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■春園(8)

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一方、桃香たちは13時頃から始まった精進落ちがカラオケ大会と化していた。故人がカラオケ大好きだったので、カラオケで送ってあげようという趣旨である。故人が使っていたパソコンセットが持ち込まれ葬儀場の回線を借りてジョイサウンドが使えるようにする。
 
特に新顔は歌わされる。女性陣の中で昨日桃香以上に飲んでいて男性親族たちのアイドルと化していた由佳がトップバッターで故人が好きだったというモーニング娘。の曲から『Memory 青春の光』を歌う。上手くはないが、カラオケでは盛り上がる感じの歌い方である。千里はこの人かなりカラオケに行っているなと思った。
 
なかなか盛り上がった後は桃香が指名されるが、桃香は洋楽専門なのでアヴリル・ラヴィーンの『I'm with you』を歌った。いい曲ではあるのだが、少なくとも中年以上の人たちが誰も知らないし、英語歌詞の意味も分からないので、かなり盛り下がる。空気を感じた桃香が、途中でキャンセルして「じゃ千里」と言うので、千里はAKB48の『桜の花びらたち』を歌う。
 
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千里が伸びのある声でこの名曲を歌い上げるので拍手があり
 
「きれいな曲だね〜」
「これ誰の曲?」
などと質問が出る。
 
「AKB48ですよ」
と言うと
「エーケービーにこんなきれいな曲があったのか!」
と年配の人たちが驚いていた。
 

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千里が芳彦さんを指名する。芳彦さんは舞耶さんとふたりで一緒に西野カナの『トリセツ』を歌い、この曲を知らなかった人たちにも多いに受けていた。
 
芳彦が「この子、凄く歌が上手いんだよ」と言って、月音の妹、波歌を指名する。
 
「名前も難しいよね」
「うん。和彦(にぎひこ)じいさんも、読めないし、その子供世代の山彦(たかひこ)、風彦(たつひこ)、洋彦(きよひこ)、聖火(みか)、光彦(あきひこ)も読めないけど、笑美(わらい)の子供3人もマジで読めない」
 
ということで月音(だいな)の妹は波歌(しれん)である。
 
波歌は映画で話題になった曲『Let It Go』を歌った。
 
正確な音程取りである。発声法もベルカントっぽい声の出し方なので、この子、コーラスとかやっているのかなと千里は思った。
 
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その後、主として10-20代の子でリレーしていく。
 
千里はジュースを飲みながら、たまたま隣の席になった萌枝さん(聖火の長女)と話していたが、半ばグチを聞いてあげている感じになった。
 
「本人がまあ女の服を着たいというのなら着るくらいは構わないと思うんですけどねえ。でもこっそりしてくれたらいいのに。あれでは子供たちが可哀想ですよ。だってずっとあの子たち、父親の問題で後ろ指をさされますよ」
などと萌枝さんはまだ清さんのことで文句を言っている。
 
ただ萌枝さんと清さんの間にはそれ以上に色々確執があるっぽい雰囲気でもあった。男女差別の強い土地で、第一子なのに、女だからということで、「弟」の清さんより下の扱いを受けて育った萌枝さん、「男扱い」されるのが嫌で長男の責務からいつも逃げていた清さんの双方に複雑な思いがあるように千里は感じた。
 
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結構辛気くさい話になっていき千里も参ったなと思っていた時、北海道組の波歌が近づいて来た。
 
「こんにちは。ちょっと耳にはさんだんですが、千里さんって音楽関係のお仕事なさっているんですか?」
 
そういえば昨夜斎場から旅館に2度目に走った時、透さんたちに、そんなこと言ったかなと千里は思った。
 
「まあ余技ですけどね。本職はバスケット選手で、音楽関係は時間が取れた時に少しお手伝いしているだけなんですよ。あ、名刺あげときます」
 
と言って千里はレッドインパルスの名刺を波歌、とそれを見て「へー」という顔をした萌枝にも渡す。
 
「すごーい。このチーム名は知ってます。確か昨年は準優勝でしたよね?」
と波歌。
 
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「ええ。あと少しの所で常勝チームに敗れました」
「凄いなあ」
「でも、波歌(しれん)ちゃん、歌がうまいね。コーラスとかしてるの?」
「ええ。小学校の時からやってたんですよ」
「発声法がきちんと訓練されてるなと思った」
 
