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■△・死と再生(8)

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9月の時期は、千里3は海外遠征が終わり、10月のWリーグ開幕に向けて、日々川崎の体育館で練習をしていた。この時期、千里3は《きーちゃん》に勧められて、川崎市内にマンション(2LDK 津田山駅の近くで駐車場代込み16万円)を借りており、そこから南武線でレッドインパルスが練習している体育館(武蔵中原駅の近く)に通っていた。
 
一方結婚問題で悩んでいる千里1も横浜市内(長津田駅の近く)の2軍練習場に用賀のアパートから東急田園都市線で通って、復活に向けての練習をしていた。
 
千里1と3の通勤路は溝の口駅でクロスするが、東急とJRで駅舎も別れているので問題無い。実は通勤ラインをクロスさせることで千里3から千里1にエネルギーを少し注入できる仕掛けが作られている。
 
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千里1はバスケットの力が落ちているとはいえ、実業団扱いの2軍の中では充分強い選手であり、ここで練習をしていると、本人としてもかなり心が洗われていくような感覚があった。実際このバスケット活動が千里1の精神力を少しずつ回復させていくのである。
 
「『千里』から少し力が落ちているから1画取って、登録名『十里』で」
という話も千里1は受け入れていた。
 
それでこの時期、本当にレッドインパルスの1軍には33.村山千里、2軍に66.村山十里が登録されていたのである。両者は別々のバスケ協会登録番号を割り当てられていた。
 
首脳陣はこの2人はたぶん落雷を契機に生まれた二重人格なのだろうと考えていた(その考えはほとんど合っている。しかし物理的にも2人いるとまでは思いも寄らない)。
 
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実際「村山十里」(実は千里1)は午前中に横浜の体育館に姿を表し、「村山千里」(実は千里3)は午後川崎の体育館に姿を現していたので、お昼を境に人格交代していると考えると矛盾が無いのである。(そのようなスケジュールになったのは《きーちゃん》の誘導によるものである)
 
ただ、その場合大事な試合の時に「十里」の方になっていては困るのだが、実際にはちゃんとそういう試合には「千里」の方が出てきているようなのでやはり気合いが入る時は入るんだろうなと首脳陣は考えていた。
 

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そして1,3が日本国内で活動している間に、千里2はフランスのMBFで10月から始まるフランス女子プロリーグに向けて練習をしていた。
 
千里2がマルセイユでバスケの練習をしているのは9:00-18:00の間で日本では16:00-25:00に相当する。千里2は練習が終わると仮眠・夕食後、作曲活動をしてから寝ている。千里2の標準的な睡眠時間はフランス時刻で1:00-6:00で、これはフランスがまだ夏時刻なので日本の8:00-13:00にあたる。もう少しして冬時刻(10月29日から)になると9:00-14:00になる予定だ。
 

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その日、千里Cこと《せいちゃん》はメーカーのSEとの打合せのため都内のメーカーのオフィスに行き、自分の会社に戻る所であった。いつものようにブラウスとスカート姿である。社内で作業している時はジーンズのパンツなのだが、やはり打合せにはスカートを穿くことが多い。
 
「嫌だなぁ。スカートなんて」
などとぶつぶつつぶやきながら、乗り換えのため駅構内を歩いていたら声を掛けられた。
 
「あら、宮田さん?」
 
振り返ると自動車学校の宿舎で同室だった佐倉さんである。
「こんにちは、佐倉さん」
 
「お仕事?」
「いえ。今終わって帰る所です」
「あら、だったらお茶でも飲まない?」
「それもいいかな」
 
《せいちゃん》は「会社に帰る所」という意味で言ったのだが、佐倉さんは「自宅に帰る所」と取った気もした。しかし少しサボりたい気分だったので付き合うことにした。
 
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近くのカフェに入る。
「私ね。再婚したのよ」
と佐倉さんは言った。
 
「あら、おめでとうございます。いい彼氏が見つかったんですね」
「いや、それが元の旦那との再婚なの」
「え!?」
 
「いや、私免許取った後、中古のアリオン買って運転してたら、雨の日にスリップして道路から転落して」
「え〜〜〜!?」
「車は全損だけど私は無事。念のため一週間入院してあれこれ検査されたけどどこも何とも無いって」
「それは良かったです。でもそれアリオンだったから無事だった気もしますよ」
 
「そうなのよ。あいつにもこれ軽だったら大怪我してるよと言われた」
「ほんとですよ。吸収できる衝撃の量が全然違いますから」
「それで入院した一週間、あいつ毎日病院に来てくれて」
「へー!」
 
