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■春老(11)

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翌24日。早朝、春吉社長から電話が掛かってきた。
 
「先日の悪魔の歌の件で、ちょっと見てもらいたいものがあるんだ。突然で申し訳ないのだけど、ちょっと東京に出てきてもらえないだろうか?」
「はい」
 
それで青葉は水泳部の件も気になるものの、朝1番の新幹線(富山618-832東京)で東京に出た。
 
東京駅に春吉社長とターモン舞鶴さんが来ている。車で向かった先は先日訪問した大堀前副社長の自宅である。
 
「早朝から済みません」
「いえこちらこそ済みません」
 
と言って、青葉たちを案内してくれたのは故人の長女・浮見子さんである。浮見子さんはなぜか学生服を着て男装している。青葉は男装している理由が気になったが、事件とはたぶん関係無いと思うので、気にしないことにした。
 
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「これを見てください」
と言って浮見子さんが見せてくれたのは先日、青葉が問題の譜面とSDカードを発見したSR楽譜集である。
 
「この裏表紙の所なんですが」
「え!?」
 
この楽譜集の裏表紙は二重になっており、その間に問題の譜面とSDカードが入っていた。それは先週青葉が瞬法さんと一緒にお焚き上げしたはずである。ところが・・・・
 
「また入ってますね」
と青葉。
「ですよね?」
と浮見子さん。
「これどういうことだろう」
と春吉社長。
 

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青葉は首を振った。
 
「戻って来たんでしょうね。お焚き上げ程度じゃダメってことですね」
「そういうことってあるの?」
 
「もう30年くらい前ですけど、兄弟子が関わった案件で似たような出来事がありました。それは魔術の本だったのですが、捨てても捨てても、いつの間にか本棚に戻っているというんですよ」
 
「うーん・・・・」
 
「恐らくですね。大堀副社長が亡くなる直前に焼却したのも、コピーではなくこのSDカードの原本だったのではないかと思います。もしかしたら譜面も一緒に焼却したのかも。ところが焼却してもここに戻って来ちゃったんですよ」
 
「うむむ」
 
「そもそもこの譜面って、長浜さんが処分したとおっしゃってましたよね」
「うん」
「でも処分しても、いつの間にか復活してたんですよ」
 
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「なんてことだ」
 
「この楽譜集、必要ですか?」
「いや要らない。ここに綴じられている譜面は全部どこかにデータがある」
 
「でしたら私にこの楽譜集自体を私に預けて下さい。別の方法で処分します」
「どうするの?」
 
「焼却したら戻って来るので焼却せずに単純封印します。ある場所に、この手のものを永久封印することのできる所があります。普通の人では近づけないし、辿り着いたら今度は脱出ができなくなるという場所です。そこにこれを納めてきます」
 
「なんか凄そうな所だね」
 
「それで万一その処分が失敗したらこの楽譜集はここに戻って来ると思います。浮見子さん、もしよければ当面週に1回、その後は月に1回くらいでもいいので、気を付けておいていただけませんか?知らない人がうっかり見てしまうと危険なので」
 
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「分かりました。時々チェックするようにします」
と男装の浮見子さんは凜々しい感じで答えた。
 

青葉はその楽譜をシールド用の特殊加工した保冷バッグに入れると、それを持って東京駅まで送ってもらい、東海道新幹線に飛び乗った。
 
京都駅で降りると駅前のレンタカー屋さんで車を借り、高野山の★★院まで走った。
 
「また何か変なものを持って来たな」
と瞬醒さんが言った。
 
「封印の場所に持っていきます」
「醒練、付いていってあげて」
「はい!」
 
青葉は★★院の40代の修行僧と一緒に山道を2時間ほど歩いて、その場所に到達する。
 
「何ですか?ここ?」
「凄い場所でしょ?」
と言って青葉は自分と彼をロープでつないでから「時空の地平」を越える。
 
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「何も見えません!」
と醒練が言っている。
 
「私とロープでつながっている限りは大丈夫ですから」
「はい」
 
中心点に到達する。青葉は醒練と一緒に般若心経を唱えながら楽譜集のファイルを中に投入した。
 

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作業が終わってから、その場を離れる。「時空の地平」からこちらの世界に戻ると、
 
