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それで康子は信次を強引に、癌や腫瘍の治療で定評のある大病院に連れて行った。
それで丸一日かけて検査を受ける。医師は言った。
「腫瘍は良性ではありますが、このままにしておくのは良くないです。手術して摘出するのをお勧めします」
医師は併せて抗癌剤や放射線治療もした方が良いと言った。
「でもこの子、今度結婚することになっていて、体外受精で子供も作るのですが」
「でしたら、治療を始める前に精子の保存をなさいませんか?」
「そうですね。念のため保存しようかな。でも4月くらいに体外受精をするので、治療を開始するのはそれ以降とかにはできませんかね?それに今仕事も忙しくて何日も僕が入院すると、会社が困るんですよ」
「分かりました。それでは4月くらいに手術をする方向で行きましょう」
精子の採取は年明けに2度おこなうことにした。
「ご結婚を控えている時期に辛いとは思うのですが、精子の採取の前には1週間ほどの禁欲をお願いしたいのですが」
「ああ、大丈夫です。今私も婚約者も物凄く忙しくて、ほとんどデートできていないので」
12月11-12日、東京北区のナショナル・トレーニング・センターで、女子日本代表のA代表、ユニバーシアード代表、U19代表の合同キャンプが行われた。
フル代表としては、千里や玲央美、湧見絵津子・渡辺純子などが参加している。ユニバーシアード代表では奈々美たちが参加している。U19では福井英美などが入っている。
最初にそのままのチーム同士で練習試合をしてみるも、当然フル代表の圧勝である。ユニバとU19でもユニバが大勝する。
福井英美(ビューティーマジック)は
「この1年で私、物凄く進化したつもりだったのに!」
などと言っていた。
12月16日にはWリーグのオールスターが行われた。今年は大田区体育館が会場となった。
千里(千里3)はもちろん東軍のファン投票で選ばれて出て行った。試合は千里や絵津子・純子らの活躍で101-82で東軍が圧勝。千里はスリーポイント女王とMVPまで獲得した。
なお、東軍は事実上Wリーグのトップ2チーム、サンドベージュとレッドインパルスの合体チームである。↓実際の構成チーム
東軍 サンドベージュ、レッドインパルス、 フリューゲルロースト、ハイプレッシャーズ、シグナススクイレル、バタフライズ
西軍 ブリッツレインディア、エレクトロウィッカ、ビューティーマジック、 ステラストラダ、フラミンゴーズ、ブリリアントバニーズ
ファン投票選出
東軍 田宮寛香・村山千里・湧見絵津子・渡辺純子・夢原円
西軍 水原由姫・神野晴鹿・伊香秋子・馬田恵子・福井英美
11月24日、ビットコインからのハードフォークでビットコイン・ダイヤモンドが生まれたが、若葉たち3人はすぐに売却する方向でプログラムに指示を与えた。新しいビットコイン・ダイヤモンド(BCD)は1BTCにつき10BCDずつ付与されたので3人のBCD付与数は若葉が250万BCD, 千里が35万BCD, 冬子が33.3万BCDとなった。
若葉のプログラムは1月13日に1BCD=0.1ETH(*1)となった所でBCDを売却した。それで若葉は25万ETH, 千里は3.5万ETH, 冬子は 3.33万ETHを得た。3人はビットコインキャッシュもイーサリアムに交換することにした。若葉のプログラムは12月20日に1BCH=4.8ETHで交換。若葉は30万BCH→144万ETH, 千里は3.6万BCH→17.28万ETH, 冬子は3.33万BCH→16万ETHになった。
(*1)ETHはイーサリアム(Ethereum). 他の記号は↓
BTC=Bitcoin, BTG=Bitcoin Gold, BCD=Bitcoin Diamond, BCH=Bitcoin cash,
主な仮想通貨のリストは例えば↓にある。
http://list.wiki/Cryptocurrencies
現在世の中に出回っている仮想通貨(Cryptocurrency/Altcoin)の種類は数千種類に及んでおり、もうとてもその総数は把握できない状態になっている(2018年の年初頃に2000か3000くらいと言われていた)が、そのほとんどが休眠しているか、事実上の詐欺である。
若葉たちは、ビットコインキャッシュ、ビットコイン・ゴールド、ビットコイン・ダイヤモンドから交換したイーサリアムをそのままドルに換えた。1月中旬に1ETH=1300 USDくらいのレートで交換したので、若葉は206.5万ETH→268.5B$, 千里は26.03万ETH→33.8B$, 冬子は24.33万ETH→31.6B$を得た。ここでB$=十億ドルでUSD=112JPYで計算するとこれは各々、3007億円、379億円、354億円に相当する。
3人ともアメリカ国内の銀行にも口座を持っているので、そこにドルのまま出金した。
(若葉はもとより日米仏独伊西に口座を持っている。冬子はアメリカのFMIレコードとの取引のためサマーガールズ出版ニューヨーク支店を設立している。千里はフィラデルバーグにも住所があるので日常の用途のために銀行口座を開設している−でも3人とも各銀行から問合せがあった!)