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「それで私、またあいつに惚れてしまって」
「いいと思いますよ」
「娘たちがお母さんたち再婚しなよとか言うから、娘たちが言うなら再婚してもいいかなと思って」
「嫌いで別れたんじゃないですしね」
 
「でもあいつから運転は禁止って言われた」
「あらら」
 
と言いながらも、その方が地球の平和のためだと《せいちゃん》は思った。仮免試験を7回落としたし、卒業検定も5回落としたらしい。
 
「2度目だから人を招いての披露宴とかしないけど、ふたりで記念写真だけ撮って娘たちと一緒に割烹で御飯食べた」
 
「それでいいでしょうね」
「でもウェディングドレス同士の記念写真なのよ。恥ずかしかったぁ」
「最近多いから問題無いと思いますよ」
 
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「それでさ・・・・私女同士の夜の営みにハマっちゃったかも」
「なんかあれ、終わりがないって言いますね」
「そうなのよ。男と女だと、男が出したら終わりじゃん。でも女同士だと、金曜の夜とか、つい朝までやっちゃうのよ。くたくたになるけど凄く気持ちよくて。あの人が男だった時もあんなに気持ちよくなれなかったのに」
 
「元々男性として弱かったのもあったと思いますよ」
「あ、そうかもね!」
「女同士だとツボが分かりやすいともいいますし。相方さんはもう性転換手術は?」
「手術は5月にやっちゃったのよ。だからまだ結構痛いらしいから、あまり大きなものは入れないようにしてるのよね」
 
向こうに入れるのか!?
 
「まあ少しずつ慣らしていけばいいですね」
と《せいちゃん》は言っておく。
 
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「あいつも性転換手術で生まれ変わったと言ってたけど、私とあいつの関係もいったん死んでまた生まれたのかもね」
「愛は性別を超えるんですよ」
 

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9月22日(金).
 
鱒渕水帆(22歳)は、4月25日に倒れて病院に運び込まれて以来、約5ヶ月ぶりに退院した。
 
入院中は人工透析などもしていて、退院後もずっと必要になると言われていたのだが、今月に入ってから奇跡的に腎臓の機能が回復し、これなら定期的に検査さえ受けていれば、透析までは必要無いですねと言われた。生理も入院中に止まってしまい、こちらはまだ止まったままだ。
 
自分は死の淵から蘇ったのかも知れないなという気がした。
 
秋風コスモス社長からは給料はちゃんと払うから年内は自宅で休養しておくといいと言われた。社長は入院中の医療費だけでなく、その間ずっと付いていてくれた母の東京での滞在費まで出してくれた。母はもう田舎に帰って来なさいと言ったのだが、自分はまた頑張りたいと言い、東京に残ることにした。社長と話し合い、復帰までの間、色々なジャンルのアーティストのライブを見たり、CD/DVDを聴いたりして過ごすことにする。
 
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自分が倒れた後、アクアのマネージャーを務めてくれている四谷勾美さんとも何度か話したが、かなり神経の丈夫な人という感じである。ああ、こういう所は見習いたいなと思った。社長との話し合いで、年明けの2大ドーム公演から四谷さんと鱒渕、それに現在四谷さんのサブに入っている緑川志穂・高村友香の2人と4人体制でアクアのマネージングをすることになる。
 
確かにアクアって3人分くらい仕事してるから、そのくらいマネージャーが居ないと無理かもね。自分はよく1人でやってたなと思った。実際には何度かアクアに付き人を付けたこともあるのだが、あまりの多忙さにめげてすぐ辞めてしまっていたのである。
 

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その日、大阪吹田のマンションに、北海道から貴司の母・保志絵が来ていた。
 
貴司から千里が別の男性と婚約したのでふたりの関係を解消したと聞き、貴司に直接事情を聞くために出てきたのである。
 
CTS 9/24 7:40(JL2000 737-800WL) 9:35 ITM
 
貴司のマンションに到着したのは、10時半頃である。
 
ところが貴司本人はこの日朝から会社に呼び出されて出て行っているということであった。更に実は阿倍子はこの日、実家の権利問題で、従伯母に当たる人(阿倍子の祖母の兄の養女)と話合いを持つことになっていた。
 
「お母さん、申し訳ないんですが、凄く角の立つ話をしに行くので京平は連れていきたくなかったんです。夕方まで見ていて頂けませんか?」
と言って、阿倍子は京平を置いて出て行った。
 
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そういう訳で保志絵は京平と2人でマンションに取り残されてしまった。
 
