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同じ夜、阿倍子は晴安と密会していた。
ふたりは最近何度か町で遭遇したりして、結構長時間話していたのだが、この日は晴安が
「プレクリスマスデートしない?」
と誘ったのである。阿倍子は貴司が23日は仕事で帰れないと言っていたのを思い起こす。きっと千里とデートするのだろうと思ったものの、この4年間さんざん浮気をされて、阿倍子もどうでもいい気分になりつつあった。
離婚はいつ頃かなぁ、などと思っている。京平にも
「ママがお父ちゃんと別れたら、京平どちらに付いていく?」
などと訊いていた。阿倍子は京平が自分より千里の方が好きみたいだというのを感じていたので、きっとお父ちゃんの所に行くと言うと思った。
ところが京平は
「ボク、ママと一緒に居るよ」
と答えたので、阿倍子は感激して京平を抱きしめた。
この時点で京平はお父ちゃん(貴司)とお母ちゃん(千里)が結婚するのはたぶんまだ3年くらい先で、お父ちゃんは短期間別の女性と結婚することになると泳次郎様から聞いていたので、知らない女の人と暮らすよりママ(阿倍子)の方がいいと思っていた。またママがあまりにも虚弱体質で自分でもいいから付いてないと危なっかしいと思っていた。必要な時はお母ちゃん呼べばいいし、と考えている。最近ママとお母ちゃんって何だか仲が良いし!?(なぜ仲良くできるのかは京平の理解を超えている)
この日阿倍子は京平を託児施設に預かってもらい、ふたりは京都で密会したのである。
晴安は女装だった。
「その格好で来るとは思わなかった」
「僕はできたらずっとこの格好で暮らしたい」
「だったら将来私と結婚することがあったら、そういう格好で家の中に居てもいいよ」
「外出は?」
「ひとりでどうぞ」
それでもふたりは、まるで女の友人同士のように祗園界隈から先斗町界隈まで歩き、リーズナブルなお店で食事をし、その後(晴安が)予約していたホテルに入った。ホテルの前まで来たとき、阿倍子は一瞬晴安を見たものの、抵抗はしなかった。
「ここで何するの?」
と部屋の中でベッドに腰掛けて阿倍子は訊く。
「君が欲しい」
「私たちどちらも結婚しているよ」
「それでも欲しい」
「ふーん」
と言ってから阿倍子は
「シャワー浴びてくるね」
と言って浴室に行き、お化粧を落とし、身体を洗った。そして身体を拭くと裸で浴室を出てベッドに入る。
「私疲れたから寝るね〜〜〜〜〜」
と言って目をつぶる。
そして5分後、阿倍子は10年ぶりの快感を感じることになったのである。
(阿倍子は前夫と結婚していた頃、最後の方は体外受精しかしていなかったのでセックスはしておらず夫婦仲は完璧に冷え込んでいた)
「ね。僕も妻と別れるから、君も旦那と別れない?慰謝料が必要ならビットコインが値上がりしているの売却して、お金作るから」
と晴安は言ったが、阿倍子は微笑むだけで、明確な返事はしなかった。
信次と千里がデートしている千葉市郊外のホテルでは、1回戦が終わった後、2人とも少し眠ってしまった。やがて起きた所でお酒でも飲もうよと言って、冷蔵庫の中で冷えている冷酒を出してタンブラーに注ぎ乾杯する。
千里は雨宮先生のお陰でワインには結構詳しくなっているのだが、日本酒はあまりよく分からない。しかしこのお酒はけっこう美味しいと思った。
「これ美味しいね」
「うん。僕も美味しいと思った」
などといった所から、しばらく会話をする。その会話が途切れた所で信次は言った。
「今は僕が千里ちゃんに入れたから、今度は千里ちゃんが僕に入れてくれない?」
「え〜?」
と千里は驚いたものの、
「ひょっとして入れられるのが好きなの?」
と訊く。
「あ、いや、ちょっとどんな感じかなあと思って」
「私下手だよ」
「下手でもいいよ」
「じゃ」
