広告:シーメール・成海セリカ[DVD]
[携帯Top] [文字サイズ]

■春雷(15)

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 
前頁 次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

番組の再放送が終わった翌日8月19日の夜(8月20日1:00)。
 
青葉、千里、神谷内さんの3人はラクシュ加賀の屋上に警備員さんと一緒に登った。ここを選んだのは、このビルが金沢都市圏でひときわ背の高いビルだからである。
 
今日青葉がここに持ち込んだのは大きなステンレス製の鏡である。実際には鏡本体(6kg)は神谷内さんが持ち、固定する台(30kg)を千里が持ってここに登ってきた。屋上の端にある手すり傍に台を置き、念のため手すりとの間にベルトを掛ける。落下防止のためである。そして台に鏡をボルトで固定する。青葉と千里の2人で鏡の角度を調整する。
 
この様子を神谷内さんが小型カメラで撮影していた。
 
電話連絡でHH院の白田住職の方も準備OKであることを確認する。
 
↓ ↑ Bottom Top

鏡を置いたのも、この屋上の中でHH院側の端である。そうしないとビルの階下に影響が出る可能性がある。
 
全員携帯電話の電源を切る。青葉は警備員さんにも携帯の電源を切って欲しいと要請した。この話は一応事前にも“口頭”で話を通していた。警備員さんもそれで電源を切る。
 
青葉は鏡の向こう側に身体を乗り出す状態にして、瞬嶽師匠から(?)伝えてもらった祝詞を奏上した。念のため千里がずっと青葉の身体をしっかり支えておいてくれた。
 
書き写した祝詞の紙を丸めて鏡の中央に貼り付けておいた筒の中に入れる。
 
青葉自身は千里と共に鏡から3mほど離れる。
 
目を瞑ってじっと待つ。
 
物凄い風のようなものが吹いてきた感じであった。警備員さんが思わず「わっ」と声をあげた。神谷内さんは座り込んでしまった。
 
↓ ↑ Bottom Top

“風”は20分くらい続いたろうか。
 
こちらにやってきたものたちは全て鏡に反射されて、約1.8km離れたHH院で待ち構えている白田住職の所に飛んで行き、観音様と次郎杉の燃え残りに吸収されてしまった。
 
警備員さんは腰が抜けたように座り込んでいた。
 
「終わりました」
と青葉が静かに言った。
 
むろん立っているのは青葉と千里だけである。
 
何とか神谷内さんが立ち上がった。
 
「これはとても放送できません」
「まあ、無理でしょうね」
と青葉も言った。
 
「カメラや携帯が壊れるというのもよく分かりました」
「エネルギーが凄まじいですから」
 
千里と神谷内さんで手伝って警備員さんを起こしてあげたが
「いったい何だったんですか?」
と彼は言った。
 
↓ ↑ Bottom Top

「まあお盆ですね」
と千里は言った。
 
「鏡の表面がぼこぼこになってる」
「まああれだけの数の霊がぶつかれば」
「巻物の筒がひしゃげてる」
「当然だよね」
「これも撮影しておいていい?」
「どうぞ」
 
実際にはこの映像は使用しなかった。放送局内で検討したもののあまりにも生々しすぎるということになったのである。
 
しかし、タクシーただ乗り幽霊の騒ぎはこれでピタリと収まってしまったのであった。
 

↓ ↑ Bottom Top

8月27日、千里2は同じドライビング・クラブの矢鳴美里・金野鹿美と一緒に茨城県下妻市の筑波サーキットに来ていた。今日ここで行われるレースに出場するためである。車はクラブ所有のものをキャリアカーに積み、交代で運転して運んで来た。
 
「今日は女子だけだね」
「確認はしてないけどたぶん全員女子だね」
 
矢鳴さんは普段は千里の専属ドライバーとしてアテンザやオーリスを走らせているが、今日は単純なクラブメイトである。
 
矢鳴さんはここのサーキットは何度も走っているらしいが、千里と鹿美は初めてだったので、矢鳴さんも含めて3人でまずはサーキットを歩いてみた。コースの曲がり具合などを感覚的に身体に覚え込ませていた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「美里ちゃん、レースは久しぶりだね」
 
「うん。国際B級ライセンス取った頃は燃えていたんだけどねぇ。そのあと仕事が忙しくなって、お金も無いし参戦できないなあと思っている内にレースから遠ざかってしまって。このままだとC級ライセンスも維持できないかもと思ってたんだけど、今日のレースに参加して順位認定取れれば、一応大丈夫みたい」
 
