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■△・瀬を早み(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-07-14
 
「『瀬を早み、岩にせかるる滝川の、割れても末に、あはむとぞ思ふ』、誰かこの歌の意味を解説できる?」
と国語の先生は言った。
 
龍虎は「さっぱり分からなーい」と思って、当てられないように視線を少し伏せ気味にしていたのだが、
 
「はい」
と手を挙げた子がいる。龍虎と同様に忙しいはずの女子高生タレント天羽飛鳥(芸名:松梨詩恩)なので『すごーい!』と思う。
 
「はい、天羽さん」
と先生が指名する。
 
「『瀬を早み』の『み』は形容詞の語幹について連用修飾語を作る接尾語で、『川の流れが速いので』という意味です。『岩にせかるる』の『せかるる』は『堰き止める』という意味の『堰く』(カ行四段活用)の未然形に受身の助動詞『る』が付き、その『る』(下二段活用)が連体形になって『るる』になっています。これが『滝川』に掛かります。『すゑ』は流れの先の方という意味ですが、将来のことも表し、掛詞(かけことば)的になっています。『あはむ』は『あふ』の未然形に推量や意志を表す助動詞『む』が付いたものです。通して訳すと『川の流れが速いので岩に堰き止められて流れが2つに別れた水も少し先ではまたひとつに合流するであろう』ということなのですが、掛詞を使うことにより『恋人同士が無理に別れさせられても、将来はきっとまた再会してセックスすることができる』という意味を示唆しています。『ゴウ』の方の『合う』は合流するという意味ですが、『ソウグウ』の『遭ふ』なら男女のデートを表します。まあ男女とは限りませんが」
 
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と飛鳥は一気に解説した。セックスなどという言葉を平気で発音したので教室内はざわついている。もっともタレントなどやっているとこの程度の単語はしばしば発音させられる。彼女がバラエティ番組で「ちんちん!」と絶叫させられたのも見たことあるが、さすがにそれは後でテレビ局に「可哀相」という抗議が殺到したらしい。
 
「完璧ですね!まさにそういうことなんです」
と国語の先生は飛鳥を褒めている。
 
「忙しいのによく勉強していたね」
 
「私、この歌、大好きなんです。百人一首にも入っていますけど、とってもロマンチックですよね」
と飛鳥は笑顔で言った。
 

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『割れても末に合はんとぞ思う・・・か』
と龍虎は歌の下の句を頭の中で反芻する。
 
「ぼくたちも、きっと何かの“岩”にぶつかって3つに分かれちゃったんだろうけど、いつかはきっとひとつに戻れるよね?」
と龍虎は思った。
 

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長野龍虎(学籍簿上は田代龍虎)は中学1年生だった2015年の1月にデビューして以来、凄まじい売れ方をしたため、学校の勉強など、とてもできないくらいに忙しい日々を送るはめになる。それで龍虎は中学2年と3年の勉強を全くしていないし、期末テストの成績も酷いものであった。
 
それでも龍虎は受け入れてくれる高校があり、2017年4月、東京北区のC学園芸術科に進学することができた。中高一貫校なので高校からの募集定員は少なく、しかも男子は3人までという狭い枠のひとつを与えてもらった。
 
そして高校に入って間もない、4月16日(日)の夜、自宅マンションに居た龍虎は唐突に3つに分かれてしまった。
 
最初はびっくりしたものの、自分が3人いるとわりと便利である。3人で分担してお仕事をしていると、当然のことながら仕事の負荷が3分の1で済むので、とっても楽になり、結果的にちゃんと学校のお勉強をする時間も取れるようになった。
 
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3人の龍虎は“長期記憶”を共有しているので、ひとりが経験したり勉強したことは他の子も覚えている。それで、急いで台詞を覚えないといけないような時は分担して台本を読んだり、また短期間で音源製作をしなければいけない時も、3人で順番に練習したりしていた。しばしば1人がドラマの撮影に出ている時に、残った2人が1人はキーボードを弾いて伴奏し、1人は歌を歌う、などという形で練習していた。
 

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ちなみに3人の龍虎は均等に分かれたのではなく、1人は男の子、1人は女の子、1人は男の娘であった!それで自分たちを区別するのに3人は話し合い、男の子を“龍虎M”、女の子を“龍虎F”、男の娘を“龍虎N”と呼ぶことにした。
 
Fは普通の女の子っぽい性格だが、積極的で楽天的な気質。Mは男の子っぽい性格だが、受け身的でクールな気質。そしてNは“女の子になりたい男の子”という感じで、女装好き!で霊感的な発言が多い。おっぱいを大きくしちゃおうかな?とか、おちんちん取っちゃおうかななどと考えたりするのはNである。また《こうちゃん》が本来の龍虎のおちんちんを取ってしまい、代わりにくっつけている《仮ちんちん》を持っているのはNである。また、青葉がホルモンのバランスを調整してくれているのもNである。
 
