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■春老(12)

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筒石さんのガードは笹竹ひとりだけでは大変なので、紅娘や小紫とも交代させて常時警戒をしていた。
 
4月27日。この日青葉は午後、中川教授の講義を受けていたのだが、講義が終わった後、教授が青葉を呼んだ。
 
「こないだ君が聞いていたマソちゃんの件だけどね。当時の彼女のボーイフレンドのひとりとちょうど連絡が取れたんだよ。何なら話を聞いてみる?」
 
「はい、聞きたいです。よろしくお願いします」
 
それで青葉はそのあとアクアに教授を乗せて、金沢市内のレストランに行った。その人はそのレストランのオーナーシェフをしていて、ちょうどお昼の営業時間が終わり、夕方以降の営業時間の前で、時間が取れるということであった。
 
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彼の話はおおむね教授の話を確認するような内容であった。彼はマソのボーイフレンドは20人くらい居たと言っていた。
 
「練習のあと、彼女を家まで送っていくのを『マソ親衛隊』の中から2名決めて回してたから」
「凄いですね。2名にするのは安全のためですか?」
「そうそう。1人だと抜け駆けしようとする奴が出るかも知れないし、乱暴なことしようとする奴が出てもいけないし」
 
「なるほどー」
 
「そのボーイフレンドの中にサトギさんっていませんでした?」
「サトギ? うーん。知らないなあ。親衛隊以外にもファンは多かったから、その中の誰かかもね」
 
彼の話から、青葉はやはりサトギはマソにはほとんど問題にされていなかったのではと想像した。
 
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「マソさんのご家族については、何かご存じですか?」
「お姉さんがいましたよ。お姉さんも水泳選手だったんですが、マソほどでは無かったんですよ。国体には姉妹で出てますけど」
「へー。でも国体に出られるレベルなら、やはり凄かったんですね」
 
「しかしあそこの家庭も屈折してるなと思ったんですけどね」
「はい?」
「事故のあとでお母さんが、どうせ交通事故に遭うなら、姉の方が遭えばよかったのにって」
「それは酷い」
 
「姉妹でどうも微妙な感情的な軋轢があった気もします。妹のマソの方は気にしてなくて、むしろいつもお姉さんを立てていたんですけど、お姉さんはどうしても妹がいつもちやほやされるし、実力では全然かなわないしで、気持ちとしては複雑なものがあったんじゃないでしょうか」
 
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「ああ。妹や弟が優秀だとお姉ちゃんは辛いですよね」
 

そのレストランのオーナーさんの紹介で、あと2人市内に住んでいるマソの元ボーイフレンドに会うことができた。その3人は特に仲が良くて、30年経っても時々会っているらしい。
 
そしてその日最後に会った人がサトギのことを覚えていた。
 
「サトギ、いたよ。ちょっと気の弱そうな奴で。マソは問題にしてなかったけど、変なこともしそうにないというので、安全パイと思われて、色々雑用に使われてたかな。当時のことばで言うと、メッシーとかアッシーとかそんな感じ」
 
どうもスナックのオーナーのお父さんの話とは随分違うようだ。あの人は一部だけを見ていたので誤解していたのだろうか。
 
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「マソの葬式には来てたけど、一周忌の時は見なかったから、本人としてもそんなに熱心じゃなかったんじゃないかね」
 
と今日会った人は言っていた。
 
まあ、その時は死んでいるから、来ようにも来られないよね。
 
「だいたい、そいつ他にも彼女いるみたいだったし」
 
何〜〜〜〜!?
 
それだと何か最初聞いた話とまるっきり違うじゃん!!!
 
「まあ、あれだけマソから男扱いされてなかったら、他の女に目移りしても仕方無いかもね。それか男扱いされないから、もう男辞めちゃってたりしてね」
などと彼は笑っていた。
 
しかし青葉はこの一連の聞き取りで、事件の性質がかなり分かってきた。そして最初の頃「悲恋事件」のことを聞いて回っていた時に、マソとサトギの事件が探索に引っかからなかった理由(わけ)も分かった。多くの人が、これを悲恋事件とは捉えてなかったからだ! 悲恋事件と認識していたのはサトギ周辺や一部のスイミングクラブ関係者のみだったのだろう。
 
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「そういえばマソって珍しい名前だと思うんですが、どういう字を書くんでしたっけ?」
と帰りの車の中で青葉は教授に尋ねた。
 
