広告:まりあ†ほりっく 第6巻 [DVD]
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■春園(6)

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参列者が多いので、葬式が終わったのがもう11時頃。それから出棺して火葬は11:10くらいから始めた。
 
その間に昼食となるが、千里・青葉・月音・美咲・由佳、それに満彦の婚約者・紗希、芳彦の婚約者・舞耶あたりが給仕に動いていた。なお、桃香はこういうのをする訳もなく、男性親族たちと一緒に日本酒や粟焼酎を飲んでいる。高知には粟焼酎の老舗・無手無冠(むてむか:四万十町)がある。
 
「前回来た時にちょっと飲んで、これ美味しい!と思ったんですよ」
などと言いながら春彦さんたちと盃を交わしていた。
 
食事が終わった後、12時すぎから収骨となった。咲子さんが最初に大きな骨を拾い、5人の子供とその配偶者が一緒にわりと大きめのものを拾う。ここで光彦の分は桃香が代行したので朋子と桃香で一緒に拾った。その次に11人の孫(青葉も孫としてカウントされる)が各々の配偶者と一緒に小さめの骨を拾って骨壺に入れる。ここで桃香は再度登場して千里と一緒に女2人で拾ったが、それ以前に清・愛がやはり女2人でしているので、(桃香本人は平気だが)朋子の心理的負担も少しは小さかったようである。
 
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孫たちの中で最後に骨を拾ったのが青葉で彪志とはまだ籍を入れていないので彪志は遠慮し、月音さんと2人で拾うことにしていた。青葉は5年前に自分の家族の葬儀が相次いだ時のことを思い出し涙が出てきた。
 
この時、桃香が青葉に骨箸を渡そうとして、うっかり手をすべらせて遺灰の中に落としてしまう。
 
「あ、ごめんごめん」
と言って桃香は箸を拾って青葉に渡した。この結果、桃香も青葉も手に遺灰が少し付いた。斎場の係の人が
 
「これでお拭き下さい」
と言って濡れティッシュを渡してくれたので、青葉はそれで骨箸と自分の手を拭いてからあらためて月音と一緒に骨を拾ったものの、その時、青葉がふと千里を見たら、千里が一瞬ニコッとした気がした。
 
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青葉は、今和彦さんの遺灰に触れたことが何か意味があるのかも知れないという気がした。
 
孫たちの後は、曾孫世代で大学生以上の子のみが骨を拾った。芳彦と礼彦が拾い、満彦だけ単独で拾い、安子さんと夫、そして最後に美咲さんが由佳さんと一緒に拾った。
 
芳彦さん・満彦さんは婚約者を連れてきているものの、まだ結婚はしていないので彪志同様、骨拾いには参加しなかったようである。美咲さんと由佳さんは結婚式まであげているのでふたりで一緒に拾ったようだ。ふたりは左手薬指にお揃いの結婚指輪をつけている。
 
しかし孫世代の最後は性転換者の自分で、曾孫世代の最後はレスビアンの美咲さんというのも凄いなと青葉は思った。
 
「一昨日までは動いとって文句ばかり言っとったのに、こんな骨だけになっちゃうなんてね」
 
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とポツリと咲子が言うと、みんな涙を新たにした。
 
「まあ、人間ってあっけないよな」
と長男の山彦も言った。
 

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この後、ホールの方に戻り、初七日法要を行った。その後、本来は精進落ちとなるのだが、その前に故人が残したメッセージがあるというので、それをみんなで聞くことになった。
 
いわば声で残した遺言である。これは毎年誕生日の後に本人が弁護士さんの所で1人だけで録音していたらしい。100歳の誕生日の直後に亡くなったので今年の録音は無い。1年前のメッセージである。
 
弁護士さんが咲子さんと子供5人(光彦の分は桃香が代行)に封印がきちんとなされていることを確認してもらってから、封を切る。録音はUSBメモリーに入っていた。
 
「やあ、みんな元気かぁ? 俺、和彦(にぎひこ)。いやあ、この録音が公開されているってことは俺は死んじまったってことだけど、みんな仲良くやっていってくれ。それと咲子をよろしく頼む」
 
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と本人はとっても明るい声である。
 
「とりあえず俺の歌を聞いてくれ」
と言って、いきなりモーニング娘。の『恋のダンスサイト』を歌い始める。みんな、呆気に取られている。「セクシービーム!」と和彦さんが言った所では、思わず笑い声が漏れていた。
 
「まあ、そういう訳で長生きのコツは毎日思いっきり歌うことだと思う。身体に新鮮な空気を取り入れて、ちんちんたいしゃ(本人の発音のママ)を促す」
 
ここでも笑い声が漏れる。
 
「あと、男が長生きするには去勢するのが効果ある」
との発言に
 
「はぁ!?」
という声が子や孫たちの特に男性陣から漏れた。
 
「平均寿命が女の方が長いのは、やはり男性ホルモンと女性ホルモンの影響なんだよ。だから睾丸を取った男は長生きする。卵巣を取った女は短命になる。これはちゃんと医学的にも証明されている」
 
