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■春雷(12)

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青葉の大学の期末試験は8月3日(木)までなのだが、青葉が受講している科目の試験は2日で終了した。
 
それで青葉は試験が終わるとすぐにサンダーバードで大阪に出た。レンタカーを借りて夜中の京阪奈道路を走り、高野山の★★院まで行く。到着したのはもう23時頃である。
 
千里が霊的な力を失い、菊枝も重傷という中、青葉が今いちばんに頼れるのは★★院の瞬醒さんである。
 
「青葉ちゃんがそういう具体的な相談事をここに持ち込むのは珍しい」
と瞬醒さんから言われる。
 
「何かうまい手が無いものかと悩んでしまって。確かに新しい杉を植えて前の杉から作った札を立てておけば、あちこちに散らばった霊は少しずつ戻ってはくると思うんです。でもそれ時間が掛かるし、その間むしろタクシーただ乗り幽霊は多発するんじゃないかと思うんです。だからこれ解決策のようで解決策には全然なってない気がして」
と青葉は言った。
 
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「確かに」
 
「何か依代のようなものを持って市内をくまなく循環してみようかとも思ったんですよ。そしたらあちこちに居る霊がその依代に引かれてやってくるから、それをみんなお寺に連れて行けばいいと」
 
「それに使った車が新たな霊の住処になったりしてね」
「うーん・・・」
 
「でも吸収力を強める護符ならあるよ」
「それを作ってもらえませんか」
「OKOK」
 
それでそのお札を調整してもらうことにし、その晩は★★院に泊めてもらった。
 

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翌8月3日朝、朝御飯まで頂いて、高野山を後にする。朝10時半頃、大阪駅近くのお店でレンタカーを返却した。それでJRに乗ろうと地下街を歩いていて・・・
 
迷子になった!
 
あれ〜?たしかこの通路を行けば大阪駅のそばに出ると思ったのに?などと考えている。うーん。この通路はどこに着くのかなと思って歩いていたら、なぜか東梅田駅に出てしまう。えーっと・・・JR大阪駅はここからは近いはず、と思って歩いていたら、全然違う場所に出る。しまったここは逆方向だ!と思い戻ろうとした所で、ばったりと細川阿倍子・京平の親子と遭遇する。
 
「あら、確か川上さんでしたね。お産の時にお世話になった」
と阿倍子が言う。
 
「お久しぶりです、細川さん。京平君、大きくなったね」
と言って青葉は京平に微笑む。
 
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「あおばおねえさん、こんにちは」
と京平が言うのを聞いて、青葉は「え?」と思う。
 
京平の成長については、写真を千里姉がしばしば隠し(?)持っているのを見ていたのでだいたい把握していた。しかし青葉は彼が「誕生した後は」一度も直接は会っていなかった。なぜ京平は自分を識別できたのだろう?と思う。青葉は、彼が「生まれる前」には会っている。生まれる前の記憶を持っているのだろうか?? いや、持っていても不思議ではない。2歳なのに既にとんでもない霊的パワーを持っている。
 
ところでキュロットを穿いているのは誰の趣味だ??
 
「あの・・・もしよかったら、お茶とかでもご一緒しませんか?」
と阿倍子が言う。
 
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「ええ、いいですよ」
と青葉が言うと、京平が
 
「ぼく、おちゃよりトンテキたべたいな」
と言った。
 
実は青葉たちがいる場所のすぐ近くにトンテキの店が見えているのである。しかし阿倍子は
 
「高いからダメ」
などと言っている。
 
「おねえちゃんがおごってあげようか」
と青葉は言った。
 
「わあい」
と京平は言っているが
「でも・・・」
と阿倍子が戸惑っている。
 
「京平君も先々月で2歳になったから、少し遅めの誕生日プレゼントで」
「ありがとう!」
 
誕生日プレゼントという名目で阿倍子も納得したようで、一緒にお店に入る。まだお店も開いたばかりで、お客さんはほとんど居ない。窓際の席に案内された。
 
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阿倍子は高いからと言っていたが、ここは庶民的なお値段のお店であった。阿倍子が遠慮しないように、青葉は
 
