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■春老(3)

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5分ほど歩いた時、青葉の目の前に突然何かが降ってきた。
 
何だ?何だ?
 
と思って見ると、メモ帳程度のサイズの赤い紙が落ちている。
 
へ?これどこから落ちてきたの?
 
と思ってあたりを見るものの、近くにはそのようなものがあったようなものが何も見あたらない。
 
でも何だろう?と思って青葉がその紙を拾おうとした時
 
『ダメ!』
 
と強い口調で青葉の眷属《雪娘》が警告した。
 
『これ危険なもの?』
『死にたくなかったら無視』
『え〜〜!?』
 
と言っていた時、青葉の視界に21-22歳くらいの感じの女性が入って来た。青葉は心理的に緊張したが、外見的にはまるで気づかなかったように反応した。そして先に行こうとするが、彼女は声を掛けてきた。
 
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「すみません」
と明らかに青葉に話しかけるが、青葉は黙殺して歩いていく。
 
「すみません、お願いします」
と言って彼女は青葉の前に回り込んだ。
 
それでも青葉は知らん顔して先に行く。すると彼女は再度青葉の前に回り込んだ。物凄く素早い動きである。
 
「待ってよ」
と彼女は言ってから、青葉の顔を見てから言った。
 
「あれ〜?あんた女の子?」
と彼女は言う。青葉は立ち止まったものの返事はしない。
 
「ごめーん。男の子のように思ったから声掛けちゃった。それにあんた紙に触らなかったし」
などと言っている。
 
やはりあの紙に触るのが極めて危険なことだったようである。
 
「あ、それにあんたもう死んでるんだね?」
などと彼女は青葉の匂いを嗅ぐような仕草をしてから言った。
 
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「ごめーん。死んでいる子で、女の子には用はないや。私レズの趣味は無いし。でもあんた死んでるんなら早く成仏しなよ」
 
それで彼女とは結局何も言葉を交わさないまま、青葉は先に進んだ。
 
『青葉、お葬式の時に遺灰を手に付けたでしょ?』
と《笹竹》が言う。
『そのおかげで青葉には死臭がまだ付いてる。それであいつ青葉が既に死んでいると勘違いしてくれたんだよ』
 
そういえば、私まだ四国から戻ってきたあとお風呂に入ってない!
 
昨日もハードスケジュールだったので、お風呂にも入らないまま眠ってしまったのである。
 
『それって、結果的におじいちゃんが私を守ってくれたってこと?』
『それプラス、桃香のファインプレイだな』
と《海坊主》が言った。
 
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うーん。。。さすが桃姉!
 

その時、青葉の目の端に、水泳部の部長、筒石さんが後方から来るのが目に入った。筒石さんは青葉に気づいたようで、こちらに追いつこうとしたのだが、その彼の前に赤い紙が落ちてきた。
 
驚いたようにした彼は反射的にその紙が地面に落ちる前につかんでしまった。
 
『あれ、やばいよね』
と青葉は《雪娘》に言う。
『やばい』
と《雪娘》は言う。
 
『スポーツマンの反射神経が災いしたね』
と《蜻蛉》が言っている。
 
『つまり私は反射神経が悪いってこと〜?』
『危険なものだったらいけないからすぐには手を出さない癖が付いてるんだよ』
と《笹竹》がフォローするように言った。
 
案の定、さっき青葉に声を掛けた女が筒石さんに声を掛けた。青葉は気づかない振りをして先に進みながら耳をすませる。
 
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「すみません。このあたりに大きなショッピングセンターがありませんでしたっけ?」
「降りていった所にジャスコがありますよ。何でしたら一緒に行きましょうか?」
「あ、お願いします」
 
それで筒石はその女と一緒に下り始めた。青葉はもう彼らから20mくらい先を行っていた。
 

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青葉は気になったので、《笹竹》を筒石のガードに付けた。筒石のそばにいる女は明らかに「この世にはあらざる」ものである。
 
それで自分の方は、取り敢えず100円ショップでノートとシャープペンシルの芯、それに大学に入って気分を一新しようと思い、新しいシャープペン本体やマーカーなども買う。またいつも使っているスリムガードの羽付きを1パック、イオンで買った。それを通学用のリュックに入れて学校に戻る。学食で待つ内に、まず《笹竹》がいったん戻って来て
 