一方で3人はビットコインも引き上げた。こちらは日本円に換えて国内の銀行に置くことにした。少し送金時間が掛かることを覚悟で日本国内の取引所に移動してから日本円に換える。日本円に換えたのが1月上旬で194万円で交換できたので、若葉は25万BTC→4850億円、千里は3.5万BTC→679億円、冬子は3.33万BTC→647億円ほどになった。
(こちらも3人とも受取口座のある銀行から問合せがあった!!)
結局3人がこの2年間のマネーゲームで得たお金は若葉が7857-100=7757億円、千里が1058-33=1026億円、冬子は1001-20=981億円である。
むろんこの半額を税金として2019年3月に納めなければならない!
(実は納税のことを考えてビットコイン分は日本円に換えた。なお、仮想通貨の取引による利益は雑収入として本業での収入と合算されて総合課税される)
「しかしミュージシャンやっているのが馬鹿らしく感じるくらいの金額だ」
「1000億円って、10万人の男の娘を女の子に性転換させてあげられる金額だ」
「そう言われるとそれほど高額でもない気がする」
「日本全国の男の娘の総数ってどのくらいだろう?」
「30歳以下に限っていえば多分100万人くらい」
「10人に1人か・・・」
「籤でも引かせる?」
「まあこの儲け自体、宝くじにでも当たったと思って、このお金のことは、さっぱり忘れようよ」
「うん、これ忘れて本業にしっかり戻ることが大事」
「落語の芝浜だよね〜」
「若葉の本業は何だろう?」
「ムーランの社長かも」
「おお!頑張ってね」
「温泉も開業するからね〜」
「お客さん来るといいね」
「しかし払う税金は国家への貢献かな」
「勲章くらいもらってもいいけどな」
「若葉の伯母ちゃんの会社はいくらくらい納税してるの?」
「うーん。。。800億円くらいだと思う」
「若葉、それよりずっと多く納税することになるじゃん!」
「うん。私の来年の納税額は多分KDDIとかホンダ並みの納税額になる」
「恐ろしい!!」
「ほとんど個人なのに!」
「だからお母ちゃんから叱られる訳よ」
「なるほどー!!」
「私たちは偶然儲かったけど、逆に数百億円財産を無くした人たちもいるよね?」
「まあそういう人たちの方が多いだろうね」
2018年1月26日、日本の某取引所で仮想通貨NEMが52300万XEM(580億円相当)、取引所の管理の杜撰(ずさん)さから盗まれる事件が発生し、仮想通貨が軒並み暴落する事態が発生したが、その被害額より大きな利益を得た直後の3人は
「何か大したことない金額のような気がする」
などと言い合ったのであった。
12月下旬、多紀音は再度婦人科を訪れた。
まだ生理が再開しないというという話に医師は様々な検査をさせてもらった。その結果、医師はひとつの結論に達した。
「ショックだと思うので気を確かにして聞いてください。これは閉経しています」
多紀音はショックを受けて、その場で床に座り込んでしまった。顔面蒼白になり結局点滴を受けて病院のベッドで1時間ほど休むハメになる。
なんで私がこういう目に遭うの〜?
と考えてから、ハッとする。
これはきっと呪い返しだ。何らかの理由で呪いが跳ね返されてしまって自分に戻ってきた。悔しい。
12月23日(土・祝).