「それがね、漢数字で十二六と書くんだよ」
「どうしてそれでマソと読むんです?」
 
青葉は本人を前にすればたいていの名前の読み方は分かるが、本人がおらず名前の字だけを見たのでは読めない。
 
「マソというのはマラソンの略らしい。マラソンの距離は42.195kmだけど、それを尺貫法に直した時に十里二十六町なんだって。ご両親は陸上選手だったんだけど、娘は姉妹とも水泳選手になったとか言ってた。お姉さんは一二三と書いて『ほっぷ』と読む」
 
「へー!」
 
青葉は大学で中川教授を降ろした後、変換ソフトを使って計算してみたが、42.195kmは十里二十六町四十七間一尺五寸になることが分かった。その上の方だけ取って、十二六なのだろう。
 
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5月1日になる。その日は早めに寝て、22時に目を覚ました。
 
朋子のヴィッツを借りて深夜の8号線を運転し、野々市市内の筒石さんの自宅近くまで行った。
 
いつものアクアでは目立ち過ぎるのである。5月2日は朋子にアクアを使ってもらう。朋子は「この車で会社に行くの?」と嫌そうな顔をしていた。
 
「お母ちゃんも若返ったねと言われるかも」
「うーん。私も恋愛しちゃおうかな」
「いいと思うよー」
 
ヴィッツには食料・飲料と簡易トイレも積んでいて、一切その場を離れなくてもいいようにしておいた。
 
なお、5月2日は本来は講義のある日だが、美由紀は「2日?私のカレンダーでは休み」と言っていたし、世梨奈は実は美津穂や他2名の合唱軽音部の後輩とともに、ローズ+リリーのツアーに4月28日から行っていた。5月8日までツアーと一緒に行動した後、5月14-15, 21-22日にも行ってきてくれる。
 
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そして明日香はゴールデンウィーク前の4月23日から自動車学校の合宿に入っている(彼女は連休が明けても免許を取得するまで大学を休むつもりらしい)。星衣良も連休中は両親と一緒に新潟の母の実家に帰省すると言っていた。
 

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この日、夜間の間はいつもの笹竹ではなく、もう少し戦闘能力のある(=青葉のパワーも消費する)蜻蛉を筒石さんのそばには付けていた。
 
青葉自身は神経を7割くらい眠らせて消耗を押さえつつ、何かあったらすぐ対処できるようにした。
 
朝が来る。ここまでは何も起きなかった。筒石さんが出かける。蜻蛉と交代した小紫に付いて行かせ、青葉は少し離れた距離からゆっくりとヴィッツを進行させた。
 
やがて彼は金沢市郊外のあまり知られていない公園に来た。人待ち顔である。ここで女と会うのだろうか。
 

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やがてある気配に、青葉は緊張した。車のドアをそっと開けて車外に出た。キーは外して持つものの音を立てないようにドアは寸止めにする。
 
筒石さんが立ち上がって手を振る。例の女がやってくる。そっと1枚の写真を取り出し、あらためて女を見る。やはりマソだ。この写真はマソの元ボーイフレンドのひとりが持っていたものをコピーさせてもらったものである。
 
その時初めて青葉は気づいた。彼女が右足を引きずるような感じで歩いていることに。右足が不自由なので、ああいう歩き方になるのだろう。そのことに筒石さんは気づいていないようだ。
 
青葉は《雪娘》と《海坊主》をふたりの至近まで近寄らせて警戒させた。
 
眷属の中ではこの2人がいちばん戦闘能力があるのである。
 
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突然女と筒石さんの前に、男が出現した。青葉は急いでふたりの所に駆け寄る。男は言った。
 
「マソは僕のものだ。マソをたぶらかそうとする奴はこうしてやる」
 
男が大きな金棒を出して振り上げる。
 
『海坊主!』
と青葉が叫ぶ。
 
《海坊主》が筒石さんをかばいながら、その男を殴ろうとした。
 
が、この時思いも寄らぬことが起きた。
 
筒石さんが《海坊主》を押しのけて、男に強烈な回し蹴りを食らわせたのである!
 

