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■春雷(8)

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青葉が起きたのに気付いた冬子(蘭子)が言った。
 
「青葉、申し訳無いけど、KARIONのライブでサックス吹いてくれないかな?」
「はい?」
「ゆまが吹く予定だったんだけど、あいつ午前中の南藤由梨奈のライブの時に、濡れているステージで足を滑らせて」
「あらぁ」
「南藤のライブは残り1曲だったんで、何とかこなしたけど、指が痛いと言っていて」
「それは無理しない方がいいです。私が吹きますよ。譜面見せて下さい」
「ごめんねー。これがスコアなんだけど」
「分かりました。見てみます」
 
ライブ開始まで1時間半である。青葉はともかくも譜面を読んでいった。
 
「分かんなくなったら最悪アドリブでいいから」
「はい!そうなった時はそれで行かせてもらいます」
 
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今日のKARIONのライブは1時間、演奏曲目はアンコールも含めて12曲である。ただしメインのサックスは黒木さんが吹くので、青葉が吹く第2サックスの出番は12曲中4曲だ。青葉はその曲目を冬子に確認した。
 
そして一心に譜面を読んでいく。読みながらエアーで指を動かしていく。
 
そういえば12月のアクアの博多ドーム公演では、キーボードの人が爆弾を隠し持っていたというので逮捕されて、彼女が弾くはずだったパートを千里姉が代行したらしい。あれは2時間前だったが、アクアのライブ演奏は3時間・32曲だったらしい。キーボードは全ての曲で出番がある。2時間でよく32曲も覚えたものである。
 
もっとも、千里姉と冬子さんは、即興演奏・初見演奏の天才だと言っていた。並みのピアニストが、譜面を渡されて弾きこなせるようになるだけでも数日掛かるような曲を初見で弾いてしまう。ただ、冬子の場合はマジで初見でしっかり譜面を読んで演奏するのだが、千里の場合は勘で演奏していると言っていた。冬子がデジタルコンピュータなら、千里はアナログコンピュータなのだろう。千里の初見演奏では、本当はドミソのを所をソドミで弾いていたり、本当はAm7(A-C-E-G)の所をC6(C-E-G-A)で代用したり、が結構出るものの、パフォーマンスには支障が無いという。
 
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しかし譜面に書いてある音符と違う弾き方で、ちゃんと代用可能な和音を奏でてしまうのが、逆に凄いと青葉は思う。それに千里は「私の場合、事前の譜読みはしない方が初見演奏はうまく行く」などと言っていた。練習しない方がいいってどういうこと!?
 
おそらくそのあたりが霊感のなせるワザで、事前練習することでその霊感が記憶にとらわれて働きにくくなるということなのだろうが、千里姉が霊感を喪失した今、そういう演奏もできなくなっているかも知れないと青葉は思った。
 

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18時過ぎると出演者がほぼ全員揃う。あらためて今日のライブについて和泉から説明があった。今日の衣装が配られ、各自メイクして下さいと言われたが、青葉のメイクは「千里ちゃんから頼まれたから」と言って、長尾泰華さんがしてくれた!
 
きっと千里姉はサックス持って行った方がいいと青葉に予告した時点で泰華さんに青葉のメイクも頼むと連絡したのだろう。
 
「すみませーん。私全然メイクうまくならない」
「女の子なんだから、少し練習した方がいいと思うよ〜」
「友だちからも言われるんですけど」
 
寝ていた世梨奈や政子たちも起き出す。
「あれ?青葉も出るの?」
と政子から訊かれる。
「出ることになりましたー」
と青葉。
「水鈴(みれい:政子のKARIONでの名前)も出る?」
と美空が訊く。
 
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「あ、出して出して」
と政子。
「じゃスターチャイム係で」
と和泉。
 
「OKOK」
 
それで政子も伴奏者の衣装を渡されていた。
 

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そういう訳で青葉は18:59からファーストアンコールも含めて20:05くらいまでのステージを務めた。実際に演奏したのは本割で3曲と、ファーストアンコールで演奏した『月に想う』(黒木・蘭子・青葉のサックス三重奏)である。この日最後の出演者の特権で2曲アンコールしており、セカンドアンコールはおなじみCrystal Tunes。これはKARIONの4人とピアノ(風花)・グロッケン(泰華)の6人での演奏であった。
 
演奏が全て終わったのが20:10くらい。その後いったんパフォーマーズ・スクエアに戻ってから、全員で手分けして荷物を持ち、退出する。KARIONの4人と伴奏者・スタッフ併せて20人ほどで、今夜会場で徹夜する数人(荷物運びには協力してくれた)を除いて駐車場に駐めていた大型バスに乗り込む。今日は出番が無かった世梨奈と照香も荷物運びに協力した上で、このバスに乗った。点呼して全員乗っているのを確認して、佐良さんの運転で越後湯沢に引き上げる。越後湯沢のホテルに到着したのが21:15くらいであった。
 
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それから打ち上げが始まる!
 
