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■△・瀬を早み(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-07-20
 
2017年11月3日、千里1は川島信次と結納をおこなった。千里1は玲羅に出席を打診したのだが「私はこの結婚には反対だから、結婚式については考えてもいいけど、結納は出ない」と言われてしまい、結局母だけが東京に出てきてくれることになった。
 
千里の母は、2011年に貴司との縁談が壊れてしまったこと、そしてその後も千里がその貴司と不倫関係を続けていたようであることに心を痛めていたので、その千里が別の男性と結婚することになったというのを喜んでくれたのである。その様子を玲羅から聞き、千里2が罪悪感を感じた。
 
そういう訳でこの結納は、千里(千里1)・津気子、信次、康子の4人だけで行われたのであった。康子と津気子は初対面になった。
 
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結納式を手順通りに終えた後で、4人は式の日取りについて話し合い、3月17日(土)友引に挙式をおこなうことを決めた。
 

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この結納が行われた日、多紀音はこの結納を何とかぶち壊せないかと、そのホテルまで出てきた。フォーマルドレスを着てホテルのフロントに行き、関係者のようなふりをして
「川島家と村山家の結納は何号室でしたっけ?」
などと訊く。
 
「913号室でございます」
とフロントの女性は答えた。
 
それで多紀音はエレベータで9階まで上り、913号室を探す。
 
ところが見つからない!
 
エレベータを降りて左手に901-915と書かれていたので、そちらに歩いていったのだが、912号室の向かいは914号、隣は915号なのである。
 
「あれ〜?どこ〜?」
などと思いながら、キョロキョロしていたら、
 
「危ない!」
という声がする。
 
え!?と思って振り返るとワゴンに食器を積んだホテルスタッフが目の前にいる。そして次の瞬間、ガチャンという音がして、ワゴンは多紀音に衝突し、食器が崩れるようにして多紀音の上に落ちてきた。
 
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「お客様!大変申し訳ございません。お怪我はありませんか?」
と言って、女性スタッフが歩み寄る。
 
「大丈夫」
と言って立ち上がったものの、洋服が酷いことになっている。食器は全て金属製だったので、壊れたりもせず、おかげて多紀音も怪我したりはしなかった。
 
「洋服は弁償致します」
「大丈夫ですよ。安物だから」
「でしたら、クリーニング代を」
 
と言って、ホテルスタッフは自分の財布から福沢諭吉を3枚取り出して多紀音に渡した。
 
クリーニング代にしては多すぎる。しかし、このスタッフはこのことを上司に知られたくないのかもと思った。
 
「ありがとう。私も不注意だったかも」
「どちらかの結婚式にでもご出席でしたか?」
「いや、帰る所だったの。だから大丈夫」
 
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この時、多紀音はあまり騒ぎになって、それが信次に見られたら、言い訳ができないという気持ちがあったのである。それでお着替えになるなら、どこか部屋を開けますのでとスタッフが言うのを辞退して、急いでエレベータに行き下の階に降りて逃げ出してしまった。
 
その後ろ姿を見てホテルスタッフに扮した《びゃくちゃん》は、
「まあ殺したのがバレたら後で千里に叱られそうだし。死なない程度にしておかなくちゃ」
などと独り言を呟いた。
 
なお、このホテルに913号室というのは存在しない。
 

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ちなみにこの結納の日、千里2は郷愁村でローズ+リリーの制作会議に出て、その後、マリと囲碁対決をしたのをPV用に撮影されていた。
 
また千里3は明日のWリーグの試合に向けて川崎の体育館で練習に熱が入っていた。千里3は自分が結婚しようとしているなんて全く知らない!
 

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千里と貴司はだいたい毎月1回下旬にデートしているのだが、9月23日は日本代表の祝賀会が都内であったので、千里3は貴司に
 
「悪い。今月はどうにも都合が付かないからいつものデートはパスさせて」
とメールを送っておいた。
 
そのメールに貴司は首をひねった。千里からは「結婚するからもう会わないようにしよう」とお手紙が来たばかりだったので、会わないのは当然だろうと思っていた。また、千里との関係が終わってしまったと思い込んだので、美映にハマり込んでいったのもあった。
 
10月22日は千里3は21-22日に名古屋でWリーグの試合があり、22日は貴司も大阪実業団のリーグ戦があったので、22日夜、大阪市内のホテルでふたりは密会している。千里が試合後大阪に移動して一緒に食事をし、ホテルで一晩過ごしている。阿倍子には何も言っていないが、貴司が自宅に戻らないのは最近日常茶飯事になっているので、貴司が帰宅しなくても彼女は何も言わない。正直、貴司も阿倍子も自分たちの破綻は時間の問題と思っていた。
 