貴司と千里(千里3)は「結婚できなかった5周年」のデートをした。いつもの大阪のNホテルで、いつものようにモエ・エ・シャンドンのシャンパンをあけ、レストランのディナーを食べる。
貴司は千里から昔プレゼントしてもらったラルフローレンのスーツを着ている。千里は今日は豪華な加賀友禅の訪問着を着てきている。
「凄い服着てきたね」
「まあ6周年をやらずに済むといいね」
と千里が言ってみると
「その問題についてはノーコメントにさせて欲しい」
と貴司は言った。
ふーん、と千里は思う。以前は貴司は「自分は阿倍子と離婚しないから期待しないで欲しい」と言っていたのである。やはり1年前の布施暢彦(貴司の従兄)と室峰純奈(冬子の従姉)の結婚式の時から明らかに変わったと千里は思った。その時、千里は“京平の母・細川千里”として結婚式に出席し、保志絵から婚約指輪を再度もらったのである。
阿倍子さんへの離婚慰謝料は3000万円くらい払えばいいかなあ、などと千里は内心考えていた。
食事の後は、予約していた体育館に行き2時間ほど汗を流した。
この日貴司は千里に全く勝てなかった。
「貴司、練習不足!」
「感じた。僕はハイレベルな人との練習が足りないみたいだ」
「やはりBリーグに行きなよ」
「入れてくれる所あるかなあ」
「Wリーグでもいいよ」
「それは絶対入れてくれない!」
「ちょっと簡単な手術を受ければいいんだよ」
「あまり簡単では無い気がする」
「まあ結構痛かったね」
「それに今のチーム状態で僕が抜けると、どうにもならなくなるし」
「貴司がいてもどうにもならなくなっている気がする」
「それはそうなんだけどね」
貴司たちのチームは有力選手がどんどん辞めて行っている。昨シーズンは1部の七位だったが、入れ替え戦に勝利して、かろうじて2部陥落を免れた。今季はここまで1勝4敗だが、残り2試合が強い所ばかりである。残りを負けるとまた今年も入れ替え戦に出ることになるが、貴司は今年の陣容では入れ替え戦にとても勝てないと思っていた。
貴司の会社は2006年に創業者の孫にあたる丸正義邦(42)が双日の課長をしていたのを辞めて新社長に就任した時に生まれ変わった。アイデアマンの義邦氏は様々な新商品を生み出し、就任して1年で売上げを前年の3倍に伸ばした。バスケット部にも力を入れて2007年船越監督を招聘、この年大阪3部で優勝し2部に昇格。貴司が加入した2008年には2部準優勝。2009年には優勝して1部に昇格する。その後1部で優勝争いを続けていた。
ところが2014年、義邦氏は病に倒れ、叔父の昌二副社長(65)が経営の指揮を執ることになるが、次々と大型の受注に失敗する。社内でも昌二氏の経営に反発する社員が増え、内紛のような状態になって、バスケット部を統括していた高倉部長も2015年春に退職した。この時有力選手が2名辞めてbjリーグのチームに転出している。
その後、会社は急激に業績を落として、一時は給料の遅配まで起こす事態となる。それで銀行団により、昌二氏は病床の社長・義邦氏とともに解任され、銀行団は新たに銀行の支店長代理をしていた田中道宗(58)を新社長として送り込んで来た。
田中社長はリストラを進め、不採算部門の閉鎖、研究所と工場の売却まで行い、会社は開発生産型の会社から、アジアの新興企業から製品を買って国内で売るのを主体とする輸入販売会社に変貌してしまう。バスケット部もまず選手枠を10人まで減らされ、スポーツ手当も廃止。練習できるのも曜日限定になり、まともな練習ができない状態になってしまう。船越監督も2016年春に退任したし、大半の選手が辞めてしまった。貴司は実は日本代表の合宿に出ていて、戻って来ると誰も居ないので唖然とした。
貴司はマンションの住宅手当もカットされるのではと思ったのだが、結局貴司がアシスタントコーチ兼任になることで、そのコーチ待遇として住宅手当は維持された。結果的に貴司は辞めるに辞められなくなってしまう。
それで、チームは2016-2017シーズンでは7位に沈み、今シーズンは更に選手枠を8人に減らされ、開幕戦には2部から上がってきたばかりのチームに何とか勝ったもののその後全敗中。それも内容が悪く、全ての試合で大敗している。実際問題として貴司以外には現在まともな選手がおらず、相手チームが貴司にダブルチームを掛けると、なすすべも無い状態である。貴司自身、他のチームメイトとあまりにも実力差がありすぎて、コミュニケーションも取れない状況にある(そもそも貴司は男性と会話するのが苦手)。