広告:國崎出雲の事情 4 (少年サンデーコミックス)
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■△・瀬を早み(15)

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千里1が手伝ってくれたおかげで何とか引越屋さんが来る時間に荷造りが終わり、京平とともに実家に戻った阿倍子は、積み上げられた大量の荷物を見て
 
「これどうやって片付けよう?」
と思っていた。
 
そこに晴安がやってきた。
 
「ごめんねー。引越の手伝いに行けなくて」
「ううん。ハルが向こうに顔出していたら、いろいろやばかったし」
 
「おじちゃん、どうして女の人の服を着てるの?」
と京平は晴安に尋ねた。
 
「こういう服が好きだから着ているだけ」
「ふーん。ボクもスカート穿くの好きだし」
「うん。好きな服を着ていいと思うよ」
「おじさん、ママと結婚するの?」
 
ダイレクトに訊かれて、晴安は困ってしまった。妻との関係は冷え切っており、離婚に応じることは同意してもらったものの、現在彼女は妊娠中なので、その子が産まれて1歳になるまで、具体的な条件などの話し合いは延期することになっている。離婚が成立するのは早くても2019年秋以降と思われる。
 
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(実際には2019年10月に晴安は離婚し、2020年2月に阿倍子は晴安と再婚した)
 
「そのうち結婚するかもね」
「だったら、パパとか言った方がいい?それとも・・・ママンとか?」
「パパよりママンの方が好きだけど、ママとママンが紛らわしいから、いっそ名前でハルちゃんでもいいよ」
「うん、分かったよ、ハルちゃん」
と京平は言った。
 
それで晴安がこの後数日にわたってここに来て荷物の整理をしてくれたお陰で実家も何とか住める状態になった。
 

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阿倍子が退出した翌日24日、美映が貴司のマンションにバッグ1つの荷物だけで引っ越してきて同棲が開始される。貴司は阿倍子が返してくれたマンションの鍵を美映に渡した。鍵には阿倍子が取り付けていた可愛い女の子狐のキーホルダーが付いていたが、貴司はそれを何にも考えずにそのまま美映に渡す。この無神経さが貴司の困った所だが、美映はそういうのを全く気にしない性格なので
 
「あ、可愛いじゃん。阿倍子さんの趣味?」
と言っただけで、平気でそれを使用続けた。(さすがの貴司もそのセリフを聞いて「しまった」と思ったものの、美映が気にしないようなので、いいことにした)
 
ふたりの婚姻届はすぐ出すのは節操が無さ過ぎるかもといって、離婚から半月後の2月3日夕方17時頃に提出された。
 
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ちなみに2月3日は16:06からボイドに突入していた(翌朝6:46まで)。
 
婚姻届の提出がボイド時間帯になったのは、千里2の霊的操作(要するに呪い!)の作用である。
 

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一方信次と千里1は結婚式は3月17日に行うのだが、新婚旅行の予約の都合で2月16日に婚姻届を出すことにした。千里1は占星術でこの日の15:30頃に届を出すのが最良という結論を出していた。
 
これに対して千里2は青葉に頼んで当日千里1を高岡に呼んで、千里1本人には提出ができないようにした上で、呪いを掛けて、婚姻届を最悪の時間である同日11:30に提出させることに成功した(提出したのは信次の母)。これは千里2と千里1の占星術戦争であったが、青葉の協力もあったことから、霊的なパワーが桁違いの千里2側の勝利となった。
 

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貴司の所属するMM化学は今期1勝6敗に終わったが、その唯一の勝ち星を拾ったチームは他で2勝して2勝5敗となった。今季は2勝5敗のチームが3つあり、得失点差でこのチームは6位となった。2勝5敗3チームの中で得失点差が最も悪かったチームが7位となって入れ替え戦に出る。
 
そして・・・貴司のチームは8位となり、無条件で2部に転落した。
 
これを受けてMM化学の田中社長は、バスケ部の練習時間特例を廃止することを宣言した。2月以降、バスケット部員は練習時間に関して全く考慮されないことになり、各自の1日の仕事をきちんと終えてから練習に行くようにということになった。完璧に「余暇活動」扱いである。結果的には《定時退社日》の水曜しかチーム練習はできないことになる。
 
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結局監督は退任し、貴司が監督を兼任することになった。
 
また練習時の体育館の使用料金が会社からは支出されないことになり、4月以降は部費から払ってくれと言われた。しかし部費は各部員が毎月1000円出し合って運用しているもので、とても負担できない。それで使用料については貴司が個人的に出すことにしたいと表明。了承された。
 
これは1回5000円なので、週一回として月間2-2.5万円の負担になる。
 

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貴司はチームでほとんど練習できずにいること、そして12月の千里とのデートでも「練習不足」を指摘されたことから、以前練習に参加させてもらっていた、《市川ドラゴンズ》の九重さんに連絡を取ってみた。
 