『女は筒石さんと別れて帰ったよ』
と報告する。
 
『じゃ大丈夫かな?』
と青葉は半ば自問するように言うが
『いや、あれはかなりタチが悪い。これだけで済むとは思えない』
と《雪娘》は言う。
 
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『じゃ、笹ちゃん、悪いけど筒石さんに取り敢えず1週間くらい付いててあげてくれない?』
『分かった。また行ってくる。男の子のそばに付いてるのは苦手なんだけどねぇ。男の子ってすぐオナニーするでしょ?』
『まあ、それは見ぬふりして』
 
『何なら俺が付いてようか?オナニー始めたら棒をポキッと折ってやってもいいぞ』
と《海坊主》が言うが
 
『まあ折るのはいいとして、あんた不親切だから、筒石さんが殺されそうになっても放置しそう』
と青葉は言う。
 
『よく分かるな』
と《海坊主》。
『棒を折るのはかまわないわけ?』
と《蜻蛉》。
『まあ少し人生変わるかも知れないけど、いいんじゃない?』
と青葉は言った。
『根本から切り落とすのでもいいけど』
『海ちゃんにしては親切なこと言うね』
 
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そうこうする内に星衣良が学食に来る。
 
「いい本あった?」
「それがまだ学生証が無いから中に入れなかった」
「あらら」
「でも指導教官とバッタリ会って、法学類の図書室を見せてもらったよ。今日は教官の顔パスで」
「良かったね」
「目的の本ではないけど、色々おもしろそうな本が置いてあった。法学類の学生なら、自由に利用できるって」
「今度私も行ってみよう」
 

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その日は星衣良と一緒に車で坂の下の所にあるイオンまで行き、ここで美由紀たちと合流して、今日は5人で乗って帰ることになる。星衣良は下宿先から津幡駅まで自転車で来ているので、彼女を津幡駅で降ろした後、高岡まで走り、美由紀・明日香・世梨奈を自宅まで送り届けた。
 
「やはり帰りも車で帰られるのは助かる」
などと彼女たちは言っていた。
 

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土曜日は、ここまで放置状態になっていた旅の荷物を片付けたり溜まっていた洗濯をしたり、また大学でもらった分厚い資料を読んだりしている内にもう夕方になってしまった。
 
筒石さんの方は《笹竹》の報告では、この日の夕方、筒石さんは例の女に“偶然遭遇”し、10分ほど一緒に歩いて少しおしゃべりしただけで別れたらしい。今のところ筒石さんに何か危害を加える雰囲気は無いものの、いつ何が起きるか分からないと青葉は思った。少なくとも女がしばらく筒石さんに干渉を続けるつもりであることだけは確かである。
 
日曜日も色々と溜まっている物事を片付けようとしていたら、高校時代の合唱軽音部の同輩・美滝から電話が掛かってくる。
 
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「青葉今日は暇?」
「えっと、今の所予定は入ってないけど」
「じゃさ、ちょっと金沢まで付き合ってくれない?」
「いいけど、何があるの?」
「知らない?『スター発掘し隊』って先週始まったテレビ番組で女性歌手オーディションをやるんだよ。それに出ようと思ってさ」
 
「へー。そんなの金沢でやるんだ?」
「全国26ヶ所でビデオ録画方式でオーディションして、優秀な人は東京に呼ばれてステージオーディションに参加」
 
「それって全国26ヶ所もやるんなら、そこで1位かそれに同点くらいの成績でないと東京には行けないんじゃない?」
 
「だと思う。だから金沢大会で優勝すればいいんだよ」
「お、積極的だね」
 

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ただ彼女が言うには、オーディションなんて受けるの初めてで不安だから、青葉に付いてきてくれないかという話であった。
 
「じゃ車も出すよ。送ってってあげるよ」
「助かる!」
 
それで8号線沿いの、高岡の道の駅で待ち合わせた上で、青葉は美滝を乗せて金沢に向かった。
 
「でもそういうオーディションって高校生くらいが対象じゃないの?」
「14歳以上と書いてあったから、14歳以上なら20歳でも30歳でもいいと思う」
「うーん。さすがに30歳は合格させてもらえないと思うよ」
 
