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■春雷(6)

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リダンダンシー・リダンジョッシー・スペシャルはメインボーカルの信子が産休中なので、代わりに誰か(?)が女の子の格好をして(!)ベースとボーカルを演奏するらしい。
 
「誰か」は発表していないものの、誰なのかはほとんど明らかだとネットの論客たちは言っていた。信子・フェイ・ヒロシ・丸山アイの4人が仲良しなのは知られている。4人ともベースは弾ける。
 
「デビュー前に都内の銭湯で親しくなったという噂があるよな」
「それ男湯なの?女湯なの?」
「うーん・・・」
「さすがにヒロシは女湯には入れないだろう?」
 
「フェイは男湯での目撃情報も女湯での目撃情報もある」
「丸山アイも男湯での目撃情報、女湯での目撃情報がある」
「その2人はどうも常習犯っぽい」
「マジでその内、逮捕されるんじゃないの?」
 
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「信子は男湯に入るのは無理だと思う。デビュー直前まで外見的には男を装っていたらしいけど、半陰陽だったのは生まれつきだろ?」
「修学旅行は不参加だったと聞いた。お風呂で性別がバレるからだろうな」
 
「結局4人が会ったのは男湯女湯どちらなんだ?」
「どちらもありそうで怖い」
 

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さて今回、わざわざ「女の子の格好をして」と書かれているので、元々女の子である丸山アイではない。フェイは直後に自分のステージがあるので、自分の本番は翌日であるヒロシであろうというのが多くの人の推測であった。
 
「実はローズクォーツのタカだったりして」
「まさか。世代が全然違うし」
 
信子やヒロシたちは1994年度生まれだが、タカは1981年度生まれである。
 
しかしXANFUSの音羽(織絵)さんなどが言うように、日本のポピュラー音楽界の中心がKARION, XANFUS, ローズ+リリーといった08年組(91年組)の世代から、その次の世代である、ハイライト・セブンスターズ、レインボウ・フルート・バンズ、リダンダンシー・リダンジョッシー、金属女給といった94年組世代に移りつつあることを青葉も感じた。
 
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少し前までは、この付近には80年代前半生まれの、スカイヤーズ、サウザンズ、スイート・ヴァニラズなどがいたのだが、その世代は現在はFステージに移動している。
 

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28日(金)は合同の打合せが終わった後、青葉は、世梨奈・照香と3人で一緒に、ホテルの一室でおやつをたべながら、おしゃべりしていた。
 
1時頃、そろそろ寝ようかと言っていた時、青葉のスマホに着信がある。千里である。
 
「はい?」
「明日の朝はアクアを見に行くよね?」
「あ、うん」
「朝1番のシャトルバスでは間に合わないから」
「うっそー!?」
 
「泊まり込み組でほとんど埋まってしまう。マリちゃんに伝えると交通手段が確保できると思うよ」
「連絡してみる。あれ?ちー姉、試合は?」
 
「勝ったよ。3点差だった。1点リードの状態から。王子(きみこ)が相手のシュートをブロックして、そこから純子が残り1秒でゴールを決めて3点差で何とか勝った」
 
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「凄い接戦だったね!これで決勝戦進出だね」
「うん。優勝して帰るから。あ、インドのお土産、何がいい?」
「そうだなあ。地元のお菓子か何かでも」
「OKOK。あ、それと明日だけど」
「うん」
「青葉、出番の予定は無いだろうけど、サックスとフルート・龍笛は持っていった方がいい」
「分かった」
 

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電話してきたのは実際にはアメリカに行っている千里2である。インドでは準決勝が終わって1時間ちょっとした所であるが、アメリカでは午前中のスワローズの練習が終わった所だった。千里2はこれから夕食(?)を食べてから、日本に戻り深川の体育館で3時間、ひとりで練習をする予定である。
 
青葉は念のためタクシー会社数軒に電話してみて予約が取れないことを確認した上で、政子に電話した。
 
夜中の1時は政子にとっては普通の人の夕方7時くらいの感覚なので、遠慮せずに電話できる。と思ったのだが、実際には政子は彼氏の大林さんと一緒だったようで(政子が電話を取った瞬間、青葉には向こうの部屋の様子が見えてしまった)、ちょっと悪かったかなと思った。
 
