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■春園(7)

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「ところで光彦を産んだ後とか言ってたけど、和彦じいさんが産んだ訳じゃないよな?」
「私が産んだよ」
と咲子。
 
「いや、睾丸取ったら子供産めるようになるのかと一瞬考えた」
「玉だけ取っても、穴を作らなきゃ産めないだろうね」
「確かに子供を出す所が無いよな」
 
「清(さやか)は子供産めるの?」
「私、子宮が無いから無理。それに精子の調達先が無いし」
「ああ、精子無しでは無理だな」
 
「でも清のこと、じいさんも言ってたしさ。聖火ちゃん、許してやれよ」
「私はちゃんと娘と思ってるよ」
と聖火。
「ただ、嫌そうな顔してる人が若干いるのが私も困っている所でね」
と聖火は付け加える。
 
「まあ和彦さんに言われたら仕方ないな。じゃ、清(きよし)のこと女だと思ってやることにするよ」
と聖火の夫・明夏(あきよし)。
 
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「父ちゃんは自分の名前が女とよく間違えられていたから、清(さやか)姉のことも嫌がってたんじゃないかね」
などと、聖火の「唯一の息子」である透さんが言う。
 
「ああ、この人の名前はよく『あきな』とか『あきか』と読まれて女の子と思われるんだよ。本人見たら、がっちりした男だからびっくりされる」
と聖火。
 
「ついでに、母ちゃんの名前が男と思われる」
「まあいいけどね」
 
「でも父ちゃんもああいっているし、萌枝姉貴も認めてやれよ」
と透。
 
不快そうな顔をしていた萌枝が仕方ないという顔をして
「じゃ、とりあえず握手」
と言って、清(さやか)と握手をした。
 

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「ところで咲子ばあちゃんの誕生日はいつだったっけ?」
と孫の透から質問が出る。
 
「4月28日」
「わっすぐだ!」
 
「じゃ夫婦とも4月生まれだったのか」
 
「でもそれなら1年後のゴールデンウィークに和彦じいさんの1周忌も兼ねてみんなで集まらないか?」
と来彦が提案する。
 
「ああ、それでいいんじゃない?」
「じゃロウソクを93本用意して」
 
「4月28日というと、ゴールデンウィークの直前か?」
「私は昔から、なんで29日に生まれなかったんだよと言われてた」
 
「まあ平日ではみんな来られないだろうから、1日ずらして29日の夕方か30日くらいにお祝いということで」
 
「どうせずらすなら、5月3日か4日までずらそう。その方が遠くから来やすい」
 
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来年の4月28日は金曜日である。29-30日が休みの後、5月1-2日が平日で3-7日が連休になる。
 
「私はいつでもいいよ。みんなから誕生日プレゼントもらえるなら」
と咲子は言っている。
 
「じゃビキニの水着でも贈ろうかな」
「ああ、嬉しいね。着ちゃおうかな」
 
このあたりも本当に冗談なのかよく分からない所だ。
 
「そのついでに和彦じいさんの一周忌法要もすればいいな」
 

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一方早めに斎場を出た青葉たちは、駐車場に昨日から駐めたままのエスティマの所に行く。満彦さんが運転席に座るのかと思ったら紗希さんが座る。ETCカードも紗希さんが自分のを挿していた。
 
「みっちゃんが運転するというから、僕に運転させろと言った」
と紗希さんが言う。
 
「いや確かにさっちゃんの方が運転うまい」
と満彦。
 
「じゃ後半は彪志じゃなくて私が運転しようかな」
と青葉。
 
「青葉しっかり若葉マーク持って来てるもんなあ」
と彪志。
 
「青葉ちゃん、若葉?」
「はい」
「でも運転歴は5〜6年あるみたい。僕より上手いです」
「だったら大丈夫ね」
 

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それで青葉たちが3列目に乗って、紗希が車をスタートさせたが、確かにうまい運転だと青葉は思った。
 