「私たちはトンテキ定食を食べませんか?」
と提案した。
「そうですね。それではそれで」
と阿倍子も言う。
 
京平は、トンテキとハンバーグのセットを頼む。2歳の子供に食べきれるかな?とは思ったものの、残してもいいだろうしと思い、それでオーダーした。
 

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「それで川上さんは確か凄腕の占い師さんと聞いた気がしたので」
と阿倍子は言った。
 
「どういうご相談事ですか」
と青葉は言いつつ、貴司さんが千里姉と浮気しているようなのだけど、などといった相談を持ちかけられたらどうしよう?と悩む。
 
しかし阿倍子は意外な相談を持ちかけてきた。
 
阿倍子の母・保子さんは伯父(母の兄)の龍造さんという人に育てられたらしい。龍造さんは結婚はしていなかったものの、A子さんという養女をもらっていた。ところがA子さんは龍造さんと性格的に合わず、中学を出たら1人で名古屋方面の紡績工場に就職し、長らく音信不通だった。やがて龍造さんが亡くなり、実家は龍造さんの遺言書にもとづき、保子さんが相続したものの、そこにA子さんが異議を申し立ててきたらしい。
 
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娘の自分が居るのに、姪である保子さんが相続するいわれはない、と。そしてもし保子さんが相続するにしても、自分は遺留分をもらう権利がある、と。更に龍造さんの遺言書というのは偽造では無いのか?とほとんど喧嘩をふっかけてきたに等しかった。
 
実はこの話でもう10年ほど揉めており、最初保子と阿倍子の親子はその実家に住んでいたものの、阿倍子が前夫と結婚して保子がひとり実家に残ったあと、ヤクザのような人がきて脅したりするので、保子は腹違いの姉が住んでいる名古屋にいったん避難した。そしてそれ以降、結局阿倍子が母に代わって、A子と実家の権利問題でずっと交渉をしている。しかし向こうが非常に強硬な態度なので全く話が進まないらしい。
 
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ところが先日、A子は「遺言書が見つかった」と言ってきたらしい。公正証書になっていた遺言書より日付が新しいということで、そちらは公正証書ではないものの、日付が新しい方が有効のはずという。その遺言書には全ての財産をA子に譲ると書かれていた。そして筆跡が確かに龍造さんの筆跡に見えるのだという。しかし阿倍子は、そちらの遺言書こそニセモノなのではないかと言って反発し、このままだと裁判突入はやむなしかという状態らしい。
 
「でも私、裁判の費用も無いし、弁護士の知り合いもないし、どうしたものかと思って」
「貴司さんから借りられないんですか?裁判の費用くらい」
 
「それがあの人、給料がかなりカットされていて・・・」
 
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そういえばそんな話を千里姉がしていた気がする。3年ほど前にやり手だった社長さんが急病で執務不能になった後、貴司さんが勤めている会社の営業成績が大幅に落ち込んでいて、バスケット部も予算が縮小し、かなり社員も辞めたらしい。残っている人の給料もかなり削減されているのだろう。
 
千里姉は給料を減らされたのなら、取り敢えず今のマンション(家賃35万円)を出て安いアパートに移ればいいと言ったらしい。ところが実際には家賃補助が25万円出ているので実際の貴司さんの負担は10万円である。家族3人暮らせるアパートで10万円以下の所を探すのは結構難しいし、あまり遠くなると通勤費もかさむことになる。それで出るに出られないようである。ただ今後の会社の経費節減で家賃補助が打ち切られたら即出るつもりらしい。
 
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青葉は黙ってバッグの中から筮竹を取りだした。そして易卦を立ててみる。
 
水山蹇の2爻変。水風井に之く。
 
「とても厳しい時ですが、頑張らなければいけない時です。裁判を起こすというのなら受けて立てばいいです。勝てます」
 
「勝てますか!?」
 
「その実家と土地の評価額は?」
 
「過去に不動産鑑定士に鑑定してもらったことがあります。私が依頼した鑑定士は家屋には価値が無く、土地が1200万円という評価でした。しかしA子さんが依頼した鑑定士は土地が2500万円で家屋が800万円の合計3300万円という評価をしました」
 