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「お邪魔してすみません。千里姉が、明日のアクアのライブを見たかったら、越後湯沢を朝4時には出ないと無理と言っているのですが」
 
「うっそー!?だったら何とかする」
「もし出演者特権で、タクシーか何か調達なさるなら、2台確保できませんか?今、念のためタクシー会社3つほど電話してみたのですが、どこも予約が一杯らしくて」
「ひぇー。取り敢えず聞いてみる」
 
政子からの電話は10分後にあった。
 
「矢鳴さんが運転して、エルグランドで朝4時に往復してもらえることになった。運転手を入れて8人乗るから、こちら私と冬と小風と美空の4人。そちらは?」
 
「私を入れて3人なんですが」
「だったら乗れるね。じゃ朝4時、ホテルの玄関前で」
「ありがとうございます」
 
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矢鳴さんは本来は千里姉の専任ドライバーなのだが、千里姉がインド遠征中なので、バックアップのために越後湯沢にローズ+リリー専任ドライバーの佐良さんと一緒に来ているようである。
 
それで明日は4時出発ということで、全員すぐ寝ることにした。
 
「寝坊したら置いてけぼり」
「OK」
 

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それで各自自分の部屋に戻って寝た。
 
青葉は朝3時半に起床。念のため世梨奈・照香にメールを入れる。相変わらず雨が降っているようなので、レインコートを着て、お腹と足にはホッカイロも装着し、荷物はサックスケース(防水カバーを掛ける)以外は、リュックとウェストポーチにまとめてから部屋を出る。
 
廊下で世梨奈・照香とは一緒になる。玄関前で待っていたのだが、矢鳴さんはスタンバイしていて、遅刻常習犯の美空も来ているのに、最後に来たのが政子本人だった。ケイが結局、大林さんの!携帯に電話して起こしてもらったのである。
 
「ごめんごめん」
と言って乗り込み、会場に向けて出発した。実際には助手席に乗った青葉以外、全員、車の中で熟睡していたようである。
 
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「大宮先生も寝ていてください」
と矢鳴さんは言うが
「大丈夫です。せめてものおしゃべり相手で」
 
と言って、青葉は千里のことをネタにして随分矢鳴さんと会話した。
 
千里は昨年も前半はリオ五輪に向けての合宿・遠征が続いたので、その間、矢鳴さんは長期休暇を取ったり、他の人のバックアップに回ったりしていたらしいが(やはりマリ・ケイのバックアップが多い)、今年も同じパターンになっているという。
 
「矢鳴さん、オーリスも運転なさいました?」
「はい。ゴールデンウィーク直前に購入なさったようですね。ですから今、アテンザ、ミラ、オーリスの3車体制です。それでも足りないみたいで大阪からプラドを借りてきたのが3回あったかな」
 
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「ああ、やはり千里姉は3〜4人いる感じですね」
「それは最初から感じてました。たぶん醍醐先生は5〜6人おられます。東京で醍醐先生のミラを運転した直後、電話で呼ばれて新幹線で高崎に移動してそこでまた醍醐先生のアテンザを運転したこともありますし」
 
むろんそれは実際にはどちらかが、あるいはどちらもが、千里に擬態した眷属なのだろう。
 
矢鳴さんも相手が妹の青葉なので、本来なら守秘義務から他人には言わないようなことまで、結構、言うようである。
 
しかし千里姉は・・・落雷に遭っても、東京駅であんな事故にあっても、自在に眷属たちを操っているようだなと青葉は感心した。
 

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1時間ほど車で走り、5時頃に会場に着く。相変わらず雨が酷いので、冬子と青葉が持っている楽器は矢鳴さんにKARIONの控室に持っていってもらうことにした。彼女にはKARIONとローズ+リリーのスタッフ証を発行してもらっているので、今日も明日も出演者控室のあるパフォーマーズ・スクエアに出入りすることができる。
 
荷物を彼女に任せて、青葉たちがGステージに行ってみると、入場しようとしている人の長蛇の列ができていた。場内整理の係の人が「○万○千人」という立札を立てている。青葉たちが並んだ所からすぐ後ろに「3万1千人」という札が立てられた。
 