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千里と貴司は、基本的に毎月下旬の22日に近い休日に、わざわざ事前に約束しなくても必ず大阪市内のNホテルで会っている。予定を変更する時だけ連絡することにしている。10月22日、貴司は「今月は来てくれないかなあ」と思いながらNホテルのエントランス付近に居たら、千里が来てくれたので、凄く喜んでいた。
 
「どうしたの?今日は」
と千里(千里3)は不思議そうに尋ねる。
 
「だって千里が来てくれたから」
「毎月会ってるじゃん。先月は全日本の祝賀会で来れなかったけどさ」
「そうだよね」
 
例によって貴司は千里にセックスしたいと言ったが、千里は例によって結婚している男性とセックスなんかできない言い、結局貴司が自分でするのを千里が見ていてあげた(貴司はそばに千里が居ない限り自慰もできないように男性能力が封印されている)。
 
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「ね、貴司。年明けくらいに2人目の子供を仕込みたいんだけど」
 
千里3も2018年の秋に小春を産み直すことになっているのは知っている。それは千里の卵子と貴司の精子を結合させて身体を作らなければならない。また千里3も《きーちゃん》から、小春が2017年7月に“狐としての生”を終え、中有の世界に旅立ったことを聞いている。
 
「それ阿倍子に妊娠させるの?」
「貴司が妊娠してもいいけど」
 
実際千里3も、実質は自分が妊娠するにしても、誰かに形式上の母になってもらう必要があることを認識している。それは貴司が阿倍子と結婚しているのであれば阿倍子でもいいかと思っていた。むろん貴司でもよい!
 
「僕は妊娠できないと思う」
「やってみないと分からないよ。男の娘のはずの私だって妊娠したんだから」
 
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といって、千里はバッグの中にいつも入れているDNA鑑定書を出して見せる。
 
「そうなんだよね。京平は僕と千里の間の子供なんだよね、間違い無く」
 
「これもあるけど」
と言って千里3はふたりの婚姻届も見せる。
 
「それほんとにごめん」
「まあいいよ。貴司が阿倍子さんと離婚するまでこれで虐めるから」
 

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11月4-5日には小牧市で全日本社会人バスケットボール選手権大会が行われ、東京の40 minutesが同じく東京のジョイフルゴールドを破って優勝した。
 
両者は全日本の東京都大会決勝でも激突し、そちらは40 minutesが涙を呑んだのだが、社会人選手権では雪辱を果たした。ローキューツは3位だった。
 

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11月6日(月).
 
千里1は信次・桃香と一緒に新幹線で仙台まで行き、2015-2016に和実の代理母出産をしてもらった病院を訪れ、あの時と同様にして、卵子を採取して体外受精をした上で代理母さんにお願いして子供を作りたいと言った。
 
ここで医師は3人を見て勘違いしていたのだが、最初そのことに双方気付かなかった。
 
「なるほど。ご友人から卵子を提供してもらって、ご夫婦の子供にしたいんですね」
 
「はい、特別養子縁組です」
「ただ特別養子縁組は、法的な夫婦でないとできないんですよ」
「ちゃんと法的に夫婦になるから大丈夫ですよ」
「養子縁組で戸籍をひとつにしていてもダメなんですよ。婚姻でないと」
 
「大丈夫です。ちゃんと法的な性別も女性に変更終了していますから婚姻できますよ」
と信次が言った。
 
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「ああ、そうなんですか!失礼しました。では本当に高園さんと川島さんが婚姻した上で、村山さんの卵子の提供を受けて高園さんの精子と結合させるんですね。でしたら、念のため簡単な検査をしたいので、高園さん、精子をこれに取ってもらえませんか?そちらの採精室の中で」
 
と言って、医師はガラスの容器を桃香に渡す。
 
「それと村山さんには卵巣年齢を確認するための血液検査をお願いしたいのですが」
と更に医師は言う。
 
「えっと・・・」
と桃香は容器を持ったまま一瞬考えたものの、医師が役割を勘違いしていることに気付く。
 
「済みません。精子を提供するのは川島で、川島と夫婦になるのが村山で、私が卵子提供者なのですが」
と桃香が言うと
 
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「え?川島さんは性別を女性に変更できたのに、まだ睾丸があるんですか?」
と医師は戸惑うように言う。
 
「いえ、私は天然女性の卵子提供者、性転換して女性に性別を変更したのは村山で、その夫になる予定の精子提供者が川島です」
と桃香は説明する。
 
「え!??」
 
そういう訳で、3人の性別を医師に納得させるのに数分かかったのであった。
 
医師は、女性にしか見えない千里を卵子提供者と思い込み、普通に男に見える桃香と信次がゲイの夫婦と思い込んでしまった。そして桃香と信次を見比べると信次の方がいかにも“妻”に見えるので、性別を女性に変更したというのは信次なのだろうと判断してしまったのである。
 