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水泳選手のキックである。筒石さんはインカレにも国体にも出ている選手だ。
 
男が向こうに吹き飛ぶ。金棒が転がる。《海坊主》が呆気に取られている。
 
「何だこいつ? 通り魔か?警察を呼ぼう」
と言って筒石さんがスマホを取り出す。
 
(筒石さんに海坊主や雪娘は見えない)
 
そして彼が110番しようとした時、そばに寄っていたマソが後ろ手に小刀を取り出すのを見た。マソが筒石さんの背中を刺そうとする。
 
《雪娘!》
と青葉が叫ぶが、《雪娘》はその前にもうそれに気づいていた。
 
自分の剣を抜くと、マソの後ろで、彼女の身体と平行に剣を振り下ろした。
 
ブツッと何かが切れたような音がした。
 
マソが小刀を落とす。
 
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その時、やっとその場に辿り着いた青葉は、《雪娘》と同様、自分も『秘密兵器』の剣を抜くと、筒石を襲った男の背後で剣を振り下ろす。こちらもブツッという音がした。
 
『青葉、気を付けろ!本体が出てくる』
と《海坊主》が言う。
 
『うん』
 
既にマソの背後に居た何か大きなものが動き始めていた。《雪娘》が剣を持ったまま戦い始める。
 
青葉も男の背後に居たものと戦い始める。
 
『青葉、こちらは俺に任せろ。雪娘を助けろ』
と《海坊主》が言うので、青葉はそちらは任せて、《雪娘》と一緒にマソの背後に居たものと戦い始めた。
 

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マソも男(おそらくサトギ)も何か大きな霊団のようなものに操られていたのである。青葉と《雪娘》が切ったのは、その霊団が使っていた『操り糸』である。もっともマソは単に巻き込まれただけだが、サトギは本人もかなり凶悪だ。
 
筒石さんは突然始まったチャンバラ?を見て、警察に電話するのも忘れて呆気に取られている。マソは霊団とのつながりが切れると、小刀を落としたまま「あれ〜?」という感じで首をかしげている。
 

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この事件の主犯はサトギである。
 
浮気性でたくさんボーイフレンドがいないと気が済まないマソは水泳をしている良い男を見つけるとすぐ誘う。そしてそれに嫉妬したサトギがマソとデートしている男を殺すのだ。
 
青葉はひょっとしたらマソさんが死んだのも、実は自殺ではなく、サトギが殺したのではと想像していた。おそらくはプロポーズして断られたのに怒り、自分でマソを病室から突き落としておいて、あたかも自分が入って来たら彼女が転落していたかのように装ったのではと。もう30年も経ってしまうと真相は分からないだろうが。
 
青葉は今回の一連の事件の中で、最初に死んだ2人、木倒さんとジャネさんだけは性質が違う気がした。他の3人がマソと出会って21日後に亡くなっているのに、木倒さんは「恋人ができて約1ヶ月後」、ジャネさんは事故死ではなく自殺である。
 
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おそらくはジャネさんが亡くなった状況とマソさんが亡くなった状況が似ていたので、それに刺激されて古い霊的な念が再起動してしまったのだろう。
 
それにしても・・・
 
と青葉は戦いながら思う。
 
筒石さんは一発で相手を蹴り倒した。おそらくサトギは30年前にもマソに言い寄っていた男たちにちょっかいを出そうとしたものの、みんな返り討ちにあっていたのではなかろうか。中川教授や数人のマソの元BFと話した中でも、その事件の直後に他に死人は出ていないようなのである。そして、今回の事件で筒石さんもサトギを倒した。前に死んだ3人は、喧嘩があまり強くなかったのかも知れない。
 

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■簡易年表(暫定1版)
1969.4.27 サトギ生まれる (牡牛座。金星逆行中 ボイド中)
1969.12.6 マソ生まれる(射手座。牡牛座とは不幸になりやすい組合せ)
1988.06 マソ(18歳.大1)が事故に遭い、足の先を切断
1988.08 マソが転落して死亡。
2008.10 ステラジオ結成(高校3年)
2009.08 ホシがLSDにはまる。3ヶ月(10-12)入院して薬を抜く。
2010.01 ホシたちがメーン長浜と知り合う
2010.07 スナック店主がDSを演奏して死亡。その後長浜が自分で1千万調達して遺族に補償金を払う。
2011.02 メーン長浜が北陸道で運転中に死亡。
2011.06 ステラジオ・デビュー
2014.12 幡山ジャネが事故で足の先を失う
2015.01 キャッスル舞鶴が自宅マンションで死亡。
2015.01 木倒部長が鉄骨の下敷きになり死亡
2015.07 多縞部長が一酸化炭素中毒で死亡
2015.11 **が白血病で死亡
2016.03 溝潟部長が感電死
2016.03 ピュア大堀が公演先で膵臓癌により死亡。SDカードを焼き捨てる
 
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