「僕二種免許持ってるから」
「さすがですね!」
 
「じゃそちらは適当にイチャイチャしててね。裸になってもいいよ。僕たち気にしないから」
と紗希さんが言う。
 
「ありがとうございます。でも紗希さんって僕少女ですか?」
「ううん。僕は男だから」
 
「え〜〜〜!?」
「冗談だけど」
 
「びっくりしたー」
「僕のところ、上3人が男でさあ。お母ちゃんも早く死んでしまって男だけの家庭で育ったから、女言葉を話す手本が手近に居なかったんだよねー。だからおまえ男みたいだって言われるのにも慣れてるし」
 
「なるほどー」
「おっぱいも男並みに無いし」
「えっと・・・」
「残念ながらちんちんは付いてないんだよねぇ」
「まあ、あれはあると邪魔ですよ」
 
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「ふーん。まあバイト先では《わたし》って言ってるし、今回も親戚の手前《わたし》と言ってたけど、このメンツなら、かったるいから普段の話し方でいいかなと」
 
「うん。お互い遠慮なしで」
 
「ところでここだけの話、青葉ちゃんこそ実は男の子ということは?」
「ああ、バレましたか」
 
「他は誰も気づいてないと思う。凄く完璧なんだけどさ。あまりにも女らしすぎるんだ、青葉ちゃんは」
 
おそらく本人自身が性別に微妙な問題を持っているからリードできたのだろうと青葉は思った。
 
「確かに友達から女より女らしいと言われてた」
「身体も直してるの?おっぱいは僕よりはあるみたいだなと思って見てたけど」
 
昨日、紗希さんは酔いつぶれていたらしく、旅館の女湯には来ていなかった。
 
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「全部直しました。20歳になったら戸籍の性別変更を申請するつもりです」
「おお凄い凄い」
「でも親戚60人も集まったら、LGBTもいるよねえ」
「そうですね」
 
そんな話を月音(だいな)さんともしたなと青葉は思った。
 
「みっちゃんはホモっぽいし」
と紗希は言うが
「僕はノーマルのつもりだけど」
と満彦自身は言っている。
 
「いや絶対怪しいと思ってる。入れられてる時に凄く気持ち良さそうだし」
と紗希が言うと満彦は頭を掻いている。
 

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こちらもイチャイチャしてるから、そちらも適当にやっててと言うので、青葉と彪志は3列目で、キスした上で、服までは脱がないものの、彪志がズボンを下げて青葉が刺激してあげる。どうも満彦たちも運転しながら色々している雰囲気だ。満彦さんがバンドメイドのCDを掛けて、お互いの音があまり聞こえないようにする。
 
「彪志ごめんねー。今回せっかく来てもらったのに、なかなか話もできなくて」
と青葉は小さい声で言う。
「いいよ。こういう場では仕方無いよ。芽依さんのおかげでこういうことできるようになったし」
「じゃ、ドライバーがびっくりしない程度にイチャイチャしよう」
「うん」
 

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高知自動車道のスタート地点(正確にはこちらが終点)、四万十町中央ICそばのローソンで休憩し、もらってきた仕出しのお弁当もここの駐車場で食べた。ローソンでお茶やコーヒーを買ったが、満彦と紗希はビールを買ってきて乾杯している。
 
「この後は運転しないから飲んでもいいかなと」
「なるほどー。彪志も飲む?」
「いや、昨日だいぶ飲まされたからいいことにしとく。一週間くらいアルコールは身体に入れたくない」
 
「ああ。なんか新顔は酔い潰しちゃえみたいな雰囲気があったね。でも美咲さんの奥さんの由佳さんは凄いお酒強いみたいで、最後までダウンしなかった」
「あの人、粟焼酎をぐいぐい飲んでたよね?」
 