「それ面白そう。私から卵子を取って、桃香の精子と掛け合わせて、信次に妊娠してもらおう」
と千里が笑いながら言うので
 
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「お医者さんを更に混乱させるようなことを言わないように」
と桃香が注意した。
 

若干の混乱の上で取り敢えず信次が精子の採取を行うとともに、性病やAIDSに感染していないかを確認するため、結局、3人とも血液検査をされた。
 
実際の代理母のプロジェクトは婚姻届が受理された後、戸籍謄本を提出してからでないと契約ができないということだったので、この後は、入籍後に進めることになる。
 
血液検査等の結果は郵便で3人各々に通知されたのだが、千里(千里1)は自分が受け取った検査結果の中に
 
「アンチミュラー管ホルモン(AMH)は8.5ng/ml(*1)で、あなたの卵巣年齢は20歳くらいです」
 
という文章が印刷されていたのは、気にしないことにした!!
 
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(*1)AMH(Anti muellerian hormone) は元々は性分化を司るホルモン、正確には「女性化を防止するホルモン」である。胎児の未分化な中腎組織に精巣から分泌されたAMHが作用すると、ミュラー管の発達が抑制され、代りにウォルフ管が発達して精巣上体や精管が形成される。一方、女性の場合はAMHがほとんど存在しないため、ミュラー管が発達して卵管や子宮が形成される。
 
AMHは成人女性の場合も前胞状卵胞(二次卵胞)の顆粒膜細胞から微量ながら分泌される。卵子の元になる原始卵胞は約375日掛けて多数のライバルと競いあって排卵直前の卵胞にまで育って行くが、その中で290日ほど競争を生き抜いて発育したのが前胞状卵胞である。AMHの濃度が高いのはこの段階の卵胞がよく形成されていることを表し、より妊娠しやすい状態にあると考えられる。
 
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AMHの基準値は、資料によりかなりの差異があるのだが、20代では7-8ng/ml以下(平均4ng/ml)、30代で4-6ng/ml以下(平均2ng/ml)、40代になると1-3ng/ml以下(平均0.5ng/ml)くらいである。千里の数値は実際には10代後半くらいの女性の数値だが、判定プログラムには20代未満まで判定するケースが想定されておらず「20歳くらい」と表示されたものと思われる。実際10代で不妊治療をするのは普通考えられない。
 
実際問題として千里の卵巣は2000年9月に骨髄液を採取してIPS細胞を作り女性器に育てたものなので、2001年生れの女性の生殖器並みのはずである。つまり千里の卵巣の実年齢は本当は16歳なのである。AMHの数値が高いのは当然である。京平を妊娠した時は実年齢13歳で、ギリギリ妊娠可能な年齢だった。つまりあれは中学生が妊娠出産したようなものである。
 
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11月9日(金)。
 
信次の兄・太一が唐突に女性を連れて実家に来て
「俺この子と結婚したいんだけど、いいよね?」
 
と言った。女性は
 
「片野亜矢芽と申します。突然の訪問申し訳ありません」
 
と礼儀正しく挨拶する。亜矢芽はイギンのフォーマル(実は母親からの借り物)を着ているが、太一はトレーナーに穴の空いたジーンズである。
 
康子は驚いたものの、女性が妊娠していて来年7月に産まれる予定と聞くと
 
「それ私が了承するも何もないじゃん!」
と呆れて言った。
 
「うん。だから追認して」
「まあいいけどね。済みませんね、いいかげんな息子で」
と康子は亜矢芽に謝った。
 
「私もごめんなさい。その日は安全日だからつけなくても大丈夫かなと思っちゃったんですけど」
「あれは、しちゃうと排卵が起きたりするのよ」
「それ、お医者さんからも言われました!」
 
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太一たちは結婚式とか要らないから入籍だけすると言ったのだが、康子が式はちゃんと挙げた方がいいと主張。結局、3月17日に信次と千里の結婚式をした翌18日、今度は太一と亜矢芽の結婚式をすることになった。
 
なお、この時点での戸籍の状態であるが、太一と信次は川島厳蔵と前妻との間の子として戸籍には記載されており、康子は後妻なので、実はふたりの子供と法的な親子関係は無い。更に信次は既に分籍しており、川島家の戸籍にはお互い法的関係も遺伝子上の関係も無い太一と康子が残っている状態である。太一が婚姻のため新しい戸籍を作れば、康子がひとりその戸籍に取り残されることになる。
 
(なお遺伝子的には、太一は厳蔵の愛人・露菜が別の男の種で産んだ子、信次は厳蔵と康子(当時は愛人)の子である。厳蔵には多数の愛人がいた)
 
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