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■春老(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-07-17
 
2016年4月7日。
 
この日は青葉のK大学入学式である。
 
実は4日の夜遅く高知の祖父が亡くなり、朋子・千里・桃香・彪志と一緒に四国の土佐清水市まで行ってきた。昨日葬儀が終わった後、彪志は東京に戻ったが、桃香と千里は一緒にこちらに来ており、朋子と一緒に入学式に参列してくれることになっている。
 
もっとも高岡まで戻って来たのは早い便に乗った青葉だけである。桃香たち3人は最終で帰って来たので金沢で泊まっている。
 
この日青葉が目をさましたのは朝5時であった。
 
昨夜帰ってくるなりお風呂にも入らず寝てしまったので、シャワーでも浴びようかと思ったものの、あまり時間が無いのでパスする。腕や首筋、耳の後ろ、脇の下・膝の内側などをウェットティッシュで拭いた。
 
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朝ご飯を作って食べ、入学式用に通販で買って、不在中にメーターボックスの所に宅配便屋さんが入れてくれていた箱からレディススーツを取り出す。タグを切り、試着してサイズが問題無いことを確認の上、いったん脱いで旅行用のバッグに入れる。母のフォーマルと桃香のフォーマルの頼まれていたのの見当をつけ、それは別のバッグに入れた。
 
また雨が降っているので、母の普段使いの傘、自分が高校時代使っていた傘、それに桃香と千里が使えそうな適当な傘を2本持った。
 

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6時半にアクアを運転して家を出る。
 
美由紀・明日香・世梨奈の3人を拾って金沢に向かう。
 
美由紀のG大学は4月2日に、明日香と世梨奈のH大学は4月5日に入学式が行われて、既に学校行事は始まっているのだが、これまでは公共交通機関で大学まで行っており
 
「電車とバスの乗り継ぎは大変だったよぉ」
「車で行けると楽だあ」
「特にこういう雨の日は助かる」
などと3人は言っていた。
 
この日は8時までに3人を各大学まで送り届けた後、青葉自身は市街地に戻る。金沢駅近くのホテル玄関で待ち合わせ、フォーマルの入ったバッグと傘を3本渡した。
 
「じゃ私は先に会場に行っているから」
と青葉。
「OK。私たちも20分くらい前までには行く」
と桃香。
 
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この日の入学式は、大学ではなく、コンサートでも何度か来ている金沢スポーツセンターで行われるのである。青葉は8時半に隣接する産業展示館の駐車場にアクアを駐めた。ここから会場までは歩いてすぐである。青葉はこの車内で20分ほど仮眠した後、車内でフォーマルを取り出し身につける。そして大学生だしなあと思い、母が買ってくれたお化粧品セットでメイクをした。
 
なお、今日の帰りは時間が合わないので、美由紀・明日香・世梨奈の3人は自力で自宅に戻ってもらうことにしている。
 

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一方桃香たちは9時頃までのんびりと過ごし、それからフォーマルを身につけてホテルをチェックアウト。タクシーで会場まで移動する。それで9:40頃に会場で青葉と合流したのだが、桃香が
 
「酷い」
と声をあげた。朋子も顔をしかめている。
 
「何?何?」
「青葉。色々問題あるが、取り敢えずそのメイクは酷すぎる。今時オカマさんでもそんな酷いメイクする子は居ない」
 
「え〜〜〜!?」
「千里、やり直してやりなさい」
と桃香。
 
「うん。青葉おいで」
と言って千里は青葉をトイレに連行して、いったんクレンジングで全部メイクを落とした上で、きれいにやり直してやった。
 
「なんか自分でも見違えた」
「いやさっきのメイクがあまりに酷すぎた。青葉メイクの本でも買って少ししっかり勉強したほうがいい」
 
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「うん」
「今更だけど、その服も問題あるんだけどなあ」
「え?」
 
「まさか、そういう服を着るとは思わなかったから。朝確認してたら別の服を何とかしていたんだけど」
 
「え〜?この服、まずい?」
 
「まずい訳では無いんだけどね」
と千里は困ったような顔をして言った。
 
「お母ちゃんに見てもらわなかったの?」
「うん。通販で頼んで留守中に届いていたから、まだ見せてなかった」
 
「私や桃香の服では青葉には大きすぎるからなあ」
 
千里はウェスト69, 桃香はウェスト公称69だが実は72cmあるのに対して青葉はウェストが60cmで、千里や桃香の服では、ウェストが余りすぎてスカートが落ちてしまうのである(桃香はウェストに「気合い」を入れたら千里の服が着られる)。
 
