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■春雷(7)

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青葉は(アンコール前の)最後から2番目の曲の演奏が始まったあたりで、後のことは小風にお願いして、(アクアのスタッフ証を見せて)ブロックを出る。そしてステージに向かった。何度か会場スタッフに呼び止められたものの、スタッフ証を見せると行かせてくれた。
 
楽屋口の所にはTKRの顔見知りの男性が居る。その人は顔パスで中に入れてくれた。やがて演奏が終わりアクアがステージから降りてくる。
 
「お疲れ様」
と声を掛ける。
 
アクアはさすがに
「疲れたぁ」
と言って、用意してあった簡易ベッドに横になる。青葉は彼女じゃなかった彼の手を取ってヒーリングする。
 
ほんとに今日の龍虎は女の子っぽいなと青葉は思った。うっかり「彼」ではなく「彼女」と言ってしまいたくなる。青葉は1時間のパフォーマンスで疲労がピークに達している龍虎の身体を癒やしていった。
 
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10分くらい休ませてから脱出させる予定である。
 
ところがアンコールの拍手とコールが鳴り止まない。コスモス社長が運営の人と話している。
 
「龍ちゃん、どうする?無理はしなくていいけど、時間的には1曲だけアンコールしてもいいと運営さんの話」
 
「やります」
と言ってアクアは起き上がると、
「川上先生、ありがとう」
と笑顔で言い、屈伸運動などしている。そしてポカリスウェット500ccを一気に飲むと、化粧水入りウェットティッシュで顔を拭き、笑顔を作ってステージに向かった。
 
青葉はその姿をやや不安な表情で見送る。
 
アクアがステージへの階段に足を掛けた瞬間《画像が一瞬乱れる》ような感覚があった。へ?と思って、青葉は目をこする。しかしアクアは元気に階段を上り、ステージに立つ。そしてアンコールへの御礼を観客に言うと、予めアンコール用に用意していた『想い出海岸』を歌い始めた。
 
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この曲のクレジットは加糖珈琲作詞・東郷誠一作曲ではあるが、加糖珈琲は葵照子の変名であり、東郷誠一の名義になっているが本当は醍醐春海の作曲、ということに世間的にはなっているものの、実際に書いたのは青葉である、という、やや複雑な曲である。
 
しかし、青葉は凄い!と思った。1時間歌い続けて、くたくたになっているはずなのに、歌に全く疲れが感じられない。元気いっぱいの歌声である。近くに居たコスモスまで「信じられない」などと言いながら、首を振っている。
 
「アクアちゃんのバイタリティって信じがたいですよね」
 
と言っている女性は
《§§ミュージック株式会社アシスタント アクア担当 高村友香》
という名刺をくれた。
 
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最近アクアのサブマネージャーに就任したとのこと。関東のイベンターで主としてセミプロ・アーティストのお世話を5年ほどしていたという。彼女はライブやテレビ出演などの付き添い・送迎が主たるお仕事である。運転免許もイベンター時代に仕事の必要で大型免許を取得しており、自分の車(スバル・インプレッサ)で年間3万キロ走っているらしい。
 
「アクアちゃんって、絶対5人くらいは居ると思います。日替わりで出てきているんじゃないかという感じ」
 
と言っている女性は
 
《§§ミュージック株式会社アシスタント アクア担当 緑川志穂》
という名刺をくれた。
 
同じく最近サブマネージャーに就任したとのこと。彼女自身が有名集団アイドルに7年間在籍したものの、音源制作に参加できる選抜チームには7年間で2回選ばれただけ。ソロデビューの話などもどこからも掛からないまま、同年代の子がどんどん辞めていくので、無言の圧力を感じて3月いっぱいで「卒業」したらしい。彼女はテレビ局の人などには結構顔を覚えてもらっているので、主として放送局やレコード会社などとの連絡窓口になる。
 
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「実はアクアは7人居て、曜日毎に別のアクアが出てきているんだよ」
などと言っている30代?の女性は
 
《§§ミュージック株式会社マネージャー アクア担当 山村勾美》
という名刺をくれた。
 
青葉は最初この人の年齢が読めなかった。先にメールか何かのやりとりをしていたら70代くらいの人と思い込んだかも知れない。深い人生経験を持っている感じで、おそらく凄い苦労をしてきているのだろう。しかし見た目や声などを聞くと30代だろうと思わせるものがある。
 
彼女の経歴については秋風コスモスから聞いている。10年くらい前に花村かほりのマネージャーを3年間務めていたし、それ以前に別の演歌歌手のマネージャーをしていたこともあるらしい(二葉あき子のマネージャーもしていたというのは、さすがに冗談だろうが:「水色のワルツ」で知られる二葉あき子の活動時期はだいたい1930-50年代である)。ポップス系歌手のマネージング自体は初めてであるものの、JPOP全般に深い理解と知識があるという。どうも千里とは旧知らしいし、AYAのゆみ、リダン♂♀の鹿島信子とも知り合いらしい。そういう人脈なら自分もひょっとしたら会ったことあるかも知れないと思っていたのだが、この顔に記憶は無かった。
 