「だいぶ鍛えられましたから」
と本人は言っている。
 
「それでですね。私、将来、歌手になれないかなと思っているんですけど、どう思います」
 
と波歌が訊く。
 
「うーん・・・・」
と千里は悩んだ。
 
「難しいですか?」
 
「歌は高校生にしてはうまいと思う。そして可愛いから、歌手になるための最低の条件は満たしていると思う」
と千里は言葉を選んで話す。
「何が足りませんか?」
 
「雰囲気」
と千里は言った。
 
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「えっと・・・・」
 
「波歌(しれん)ちゃんは目立たないんだよ」
「うっ」
と声をあげてから嘆くように言う。
 
「確かに、私、友達が近くで話しているそばに居ても『あれ?そこに居たっけ?』とか言われちゃうことあるんですよ」
 
「でもそれはちょっと改善してあげる。ちょっと目を瞑って」
「はい」
 
それで千里は彼女の手を握り、某所にある《スイッチ》をonにしてあげた。あまり霊的な操作が得意ではない千里でも、この程度はできる。
 
「あ、なんか雰囲気が変わった」
と萌枝さんが言う。
 
「これで少し目立つようになったから、オーディションとかに出てごらんよ」
「オーディションですか。それってやはり東京に出て行かないといけないですかね?」
 
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「えっとね。これ現時点では未公開情報だけど、今度の日曜日に札幌で全国的なオーディション番組の予選があるんだよ」
「ほんとですか?」
 
「明日の夕方に放送開始される『スター発掘し隊』という番組を見て。詳しいことはそこで発表されるから」
 
「分かりました!ありがとうございます」
 

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結局15時すぎに精進落ちが終了し解散することになった。高知空港に向かうバス(レンタカー)と、中村駅に行く葬儀場の送迎バスとに分乗して移動することになる。
 
「空港行きのバスは15:20ジャストに出発するから、みんな遅れないように」
と来彦さんが言っていたものの、ここで奥さんの渚さんからチェックが入る。
 
「ちょっと、あんたお酒飲んだ?」
「あ、つい勧められてビールを1杯」
「何考えてんのよ!? 運転できないじゃない」
「ビールくらい大丈夫だよ」
 
「来彦、呼気検査しろ」
と言って春彦さんがアルコール・チェッカーを持ってくる。
 
「アウトだな。誰か大型バスを運転できる人?」
と春彦さん。
 
「千里、アルコール飲んでないよな? 運転できないか?」
と桃香が言う。
 
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「うん。飲んでない。じゃ運転しようか?」
「ああ。昨日も旅館と葬儀場の間を運転してたね。じゃよろしく」
 
ということで、結局千里が運転して空港まで行くことになった。
 

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車は市街地を出てからまず快適な以布利バイパスを走り、大岐地区を抜けた後は海岸沿いのワインディングロードになる。
 
「千里ちゃん、昨日も思ったけど、運転うまいね」
という声が上がる。
 
「うん。曲がりくねった道なのに、そんなに辛くない」
「加速度ができるだけ掛からないように運転してるだけですよ」
 
しかし少し運転するうちに
 
「でももう少しスピード出さない?」
「こういう道はあまり走ったことない?」
という声も出る。
 
「今300mほど後方に覆面パトカーが居るので出せません。あれと別れたらもう少し速度あげます」
 
「よくそんなの分かるね!」
 
千里が運転するバスが制限速度ジャストで走っているので、イライラした後ろのプリウスが《ハミ禁》区間であるにも関わらず、無理矢理対向車線を使って追い越して行った。すると少し後方にいた白いクラウンがサイレンを鳴らしてその車を追いかけていき、捕まえたようである。
 
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千里の運転するバスはその覆面パトカーと捕まったプリウスを横目に見ながらその場所を通過。
 