「ああ、いいよ。俺たちは毎日夜9時頃からのんびりと練習してるから、いつでもおいで」
「ありがとうございます!」
 
ちょうど日本代表に初めて選出された頃、貴司はハイレベルな人たちと日常的に練習したいと思っていた所、茨城県の《女装ビーツ》の白鳥さんが「大阪に住んでいるのなら、兵庫に私の知り合いが参加しているチームがあるんだけど」と言って、ここを紹介してくれたのである。
 
市川ドラゴンズは兵庫県市川町(千葉県市川市ではない)に本拠地を置くクラブチームだが、バスケット連盟には加入していない。しかしメンバーは元プロを含む極めてレベルの高い人たちばかりである。
 
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市川町へは会社が終わってから新快速で姫路まで行き、播但線に乗ると21時までに最寄り駅まで到達できるのである。市川ドラゴンズのメンバーも仕事が終わってから練習を始めるということで、練習は夜9時から12時頃まで行われる。
 
会場は比較的新しい体育館で、バスケットのコートが2コート取れる。日中は市川町や隣の福崎町などの住民、小中学生などが使用しているが夜間はドラゴンズ専用になるらしい。体育館は防音設備がしっかりしているので夜間に使用しても音が近隣の住宅街に漏れない。
 
実はここの練習に参加していた結果、貴司は阿倍子が起きている内には自宅に戻らない生活になってしまった(12時過ぎまで練習した後は当然帰りの列車は無い。朝1番の列車で大阪に出てくると、会社の始業時間には間に合うが、自宅に寄ることは不可能)
 
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ただ市川町との往復電車代は1回4000円ほど掛かり、月に20回行けば8万円にもなる。
 

千里2は2月上旬、貴司に電話して、阿倍子さんに払った慰謝料は自分に出させてもらえないかと話した。
 
「でも千里、1000万円とか払えるの?」
「私はお金を使うようなものが無いんだよ。遊ぶ時間とか全然無いし。だから給料がどんどん貯まっていてさ」
「そうか。SEって残業代が凄そうだよね」
 
それで阿倍子に払った慰謝料は千里が出して、その金額は銀行に返済することにした。
 
「実際、1000万円の返済しながら養育費の送金は無理だよ」
 
「それは自分でも厳しいなとは思っていた」
「美映さんの赤ちゃん産まれる時は色々お金掛かるし」
「そうなんだよね。京平の時もかなり思わぬ出費があった」
 
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貴司は虫が良すぎるとは思ったのだが、市川町への交通費についても打診してみた。
 
「ああ。そのくらいはいいよ。毎月6万くらい送ってあげようか?」
「済まない!そのくらいあると助かる」
 
「だから阿倍子さんへの養育費、しっかり送ってあげてね。阿倍子さんと京平はそれだけが頼りだから」
 
「うん。頑張る」
 
「そうそう。交通費の支援の分はいいけど、1000万円は借用証書、書いてよね」
「もちろん書くよ」
「公正証書でね」
「うん。この金額なら当然だと思う」
 
「それと美映さんが産んだ子供が2歳くらいになった所で離婚して」
「ごめん。それは確約できない」
と貴司は答えるが、千里(千里2)もこれは“ジャブ”として言っているだけである。
 
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貴司はずっと気になっていたことを訊く。
 
「千里は川島さんとはどうするの?」
「予定通り結婚するよ。今月中に入籍する」
「そうか・・・」
「貴司があまりにも薄情だから、こちらも結婚することにした」
「分かった。でも僕には離婚を求めるの?」
「当然」
「うーん・・・」
と貴司は悩んでいたが、訊いた。
 
「今月下旬の僕たちのデートは?」
「もちろんいつも通りに」
「良かったぁ」
と言う貴司に、千里2も少々呆れた。
 
なお2月16日に千里と信次の婚姻届が提出されたら、すぐに千里2がそのことを貴司に電話した。すると貴司はすごくがっかりしたような様子だったので、千里2も「私時々さすがに貴司の頭の中が理解できなくなることがある」と思った。
 
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ところが2月下旬、貴司は半月近くにわたる上海出張が入ってしまい、デートができなくなった。それで貴司は上海からメールを送り
 
「帰れそうにないからアマゾンでバレンタイン送るね」
と伝えて、川崎のマンションにチョコレートを送った。
 
それが届いたのを見て、千里3は貴司に電話した。
 
「バレンタインって普通、女が男に贈るんだけど」
「実は送った後で気がついた」
「貴司、実は男の愛人にチョコレートを送っているとか?それでうっかり、私にもチョコ送っちゃったとか」
「僕は男には興味無いよ!」
「それすごーく、怪しいと思っているんだけど、昔から」
 
それで結局
「じゃ私がホワイトデー送るよ」
「ごめーん。誕生日プレゼントは何がいい?」
「そうだなあ。エスティローダーの春のセットとかいいかな」
「分かった。何とかする」
 
