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■△・瀬を早み(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-07-16
 
16時頃、休日出勤していた貴司が会社から戻ってくるが、千里2は貴司が千里中央駅を出たのを察知した所で、いったんマンションから退出した。戻ってきた貴司に保志絵はあらためて千里のことを尋ねたが、貴司の返事は全く要領を得なかった。
 
「実際問題として、今あんたと千里ちゃんはどのくらいの頻度で会ってるのさ?」
「だいたい月に1度は会ってる」
「寝てるんだよね?」
「それが千里は絶対させてくれないんだよ。僕と阿倍子が離婚するまでは、結婚している男とセックスなんかできませんと言って」
と貴司が情け無さそうに言うと、保志絵は吹き出した。
 
「じゃデートするけどセックスしないんだ?」
「同じベッドには寝てくれるんだけどタッチ禁止。キスも禁止」
「中学生カップルみたい!」
「中学生の頃はセックスまではしてなかったけどキスはしてたよ」
「はいはい」
 
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「今回、千里は自分たちの関係を解消したいからと言って、お揃いの携帯ストラップも送り返してきたんだけど、僕はこれだけは持っていて欲しいと言って返送した。千里もだったら机の引出しにしまっておくと言っていた」
 
と貴司は言っていたが、保志絵はさっきまで居た千里が自分の赤いガラケーにちゃんと金色リングのストラップを付けていたのを見ている。おそらく千里が3人に分裂した時、リングのストラップも3つに別れ、1番の千里はそれを机の引出しにしまっても、2番の千里はずっと自分の携帯に付けているのだろうと保志絵は思った。
 
そして保志絵は貴司が自分のスマホにちゃんと金色リングのストラップを付けているのを確認して、満足した。
 
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阿倍子は遅くなっているようであったが、保志絵は
 
「今日は帰るね」
と言って、京平をハグしてからマンションを出た。
 
そしてマンションの外で千里2と合流し、一緒に伊丹に向かった。
 
千里中央17:46-17:59伊丹空港18:55-20:40新千歳空港
 
保志絵は大阪に来る時にも新千歳から飛んできていたので、新千歳空港の駐車場に自分の車ハスラーを駐めていた。それで千里2がそのハスラーを運転して、取り敢えず札幌に向かった。
 
飛行機の中で、そして車の中で千里と保志絵はたくさんお話をした。終始千里は泣いていた。その涙を保志絵は貴司への愛の証だと感じ取った。
 
「本当に千里ちゃん、翻弄してしまってごめんね。千里ちゃん、泣くこともできなかったんじゃないの?私の前では、いつでも泣いていいんだからね」
 
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「はい、ありがとうございます」
と千里2は涙をぬぐいながら答えた。
 
21時半頃、予約していた札幌市内のホテルに到着する。
 
このホテルには既に、理歌・美姫・玲羅が保志絵からの連絡で来ていて、先にチェックインしていた。その部屋番号を理歌から訊いて2人はその部屋へ行く。
 

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「みんな、心配掛けてごめんね」
と部屋に入るなり、千里2は妹たちに謝った。
 
「姉貴、どういうことなのか説明して欲しい」
と厳しい声で玲羅が言う。
 
「じゃ説明するね」
と言った千里は、持参のホワイトボードに1、2、3という数字を書くと
1 03-37**-****
2 080-****-****
3 080-****-****
 
と3つの電話番号らしきものを書いた。1は固定電話の番号のようである。
 
「理歌ちゃん、2番の番号に掛けてみてよ」
「うん」
 
それで理歌が掛けてみると千里が持っている赤いガラケーが鳴る。
 
「はい、もしもし。通話できるね」
「何の実験?」
 
「理歌ちゃん、今度は3番の番号に掛けてみて」
「うん」
 
理歌は首をひねりながら電話を掛ける。
 
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「はい。千里です。理歌ちゃん、どうしたの?」
と、とても明るい千里の声が聞こえるので理歌は仰天する。
 
スマホから漏れてくる声を聞いて、美姫と玲羅も驚いている。
 
目の前の千里は無言で微笑んでいるだけである。
 
「あ、お姉さん。今、良かった?」
と理歌は訊いた。
 
「うん。さっき練習が終わってマンションに帰った所なんだよ。10月7日から今年のWリーグも開幕するし、去年はやや不本意な成績だったから今年は頑張らなきゃってんで、みんな練習に熱が入っているんだよね」
 