「ああ、可哀相に」
「こちらは捕まらなくて良かった」
 
その後千里はやや速度を上げて四万十市まで行き、黒潮町を経て四万十町に入る(とても紛らわしいのだが、四万十市と四万十町がある)。
 
四万十町中央ICそばのローソンで少し休憩する。青葉たちがここに居たのは2時間ほど前である。
 
休憩中に彪志から桃香に電話が入った。
 
「了解了解。そちらも気を付けてね」
と言って桃香は電話を切る。
 
「青葉はひとつ早い飛行機に間に合ったからそれでサンダーバードに乗り継ぐらしい。彪志君が調べてくれたのでは21:22金沢着ということ」
 
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「ああ、そんなに早く到着できるなら良かったね」
と朋子も言っていた。
 

笑美さんが点呼して全員乗っていることを確認の上、高速に乗る。千里の運転で車は快適に高知自動車道を走っていく。
 
高知空港に着いたのは17:45くらいであった。
 
「これ18:25にも間に合うのでは?」
 
幸いにも多少空席があったので、館山に帰る洋彦夫妻がそちらに振り替えてもらって搭乗した。洋彦以外にも数人駆け足で保安検査場に行く人の姿があった。洋彦たちは結果的に彪志と同じ便に乗ったことになる。
 
北海道に帰る11人はどっちみち都内で1泊なので、19:15の便を待つことにした。
 
一方でみんなを降ろした後、千里はバスを近くのGSに寄せて満タン給油。それでトヨレンに行き、ETCカードを抜き、忘れ物が無いか車内を見て回ってから返却手続きをした。歩いて空港内に戻る。
 
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千里がその作業をしている間に、青葉から桃香に電話が入った。
「こちら伊丹から新大阪に移動して来たところ」
と青葉。
「こちらはあと少ししたら搭乗になると思う」
と桃香。
 
「それで私が早く金沢に着くから、私が高岡まで服を取りに行ってくるよ」
と青葉が言う。
 
「しかしきつくないか?」
「大丈夫。サンダーバードの中でぐっすり寝ていくから」
「そうか?」
 
「それに考えたんだけど、私そのまま高岡で寝て朝金沢に出てこようかなと」
 
桃香は一瞬考えたものの、疲労を考えるとその方がよさそうな気がする。
 
「分かった。じゃ青葉は自宅で寝て」
「うん。それで友達を乗せて金沢に移動するよ」
「ああ。お友達を4〜5人乗せて通学することにしたんだっけ?」
「5人は乗らないよ! 基本は3人、場合によっては4人」
「了解了解。無理しないように」
「うん」
 
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千里が戻ってきた所で桃香がそれを伝え、千里は金沢のホテルでツイン2つ予約していたのを片方をシングルに予約変更した。
 

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千里・桃香・朋子の3人は予定通り19:10-19:55の伊丹便に乗ったが、やや出発が遅れ、伊丹には20分遅れで到着した。そこからモノレールと地下鉄で新大阪に移動すると21:10であった。
 
「惜しかったな。21:06のこだまは出たばかりだ」
 
21:06に乗れば最終便のひとつ前に間に合ったのである。
 
「やはり青葉は先に返して正解だったようね」
「うん。こちらは結局最終便になっちゃう」
 
青葉に電話すると、向こうはもうすぐ金沢に到着するということだった。あらためて「運転気を付けてね」と言っておいた。
 
千里や桃香たちはコンビニで晩御飯や飲み物を調達した後、新大阪駅発21:33の新幹線で米原に移動。22:48発の《しらさぎ65号》に乗った。
 
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3人ともかなり疲れていたこともあり車内で深く眠ってしまったようである。予定通り0:39に金沢に到着。そのまま駅そばのホテルに入り、ぐっすりと朝まで寝た。
 

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一方、一足早く到着した青葉は、金沢駅を出た後、自分が持っているヴィッツの合鍵で車を出し8号線を走って22時半頃に自宅に戻った。メーターボックスの中に通販で頼んでおいたレディススーツの箱が入っているのでそれを取り出して家の中に入る。それから桃香に連絡すると、向こうは今米原で《しらさぎ》を待っている所ということだった。
 
青葉もさすがに疲れたなあと思い、取り敢えず寝た。
 
 
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