香林坊の裏手の駐車場に駐める。それで会場の方に向かおうとしていた時、向こうから中学生っぽい女の子が歩いてくる。
 
青葉たちが「でもオーディションってどういうことするの?」「3分間の持ち時間の中で何してもいいんだって」などと言いながら歩いていて、彼女とすれ違いそうになった時、唐突に彼女が訊いてきた。
 
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「あのお、もしかしてスター発掘し隊のオーディションに出る方ですか?」
「ええ、そうですけど」
 
「会場のきらりビルってこっちですよね?」
と言って彼女は武蔵方面を指さす。
 
「きららビルね。こっちだよ」
と美滝は反対方向を指さした。
 
「きゃー!危なかった。私、方向音痴なんですよ」
「ああ。方向音痴の人って、わざわざ逆向きに歩きがち」
「一緒に行こうか」
「済みません! お願いします」
 

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「あ、私は美滝」
「私は青葉」
「私は八島(やまと)です」
 
「へー。やまとちゃんか。中学生?」
「はい、中学3年です。みたきさんは高校生ですか?」
「あ、私は大学1年生」
「へー。まだ高校生に見える。青葉さんはその・・・お母さん?」
 
美滝が吹き出した。
 
今日青葉はドライバー役だけだからと思い、その付近に干してあったTシャツを着てきている。それでやまとの目には結構高い年齢に見えたようである。
 
「えっと私も大学1年生」
「うっそー!? 若いお母さんだなあとばかり。あ、ごめんなさい」
 
「ああいいよ、いいよ。この子はみんなから老けて見えると言われてるから」
などと美滝は言っている。
 
「でもマジで青葉はそのファッション改善した方がいい。その服は50代のおばちゃんが着るような服」
 
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「こないだそう言われて、大量にちゃらちゃらした服を買った」
「それ着てくれば良かったのに」
「だって今日はドライバーと付き添い役だけと思ったんだもん」
 

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会場の片町きらら(旧ラブロ片町)の特設エリアで登録する。これは番組でオーディションのことが発表されて間もないので、事前に応募する形ではなく、誰でもその日に来てその場で登録すればいいことになっていた。
 
美滝たちが並んでいたら、その少し後から吉田君がやってきた。
 
「吉田、何しに来たの?」
と美滝が尋ねる。
 
「何かオーディションがあるというから来てみた」
「今日のオーディションは女性歌手オーディションなんだけど」
「え?男はダメ?」
「うーん。性転換すればいいかもね」
 
「登録するのに戸籍謄本とか特に必要ないし、登録だけしてみる?」
 
「そうだ。俺、なんか大学に女で登録されてるみたいでさ」
「それ変だよ。だって健康診断の時、男性は午後からと言われてたじゃん」
「でもあの時、よく考えたら係の人、別にモニターとか見ずに俺だけを見て、そう言ったんだよな。だから実は最初から女として登録されていたのかもしれん」
 
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「もしかしたら女子として合格していたのかもね。だから今更男子ですと申告したら不合格になったりして」
「え〜〜〜!?」
「ここはいっそもう女子学生になっちゃおうよ。女の子の服を選ぶの協力してあげようか?」
「うーん。。。。女装はハマったら怖いからやめとく」
「お化粧は楽しいよ」
「うーん。。。興味が無いと言えば嘘になる」
「じゃ思い切って女の子になっちゃおうよ」
「そういうあまり迷うようなこと言わないでくれ」
 
「でもそれ早めに学生課で相談した方がいいよ。月曜日にも行ってみなよ」
と青葉は言う。
 
「そうしようかな」
「吉田の学生証、性別女と印刷されてたりしてね」
「え〜?・・・・マジでどうしよう?」
 
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取り敢えず吉田君はそれで帰って行ったが、やまとは話を半分くらいしか聞いていないようで
「あの人、女の人なんですか?」
などと尋ねていた。
 
「女の子になりたい男の子なのかもね」
「ああ、最近そういう人多いですよね〜。私のお兄ちゃんもちょっと怪しい気がしていて」
「ほほお」
「そういうお兄ちゃんは積極的に女装を唆すといいんだよ」
「そういうもんですか?」
「そしたらきっと5年後には立派なお姉ちゃんになってるよ」
 
「お姉ちゃんって欲しいような気もするなあ」
 

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