「随分差がありますね」
 
子供には遺産総額の2分の1の遺留分がある。だから保子さんが全部の遺産を相続するとしても、その半分を受け取る権利をA子さんは持っている。1200万円なら600万円だが、3300万円なら1650万円である。相手はそのお金が目当てなのではという気がした。
 
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「あんなボロ家と、接道義務も果たしてない再建不能物件が3300万もするとは思えないんですけどね」
と阿倍子は言っている。
 
「ああ。再建築不可物件ですか」
 
近年の建築基準が厳しくなっているため、今建っている家をいったん取り崩して新しい家を建てようとすると、建築許可が取れない物件というのは割と多い。接道義務などは特に大きなハードルだ。現在は、消防自動車が入れる程度の道路に面していない限り、建築許可はおりない。
 
「裁判になったら、当然その向こうが提示してきた遺言書の筆跡鑑定とかを要求してください」
 
「やはりニセモノですか?」
 
青葉は黙ってタロットを1枚引いた。
 
金貨の5.
 
「日付の筆跡を厳密に鑑定してもらってください」
「日付は印刷されていたのですが」
 
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青葉は頭を抱えて苦笑した。
 
「だったら、その遺言書はそもそも無効です」
「え〜〜〜〜!?」
 
「本文はワープロとかでもいいですけど、日付と署名だけは自筆でなければ、それは遺言書として認められないんですよ。民法・・・968条だったかな?弁護士さんに聞くにも及びません。司法書士さんとかでもいいから確認してみてください。それきっと、蜜月時代に書いてもらったものの日付が入ってなかったんじゃないんですか?」
 
「だったら、こちらもそれは無効だと主張します」
「とにかく相手が裁判するぞと言うのなら、ええ裁判しましょうと応じればいいんですよ。弁護士の費用は貴司さんに言ってみてください。貴司さんは出してくれると思いますよ」
と青葉は言った。
 
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貴司さんがそういう相談を持ちかけられたら貴司さんはきっと千里姉に頼る。千里姉にとっては弁護士さんへの支払(多分200万円くらい)は、何でもない金額だし、阿倍子さんが貴司さんと離婚した場合に帰ることのできる場所ができることを千里姉は喜ぶはず、と青葉は考えた。
 
「分かりました。凄く参考になりました。あ、これの相談料は?」
「3000円でいいですよ」
「すみませーん。じゃ今度そちらにお送りしますね」
と阿倍子が言う。
 
ああ。あまり現金を持っていなかったのか。だからこのお店に入るのを渋ったんだな。
 
それで青葉は笑顔で言った。
「京平君が私をじっと見てるから、京平君割引で半額の1500円で」
 
京平はトンテキとハンバーグをペロリと食べてしまっていた。2歳といってもさっすが男の子!と青葉は思って見ていた。阿倍子は
 
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「すみません!1500円ならあったかな」
 
と言って財布を取り出し、五百円玉2枚と百円玉5枚で払った。
 
「確かに」
と言って受け取り、青葉は領収証を書いて渡した。
 
「でも帰りの電車賃あります?」
「ICOCA持っているから大丈夫です」
 
などと言っている。もしかして、本当に細川家は経済的な困難にあるのではという気もした。しかし今その問題について突っ込むのは阿倍子さんの感情を害しかねないと思ったので、青葉はそれについては触れないことにした。
 

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その時、ふと青葉は京平が妖怪ウォッチの《コマちゃん》・・・だったっけ?のバッヂをつけていることに気付いた。
 
「京平君、そのバッヂ格好いいね。えっと、コマちゃんだったっけ?」
「《コマさん》だよ」
「《ちゃん》じゃなくて《さん》だったか。ごめーん!」
 
「でもおとなは、しらないかもね」
「そうだね。お姉ちゃんもよく知らないんだよ」
 
「このバッヂはママがてづくりしてくれたんだよ」
「へー。手作り」
 
すると阿倍子が
「お恥ずかしい」
と言って、説明してくれた。
 
「本物を買ってあげられるお金が無いもので、テレビに映っていたのをスマホで撮影して、それを貴司に頼んでプリントしてもらったんです。それを厚紙に貼って、枠はアルミホイルなんです」
 
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「まあ、そういうのも子供にとっては良い思い出になるんですよ」
と青葉は言った。
 
 
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