「それごめんねー。私もそこまで気が回ってなくて美里ちゃん、こき使ってしまって。どうせ私、毎年3月から7月くらいまでは国外飛び回っているから、その間に3回くらい参加するといいよ」
と千里が言っている。
 
「まあそれで今回は出てきたんだけどね」
 
「千里ちゃんが美里ちゃんの雇い主?」
「違う違う。美里ちゃんが所属しているドライバー会社に私が運転を依頼していて、美里ちゃんが私の担当なんだよ」
「なるほどー」
「だから私は美里ちゃんのお客さん」
 
↓ ↑ Bottom Top

「千里ちゃんは今年積極的に参加してるね」
「うん。これで4レース目。今日決勝進出して、来月の十勝に参戦して決勝進出すればC級に昇格できる」
 
「凄い凄い」
 

↓ ↑ Bottom Top

10時から試走時間になるので、3人で交代で試走した。千里も試走の段階では比較的ゆっくりしたペースで直線の時間的間隔、カーブの加速度感覚などを確認した。
 
お昼を食べて13時から予選が始まった。最初に美里が出て行き、4位でゴールした。各組の4位以上が決勝に進出できるので、これで美里は決勝進出確定である。美里は
 
「久しぶりのレースでやはり駆け引きがうまく行かなかった!」
と言っていた。
 
レースはスピード以上に車同士の駆け引きの勝負である。
 
しかしそれでもちゃんと決勝進出したのが偉い。
 
3組目で鹿美が出て行ったものの5位で予選敗退する。
 
「ああ。残念」
「あと1つだったのにね」
 
千里は5組目なので次の4組目予選の準備が進むのを、鹿美・美里と一緒にいろいろ話ながら眺めていた。その時、美里のスマホに着信がある。美里はえ?という顔をし、チラッと千里を見てから電話を取った。
 
↓ ↑ Bottom Top

「あ、はい・・・、あ、ちょっと待って頂けますか?すぐ折り返しお電話しますので」
と言っていったん電話を切った。
 
「何かあった?」
と千里が訊く。
 
「実は千里さんから、今水戸駅の近くにいるんだけど、作曲作業している内に眠くなったので、迎えに来てくれないかと電話があったのですが」
と美里。
 
鹿美が「へ?」という顔をしている。
 
すると千里は言った。
 
「それ身代わりを派遣するから、私に任せて。水戸駅に居るの?」
「水戸駅の近くの千波ショッピングプラザという所だそうです。アテンザで来ているそうです」
「OKOK。ちょっと待ってね」
 
それで千里はどこかに電話してる。
「ああ。私。千里が水戸市の千波ショッピングプラザという所にいるらしいのよ。美里ちゃんに変装して迎えに行ってあげてくれない?うん。よろしくー」
 
↓ ↑ Bottom Top

それで千里は電話を切り
「向こうは大丈夫だから、美里ちゃんはこのまま決勝に出てね」
と言うと、自分は次の予選に出るため、車の方に行った。
 
鹿美が尋ねる。
「他のお客さんから運転の依頼?」
「ううん。千里ちゃんから」
と美里は答える。
 
「千里ちゃんはここにいるじゃん」
「きっと他の所にも居るのよ」
「よく分からない。それに千里ちゃん、美里ちゃんに変装して行ってとか言ってたけど」
「まあ怪人二十面相並みに変装のうまいお友達がいるんじゃないかな」
「うーん。。。」
 
鹿美は訳が分からんと思って腕を組んだ。
 
結局この日、千里2は予選をトップで通過。決勝に進出する。そして決勝では千里が3位、矢鳴美里は7位でどちらも順位認定され、千里はC級ライセンス申請まであと1つとなり、矢鳴美里もC級維持の条件を満たすことができた。千里は表彰台に乗ったのは6月の鈴鹿に次いで2度目である。
 
↓ ↑ Bottom Top


『いしかわ・いこかな』では9月29日の放送で、タクシーただ乗り幽霊に関する《霊界探偵・金沢ドイル》とHH院の共同作業の後日談を放送した。霊回収車を先日の放送以降にも2回運行したこと(番組の放送にぶつけたことは言わなかった)、3回の運行で合計2万体ほどの霊が回収されたことを白田住職が語った(本当はこの数字には8月19日夜のラクシュ加賀で実行した最終回収の分も含まれている)。また回収車内の様子も一部が放送され、観音経の読経録音が流れる中、法衣と袈裟を着けた青葉が数珠を持って霊が飛び込む度に合掌している様が映った。
 
