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■春雷(1)
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(C)Eriko Kawaguchi 2017-10-30
倉田は今夜もそろそろ終わりかなあ、と思いながら、あと少し頑張ってみようと思い、深夜2時半頃、商店街そばの道路を軽く流していた。すると若い女が道端に立っているのに気付く。
手をあげたりはされなかったものの、倉田は女の近くにタクシーを停めた。
「お姉さん、お迎えとか来るの?」
と声を掛ける。
すると女は無言で車に近づいて来て後部座席のドアの近くに寄る。
あ、乗るのかな?と思いドアを開けたら、女は乗ってきた。
「どちらまで行きます?」
と訊くと
「近くて済みません。森山の方なんですけど。159号線沿いに」
「分かりました」
それで倉田は香林坊の交差点を兼六園側に折れ、国道159/359号・百万石通りを走って行く。
「森山の、どの付近ですか?」
と尋ねる。
返事が無い。
うーん。指示してくれないと困るんだけど
「どの付近に停めましょうか?」
と倉田は再度尋ねて、バックミラーを見た。
え!?
倉田は車を路肩に寄せて停めた。振り返ってみる。
居ない!?
客の女性はいつの間にか居なくなっていたのである。
うっそー!? いつ降りたんだ?
と考えている内に、ある考えが浮かんできた。
まさか、まさか、まさか・・・・今のって、タクシーただ乗り幽霊??
倉田はふと右側にお寺があることに気付き、急に寒気がしてきた。
青葉は5月12日にケイからローズ+リリーのアルバム用に2曲書いてもらえないかと打診され、その場に居た千里にうまく乗せられて、1曲はまるでケイが書いたみたいな作品に仕上げることにした。スケジュールが厳しいのでできたら6月末までに欲しいと言われた。
しかしその翌日5月13日には信濃町の§§ミュージックの事務所でアクアの制作に関する打合せがあり、7月発売予定のアクアのシングルに楽曲を提供してもらえないかと言われる。こちらは5月末までに欲しいというひじょうに急な依頼なのである。
青葉もこういうきついスケジュールで曲を書くのもかなり慣れてきた。しかし千里姉に訊いてみると、千里姉は高校時代、雨宮先生から、しばしば「明日の朝までに1曲頼む」とか「1時間以内に1曲頼む」などという、とんでもない依頼を受けてこなしていたらしい。
お父さんが失業して学資の無かった千里姉はそういう仕事をこなして自分の学費を稼いでいたのである。
私が霊能者のお仕事で、何とか小学生の頃生きて来たのと似たような感じかなあ・・・と青葉は思った。
5月はK大水泳部の活動が本格化する。青葉は昨年5月の段階で退部届を出しているのだが、部長(昨年は圭織さん、今年は香奈恵さん)が握りつぶしているのである。更に
「既に退部届は受け取っているから重ねて提出しても無効」
などと言われている。
それで忙しい中、週に1〜2度の割合で水泳部の練習にも出て行っていた。ただ水の中に入って全力で泳いでいると、これは結構頭がアルファ状態になっていいアイデアが浮かんだりする。青葉は何か思いつくと、水からあがって、メモ用紙に急いで思いついたフレーズや言葉を書き留めていた。
ある日の練習で3年生の布恋がビキニの水着を着てきていた。
「それで泳ぐの〜?」
と香奈恵から言われている。
「どうせ私戦力外だし」
などと言って、ホントにその水着で泳いでいたが、バタフライをしていたら、胸布のほうが外れちゃった!しかもそれが隣のコースを泳いでいた、青葉の同級生・吉田君の顔にぶつかり
「わっ」
と言ってびっくりし、ついでに溺れかけた!