それで千里は“男役セット”を装着し、コンちゃんを付ける。信次は仰向けに寝て膝を曲げ、入れやすい体勢になっている。それで千里は角度を考えながら、ゆっくりと入れてあげた。こういう体勢を知っているって、ひょっとして、あちらなのかな〜?とも思う。それにそもそも、凄くスムーズに入った。まるで女性に入れているみたいなスムーズな入り方だった。
これはここを未経験の人ではあり得ないと千里は思う。入れられるのに慣れていないと、ここは堅くて簡単には入らないのである。何度も入れている内に、ちゃんと入るようになるのでAを使う風俗嬢などは自分で入れてかなり練習している。
ふーん。もしかしたらもしかしてなのかな?などと千里は思った。だったら私、信次の期待にはこたえられないけど、と思いながらも、まあいいよねと思って、千里は信次に覆い被さった。
この夜、美映と貴司のセックス(?)、千里1と信次のセックス、阿倍子と晴安のセックスは同時進行で行われた。
さて、貴司は“千里”以外とはセックスできない呪が掛かっている。過去にこの呪を破ってまんまと貴司とのセックスに成功したのは、千里に変装してセックスし、光太郎の肉体を作るための精液を獲得した虚空のみである。
また一方、京平は半ば無意識に「ママとパパが仲良くして欲しい」という呪を掛けていて、阿倍子は貴司と結婚している限り、“貴司以外の男性”とはセックスできないようになっている。
(京平は物理的年齢は2歳でも“中身”は中学生男子程度なのでセックスについても知っている)
この「貴司は千里以外とセックスできない」「阿倍子は貴司以外とセックスできない」という、2つの呪は対立していて、その結果ひじょうに微妙なことがこの夜起きたのだが、その全容を知っていたのは《くうちゃん》のみであった。
■要点
・貴司の男性器が美映の女性器に接触した瞬間、貴司に掛かっている呪により、美映の女性器が千里1の女性器と交換されてしまった(次の生理または出産まではそのままになる)。
・晴安が阿倍子に入れようとした瞬間、晴安の男性器は“京平の呪に違反しないもの”と一時的に交換されてしまった(こちらはセックスが終わると元に戻る)。
■Timeline
22:00 信次P→千里V
22:30 貴司P→美映(V=千里)
23:00 千里D(本当は晴安P)→信次
23:00 晴安(P=千里D)→阿倍子V
信次と千里の1回戦で、信次は“生で”千里1に入れている。これは実は2人の最初で最後の生セックスとなった。
次に貴司と美映が遊んでいた時、既に美映の女性器は千里のもの(30分ほど前に信次のを受け入れている)に入れ替わっている。
ここで美映は、貴司の男性器から、いわゆる“がまん汁”が出ていて、その中の精子が自分の女性器に進入して受精に至ったのではと考えた。しかし実はこの女性器はそれ以前に生の男性器からの射精を経験していたのであって、がまん汁も何もなかったのである。
ずっと後、2021年の春に、桃香は「代理出産で、出産の母と遺伝子上の母が違うことがあるのなら、突っ込んだ父と遺伝子の父が違うこともあるかも知れない」と言うことになるが、この発言はかなり鋭い所を突いていた。
その後、千里は***を信次に入れたのだが、同時期に晴安が阿倍子に入れていて、それが京平の呪で阻害されたので、この2つのセックスは入れ替わってしまった。結果的に千里の***が阿倍子に入り、実は阿倍子に10年ぶりの快楽を感じさせたのは千里である。そして晴安は阿倍子に入れたつもりが信次に入れてしまったのである。
阿倍子への思いを遂げ、自身生まれて初めての(完全な)セックスを体験して、晴安は満足して眠ってしまった(晴安は妻の中ではどうしても逝けない)。彼はセックスをしてから1時間後くらいに目覚めるが、阿倍子は熟睡しているようだった。自分が避妊具を付けたままであるのに気付いたので外して、処分しようと思った。
ところがその時、思わぬ異臭に驚く。
これ・・・まさか、僕、入れる所間違っちゃった!?