Gステージは本来4万人入るのだが、アクアの出番の時だけ、不測の事態を避けるため、会場内を小さなブロックに分割して、移動を禁止している。そのため3万5千人くらいまでしか入らない。本当に4時に出てきて良かったようである。青葉は千里姉の霊感、戻ってるじゃん!と思った。元々千里姉は色々御神託を無意識に受信してしまうのだが、おそらく、その受信能力が回復したのだろう。
 
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青葉は千里姉の回復速度に驚いていた。
 

5時半には「Gステージはもう満員です」というアナウンスが流れた。それでもキャンセルする人が出るのを期待して列の後尾付近で待機している人がけっこう出ているようである。
 
待っている人の列が往来の妨げになっているので朝7時くらいから客をGステージに入れ始めた。スタッフの手配の都合で、この時間にならないと、会場内での受け入れ体制ができなかったのである。青葉たちも7時半くらいには中に入ることができた。いちばん後ろのブロックなので政子が「ステージまで遠い!」と文句を言っていたが、泊まり込んでいた人たちにはかなわない。
 
「来年はもう抽選になっちゃうかもね」
「どうしても見たければスタッフになっちゃうか」
「それ狙っている人、けっこう居ると思う」
 
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9時になるとステージ内の出店が営業を始め、焼きそば、おでんなどに長蛇の列ができていた。いくらレインコートを着ていても雨の中立って待っているのは体力を奪われる。夏ではあっても暖かいおでんはありがたい。青葉たちもじゃんけんして、負けた青葉と小風でおでんを買ってきて、みんなで食べた。
 
「青葉ちゃん、霊感でじゃんけん勝てないの?」
と小風に訊かれる。
「勝てるということは負けることもできるんですよ」
と青葉は答えた。
 
「わざとか!」
「他の人には内緒に。冬子さんとか、自分はホテルで寝ていたかった、みたいな顔してましたし。まだ私は体力がありますから」
「和泉はそれで寝てると言って寝てたけど、冬は政子に強引に引き出されたみたいね」
「たいへんですね」
「こんなに雨が降っていると地面に横になることもできないから辛いよ」
 
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演奏が始まったのは11時である。会場に到着してから待ち行列に2時間半待ち、会場内で3時間半待った。その間ずっと雨が降っているのでずっと立っていなければならず、かなりの重労働であった。座ったのはトイレに行った時だけである。(トイレ内で瞬眠を起こした!)
 
しかしエレメントガードをバックに歌うアクアは、ひじょうに魅力的でパワフルであった。この子も日々凄いハードスケジュールで動いているのに、ほんとに元気だなと思った。
 
例によって、興奮しすぎて、ブロックから飛び出して走り出したりして、スタッフに取り押さえられる子がいる。後から聞くと退場者が34人出たらしい。ロックフェスはチケットが高額なので、元々観客の年齢層は高いはずなのだが、それでもこの事態である。
 
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内訳は、迷惑行為12名、演出を妨げる行為6名、録画録音機器の使用16名だったらしい。撮影しようとして退場をくらったのは年齢の高い人が多く、撮ってはいけないことを知らなかったと多くは言っていたらしい。アクアのライブではフェスのスタッフだけでなく、このライブ専任の熟練したスタッフを1000人以上入れているので、スマホなどで撮影しようとすると即見つかる確率が高い。
 

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マリもかなり興奮して見ていて、ケイに抑えられていたが、
 
「今日のアクアは凄く女の子っぽくていいね!」
と言っていた。
 
確かに青葉自身、最初アクアがステージに出てきた時に、一瞬女の子の影武者?と思ったくらい、今日のアクアは女の子っぽかった。たぶんアクアの感情の波が女の子の方に揺れていたのだろう。
 
衣装はたぶん遠くからも視認しやすいようにだろうが、王子様のような衣装で、いくら雨の中でも、あれは暑くないか?と少し心配になった。
 
なお、ステージは楽器などが雨に濡れないように屋根があるのだが、アクアはステージの最先端まで出てきて歌っていたので、結構雨にも濡れたのではないかと思う。
 
昨年は途中で倒れたりして騒ぎになったのだが、今年はそういう事故もなく、一昨年のように観客が制御できなくなったりすることもなく、無事1時間のパフォーマンスを終えた。アンコールのコールが凄まじかったので、1曲だけアンコールをした。
 
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