それで結局、香奈恵から
「ビキニは禁止!」
と言われていた。
「参った参った。あれって簡単に外れるもんなのね?」
と吉田君が言っている。
「紐がほどけても身体からは落ちないものも多いんだけど、たまたま布恋さんのは完全に外れちゃうタイプだったね」
と青葉。
「吉田もビキニ着てみる?」
「俺の身体に合うのはさすがに無いと思う」
「吉田、おっぱい大きくしたらビキニ着けられるんじゃない?」
と奥村君。
「なんでおっぱい大きくしないといけないんだよ!?」
「吉田は入学当初、女だったという噂も聞いたが」
「そうそう。なんでか、俺、学籍簿上では女にされていたんだよ、最初」
そんな会話を聞いていた時、青葉はふと、アクアは実際にビキニとか着せられているなあと思った。
「川上どうした?」
と吉田君が訊く。
「ちょっと詩を書く」
と言って青葉は今唐突に思った内容を歌詞として書き出してみた。
「可愛い詩だ」
と奥村君が言う。
「俺にはよく分からん」
と吉田君。
「これ、もしかしてアクアちゃんに歌わせる歌?」
「うん。頼まれていたんだよ」
と青葉は言った。
「タイトルは?」
「『ビキニ娘』かな」
「ビキニ息子では?」
「それともあの子、実は性転換しているとか?」
「間違って性転換されちゃったら、それを受け入れるだろうけど、積極的に女の子になりたいわけではないと思うよ」
「熱狂的なファンに誘拐されて手術されちゃったりして」
「安い映画にありそうな話だ」
青葉は5月22-23日には自分のお誕生日会を開いてもらうために東京方面まで往復してきたが、その折、冬子と大宮の料亭で会談し、意見を交換した。冬子は千里が先日12日に楽曲を依頼したばかりなのに、今朝までに3曲送って来てそれが物凄くよい出来の楽曲であったとして、千里はどうなっちゃってるの?と訊かれた。それで冬子に先日千里が落雷に遭った話をし、今姉は暴走中なのだと思うと言った。
冬子との会談は10時から12時くらいまでの予定だったのだが、やや延びてしまった。それで青葉は新宿に出て§§ミュージックに、アクアに提供する曲の譜面とデータを渡しに行く時間が少し遅くなると連絡しようとしたのだが、冬子が渡すだけなら自分が渡してこようか?と言った。それでお願いすることにし、更に冬子に車(リーフ)で彪志のアパートまで送ってもらった。
「冬子さん、エルグランドは結局運転なさったんですか?」
「全く運転する機会が無い。今日も川崎ゆりこが借りていってたから、こちらで出てきた。もう諦めている」
冬子は2015年1月にエルグランドを買ったのだが、いまだに1度も自分では運転していないらしい。あの車をいちばん多く運転しているのは冬子と政子専属のドライバー佐良しのぶさんであるが、サマーガールズ出版の風花、ローズ+リリー担当の氷川さん、冬子の親友の琴絵・仁恵もよく運転している。今言っていた川崎ゆりこもよく借りているし、千里も結構運転しているようだ。政子さえ運転しているのに、冬子は全く運転機会が無いらしい。結局、政子の車であるリーフの方を運転していることが多い。
アクアの6枚目のCD『エメラルドの太陽』は昨年(2016年)8月6日発売であったが、直前7月23日のロックフェスティバルで先行公開したら、その時アクアがステージ上で過労から意識を失って倒れる騒ぎがあった。
7枚目のCDは12月24日に発売されたが、福岡の放送局で発売記者会見をしたら、そこに銃を持った男が乱入、とっさにアクアをかばった秋風コスモスが代わりに人質になる事件となった。この日はアクアの博多ドーム公演を爆破する予告まで届き、実際爆弾を持った犯人がつかまる騒ぎもあった。
最近どうもトラブル続きだなあと青葉は思った。
8枚目のCDは2017年3月22日に発売した。この時は特に騒ぎは無かったものの、記者会見に出てきていた青葉(大宮万葉)と千里(醍醐春海)が東日本大震災で知り合って姉妹になったこと、またアクアが小さい頃の千里との関わりについて語り、記者たちが感動していた。
この件は、映画が作られることになり『アクア−奇跡の邂逅』という映画が夏休みに公開されることになった。主役は小学3年生の子役・三次香美ちゃんであるが、“女子高生バスケット選手”千里役でアクアに出てもらえないかという打診があった。
さすがにスケジュールが確保できないのと、アクアに女の子役だけの出演はさせられませんという方針を伝えてお断りしたものの、結局、同じ事務所の品川ありさ(高3)が千里役で出演することになった。当時の千里と同い年だし、品川ありさは元サッカー選手で身長も174cmと長身であり、バスケット選手を演じるにはひじょうに良い。千里本人より高い!