うっそー!? 初めて女性の中で逝けたと思ったのに。。。
と晴安はがっかりした。
でも・・・阿倍子さんは満足したように眠っているな。彼女も旦那とセックスしてないと言ってたから、そちらでも満足しちゃったのかな?と考えて、次回は気をつけて入れる先を間違えないようにしよう、などと思っていた。
結局、様々な人の思惑の副作用で、晴安と信次がセックスしてしまったのだが、ここで、晴安はGIDだがゲイではないし、信次はゲイだがGIDではない。しかしふたりはこの日は晴安が男役・信次が女役の形で結合してしている。もっともふたりとも自分が男性とセックスしたとは思いもよらない。信次の“そこ”は充分開発されているので、女性のもの並みにスムーズに入る。それで晴安は変な所に入れていることに気付かなかった。
さて、信次は思っていた。
「千里ちゃんって、まるで普通の男性が入れるように入れてくれた。凄く気持ちよかった。やはり千里ちゃんって、基本は男の子なんだね。彼女は僕の理想の結婚相手だ!」
(本当に入れたのは晴安である)
また千里の方は「まるで女性のヴァギナに入れるみたいに」スムーズに入ったことで信次のセクシャリティに疑いを持つのだが、本当に千里が入れたのは阿倍子のヴァギナだったのである!
そして阿倍子は10年ぶりのセックスだったこと、晴安とは初めてだったことで多少の違和感はあったものの、晴安って女の子になりたいみたいだし、男性としては弱いから、このくらいだろうと思い、自身としては充分気持ち良かったので、満足して熟睡したのであった。
千里は信次の前立腺を刺激してあげたつもりだったが、結果的に阿倍子はGスポットを刺激されて気持ち良かった。
11月下旬、生理がずっと来ないことから、私どこかで間違って妊娠した?と不安になった多紀音は産婦人科を訪れてみた。
取り敢えず「妊娠」はしていないことを確認されてホッとする。セックスした覚えはないのだが、セックス無しで妊娠することもあるという話は聞いたことがあった。
ただ生理がもう2ヶ月近く来ていない理由について、医者は首をひねった。
「お薬も出しますので毎日飲んで下さい」
「分かりました」
「年内にもう一度来てください」
「はい」
12月4日(月).
テレビ番組としては最後の放送となった今年のYS大賞授与式が東京プリンスホテルで行われた。この授与式には千里2が出て行った。今年は千里が関わる歌手が何人も受賞していたのだが、千里は『マイナス1%の望み』を歌った品川ありさの席に川崎ゆりこと一緒に座った。アクアの所には青葉と絹川和泉が座った。
千里はゴールデンシックスの演奏の時に出て行ってフルートを吹いた。実は美空は最初からゴールデンシックスの席に座っていたので、KARIONのメンバーの中でこの部屋に居なかったのは小風だけであった!
12月初旬、信次は総合病院に1日入院して、組織検査を受けた。検査結果は1週間後に出た。
「良性ですね。手術して取り除くか、あるいは薬などで対処するかは、経過を見て判断しましょう。また来月来院してもらえますか?」
「あ、はい」
信次は、俺病院好きじゃないのにと思いながら答えた。
康子は毎朝近くの神社まで歩いて行って参拝するのを日課にしていたのだが、その日康子がいつものように100段の石段を登り拝殿で参拝してから、石段を降りようとした時、急に暗くなるので見ると、太陽が厚い雲に遮られた所だった。しかも、その雲の前を黒いカラスが横切っていった。
康子は急に胸騒ぎがした。
神社に戻り、拝殿の中に入って、おみくじを引く。末吉である。文章を見ていく内にこの下りが気になった。
《病気 神仏の加護を祈り、良き医師を求めよ》
康子は先日信次が1日入院して検査を受けたことと、この文章がつながっているような気がした。