青葉は結果的に朝からあまり大したものを食べていなかったので、かなりお腹が空いていた。女性が多いおかげで、アルコールも強要されないしたくさんお茶など飲みながら御飯を食べていた。
 

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今日は、リダン♂♀スペシャルの代役ボーカルのことがやはり話題になる。
 
「田船智史さんとは思わなかった」
「あの人を予想していた人はいなかったと思う」
「あの人も丸山アイやフェイとかの仲間なの?」
「まさか。アイやフェイのお母さんの世代でしょ」
「そこまで年取ってない!」
 
「リダンリダンは、何度か田船美玲(田船智史の姉)さんから楽曲をもらっているんだよ。その縁で、話が出たんじゃないのかって言ってた」
 
そんなことを言っていたら、ひとり苦しそうな顔をしている人がいる。
 
「美空知ってたの!?」
「私自身がその場にいたんじゃないのよ」
と美空は言う。
 
「ゴールデンシックスの打合せで、花野子と千里が雨宮先生の所に行っていた時に、田船姉弟も来ていて、そこにアイちゃんとヒロシちゃんが来て、誰かベースが弾けて歌の上手い男の娘がいないかと訊いたらしい」
 
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「その人脈が分からない」
 
「いや、田船姉弟は雨宮グループ。バインディング・スクリューって実はワンティスと同じ年に活動開始している」
とケイが言う。
「そんなに古いんだっけ!?」
「当時はインディーズだけどね。それで何度かタイマンしたこともあって、それで田船姉弟はワンティスのメンバーとは旧知なんだよ。まだ売れてなかった頃、かなり雨宮先生に支援してもらっている」
 
「そうだったのか!」
 
美空が話の続きをする。
「雨宮先生って、男の娘の知り合いが多いじゃん。やはり信子の代理は男の娘がいいよねというので、雨宮先生の所に訊きに来た」
 
「信子ちゃんって、上島先生派かと思ってた」
「上島先生とどうも恋人だった時期もあるみたい」
「うっそー!?」
「でも上島先生は派閥を作らないから、結局雨宮先生に色々お世話になっている」
「なるほどー」
 
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「まあそれで雨宮先生はベースの弾ける男の娘の名前を数人挙げた」
と美空は説明を続ける。
 
「そんな『数人』もいるんだ!」
 
「男の娘のミュージシャンって、絶対的に不利なんだよ。男のベーシストも女の子のベーシストも需要がある。でも男の娘のベーシストはなかなか使ってもらえない」
 
「それはベーシストに限らずだよね」
 
「ところが雨宮先生は実力さえあれば、どんどん色々な歌手の音源制作に推薦してくれる。男の娘ベーシストって、見た目が女の子でガールズバンドなんかにマッチするけど、筋力が男の子だからパワフルな演奏してくれる。だから実はとても使い手がある」
 
「それは言えるなあ」
 
「まあそういう訳で数人の名前を挙げた上で、『そういえばここに居る田船君もベーシストだよ』と」
 
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「あははは」
 
「『待ってください。私は男の娘じゃないです』と田船さんは言ったけど、お姉さんの方が『この子の女装はわりと可愛いよ』と」
 
「ああ」
「いや、以前テレビでも女装を披露していたけど、美人だった」
 
「まあそれで田船智史さんが女装してベース弾きながら歌うことになっちゃったらしいんだよね。これ千里さんから聞いた」
 
ちー姉、日本代表で忙しくしているのに、そういうものにも関わっていたとは、と青葉はあらためて千里の活動量の凄さに驚いた。
 
「それいつ頃の話ですか?」
と青葉は美空に訊く。
 
「7月15日くらいだったと思う」
 
だったら・・・東京駅での事故の後?? ちー姉、あの事故の影響なんてまるで無いかのように活動している!?どうなってんだ?と青葉はあらためて千里姉のことが分からなくなった。
 