「あの人たちって、由佳さんの方が奥さん?」
とビールを飲みながら満彦が訊く。
 
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「よく分からない。でもレスビアンの人ってそのあたりの意識はどうなんだろう?桃香さんと千里さんの場合は、桃香さんが旦那さんで千里さんが奥さんっぽいね?」
と紗希。
 
「実際あのふたりはその意識みたいですよ。婚約指輪も桃香姉から千里姉に贈ったんですよ」
と青葉も言う。
 
「ほほお」
「そういえば僕はまだ婚約指輪もらってないな」
「夏のボーナスまで待って」
 
満彦はこの春に大学を出て就職したばかりである。実際にはその会社には2年前からバイトで勤めていたらしいが。
 
「それってタチかネコかというのと関わってるの?」
「タチが旦那さんでネコが奥さんのこと多いと思うけど、逆もあるみたいですよ。お互いのそういう役割が固定してないカップルもあるみたいだし」
 
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「なんかレスビアンの世界はよく分からないなあ。ゲイは何となく想像がつくんだけどね」
と紗希さんは言っている。青葉はこのふたりはどうも紗希さんの方が主導的みたいだなと思った。
 

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ゴミをコンビニで捨てさせてもらい、若葉マークを前後に貼って青葉が運転席、彪志が助手席に座る。満彦と紗希は、3列目に乗ると、持参のシーツを敷いた上で、いきなり裸になって抱き合っていた。
 
青葉が車をスタートさせる。自動車道に乗って快適に走っていく。なお高知自動車道のこの部分は2012年に開業している。今回は満彦たちを高知駅で降ろすのでどっちみち高知ICから一般道路に降りるが、高知ICから高知空港方面に伸びる予定の高知南国道路は現在工事中で、2016年4月23日に、なんこく南IC-高知龍馬空港IC間が開通した。つまりこの時点ではそこが未開業で、高知南IC-なんこく南ICの4.7kmのみが部分開業していた。
 
高速道路を運転中、彪志は後ろの2人の激しいプレイとしばしば聞こえてくる「満彦の」悲鳴に当てられてしまって、なかなか気分が乗らないようであったが、青葉のスカートの中に手を突っ込んで色々刺激したりしてくれた。
 
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ふたりを高知駅に降ろしたのは、四万十町で長時間の休憩をしたこともあり、15:48くらいであった。音消しに掛けていたCDと紗希のETCカードを確実に抜いて渡す。荷物の忘れ物がないか確認する。
 
「これなら16:13に乗れるね」
「お父さんたちを待たないの?」
「面倒くさい」
「ふたりだけなら、このままイチャイチャして行けるし」
「まあ列車の中じゃ裸にはなれないけど」
 
ということで結局満彦たちは 高知16:13-18:47岡山 という南風24号で帰還することにした。
 
「青葉ちゃんたちもひとつ早い便に間に合うのでは?」
「え?」
 
ひとつ早い伊丹行きは16:50発である。
 
「間に合いそうな気がする」
「じゃすぐ移動しよう」
「そちら気を付けてね」
「うん。そちらも。色々ありがとう」
 
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と言って駅前で別れた。
 

青葉の運転で高知空港まで行く。空港に到着したのが16:17で、エスティマはいったん駐車場に駐めて、荷物は彪志が持って一緒に走り、カウンターの所まで行く。青葉の19:10伊丹行きの予約を16:50に変更できないか尋ねてみる。
 
幸いにも空席があり変更可能ということで、手続きしてもらった。もう時間が無いので、空港のスタッフに先導してもらって乗り場に急ぐ。
 
「じゃ気を付けてね」
と言って保安検査場の所でキスして別れた。
 
彪志は青葉を見送った後、カウンターに戻り、自分も羽田行きをひとつ早い18:25に変更してもらった。いったん外に出て車を近くのGSに持って行き満タン給油した上で、トヨレンに移動して返却手続きをする。空港に戻ったところで桃香に電話して、青葉がひとつ早い飛行機に乗ったことを連絡した。これが16:45くらいであった。
 
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