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それで口に出しては言わないものの、龍虎Mも龍虎Fも、龍虎の本体はNで自分たちは、男になるのか女になるのか迷っている龍虎から派生した存在なのではという気がしていた。でもMとFは
 
「私たち多分セックスできるよね?やってみない?」
「Fのことは好きだけど、自分同士のセックスって凄くやばい気がする」
 
などという過激な会話をしていた。
 
ただN本人は
「僕が大人の女になりたいと思ったらFが、大人の男になりたいと思ったらMが最終的には残るのかも」
などと2人に言っていた。
 
「3人合体したら、ふたなりになっちゃったりして」
「ふたなりも悪くないなあ・・・」
 

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少し時間を戻す。
 
2016年夏。ローキューツが2011年以来、本拠地として使用していた千葉市千城台にある体育館を所有していた房総百貨店が不渡り手形を2つ連続して出してしまい、事実上倒産した。この影響で、千城台の体育館も一時的に封鎖されたため、ローキューツは練習場所を失うことになる。
 
ローキューツのオーナーである冬子から、オリンピックのため南米遠征中の千里に電話で相談があり、千里は緊急に常総ラボを一時開放することを決める。そして千葉駅から常総市へのシャトルバス(外環道・常磐道経由で1時間半)を運行して急場をしのぐことにした。
 
このあたりの作業は、千里が代理人としてお願いした顧問弁護士の白金さんと冬子の共同で進められた。シャトルバスの運行費用は千里と冬子が折半した。
 
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「なんか割ときれいな体育館がある」
「でも狭い」
「ここは千里がローキューツを辞めた後で、練習場所が無いので自主トレ用に建てた体育館らしいよ」
「へー!」
 
「自分が練習できればいいから1コートしか取らなかったらしい」
「なるほどー」
「1階にはスリーポイント練習室とかもある」
「さっすが世界のシューター!」
 
「1階の大半は車庫になってるでしょ。そこに千里が自分の管理している車やバイクを駐めるのに使っていて、そちらが目的の半分らしい」
「嘘。1階に並んでいたのは全部千里の車?」
 
「千里が所有している車は全然無いらしい。どこかの飽きっぽい大先生から『この車自由に使っていいよ』と言って押しつけられた車だって」
と冬子は説明した。
 
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「なんて羨ましい」
「この土地を買うまでは駐車場代を毎月20万くらい払っていたとか」
「きゃー!」
「それはなんか迷惑かも」
「このあたりは土地が安そう」
「うん。1年半くらいで元が取れたらしいから」
「なるほどー!」
 

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秋頃、房総百貨店の管財人が選定されると、白金弁護士は管財人に千城台の体育館の土地・建物を適正価格で買い取りたい、また買い取り交渉中も、この体育館を使用させてもらえないかと申し入れた。
 
管財人はその体育館がローキューツ側でかなりの投資をして改造して使用中であったことを鑑みてこれを了承。封鎖の解除を認めた上で買い取りに向けて交渉。中立的な不動産鑑定士に鑑定させて、建物は無価値、土地は2億円という結果が出たので、千里の個人会社・フェニックストラインがここを2億円で買い取った。
 
ローキューツでは封鎖が解除された段階で再びここを使用することができるようになり、ホッとしたのであった。
 
「常総の体育館もきれいだったけど、やはりバスで1時間半は辛かった」
という声もあったが、シャトルバス運行の費用もこの3ヶ月で500万円かかった!
 
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千里はこの土地を買い取ったのを機に、冬子と相談してこの千城台に新しい体育館を建てることを決めた。元々の体育館はバレーボール用に建てられていたもので、バレーボールのコートはバスケットボールより狭いので、コートはぎりぎり取れるものの、コートの外側の余裕が狭くて、しばしば壁に激突する選手がいたのである(一応怪我しないように壁にはクッション材が貼られている)。
 
そこで、体育館に隣接する宿舎をまずは取り壊し、そこと駐車場の土地とを合わせて新しい体育館を建て、それが完成した所で旧体育館を取り壊して、そちらに新しい宿舎を建てるということをした。この建設費用は千里が全て出し、ローキューツは千里の会社に毎月賃貸料を払って使用するという方式を採ることにした。
 
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この新しい体育館が完成したのは2017年の7月のことであった。千里が日本代表の合宿で多忙であり、また冬子もアルバム『郷愁』の制作で死にかけていたので、この竣工式を取り仕切ったのは若葉であった!
 