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といったことになった。
 

3月11-12日、岩手県でローズ+リリー主宰の復興支援イベントが行われ、青葉や千里2もこれに参加している。青葉は12日のイベントが終わったら盛岡の彪志の実家に行き、泊めてもらった(彪志は東京にいるので不在)。13日は1日文月の買物に付き合ったりした。
 
14日に東京に出てきて夕方から北新宿のTKRでアクアの新曲発表記者会見をした。
 
その後、青葉は千里1が結婚前で色々忙しくしているのではないかと思い、手伝うことがあったら手伝おうと思って千葉に行こうと思ったが、念のため千里1の携帯に電話を入れてみた。
 
するとまだ用賀にいるというのでびっくりする。行ってみると千里は必死で作曲作業をしていた。
 
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「ちー姉、千葉に行かなくていいの?」
「それより私はこの曲を今日中に完成させなければ」
 
話を聞いてみると、結婚式までに仕上げればいいと言われていた曲を申し訳ないが早めに仕上げてほしいと連絡があったらしい。
 
入力は手伝う必要がないようなので、青葉は食糧を買ってきてあげたりして側面サポートをした。
 
「でも全然荷造り進んでないみたいだけど」
「とても引越なんてできない」
「でも新婚旅行終わったら向こうで暮らすんでしょ?」
「無理。それでは仕事できない」
「同居しないの〜?」
「5月くらいには一段落しそうだから、そしたら身の回りのものだけ持って向こうに行くよ。そして毎日ここに通勤してくる」
 
「だったら千葉にマンション借りて、ここにある装備をそこに持っていったら?」
「あ、それでもいいかな」
「じゃ私が手配しておくよ」
「助かる。頼む」
 
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それで千里が何とかその曲を仕上げて天野に送信したら、雨宮先生から
「済まないけど、今日中に1曲書いて欲しい」
と言われて、さすがの千里も絶句することになる。
 

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上島雷太を含む30名ほどの政治家・官僚・芸人などを近日中に逮捕するという決定は、実際には東京地検特捜部の会議で、3月14日に決定された。
 
証拠隠滅などを防ぐため、極秘ではあったのだが、これだけの大量逮捕をするにはどうしても多数の人間が動くことになる。
 
この3月14日の内にこの情報を掴んだのは、音楽関係者では、紅川勘四郎会長、雨宮三森、そして虚空と千里の4人であった。
 
虚空はいよいよ来たなと考えて、兼ねてから用意していた楽曲のいくつかの仕上げ作業を始めた。千里も《きーちゃん》と話して、千里1・千里3に準備していた楽曲の調整作業を依頼するのだが(それで作業途中のものは仕上げを急いでもらった)、ふたりが話し合っていた所にコスモスから(天野貴子に)連絡があり、上島先生の作品が使えなくなるので緊急に代替作を書いてもらえないかと言われたので、こちらもその作業を始めようとしていた所だと話した。
 
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コスモスは紅川会長からの連絡で作業を始めていたのだが、天野に連絡してみたら、そちらも動き始めた所と聞いたので、この時点で結構な人が察知したのかなと思ったのだが、音楽関係者で知っていたのは、まだごく少数だったのである。
 
ちなみに政界関係には絶対に漏れないように、今回の東京地検のプロジェクトでは政界とコネクションがあるかもしれない検事や職員を外して、わずか5人の検事と7人の職員のみで、極秘に作られたクローズドなSNS "Untachable"を使って進められており、そちら方面には一切情報漏れを起こさなかった。それで代議士Sも都議Tも逮捕状を提示されて驚愕していたらしい。
 
(但し代議士Sの逮捕は国会開催中なので、法相の認可の上、議院運営委員会で承認され、国会本会議でも承認されなければならないので、逮捕状の執行は他の逮捕者より1日遅れになった。この時期、政府は重要案件を抱えており、野党の闘争材料にされたくないので速やかに承認した。なおSの秘書は19日朝に全員逮捕されていたので、Sは証拠隠滅のしようもなかった)
 
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コスモスから連絡を受けた天野貴子(きーちゃん)は頼まれた10曲を結婚式を直前に控えた千里1を避けて、2番と3番に5曲ずつ割り振り、千里1には(結婚式に掛かってしまい遅れると困るので)今頼んでいる分を少し前倒しに仕上げて欲しいと連絡した。それで1番は16日までに仕上げる予定だったものを頑張って14日(実際には15日朝)までに仕上げた。
 
ところが千里1が
 
「仕上げた!少し結婚式の準備しなくちゃ!」
 
と思っていた所に、雨宮先生から直接
 
「緊急ですまん。16日までに、これこれこういう趣旨の曲を書いてくれ」
という連絡があり、千里1は悲鳴をあげることになるのである。
 

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