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メイク直しで時間を使ってもう5分前なので、青葉は千里たちと分かれて法学類の新入生が集まっている所に行く。星衣良と遭遇するので手を振り合って寄っていく。
 
「星衣良、可愛い服着てきたね」
「青葉は随分と地味な服を着てきたね」
「え?これ変かな」
 
などと言っていたら、学校の職員さんが青葉を見てこちらにやってくる。
 
「申し訳ありません。ご父兄の方は、2階席の方に移動していただけますか?」
と青葉に言う。
「へ?」
と青葉が戸惑っていると、星衣良が
「この子、老けて見えるけど、新入生ですから」
と言った。
 
「あ、そうでしたか。失礼しました」
と職員さんは言って離れていった。
 
「私、老けて見える?」
「うん。青葉って元々大人びた雰囲気持ってるし、それにこの服では30歳くらいに見えてしまうと思う」
「え〜〜〜!?」
 
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「青葉、ファッションセンス無さそうだしなあ。通学用の服も明日香か誰かに見てもらった方がいい気がするな」
 
「うーん・・・」
 

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受付でもらっていた桜の花飾りを胸につけ、所定の場所に座る。やがて入学式が始まった。
 
入学許可を学長が宣言し、続いてお話がある。新入生の代表が誓いの言葉を述べた。その後、校歌を斉唱した後、ブラスバンド部の演奏で入学式は終了した。
 
続いて全学向けのオリエンテーションが行われ、行事は昼頃終了する。
 

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ロビーに出ると、千里が青葉を見つけて桃香・朋子と一緒にやってくる。
 
「星衣良ちゃん、こんにちは」
と千里が笑顔で挨拶する。
 
「青葉のお姉さんでしたね。ご無沙汰してます」
と星衣良も挨拶する。
 
「ちー姉、よく私の友達の顔と名前とか覚えてるね」
「うん。私、そういうの覚えるの得意」
「千里は初対面の人でもすぐ覚えるよなあ。私は5−6回会っててもダメだ」
と桃香は言う。
 
「星衣良ちゃんは誰かと一緒に来たの?」
「いえ。私は一人です」
「あ、じゃ何なら一緒に示野あたりでご飯食べない?おごってあげるから」
「頂きます!」
 

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それで青葉のアクアに5人で乗って、近くの示野町のイオンタウンに移動した。
 
「ちょっと親戚の集まりがあって、みんなで移動してたのよ。それで3人も付き添いが来ることになっちゃって」
と千里がアクアを運転しながら言う。
 
「うちの母は着て行く服が無いからやめとくと言ってました」
と星衣良。
「うちの場合は新入生本人の服が酷かったね」
「そんな服を着るとは思わなかったもんで」
「誰も青葉が着るつもりだった服を見ていなかったのよね」
「なるほどですねー」
 
「だから、食事の後は取り敢えず青葉の通学用の服を見ようと」
「ああ、それがいいです」
 

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それでイオンタウンの駐車場に駐めて、サイゼリヤで食事をした。
 
「しかし誰が青葉の服を選ぶかは問題だな」
と桃香が言う。
「桃香は古着屋さんで300円のスカートとか200円のブラウスとかを買いあさる気がする」
と千里。
「まあ千里ちゃんの方がセンスはまともだよね」
と朋子。
 
「何なら私も協力しましょうか?私もあまり自信無いけど、青葉よりはマシだと思うし」
などと星衣良が言い
 
「うん。同世代のふつうの女の子に見てもらうのが一番いいかも」
 

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という結論に達し掛かった時、ちょうどお店に入ってきた24-25歳くらいの女性がこちらにやってきて声を掛ける。
 
「桃香、久しぶり〜」
 
桃香は驚いて飲んでいたジンジャエールを吹き出しそうになり、ゴホンゴホンと咳をしている。
 
「優子ちゃんだったっけ?」
と朋子が言う。
 
「お母さんもご無沙汰しております」
 
その会話の雰囲気、桃香の様子、そして千里の嫉妬するような顔を見て、青葉はこの人は桃姉の元恋人かな?と判断した。しかしちー姉があからさまに嫉妬の表情を見せるのは珍しい。
 

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「桃香、こちらに戻ってたの?」
「いや、色々行事があって来ていただけだよ。今日中には東京に戻る。優子はこちらに戻って来たの?」
 