と話す千里の声は元気がみなぎっている感じだ。
 
「わあ。頑張ってね。今年もオールジャパン出るんだっけ?」
「出るよ。まあ正式には11月に予選を勝ち上がってきたアマのチームと対決して勝ったら出られるんだけど、負けることはないよ」
 
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「だったら、見に行こうかなあ」
「来るんだったらチケット確保しておくよ。何人で来るか決まったら教えて」
「はい、お願いします!」
 
そんな話をして、理歌は千里(千里3)との通話を終えた。
 

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「電話の向こうに居たのも千里さんだった。これどうなってんの?」
と理歌は目の前にいる千里(千里2)に尋ねる。
 
「ほんとに困っているんだよね〜。1番の番号には玲羅が掛けてみる?」
と千里2は言ったが、玲羅は腕を組んで考えるようにしてから言った。
 
「その電話番号の向こうにも、姉貴がいる訳?」
「そうなんだよ。よく分かったね。川島信次と結婚しようとしているのが、その1番の千里だよ」
 
「じゃ・・・えっとここに居る姉貴、2番は?」
 
「私は貴司の妻だよ」
と言って、千里は左手薬指をみんなに見せた。そこには金色の結婚指輪と1.2ctの巨大なダイヤモンドの付いた金色の婚約指輪が輝いている。
 
「姉貴、3人いる訳〜!?」
 
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「パスポートのやりくりが大変だよ」
などと千里2は言っている。
 

「いつから3人いるんですか?最初から?」
と美姫が訊く。
 
「この春に私、落雷に遭ってさ。その時のショックで3つに別れてしまったみたい」
 
「うっそー!?」
 
「3人の千里は各々、他の千里のことを知らなかった。でも私は分裂した後の周囲の人たちの不可解な反応を見ていて気付いた」
と千里2は言う。
 
「どうしたら人間が3つに分裂する訳?姉貴って人間だよね?」
「そのつもりだけどなあ」
 
「うーん・・・」
 
「まあそういう訳で1番は川島信次と結婚しようとしているみたいだけど、私が観察するに、この人、貴司以上の浮気者みたいでさ。あ、ごめんね、お母さん」
と千里は保志絵を見て言うが
 
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「いいよいいよ、ほんとに貴司はどうしようもない浮気性だから」
と、保志絵は匙を投げた言い方をする。
 
「だから千里1と川島さんは半年程度で破綻して離婚に至ると思う」
「はぁ・・・」
 
「だから放置でいいかな、と」
 
「千里ちゃん、貴司もあと4ヶ月で離婚すると言っていたね」
「それも間違い無いと思います」
 
「だったら兄貴が離婚して、千里姉さんもその川島さんと離婚して、半年後の2019年1月くらいには千里姉さんと兄貴が再婚できる感じ?」
と理歌は訊いたのだが、千里は少し悲しそうな目をして言った。
 
「私と貴司が結婚できるのは多分2021年」
「そんなに掛かるの!?」
 
「色々面倒な問題が起きそうなんだけど、私にも今の段階では何が起きるのかよく分からない」
 
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玲羅も理歌も美姫もお互い顔を見合わせながら悩んでいた。しかしやがて理歌が言った。
 
「でも千里姉さんが兄貴を諦めていなくて、千里姉さんの占いでいづれは兄貴とちゃんと結婚できるということだったら、私たちは引き続き、千里姉さんは兄貴の奥さんと思っていていいよね?」
 
「そう思ってくれると嬉しい。私は貴司の妻だし、京平と環菜のお母さんだから」
 
「かんな?誰ですか?」
 
「貴司の2人目の子供」
「そんな子、いつ生まれたの?」
「たぶん来年の秋くらいに生まれると思う」
「へー!」
 
「“かんな”って名前なら女の子?」
と理歌が訊くと、千里は
「それが男なのか女なのかよく分からないのよね〜。男の子で“かんな”って人もいることはいるし」
 
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千里・保志絵、玲羅・理歌・美姫の5人の話し合いはその夜遅くまで続いたが、全員、千里2を引き続き貴司の妻と考えること、そして3人の千里がいづれひとつに戻るまで様子を見ていくことで同意した。
 
「それでさ、玲羅、悪いけど、うちの母ちゃんと一緒に1番と信次さんとの結婚式に出席してくれない?」
 
「嫌だ」
「そこを何とか」
「姉貴はいい訳?」
「私も不愉快だけど、1番を悲しませたくもないんだよ」
 
「ああ・・・・」
と言って玲羅は悩んでいたが
 
「少し考えてみる」
と答えた。
 
「うん、よろしく」
 

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10月、千里1はアクアのマネージャー山村勾美(こうちゃん)から
 