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でもこの人・・・MTFだよね?女声の出し方がうまいから、普通なら気付かないかも知れないけど。
 
「いや、その曜日別アクア説、私信じてもいいですか?」
と友香。
「曜日のイニシャル取って、アクアN、アクアM、アクアT、アクアW、アクアH、アクアF、アクアS、と呼んでいる」
と山村さん。
 
「必ずしもイニシャルではないような」
と志穂。
「曜日のイニシャルがダブっているからね」
と山村さんは言っていた。
 

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やがて演奏が終わり、アクアは観客にたくさん手を振り、何度もおじぎし、そしてステージを降りてきた。
 
すぐ身代わりとしてスタンバイしていた、アクアと同じ衣装を着けた白鳥リズムが、三田原課長と一緒に楽屋口を出て、品川* ***-1833というナンバーを付けた白いトヨタ・アクアに乗り込む。この車が普段の学校から放送局やスタジオへのアクアの送迎に使用されていることはアクアのファンの間ではけっこう知られている。三田原課長もアクアの担当者として、よくインタビューや記者会見に出ており、ファンの間ではよく知られている。
 
そういう訳で、この車が出ると、それを追いかけて行くファンの人たちが結構あった。
 
実際のアクアはそのファンの動きを確認した上で、ジャージの上下に着換えて、高村友香と一緒にグレーのN-BOXで続けて脱出した。
 
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「龍ちゃん、再度ヒーリングしなくていい?」
と青葉は声を掛けた。
 
「はい、大丈夫です。ホテルに戻ってから寝てますけど」
と言って龍虎は微笑んだ。
 
その龍虎の様子を見て、青葉は首をひねった。さっきの疲れ果てていたアクアとはまるで別人のように元気なのである。そして何か違和感があったのだが、その場では気付かなかった。N-BOXが走り去った後で、青葉は思った。
 
今の龍虎が普段の中性的な龍虎だ!と。
 
本当に龍虎って何人かいるんだったりしてね!?
 

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アクア本人も退出したので、解散となる。
 
それでアクアの控室を出た所で、次の出番のリダンダンシー・リダンジョッシー・スペシャルの出演者たちが、もうひとつの控室に出入りしているのを見る。何気なく目をやっていたら、音源制作で何度か会ったことのあるバインディング・スクリューの田船智史さんが控室から出てきたのだが・・・スカートを穿いている!?
 
目が合ったので挨拶する。
 
「おはようございます、田船さん」
「おはようございます、大宮さん」
 
「あのぉ、まさか今日の信子さんの代役のベース&ボーカルって・・・」
「うん。ボク」
「え〜〜〜!?」
 
「ネットではみんなヒロシだと思っているみたいね」
と言って笑っている。
 
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「凄いことを知ってしまった」
「まあ30分後にはGステージに来ている人には分かるけど」
 
「田船さんの女装は可愛いよと以前、ケイさんが言っていた気がする」
「ああ。お正月に振袖着せられたことあって、それをケイに見られたんだよ」
 
それは2015年のお正月のことらしい。
 
「大宮先生も女装しない?」
「私は元々女なので」
「可愛ーく女装させてあげるよ」
「それ何か怖い気がするから今日は遠慮しておきます」
 
それで退出させてもらった。
 

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青葉はGステージを出ると、いったん会場内の出演者用に用意されている、パフォーマーズ・スクエアに入った。アクアのスタッフ証を持っているので中に入ることができる。屋根のある場所は嬉しい。それでKARIONの控室に行くと、畠山社長がいたので
 
「おはようございます。すみません。部屋の隅ででも仮眠させてもらえますか?」
と言う。
 
「おはようございます、大宮先生。隅などと言わずに、簡易ベッドでもよければそちらの衝立の向こうのベッドでお休みください」
と畠山さんは言う。
 
「この衝立のこちら側にあるベッドは?」
「そちらは野郎用です。衝立の向こうは御婦人用です」
 
「ここの事務所では性別は、野郎と御婦人ですか?」
「まあ世間ではそんなものです」
 
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「日本って表面的には男尊女卑でも、けっこう裏では女尊男卑ですしね〜」
「そうなんですよ」
 
飲み物も御自由にということだったので、青葉は暖かいレモンティーを1本もらって衝立の奥に行く。自分のサックスケースが置かれているのを確認する。青葉は並んでいるベッドに横たわって熟睡した。さすがの青葉も朝3時半に起きて5時から12時まで雨の中、立ちっぱなしというのは、ホントに疲れた!!
 

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起きたのは17時半くらいであった。近くのベッドに世梨奈や照香、政子も寝ている。小風・美空はたぶん強制的に起こされたかなと思った。起きてみると、KARIONの4人と海香さん、黒木さんでライブの打合せをしている。
 
衝立のこちら側は女性専用エリアのはずが黒木さんは、昔から女性用エリアに出入りしても誰も何も思わない。黒木さんのセクシャリティに疑いを抱きたくなるほどだが、女性に何も警戒されない雰囲気を持っている。アクアなどもそうだが、時々こういう男性がいる。
 
あ・・・吉田もそうだよな、と青葉は思った。
 

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