「まあいいか。今日は京平のおばあちゃんだ」
と言って、京平に絵本を読んであげたり、レゴで一緒に遊んだりしていた。お昼は京平がホットケーキを食べたいというので焼いてあげた。
 
14時頃、訪問者があるが、見ると千里なので保志絵はびっくりする。保志絵はエントランスの開け方が分からなかったが、千里は
 
「大丈夫です。鍵を持っていますから」
と言って、自分の鍵でエントランスを開けてマンション内に入り、エレベータであがってきてから、自分で玄関を開けて入って来た。
 
「千里ちゃん、ここの鍵を持っているんだ!」
「ずっと持ってますよ」
 
と千里は言う。
 
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入って来たのは千里2である。普通に毎日京平に会いに来る時間なのだが、今日は保志絵が来ているということだったので、わざわざ玄関から入って来たのである。
 
「お母ちゃーん」
と言って京平が抱きつくのをしっかり抱きしめる。
 
「今お茶でも入れますね」
と言って千里2はお茶を入れる。千里2はまるで自分の家のように迷わず食器や茶葉を取り出すので、保志絵は半ば感心し半ば呆れて見ていた。
 
マルセイユの街で買ったクッキーを出す。
 
「このクッキー、味付けがヨーロッパっぽい」
「マルセイユのギャラリーラファイエットで買った物です。私最近ずっとマルセイユと日本を往復する日々なんですよ」
「へー!」
 

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千里2はクッキーを食べて一息付いたところで、京平にパパの書斎で絵本を読んでなさいと言った。
 
「はーい」
と言って京平がリビングを出て行く。それを見送って保志絵はごくりと唾を呑み込むと訊いた。
 
「千里ちゃん、他の男の人と結婚するんだって?」
 
すると千里は微笑んで言った。
 
「千里は結婚するらしいですね」
「え!?」
「今電話がかかってきます」
 
と千里2が言った途端、保志絵のスマホが鳴る。千里のアパートの電話番号である。保志絵は首をひねりながら取る。
 
「こんにちは、千里です」
「え!?」
 
と言って保志絵は目の前に居る千里を見た。千里は微笑んでいる。
 
それで電話の向こうの千里は、どうしても結婚してくれと熱心なプロポーズをされて、結婚することになってしまった。貴司さんにも保志絵さんにも申し訳無いのだが、貴司さんとの関係は解消させて欲しいと言った。
 
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それで保志絵は目の前の千里(千里2)を見ながら電話の向こうの千里(千里1)に言った。
 
「ずっと貴司が曖昧な態度を取っていてごめんね。あんた、貴司が結婚してしまってからも、4年も待っていてくれたのにね。千里ちゃんこそ幸せになってね」
と言った。
 

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そして電話を切ってから目の前の千里に訊いた。
 
「どうなってんの?」
 
すると千里(千里2)は言った。
 
「私も困っているんですけどねぇ」
 
そして愛用のバーバラウォーカーのタロットを取り出すと並べる。
 
「貴司さんと阿倍子さんはあと4ヶ月で離婚します」
と言って《世界》と《剣の4》のカードを見せる。
 
「え〜〜〜!?」
 
「そして千里と川島さんの結婚も10ヶ月後、つまり来年の7月に終了します」
と言って《塔》と《剣の10》のカードを見せた。
 
千里2にしてもここで塔のカードが出たので、川島信次と“千里”の結婚が早々に破綻すると見たのだが、まさか信次が《塔》のカードに示唆されるような最期を遂げるとは、思いも寄らなかった。
 
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「あんた、千里ちゃんだよね?」
と保志絵は訊いた。
 
「私は間違い無く千里です。私は貴司さんの妻です」
 
と言って、千里2は落ち着いた表情、しかし燃えるような熱い目で、昨年11月に保志絵から返された貴司との婚約指輪と結婚指輪を薬指に付けた左手を見せた。保志絵は、この子、いつの間にこれを付けたんだろう?と思った。さっきタロットを扱っている時には気付かなかった。
 
「電話の向こうに居たのは?」
「あれも千里です。あの子は川島さんと結婚します」
 
「千里ちゃんって2人いるの〜〜〜!?」
 
「それが3人いるんですよね」
 
「うっそー!?」
 
京平が書斎から出てきて、千里2の膝に座った。そして保志絵に言った。
 
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「おばあちゃん、ボクのママ(阿倍子)は1人だけだけど、お母ちゃん(千里)は3人居るんだよ。でも、3人とも確かにボクのお母ちゃんだよ」
 
これが2017年9月24日(日)15:20頃のことであった。
 
 
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△・死と再生(8)

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