若葉はフェニックストラインの大株主で、実は常務の肩書きを持つ。なお、宿舎の建設は体育館の竣工後に進められ年末までに完成した。
 

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千里と冬子が千城台体育館の建て直しの件で話し合ったのは2016年の9月頃であった。この時、共同所有とかにすると手続きなども面倒だし“大した金額でもないし”ということで、建築費用(約7億円)は千里が単独で出資することにした。
 
この時、若葉が言った。
 
「ビットコインで払えば1.2万BTCくらいだな」
 
「ビットキャッシュ?ゲームのお金で払うの?」
と千里が訊く。
 
「違う違う。ビットキャッシュじゃなくて、ビットコイン。仮想通貨だよ」
と若葉が言うと、
 
「何それ?」
と千里も冬子も訊いた。
 

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それで若葉はビットコインについて説明した。
 
「普通の通貨は多くの場合どこかの国の公的機関が管理している。USD.アメリカのドルならFederal Reserve Systemが管理している。JPY.日本の円なら日本銀行が管理している。でもビットコインは誰も管理していない」
 
「管理していない?」
「取引は全てネットに公開されて、世界中のネットワーカーが監視することでその妥当性が検証される」
 
「そんな適当でいい訳?」
「この公開された取引台帳をブロックチェーンと言う。ブロックチェーンにトランザクションを追加するには複雑な素因数分解の計算をしなければならない」
と若葉が言うと
 
「なんか頭が痛くなりそうな話だ」
と千里が言う。
 
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「素因数分解するのでも例えば35は暗算で5×7と分かる。851とかも数分考えると23×37と分かる」
と言ってから
「まあ、マリちゃんなら即答だろうけど」
と若葉が言うと、冬子は
「あの子、5〜6桁の数なら一瞬で素因数分解するよ」
と答える。
 
「さっすが。でもマリちゃんでも51326473378487みたいなのは一瞬では素因数分解できないよね?」
 
と若葉がメモを見ながら言う。
 
「どうだろう。訊いてみる」
と言って、冬子は政子に電話を掛ける。
 
「マーサ、素因数分解の問題、51326473378487を素因数分解できる?」
と冬子が尋ねると政子は
「6549139×7837133」
と即答する。
 
「あり得ん」
と若葉が呟いている。
 
「合ってる?」
と冬子が訊くと若葉は
「合ってる」
と言っている。
 
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「今のはコンピュータにやらせても20-30秒かかりそうだ」
と千里は言っている。
 

「まあでもマリちゃんも多分桁数が20桁とか30桁になると答えるのに数秒かかるよね?」
「あの子は即答できるか、全然答えられないかだよ。数秒掛けて解答するということはない」
「ああ、そういうものか」
 
「で、ビットキャッシュのトランザクション追加には数千桁の素因数分解をしなければならないのよ」
「それは大変だ」
 
「だから新しいトランザクションが追加される時には、世界中の協力者がこの素因数分解の問題に取り組む」
「へー」
 
「そして最初にその計算に成功した人に、報酬として新しいビットコインが渡される。この報酬はこないだまで25BTCだったんだけど、今年の7月20日に半減期が来て12.5BTCになってしまった」
「ふーん。半減期ってあるんだ?」
 
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「そして実は市場に出回る全てのビットコインはこの計算の報酬として発生したものなんだよ」
「なるほど!だから半減期が必要なのか」
「そうそう。半減期が無いと、ビットコインの数が無限に増えて行って、やがて価値が無くなってしまうから」
 
「その12.5BTCって何円くらいなの?」
「今の相場だと1BTCが6万円くらいだから75万円」
「計算するだけでそんなにもらえるっていいね」
と千里は言ったが
「いや、その計算にはたぶんかなり高速なコンピュータを数時間走らせる必要がある」
と冬子は言う。
 
「そんなに掛かるの!?」
と千里。
 
冬子は、文系でコンピュータ素人の自分でも想像つくことが、理学部を出てコンピュータの会社に勤めている千里になぜ分からん?と思っている。
 
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「でも世界中のマイナーたちはこれを10分で計算している」
と若葉は言う。
 
「数千桁の素因数分解を10分?それとんでもないスーパーコンピューターでは?」
と冬子。
「うん。家庭のふつうのPCじゃ無理。絶対に1番になれない」
「それ2番以降の人は報酬無しだよね」
「もちろん。報酬をもらえるのは1番だけ。この作業をマイニングというんだよ」
「マイニング?金鉱掘り?」
「そうそう。結構な投資をして鉱山を掘って金を見つける」
 
「いや、確かにそれは金鉱掘りかも」
 

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