(制作委員会は同じ事務所のタレントをかつぎだしたことで“公式感”を出すことができた。もとより§§ミュージック側は容認はしていたのだが)
そちらの主題歌は醍醐春海が書いて品川ありさが歌うことになり、映画の公開に1ヶ月くらい先行して発売されることになった。
そしてアクアの9枚目のCDは、6月の上旬に、主としてディレクター役のKARION和泉の指揮で制作が進められ、7月5日発売ということになった。下記の作者は「ほんとうに書いた人」である。
1.2015/03『白い情熱
Nursesrun』霧島鮎子・上島雷太/ゆきみすず・千里
2.2015/08『ぼくのコーヒーカップ/貝殻売り』マリ・千里/蓮菜・千里
3.2015/11『冬模様/スキーに行こうよ』マリ・青葉/蓮菜・千里
4.2016/02『桃色の予感/想い出海岸』マリ&ケイ/蓮菜・青葉
5.2016/04『眠る少年/ナイスなナースになるっす』マリ・青葉/蓮菜・千里
6.2016/08『エメラルドの太陽/もっとオブリガード』マリ・青葉/蓮菜・千里
7.2016/12『モエレ山の一夜/希望の鼓動』マリ&ケイ/蓮菜・千里
8.2017/03『星の向こうに/ナースのパワー』マリ・青葉/蓮菜・千里
9.2017/07『憧れのビキニ/サンダーボルト−青天の霹靂』マリ・青葉/蓮菜・千里
今回の作品は青葉が5月23日に納品した『憧れのビキニ』(『ビキニ娘』から改題)と、千里が5月26日に納品した『サンダーボルト−青天の霹靂』である。千里は21日にローズ+リリー用の曲を2本納品し、23日には更に1本納品している。そして26日に今度はアクア用の曲というので、青葉は本当に千里姉は暴走しているなと思った。
しかし・・・自分が落雷に遭ったのをネタにして楽曲を作ってしまうというのは、開き直っているし、たくましい!内容としては素敵な男の子に出会った衝撃を歌った歌である。青葉が書いた『憧れのビキニ』が可愛い女の子を見た男の子の立場で歌った歌で、男の子側の曲と女の子側の曲がきれいにペアになった。ジャケ写やPVはアニメで制作する方針が早めに決まり、青葉が23日に楽曲を納品した時点で、即アニメ制作会社に発注したらしい。
さすがにアクアにビキニを着せてPV撮影という訳にはいかないが(本人は着たそうな顔をしていたらしい)、誰か女の子のタレントを使った場合、色々微妙な問題が出かねないので、いっそアニメでということになったのである。それで千里が書いたサンダーボルトの方もアニメということになった。
5-6月は、青葉はそれで水泳部の活動と、アクアの制作とでかなり忙しいことになった。
5月22-23日(月火)は自分の誕生会で大宮まで往復して来たのだが、28日(日)は水泳部の方で、愛知県の日進市まで日帰り!往復してきた。
中部学生短水路選手権水泳競技大会という大会である。
朝4:40金沢駅集合だったので、青葉は朝(?)3:00に起きて自分の車で金沢駅まで走っている。帰りは金沢着が22:50。往復ともしらさぎ車内でひたすら寝ていた。帰りはマクドナルドで1時間休憩して帰ったので自宅到着は1:30である。翌日の車での金沢往復は運転を明日香に頼んだ。
6月4日(日)は石川県の記録会、10日(土)は石川県学生選手権が、いづれも新しい金沢プールで行われた。週末に大会があるので青葉は5月31日(水)と6月7日(水)は新幹線で日帰り往復、10日は選手権の終わった後、そのまま最終新幹線に飛び乗って東京に行き、11日(日)いっぱい掛けて、アクアの音源制作に付き合った。一応11日でアクアの作業分は終了し、後はマスタリングしてプレスに回すことになる。マスタリングの品質管理はKARIONの和泉さんがしてくれる。10日の東京行き新幹線では大会に出た後でもあり、ひたすら寝ていた。
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