香の部屋(千里はこの家に来た時はこの部屋に泊まる)に行ってみると見慣れた千里のバッグがある。青葉はショートメールに返信した。
 
《あるよ》
《免許証入ってるよね?》
《開けてみていい?》
《もちろん》
 
それで青葉がバッグを開けてみる。
 
最初に目立つのが分厚い現金である。千里姉は雨宮先生から唐突にブラジルだのポーランドだの、南アフリカ!?だのに呼び出されるのでいつでも日本円・ドル・ユーロをある程度持っているのだと言っていた。
 
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ポケットを探ると、運転免許証、JAF会員証、健康保険証、国際C級ライセンス、が一緒に入った富士急ハイランドのパスポート入れ!が見つかる。ああ、確かにこのパスポート入れは首から掛けられるし、免許証入れるのに便利かもねと青葉は思った。
 
《免許証も入っているよ》
 
《青葉、忙しい時に申し訳ないんだけど、それこちらに持って来てくれない?今(上信越道の)東部湯の丸SAにいる。免許証持ってないの見つかったら切符切られちゃうから身動きできなくて》
 
《東京じゃないの?》
 
《午前3時頃ここに着いてから、1時間くらい仮眠するつもりが、疲れが溜まっていたのか、さっきまで寝ていた》
 
は?
 

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青葉は自分のスマホの着信履歴を確認した。
 
さっきの7時頃掛かってきた「結婚する」という電話は、用賀のアパートの家電から掛けられている。そして今ショートメールのやりとりをしている電話番号は千里姉の携帯番号のひとつだ。
 
青葉は返信した。
 
《すぐ持ってそちらに行く》
 
それで青葉は、千里姉が忘れ物したらしいから届けに行ってくると言った。
 
「郵送じゃダメなの?」
「それが免許証なんだよ。すぐ届けてあげないと、運転できないって困っているらしくて」
「あらあら。結婚が決まって舞い上がって、うっかりしてたのかしら」
 
ともかくも青葉は(自分の免許証が確実にあるのを確認して)、千里姉のバッグを持ち、アクアに乗ると小杉ICを目指した。
 
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3時間ほど、北陸道→上信越道と走って東部湯の丸SAに到着する。
 

どこかな?と思って探していたら、千里の方でこちらを見つけて来てくれた。
 
「ありがとう!ごめんね。忙しい時に手間を取らせてしまって」
と千里は言っている。
 
「ちー姉、携帯見せてくれない?」
と青葉は言った。
 
「これ?」
 
と言って千里は赤い折り畳み式のフィーチャホンTOSHIBA T008をスカートのポケットから出して見せた。
 
この携帯って、この携帯って・・・確か春に落雷に遭った時に焼損したって言ってなかった?だから代わりにiPhoneを買ったんじゃなかったの?だってこないだ見た時、千里姉はiPhoneにヤマゴのストラップ付けてたじゃん。この携帯にはヤマゴのストラップも付いてない。それどころか、金色のリングのストラップが付いている。このリングは確か・・・貴司さんとの愛の証(あかし)だったはず。川島さんと婚約した千里が、貴司さんとの愛の証のストラップを付けているなんて、いくら千里姉でもあり得ない。そしてふと気付いた。今朝の電話で千里は昨日お見合いをしたと言っていた。でも千里姉は昨日自分と一緒に、タクシーただ乗り幽霊の最終的な処理をしてたじゃん!
 
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青葉の頭の中で物凄く大量の情報が処理された。
 
あらためて目の前にいる千里を見る。かなり強いオーラを感じる。昨日感じたオーラよりもずっと強い。
 
そして青葉はひとつの結論に達した。
 
「ちょっと電話したいんだけどいい?」
と青葉は千里に訊いた。
 
「うん。いいよ」
と千里は答える。
 
それで青葉は千里の用賀のアパートの家電に電話した。5回呼び出し音が鳴った後でカチッという音がして電話が取られる。
 
「はい」
と言う千里の声がする。電話の向こうの千里に感じるオーラはとても弱々しい。
 
「ちー姉、考えたんだけど、やはり不倫をずっと続けるのはよくないよね。私はちー姉の決断を尊重するよ。さっきは変なこと言って悪かったけど、結婚おめでとう。それでちー姉の披露宴の司会させてくれない?私もアナウンサー志望だしさ。司会の訓練も受けてるから。うん。じゃ幸せになってね」
 
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そう伝えて青葉は電話を切った。
 
そして目の前の千里姉に言った。
 
「ちー姉。この春から、どうも納得の行かないことが多かったんだけど、やっと原因が分かったよ」
 
「青葉にしては気付くのに時間が掛かったね」
と千里は笑顔で言った。
 
その左手薬指にはいつの間にか金色の結婚指輪も輝いていた。
 
 
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