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■春老(6)

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「だいぶ分かってきました。これ私何とかします」
「本当に?」
 
実際問題として何とかしないと青葉も危険なのである。もっとも今いちばん危険な状態にあるのは筒石だ。
 
筒石が赤い紙に触り、あの女と会ったのは11日月曜日である。今までのケースではだいたい女と会ってから3週間後に不慮の死を遂げている。
 
ということは、5月2日くらいが危ない。ただ「3週間」というのは圭織の記憶の中での日数である。多少前後する可能性はある。すると4月29日〜5月5日くらいは危険日と考えて警戒を最大にする必要がある。
 
私の今年のゴールデンウィークはこれでつぶれるのか!!
 

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この日遅く青葉が自宅で勉強していたら電話が掛かってきた。
 
見ると、秋風コスモスである。
 
「おはようございます」
「おはようございます」
と挨拶を交わした後、コスモスは尋ねた。
 
「今、大宮先生、お時間とか取れますでしょうか?」
 
「あ、えっと・・・。ちょっと面倒な案件を複数抱えていて」
「どこかの曲作りですか?」
「いえ、霊的な相談事の方なんですよ」
 
「ああ、そちらですか!」
「ちょっと人の生き死にに関わることで、しばらく臨戦態勢という感じです」
「大変そうですね」
 
「それとちょっと大学の授業が始まる所で、そちらの準備にも時間を取られてまして」
「部活とかは入られたんですか?」
 
「あ、えっと水泳部に」
「ああ!大宮先生、インターハイで入賞したんでしたよね?」
「そうですね。まああの時は競争相手が少なかったから、まぐれですけど」
「大学でもインターハイみたいな大会とかあるんですか?」
 
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「大学だとインターカレッジ、略してインカレと言いますね」
「へー」
「確か7月頃、中部予選があって、9月が本番だったと思います」
「なるほど」
「あとそれと、インカレの前、8月には全国公というのもあるんですよ」
「ぜんこっこう??」
「全国国公立大学水泳選手権だったかな。そんな感じの名前で」
「へー」
「それの予選はインカレの予選より少し前にあるはずです」
「なるほど」
 
実は青葉も一度聞いただけなので、かなり不確かなのである。そんなのに出てと言われる前に、早々に逃げ出そうと思っていたのに、変な事件に巻き込まれてしまって、これを解決するまでは辞めるに辞められない状況になってしまった。
 
「じゃ、今アクアの楽曲を書く余裕は無いですかね?」
 
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あ、その依頼だったのか!
 
「あ、済みません。今抱えている案件が片付けば何とかなるんですが」
「分かりました。ではまた夏過ぎくらいに話が出てくると思いますので、その頃またお願いできますか?」
「はい、それまでには何とかします」
 
それまでどころか、あと半月以内くらいに何とかしないと筒石さんが死んでしまう可能性がある。
 
「分かりました。お忙しい所失礼しました。またよろしくお願いします」
「はい、またよろしくお願いします」
 

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コスモスとの電話を切ってから、青葉は大きく息をついた。
 
しかしあの女が鍵を持っているのは確かだが、なぜ女は付き合った男を殺してしまうのだろうか。そのあたりの原因を突き止めないと、この案件は解決できないぞと青葉は思った。
 

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青葉はこの週、慌ただしく会社設立の準備を進める傍ら、水泳部の先輩たちや顧問の先生と話しをしたり、また友人たちの人脈を頼ってK大学のOB/OG、あるいは近隣の大学の水泳部のOB/OGの人たちと接触し、K大学の水泳部に関わる1980年代頃に「悲恋」事件が無かったかというのを聞いて回った。
 
青葉はこれはおそらくかなり古い時代の悲恋が発端になっているのではという気がしたのである。
 
しかしそういう訳でこの週青葉は、アナウンススクールも新学期早々欠席したし、講義もだいぶサボってしまった(代返のききそうなのは星衣良が代返してくれていたようである)。むろん水泳部の練習自体には1度も出てない!
 

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15日(金)の夕方。青葉はステラジオの件の話を聞くため、東京に向かう新幹線に乗った。
 
今回の東京行きに関しては、依頼の性質上、誰にも東京に行くことを言わないことにした。桃香から尋ねられても、金沢に行っているくらいで言っておいてと母にも頼んだ。万一桃香から冬子にバレるとまずいのである。
 
千里なら守秘義務を守ってくれるだろうが、桃香はそのあたりが怪しい。しかも親友の冬子になら、うっかり話してしまうかも知れない。
 
新宿の京王プラザホテルに泊まる。青葉もだいぶこういう高級ホテルに泊まるのにも慣れてきた。以前はふかふかすぎるベッドでは安眠できなかったので、わざわざ床に寝たりしていた。
 
翌日朝9時半に八雲さんが迎えに来てくれたので一緒にホテルを出る。
 
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「八雲さん、わざわざ男装しなくても、普段通り女装でいいのに」
と青葉は言ってみる。
 
「いや、私は一応男として会社に勤めているので仕事上は基本的に男装で」
「それ無理がある気がするけどなあ」
「北川にも氷川にもそんなこと言われてる」
 
八雲さんは青葉の前では女声で話している。彼女は普段の勤務中は男声で話していることが多いものの、女声の練習をできるだけしたいので、性別がバレている人の前では女声を使うようにしているらしい。
 