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翌日7月30日(日)朝。
 
青葉は7時に目が覚めた。
 
パソコンを開き、FIBA(国際バスケット連盟)のサイトを見て、千里の参加している日本女子代表が昨夜の試合(インド時間で20:00-21:30, 日本時間で23:30-1:00)で、オーストラリア代表を破ってアジアカップ3連覇を果たしたことを知った。千里姉はもう寝ているかなと思ったが
 
《優勝・ベスト5・スリーポイント女王おめでとう》
 
というメールを送っておいた。お返事は午前10時すぎにあり
 
《ありがとう。最後はけっこうシビアな戦いになったけど何とか勝てた》と書かれていた。
 
インドと日本は3時間半の時差があるので、今起きた所かなと思った。
 

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この日は“ふつうの”ミュージシャンの生活サイクルに合わせて、お昼をホテルのレストランで取った上で、ローズ+リリーの関係者みんなで大型バスに乗り、会場へ移動する。機材なども積み込んで移動したが、ローズ+リリーの関係者は多いので、結局午後1時と3時の2便に別れた。ケイの親戚を中心とする和楽器奏者は3時の便になった。今日は雨が酷いので、高価な楽器は持っていかない。雨に濡れても惜しくない楽器を持っていくということであった。
 
「三味線とか、合皮か何かのを使うんですか?」
「さすがに合皮の三味線は鳴らない」
「ああ、そうなんですか!」
「それに天然の皮に比べて堅くて、合皮の三味線で演奏すると、手首とかに負担が掛かるんだよ」
とケイの従姉でローズ+リリーのライブにはよく出てきている中村美耶さんが説明してくれた。
 
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「まあ三味線にも安物があるから、雨の日はそういうのを使う」
「ああ、そうなんでしょうね」
 
この日のGステージの演奏スケジュールは、10時に金属女給、14時にハイライト・セブンスターズと、次世代の中核になりそうなアーティストが演奏し、18時にローズ+リリーが演奏した後、20時には日本人のトリを取るDream Waves, そして22時から、このイベントのヘッドライナーを務めるアメリカのバンド、ジャンジャムクーンである。
 
3時のバスで入った人たちを入れて4時すぎから最終的な打合せをする。ローズ+リリーは楽器の担当が複雑なので、どの曲でどの楽器を誰が弾くかを再確認する。実際には年末年始のツアーで使用した小型スマホに各自の担当楽器やステージへの出入りが表示されるので、それに従えばよいようになっている。
 
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「今日はいちばん静電気の酷い人が来てないな」
という声がある。むろん千里姉のことである!
 
「醍醐は今インドのバンガロールにいるので」
と青葉は言う。
 
「ソフトウェアの仕事か何か?」
「いえ、バスケットの大会です」
 
と昨日(のKARIONの楽屋)に続いてその話をすることになる。
 
「いや、確か醍醐さんはソフトウェア会社に勤めていると聞いたことがあったし、バンガロールってIT産業が凄いから」
 
「たぶん姉はソフトウェア会社には籍を置いているだけだと思います。1年の半分は日本代表の活動で会社休んでいるから、給料もまともに出てないと思いますよ」
 
「それ首にならない訳?」
「既に10回以上辞表を出しているのに、受理してくれないそうです」
 
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「いや、醍醐さんはバスケットのプロ選手でしょ?ソフト会社なんかに勤められるわけないです」
「醍醐さんって、作曲家兼レースドライバーなのかと思った。レースドライバーのライセンス持っているんでしょ?」
「確かに運転はすごく上手いけど」
「先月鈴鹿で行われたレースに出てたよ。名前が出ているんで、おっと思った」
 
嘘!?いつの間に!??
 
「醍醐さんって、本職は霊能者じゃなかったの? 日本で十指に数えられる霊能者だと聞いたけど」
「それは青葉ちゃんと混同していると思う」
 
「やはり千里の職業は不明だ」
と楽しそうに美空が言っている。
 
「多分、ソフト会社に勤めてる千里、バスケットしてる千里、作曲家してる千里、霊能者してる千里、って千里は4人いるんですよ」
 
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「ああ、それを信じたい気がする」
 
「ケイは5人くらい居るらしいし、千里が4人、アクアが3人、上島先生は100人くらいかな」
 
「分身の術を使える音楽関係者が多いな」
 
 
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