「私、赤ちゃん出来ちゃってさ。実家で産もうと思ってパート辞めて戻って来た」
 
「パートしてたんだっけ?」
「うん。会社倒産した後は秋に居酒屋のバイト見つけて週3回出ていた」
 
優子は昨年夏に勤めていた会社が倒産して困っていたのを桃香に相談し、桃香の勧めで買ったばかりのアテンザを売却したのである。しかし桃香は何の車かまでは聞いていなかったし、まさかその優子が売った車を実質買ったのが千里だとは思いもよらない。そのあたりの事情は千里も知らないことである。優子との車の買取り交渉をしたのは雨宮先生なので、千里は優子と会っていない。
 
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「しかしそれでは生活も大変だったろう?」
「まあ何とかぎりぎり暮らしてた感じかな」
 
優子はその時期、自分のアパートを引き払い、信次のアパートに同居していたので、何とかなっていた。先月ふたりは別れることにして優子が新しいアパートを借りるのに敷金とかは信次が貸してあげるよなどと言っていたのだが、妊娠が発覚したため、優子はアパートは借りたりせず、実家に戻ることにした。
 
「それは大変だったね」
と朋子も言う。
 
「しかし赤ちゃんって、優子、男と付き合ってるの?」
「ちょっと変わった男だったけどね。もう別れたけど」
 
「妊娠したことはその男には言ってる?」
「実は自分が妊娠するなんて思いもよらなくてさぁ、そいつに指摘されてまさかと思って病院に行ったら、おめでたですと言われた。出産の費用も、妊娠中に病院に通う費用も、そいつが出すと言っている。子供産まれたらちゃんと養育費も毎月払うと言ってる」
 
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「結婚しないの?」
「私が男と結婚する訳無い」
「それは分かるが、私は優子が男と付き合ったこと自体信じられん」
「私がタチであいつがネコだったからね」
 
「はぁ〜〜〜?」
 
「あいつはホモの女役で、私はレズの男役だから、カップルとして成立したんだよ。でも気分で私がネコにもなったから」
 
朋子は会話の内容がぶっ飛び過ぎていてポカーンとしている。星衣良は興味津々という雰囲気だ。
 
「優子がネコというのは珍しい」
「桃香と付き合ってた時以来かも」
 
「認知はどうしたんですか?」
と千里が心配そうに訊く。どうも桃香と復縁しそうな雰囲気は無いと見て、嫉妬の気持ちは抑え込んだようだ。
 
「胎児認知した」
「でも結婚はしないんだ?」
「私、奥さんとかにはなりたくないし」
「だろうな」
 
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「ところで、こちらの髪の長い和風美人は、桃香の彼女?」
と優子が千里を見ながら訊く。
 
「私の妻の千里だ。指輪も交換したぞ」
と桃香が言うと、千里は急に言われて頬を赤くする。
 
「へー。そちらが噂の。後の2人はお友達か何か?」
 
「こちらは私の妹の青葉と、そちらはその友達の星衣良ちゃん」
と桃香は紹介する。
 
優子は「ん?」という顔をする。
 
「青葉ちゃんのことも聞いてた。こちらが青葉ちゃんだっけ?」
と優子は星衣良を見て言う。
 
「私は星衣良です」
「じゃ、あんたが青葉ちゃん?」
「はい」
「あんたいくつ?」
「18歳ですが」
 
「うっそー!!」
と優子は声をあげた。
 
「あんた32-33歳に見える」
と優子。
 
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「ああ、正直に言われたな」
と桃香。
 

「青葉のファッションセンスがあまりに酷すぎるので、この後みんなでもっと若い子が着るような可愛い服を選んであげようと言っていたのだよ」
と桃香は説明する。
 
「よし、そういうことなら私に任せなさい。桃香もセンスひどいもん。あんた古着屋でワゴンセールの50円のTシャツとか100円のスカートとかばかり買いそう」
と優子。
 
「言えてる言えてる」
と朋子。
 
「私があんたに合いそうな、可愛い服を選んであげるからね。若い子はもっとちゃらちゃらした服を着るべき」
と優子は青葉に微笑んで言った。
 
「あんたそんな服だと30代で女を忘れつつある人か、あるいは勘違いして変な女物の服を着てるオカマにしか見えないもん。ここは18歳の女子大生に性転換してもらおう」
 
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「そういうのも性転換って言うんだっけ?」
「少なくともこの服には女らしさのカケラも無い」
「それは言えてるなあ」
「でも一応スカートだよ」
「最近は男でもスカート穿くし」
「たまに見るな」
 

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