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などと本人は言っている。
 
「だから俺は光彦を産んでからまもなく睾丸を取ってもらった」
 
と爆弾発言。これはどうも咲子以外は誰も知らなかったようで、みんな顔を見合わせていた。
 
「だから、山彦、風彦、洋彦、長生きしたかったら去勢するといいぞ」
 
という発言にその3人が嫌そうな顔をする。
 
「あと、清(さやか)は睾丸を取ってしまったようだが、きっと長生きするだろう。長生きする分、親孝行してやれ」
 
という発言。これに清さん本人はしんみりとした顔、その親の聖火夫妻は頷いていたものの、お姉さんの萌枝さんが少し不快な顔をしていた。
 
清さんの性別問題で九州沖縄組の中に不和があることを気に掛けていて、その問題について遺言してくれたのだろう。
 
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「あと、俺が死んだので、子供、孫、曾孫(ひまご)、玄孫(やしゃご)が大勢集まってくれたと思うが、死んだ時ばかり集まるのは寂しい。次は咲子の誕生日に集まってやってくれないか。今回の葬式の時の交通費、それから咲子の誕生日に集まる時の交通費に充てるのに、JR東海株を1単元ずつ売却して当ててほしい」
 
子供たちがお互いに顔を見合わせて頷いていた。
 
「それでは最後にもう一発俺の歌を聴いてくれ」
 
と言って和彦はまたまたモーニング娘。の『ハッピーサマーウェディング』を歌った。途中の台詞の中の「証券会社に勤めている杉本さん」「お父さんと一緒で釣りが趣味なの」といったところを「八戸高等女学校出身の咲子さん」「お母さんと一緒で裁縫が趣味なんだ」などと言い換えていた。
 
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この歌にもみんな笑いを漏らしながら聞いていた。
 
この歌が終わるとともに「んじゃ、俺のメッセージは以上」と言って録音は終了していた。
 

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「あのぉ、財産分与とかについては何も?」
と風彦の奥さん・三恵さんから質問が出る。
 
「それについては公正証書遺言がございます」
と弁護士は言い、弁護士事務所で保管されていた遺言書の写しを取りだし、読み上げた。
 
声の遺言には法的な効力が存在しないので、きちんと公正証書にしていたと弁護士さんは説明した。
 
その遺言状によると財産についてはこの遺言書が公開された時点で咲子が存命であれば全ての財産(土地家屋と若干の株式)は咲子に残したい。もし咲子も自分と前後して亡くなっていた場合は、ずっと一緒に暮らしてくれた山彦に全部譲りたいとした上で、遺留分がどうしてもほしいという子供には、自己所有株式を処分して払ってやってくれと書き残してあった。
 
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これについては風彦が
「俺はいらん。相続放棄する」
と最初に言い、洋彦・聖火、それに光彦の代襲相続者である桃香も同様に相続放棄すると言った。山彦も同様に相続放棄することを述べ、それでその件は、弁護士が用意していた書類をその5人に渡し、その場で署名捺印してもらった。
 
「また今回のみなさんの交通費に関しては、故人の遺言テープにあったように東海旅客鉄道株式会社の株を1単元(約200万円)売却し、葬儀費用が香典のみで不足していた場合はそれを先に補填した上で、残りのお金を皆様が実際に掛かった費用に応じて按分計算して送金することを、高園咲子様と話し合って決めさせて頂きました。おのおのご帰宅後、掛かった交通費の明細を私の事務所までメールでよいですので、送っていただけますか?ただしビジネスクラスやグリーン車の料金はカットさせて頂きます」
 
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と弁護士は言い、あとで全員に名刺を配ると言っていた。
 
「香典が余った場合は?」
「少額の場合はこの交通費分与にプラス致します。もしかなりの金額の剰余が出ました場合は追ってご相談させて頂きます」
 

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この遺言公開の後、精進落ちとなる。献杯の挨拶は風彦が行った。ほかに洋彦、聖火、そして桃香もひとことずつ故人の思い出を語った。
 
その挨拶が一段落した所で芽依さんに促されて「イチャイチャ組」の青葉と彪志、満彦と紗希の4人が「お先に失礼します」と言って先に会場を出た。これが13時頃であった。
 
残った者たちで故人の思い出を語りながら食事をする。
 
「しかし和彦じいさんが、去勢していたというのは知らんかった」
とみんな言う。
 
「ダミーのシリコン製のボールを入れていたんだよ。だからお風呂とかに入っても誰にも気づかれなかったと思う」
と咲子が言う。
 
「しかし、親父もまあ思い切ったことを」
と洋彦が言う。
 
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「子供が5人できて、もうこれ以上は要らないけど、だからといってコンドームつけてセックスするのは嫌だと言って」
 
「それ去勢しなくても、不妊手術すればいいじゃん」
「あれは確実ではないとか言って」
「でも去勢したら立たなくなるのでは?」
「あの人、80歳頃まで立ってたよ」
「すげー」
 
「山彦兄は現役かい?」
「すまん。もう男は引退した」
「引退したのなら、もう睾丸要らんだろ。取ったら長生きするかもよ」
 
「ちょっと考えさせてくれ」
 

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