「あ、やっと瞬葉さんが見えるようになった」
と言う。
 
「でも醒練さん、中でもちゃんと私と会話できてましたでしょう?」
「あ、はい?」
 
「それだけ醒練さんの力があるということです。ふつうの人なら、声も聞こえなくなりますよ」
「ひゃー!」
 
また2時間書けて★★院まで戻ったが、醒練さんは
「マラソン10回くらい走った気分」
と言い
「じゃマラソン10回走ってみるか?」
と師匠から言われて慌てて
「今年の夏の回峰に参加しますから勘弁してください」
と言っていた。
 

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青葉は明日は大学の講義があるので帰りたかったが、瞬醒さんが、疲れた身体で車を運転したら事故起こすから少し休んで行きなさいと言う。確かにこの手のものに関わった時は「呼ばれやすい」ことを青葉も考え、休ませてもらうことにした。食事も頂いた上で仮眠する。
 
そして午前3時に★★院を出て京都市までレンタカーで戻った。京都市内に以前★★院にいた醒環あらため瞬環さんが住職をしている寺があり、そこに行ってレンタカーの返却作業をお願いする。そして青葉自身は朝6時のビジネス・サンダーバードに乗って金沢まで戻り、そのまま大学に出た。1時間目の講義には間に合わないものの、2時間目からは出席することができた。
 

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その日の放課後、青葉は今回の一連の事件について考えながら構内を散策していた。プールや教室などを見て回る。キャンパス内の池のそばをゆっくりとした歩調で歩く。やがて歩くのをやめ、じっと池の中の蓮を眺める。
 
青葉がそこで5分も佇んでいた時、
「君、死んではいけない!」
と言って、男性が青葉を後ろから抱きしめるようにした。
 
へ!?
 
「あのお、私考え事してただけです。死んだりはしません」
 
と言って男性の腕を振り解きながら振り返ると、民法学の中川教授である。
 
「中川教授!」
「あ、君は川上青葉君だったっけ?」
「はい、覚えて頂いていて光栄です。そもそもこんな池に飛び込んでも死ねないと思いますよ」
 
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「あ、そうかな。実は昔担当していた学生が自殺してしまったことがあってね。それが僕にもトラウマになっているんだよ。僕も若かったし」
 
と中川教授は言う。自殺は本人にとってはそれで全てを終わらせることかも知れないが、周囲の人には一生その心の傷が残るのである。
 
先生でさえこのようにずっと悩んでいる。マソさんやジャネさんの家族などはさぞかし辛い思いをしているのではと青葉は思った。
 
「教授がまだ若かった頃というと、30年くらい前ですか?」
「うん。もうそんなになるかな。彼女水泳をしていてね。日本代表候補になるくらい優秀な子だったんだよ。だから法学部には在籍していても、弁護士とかは目指さずに水泳の道を進むんだろうなと僕は思っていた」
 
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青葉はドキっとした。
 
それって・・・まさかマソさんのことでは?
 
「どうして亡くなったんですか?」
 
「彼女亡くなる少し前に交通事故に遭ってね」
「あら」
 
「その事故のせいで右足の足首から先を切断してしまったんだよ」
「わあ」
 
「それでもちろん日本代表の道は閉ざされてしまったし、そもそも水泳自体続けられないかもなんて言っていた。足以外にもあちこち身体を痛めたみたいでさ」
 
「ああ、それはスポーツ選手にとっては死ぬより辛いですよ」
 
「だと思う。彼女は強い選手だったし、物凄い美人だったからキャンパスでも人気でね。いつも男の子たちの注目の的だった」
 
へ!?
 
「言い寄る男の数が10や20じゃなかったよ。だから事故に遭って、選手生命は絶たれても『絶望しないでね』『足なんか無くたってフィンを付けたら泳げるじゃん』『足くらいなくてもいいから僕と結婚してよ』って、毎日病院に大量の男の子が詰めかけてさ。病院の先生が、あんたらうるさい!他の患者に迷惑だって怒るくらいで。彼女も結構笑顔で。だから案外早く立ち直って今度はパラリンピックとか目指すのではと思っていたんだよ」
 
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そんな話・・・一昨日聞いた話とは全然違うぞ!!
 