またHH院の観音堂で行われた供養の法要の様子も放送される。
 
そしていくつかのタクシー業者に取材し、タクシーただ乗り幽霊の噂が8月の下旬以降は全く聞かなくなったことも報告された。
 
↓ ↑ Bottom Top

K大学の文学部教授にインタビューして、タクシーただ乗り幽霊の歴史について話してもらった。教授はやはり『真景累ヶ淵』(1859)の豊志賀の幽霊が駕籠にただ乗りした話、更に古い『諸国百物語』(1677)の『熊本主理が下女きくが亡魂の事』で、主(あるじ)に些細なことで殺された、きくという女の亡霊が馬にただ乗りする話(これは『番町皿屋敷』の類話とされる)などを例に挙げ、ひじょうに古くから類話のあることであると語った。
 
アメリカでは『幽霊ヒッチハイカー(ghostly hitchhiker)』としてやはり広まっていることも説明する。向こうでは昔は馬車だったという。日本では死んだ若い女が自宅に帰ろうとするパターンが多いのだが、外国では災厄をもたらす老婆が乗ってくる話や、逆に幸運をもたらす女神が乗ってくるパターン、また臨終の際に、その死にそうになっている人の亡き両親が迎えに行く話もあるという。第二次世界大戦末期には戦争の終了を予告した幽霊もいたらしい。またこの幽霊が後日、パーティーなどの席でその運転手に再会し交際しようとする話も結構あるという(牡丹灯籠型?)。
 
↓ ↑ Bottom Top

また、春からの騒ぎで(車内も撮すタイプの)ドライブレコーダーを装備したタクシーには全くただ乗り幽霊が出ていないことが神谷内ディレクターによって語られた。
 
「最初の頃、何とかそのただ乗り幽霊が乗車した時の映像が取れないかと思い、タクシー会社にたくさん取材して回ったんですが、幽霊を乗せた車でドラレコが付いていたタクシーは1台も無かったんですよ。また、実際に幽霊騒ぎのあったタクシー会社でもドラレコの装備が進んだ例もあって、結果的に金沢のタクシーはドラレコの装備が進んでいるようです」
 
と神谷内さんはカメラの前で語った。
 
番組では最後に何人かのタクシー運転手に取材して、実は以前からただ乗り幽霊に会わないように、魔除けとしてマスコット人形を車内に置いている人が結構いることが語られた。映っていたのはUFOキャッチャーで取ったっぽい、小泉花陽(ラブライブ)、ジバニャン(妖怪ウォッチ)、くまモンなどである。
 
↓ ↑ Bottom Top

「ジバニャンは、それ自体が幽霊なのでは?」
「幽霊をもって幽霊を制すですね」
と運転手さんは笑っていた。
 
そしてこの番組の放送後、石川県のタクシーにはマスコット人形が乗っているタクシーが増えたらしい!
 

↓ ↑ Bottom Top

青葉は結局、このタクシーただ乗り幽霊の件の処理に忙殺されて東京に行って、ローズ+リリーの音源制作に参加することができなかった。それで千里に言うと「例の謎の男の娘さんに行ってもらうよ」と言い、冬子に電話して承認を取っていた。それで向こうには昨年春のツアーに参加した《謎の男の娘》さんが行ったようである(音源制作中ずっとマスクをかぶっていたらしい)。
 
(実際には本来の『謎の男の娘』こと小春はもう亡いので、この音源制作に本当に参加したのはマスクで顔を隠した千里2である)
 
「まあ青葉の居る所には正体がバレるから出せないけど、青葉の居ぬ間の洗濯で」
などと千里姉は言っていた。
 
千里姉も最近はほんとに開き直っているなと思う。たぶん千里姉の眷属なのだろうが、どうも千里姉の眷属には色々な能力を持っている子がいるようだ。運転のうまい子、バスケが日本代表レベルの子、龍笛のうまい子、プログラムを作れる子、そしてそれらを陰で支えているのが、瞬間移動能力のある子だ。それを絶対に青葉の前に出さないのも凄いと思った。
 
↓ ↑ Bottom Top

(もっとも青葉は四谷勾美に会ってもそれが千里の眷属であることに気付かなかった。あれは実際には、勾美が人間ではないことを疑いもしなかった不注意による部分が大きい)
 

↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁目次

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 
春雷(15)

広告:リバーシブル-2-特装版-わぁい-コミックス