「醍醐春海先生、アクアに関して色々よくないことなども起きているので、みんなで厄払い旅行に行こうという話になったんですよ。よかったら10月11日にご一緒頂けませんか?」
と打診された。
 
(この時点で《こうちゃん》はまだ千里の分裂に気付いていない)
 
「厄払いですか・・・どこかの神社かお寺ですか?」
「東京の住吉神社、大阪の住吉大社に行った後、多賀大社、伊勢の神宮で打ち上げです」
と勾美は答えた。
 
「山村さん、神道にお詳しいみたい」
と千里が言う。
 
「え?」
 
「“伊勢神宮”ではなく“伊勢の神宮”とおっしゃったから」
「ああ。『伊勢神宮』なんて言葉を発したら、神道に少しでも知識のある方からは冷たい視線で見られますから」
 
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「そんな名前の神社は存在しませんからね。あそこは何も修飾語の付かない“神宮”。でも神道に関わっていても、これ分かってない人結構いるんですよ」
と千里は言った。
 
千里1は作曲の依頼がここの所少し増えていてスケジュール的には結構辛い状態ではあったものの、旅行をすれば新たな発想が得られるかもと考え、了承した。そして2軍のキャプテンに10月11-12日の練習を休ませて欲しいと連絡しておいた。
 

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それで千里1は10月11日(水)に、アクアの厄払いツアーに参加した。参加者は下記9名である。
 
アクア(F)、紅川勘四郎(§§ホールディング社長)、緑川志穂(アクアのマネージャー・会計係) 、三田原彬子(TKR課長)、松浦紗雪(ファンクラブ会長)、雨宮三森、千里、蓮菜、矢鳴美里(運転担当)
 
朝、東京都内の月島駅前に現地集合だったのだが、アクアの着けている衣装に吹き出す。
 
「龍、何て格好してるの?」
「マリさんに着せられたんです」
とアクアは言っているが、どうも楽しそうだ!?
 
彼女(彼?)はバスガイドの衣裳を着ているのである。松浦紗雪もその衣裳を見てはしゃいでいる。
 
「やはり今後は可愛い女の子の服で出演する路線に行こうよ」
などと言っている。
 
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「それはさすがに世間が許さないので勘弁して下さい」
と言っているアクアが、今日は妙に色っぽい。バスガイドのコスプレのせいか凄く女の子らしいのである。
 

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今回の厄払いツアーは参加者が多かったので日程を3つに分けたらしいのだが、アクア抜きで回るのは間が抜けているので、アクアは毎回参加なのである。同じルートを3度回るので
 
「ボクはもうバスガイドさんの気分です」
と9日の日程の時に言ったら、それを聞いた9日の参加者・マリが
 
「だったらバスガイドさんの衣裳をプレゼントするね」
と言って、昨日わざわざ事務所まで持って来たらしい。それで今日はそれを着ているのである。アクアも悪ノリして
 
「皆様、今から参ります住吉神社でございますが、大阪西淀川区佃(つくだ)にある田蓑神社(たみの・じんじゃ)の分霊をお祭りしたものでございます」
 
などとガイドさん調の抑揚で解説をしている。
 
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「田蓑神社は神功皇后(じんぐう・こうごう)ゆかりの鬼板をお祭りしている神社で、当地の住人たちが江戸に移住した時、この地を埋め立てて人工島とし、出身地と同じ佃の名前を付けたので、ここは佃島(つくだじま)と申します。そして出身地の神社の分霊を勧請してここにこの神社を建てました。御祭神は住吉三神、神功皇后、そして東照権現つまり徳川家康公でございます」
 
「本能寺の変が起きた時に家康公は大阪に居ましたが、このままでは危ないと判断し、有名な伊賀越えをして岡崎に戻ります。この時大阪の佃村の住人たちが家康公の脱出に協力したのです。それから家康公と佃村の住人たちの協力関係は始まり、家康公が佃村の住人に全国の漁業権を与える一方、彼らは家康公の隠密のような役割も果たしたと言われます。その縁があって、家康公が江戸に下った時、佃村の漁夫33名と田蓑神社の神職が江戸に同行し、ここに人工島を作って住むようになったものです。佃煮(つくだに)は当地の漁民たちが保存食として作っていたものです」
 
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「現在の佃島はこの元々の佃島と隣接していた石川島とが地続きになり一体化したものです。明治になるとこの地に石川島造船所が作られ、現在のIHI−石川島播磨重工業のルーツとなりました」
 
アクアの解説は本当にバスガイドさん並みに詳しい!
 

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