ホテルから歩いて15分ほどで、ステラジオや立山みるく等が所属するΘΘプロに到達する。ビルの前でレコード会社側の現在のステラジオ担当住吉さんと合流するが、八雲さんは住吉さんに会ったとたん男声に切り替えたので、青葉は思わず吹き出した。住吉さんが不思議そうな顔で見ている。取り敢えず3人で一緒に2階の事務所に入った。
 
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「ようこそいらっしゃいました」
と社長のシアター春吉さんが笑顔で握手をしてくれた。
 
「川上さんの数々の武勇伝を聞きましたよ。竹田宗聖さんとか中村晃湖さんが一目置いておられるとか」
とシアターさんは言っている。
 
おそらくこちらの名前を聞いてから即調べたのだろう。大したものである。
 
シアター春吉社長、妹のサニー春吉常務、そして副社長の急逝で補充の取締役として数日前に任命されたというターモン舞鶴取締役が名刺を出す。こちらは《心霊相談師・川上瞬葉》の名刺を出した。
 
「この瞬の文字を使える人は、長谷川一門の中でもごく少数だそうですね」
と社長。
「はい、そうです。全部で20人もいません」
と青葉は答える。しかし長谷川一門という名前まで調べ上げたのか!この人の調査能力は凄いなと青葉は思った。一般の人にはほとんど知られていない名前である。
 
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「ターモン舞鶴さんって、もしかしてキャッスル舞鶴さんの?」
「はい、妹です。今回のお話聞いて、姉の本当の死因が分かったら、私もここ1年ほどもやもやしていたものが晴れると思って」
 
「そのあたりはお話を聞いてみないと分かりませんけどね」
と青葉は言っておく。
 
青葉はまずはそれぞれの人の亡くなった時の状況を尋ねた。
 
「長浜はその日仕事で出張してましてね。自分の車で行ったのですが、北陸道の非常駐車帯に駐めた車の中で亡くなっていたんですよ。駐車帯に停まっている車があることに気付いた警察高速隊のパトカーが寄せてみたら、運転席で倒れていたそうです。エンジンは掛けっぱなしだったのを警官が停めたらしいのですが、呼吸も脈拍も無いので、すぐに病院に運んだものの死亡が確認されました」
 
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「死因は睡眠時無呼吸症候群とおっしゃいました?」
「ええ。おそらくは疲れてちょっと休もうと思って駐車帯に駐めて仮眠している内に呼吸が停まって死んだのではないかと」
 

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「なるほど」
と言ってから青葉は何気なく尋ねた。
 
「車の窓は開いてましたか?」
 
「うーん・・・・」
と言って社長は悩んでいるが
「済みません。分かりません」
と答える。
 
5年も前のことでは分からなくても無理は無いだろう。警察の調書を見させてもらったとしても、そこまで書かれているかどうかは怪しい。病死として処理されているので、そもそも調書が作られたかどうかも怪しい。
 
「亡くなった場所はどのあたりですか?」
 
それで社長は道路地図を持って来た。
「この付近です」
と言って指し示した場所は、北陸道の親不知子不知の付近であった。
 

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「キャッスル舞鶴の場合はレコーディングの作業中でしてね。風邪でも引いたみたいだから、悪いけど先にあがるねと言って帰宅したものの、翌日出てこないので行ってみたら死んでいたんですよ」
と社長。
 
「どういう様子で死んでおられましたか?」
「携帯から私宛にメールを送ろうとしていたようで、私のアドレスだけが記入されていました。文章はまだ何も入力されていませんでした」
「お布団の中ですか?」
「居間兼食堂の床に倒れていました」
 
「そうですか」
 
「私は実家から通っていたのですが、姉は遅くなることが多いからと都心のマンションに独り住まいだったんです。母が悔やんでました。実家なら異変に気付いてすぐ病院に運んだりできたろうし、言い残すことがあれば聞いてあげられたろうにと」
と妹のターモン舞鶴さん。
 
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「大堀の場合は、ツアーの最中だったんですよ。前日のライブまでは普通にしていたし、ライブ後の食事の席でも特に変わった様子は無かったんです。それが翌朝出てこないもので、ホテルの人に鍵を開けてもらって中に入ると死んでました」
 
「ツアー中なら大変だったでしょう?」
「とにかくその日は最終日の公演があったので、ステラジオのふたりには急病とだけ言っておいて、公演が終わった後で報せました」
 
「最終日で良かったですね」
「です。何日もはふたりに秘密にすることは不可能でした。でも言えば動揺してまともなパフォーマンスができない恐れがありましたから」
 
「社長さんも大変でしたね。死因は癌とおっしゃいました?」
 
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「はい。医者はそう診断しました。でも前日まで、特に体調が悪そうな様子は無かったんですよ」
 
青葉は水泳部の事件の方の被害者でやはり突然白血病になって死んだ人がいたという話を思い起こしていた。
 
「どういう様子で亡くなっておられました?」
「ベッドのそばで倒れていました。服装は昼間の服装のままだったので、何か作業をしていたようです」
「窓は開いてましたか?」
 
「えっと・・・」
と言って社長は記憶を辿っているようだ」
「開いてました」
と社長は言ってから
「何かプラスチックを燃やしたような臭いがしてました。おそらくそれを燃やすのに窓を開けたのではないかと」
 
「何を燃やしたか分かりましたか?」
「分かりません。それらしきものは見あたらなかったのですよ。もしかしたら燃えかすを窓の外に投げ捨てたのかも知れません」
 
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「なるほど」
 
青葉はその彼女が今際の際(いまわのきわ)に焼却したものこそ、重要な手がかりと思ったものの、その様子ではおそらく処分されてしまったのだろう。
 
しかし今回は何だか探偵の気分だ!
 

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