「ところがそんな感じで1ヶ月くらい経った時に、彼女は突然病院の窓から飛び降りて死んでしまったんだよ。彼女に憧れていた男の子たちが泣いて泣いて。なんで死んじゃったんだよ。マソの馬鹿!って。あ、その子、マソちゃんと言ってね」
 
「はい」
 
「もうお葬式は凄い騒ぎだったよ。ご両親も娘が死んでしまったのはショックだったものの、大勢のボーイフレンドたちに囲まれて賑やかなお葬式で、つい笑顔を見せたりしていた。彼女、歌も好きで水泳しないなら歌手になってもいいくらい上手かったからね。もうお葬式がカラオケ大会になっちゃって」
 
「凄いですね」
 
そういえば和彦じいさんの葬式も自分たちが出た後、カラオケ大会と化したと桃姉が言ってたなと青葉は思った。
 
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「一周忌の時も三周忌の時も、たくさんの元ボーイフレンドたちが集結してまたまた凄い騒ぎだったよ」
 

青葉は中川教授の話を聞いて、自分がとんでもない思い違いをしていたことに気づいた。
 
人の話って、ひとりからだけ聞いたらダメなんだなと思った。
 
おそらく・・・・マソは大学で見せていた顔と、スイミングクラブで見せていた顔がまるで違っていたんだ。サトギ君というのは彼女の唯一のボーイフレンドでは無かった。単なるワンオブゼムだった。
 
青葉は学食のテーブルの所に座り、リュックのサブポケットから愛用のタロットを取り出す。
 
1枚引いた。
 
太陽のカードである。
 
この子は自殺したりするような子ではない。
 
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青葉はそう確信した。
 
ということは・・・・
 
青葉はそこで恐るべき結論に達した。
 
そしてこの事件の本当の犯人が分かってしまった。
 

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その夜、青葉が今回の犯人に対する対処を考えていた時、水泳部の圭織さんから電話が掛かってきた。
 
「こんばんは。青葉です」
「こんばんは。こないだ青葉ちゃんと話した女の子と出会ってから死ぬまでの期間なんだけどね」
 
「はい」
「改めて自分でツイッターの検索して、ひとりひとりについて確認して行ったのよ。それで結論。最初に死んだ木倒さんと海に落ちて死んだ**さん以外の3人の男子は、全員女の子と出会ったような示唆をしたちょうど20日後に亡くなっていることを確認した」
 
「20日後ですか」
「でもそういう示唆した日って、その彼女に会った翌日だと思うんだよね」
「あ、そうですよね」
「だから全員、怪しい女と出会った21日後に亡くなっていることになる。木倒さんだけがハッキリしない。1ヶ月近く経ってるとは思うんだけど。それから**さんはよくよく見たら、会っていたのは男の子の友達だった」
 
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「あら、そちらですか」
「うん。ホモなのかなとも思ったけどメッセージ見る限りは普通の友達みたい。その男の子とは、模型作りの趣味が一致して交友していたようね。その子がお葬式にも出て悲しいよぉとか書き込んでいるから、この人は今回の事件とは無関係かも」
 
「なるほどー」
「偶然同じ時期になったんだろうね」
 
「じゃその人は除外して考えましょう。ありがとうございます!」
「役に立つ?」
「大いに役に立ちます」
 
これで筒石さんを守るべき日が明確になった。
 
最初のひとりは何かイレギュラーなことがあったのかも知れない。それ以降が21日後で定まっているなら今回も21日後だろう。筒石さんは4月11日に女と出会っているから、殺(や)られるのは21日後の5月2日ということになる。
 
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青葉は千里に電話をした。
 
「ちー姉。合宿中で悪いんだけど、パワーを貸して欲しい」
「何するの?」
「ちょっと幽霊と戦うのに、私だけのパワーでは足りないおそれがあって。失敗すると人を死なせてしまうから」
 
「ああ。何か大変そうな案件を抱えているなとは思ったけどね。いつ?」
「5月2日なんだよ。でも時刻は分からない。0時から24時まで警戒する必要がある」
 
「大変ね〜。青葉、じゃその日は0時から24時まで起きているつもり?」
 
「過去の被害者の死亡時刻がバラバラなんだよね。それで時刻までは絞りきれないんだ」
 
「まあ命に関わることなら仕方無いね。その日は試合が無いし。遠慮無く使って」
「ごめんねー」
 
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