広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■△・死と再生(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-10-27
 
2017年7月4日(火)。運命の日。
 
この日、青葉はアクアに関する打合せのため、大学を休んで新幹線で東京に出てきた。ちょうどお昼頃に東京駅に着くので、お昼は彪志と一緒に食べる約束をして、東京駅で12時に待ち合わせていた。
 
青葉はその新幹線に乗っている間、ずっと自分の力が奪われている感覚があった。これは、何か大変な事態に対処する場合に、お互いにパワーを融通しあえるようになっている、天津子か菊枝が使っているのではないかと思った。ただ、そういう場合はふつう事前に連絡があるはずなのに、この日はどちらからも連絡は無かった。何かよほど緊急の事態が発生しているのだろうか?と訝る。青葉のパワーがたくさん奪われるので、結果的に青葉は千里からもパワーを融通してもらっていた。それで千里からも
 
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「何かあったの?」
という連絡があったので
「どうも誰かが使っているみたい」
と返事をしておいた。
 
なお、青葉が引き出せるのは千里1のパワーであり、青葉に連絡したのも千里1である。
 

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その日、早月は朝から体温が高めであった。桃香は抱っこした時に熱いなという気はしたのだが、水分不足かもと思いお乳で足りないならと思ってミルクもあげたりした。ところがそれでも熱が下がらず、どんどん体温が上がっていく。これ病院に行った方がいい?
 
と思うもどこに掛かったらいいのか分からない。
 
桃香は忙しそうにしているので申し訳無いと思ったが、千里に電話した。
 
この電話を受けたのは千里1であった。
 
千里1は現在日本代表候補の合宿の最中であるが、この日はメディアにも公開して、サウスカロライナ大学チームとの練習試合をすることになっていた。試合は午後からなので午前中は練習も無い。それで《すーちゃん》を身代わりに置いて外出し、経堂のアパートに行った。
 
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《びゃくちゃん》に診てもらう。
 
『これ着せすぎ』
『え〜〜!?』
 
桃香にそれを言うと、熱が出ているから寒気がするのではと思い着せてあげたという。しかし厚着したことで、どんどん体温が上がってしまったのである。体温調整がまだ上手ではない赤ちゃんではありがちなことだ。
 
ともかくも、服を少し脱がせると体温は下がり始めた。
 
「良かったぁ!」
「でも水分は充分取った方がいいよ。赤ちゃん用ポカリスエットとかいいかも。そういうのあった?」
「アクアライトがある。あれ飲ませる」
「うん。だったら私、帰るね」
「忙しい時にごめんね」
 
《こうちゃん》に運んでもらおうかとも思ったのだが、居ないようである。最近彼はしばしばどこかに行って何かしているようだ。《りくちゃん》に頼もうかとも思ったが、考えてみると、昼間にこれをやると、人に見られる危険もある。それで時間もあるし、身代わりも置いているしと思って、千里1は電車で戻ることにした。
 
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千里1は小田急で新宿まで出てきて、中央線で神田に出た上で、上野から宇都宮線に乗るつもりだった。
 
ところが千里1は神田で電車に乗り間違って、上野ではなく東京に出てしまった。ありゃあ、なんで私はこういう所で電車を乗り間違えるんだ?と思う。後ろの眷属たちも大半が呆れていたのだが、ただひとり《たいちゃん》だけは、
 
『千里が道を間違える時は間違える必要がある時』
と言って、他の子たちに警戒するよう伝えた。
 

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千里1は東京駅に着いた途端、とんでもなく邪悪な気配の存在を感じる。
 
何だ!?これは悪魔か!??と思う。
 
こんなのには関わらない方がいいと思って、5番ホームで降りるといったんコンコースに出た上で、上野方面の4番ホームに移動しようとした。さっさと逃げるに限る。ところがその時、青葉が乗った新幹線が東京駅に到着したことを察知した。
 
やばい!
 
青葉は火中の栗を拾う性格だ。こんな奴を見たら、絶対対抗しようとするけど、こいつには青葉はかなわない!と思った。
 
それで千里1は青葉を守るため、自らの危険は意識しながらも、青葉が到着したホームの方へ行く。結果的にその巨大な邪悪の気配のそばを通過しなければならない。青葉はその気配に気付いているのかいないのか、そちらに接近している。
 
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千里1がそのホームに上がってきた時、30歳くらいの男性がホームから転落するのを見た。そして凄まじい爆発音のようなものがある。何だ?何だ?と思った時、向こうの方に羽衣が居て、こちらを見たのを認識した。
 
次の瞬間、羽衣が天津子と千里1のコネクションを利用して、千里1から思いっきりエネルギーを吸い上げた。
 
千里1は何も分からないまま意識を失ってその場に倒れた。
 
2017/07/04 12:10 JST(= 7/3 23:10 EDT = 7/4 5:10 CEDT)頃のことであった。
 

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この日、東京駅では実は壮絶な戦いが繰り広げられていた。
 
“吸血鬼”であるクロガーが、若い日本人女性マジシャンを連れ出した。それを内偵中の、山川春玄の弟子3人が目撃して尾行した。クロガーは東京駅の東側にある人通りの少ない一角でその女性の生き血をすすろうとした。そこに弟子が飛び出して阻止しようした。クロガーはまた邪魔が入ったかと、女性マジシャンを放置したまま、春玄の弟子たちと対峙するが、そこにサポートのため近くで待機していた菊枝も駆けつけ、4人でクロガーに対峙する形になった。菊枝はこいつは自分の力だけでは倒せないと見て、東京に出て来ていた天津子を呼んだ。天津子には、たまたま羽衣が付いて来ていて、物凄い相手だというのに興奮する。俺がやると言って天津子と一緒に東京駅に急行した。
 
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クロガーも相手がひとりならどうにでもなるものの、4人に別方向から攻撃されると、簡単には倒せず、しかも菊枝が青葉経由で千里からエネルギーをもらっているので元気で、苦戦する。結局1時間ほど死闘が続いたものの、最終的には4人ともクロガーにやられてしまった。
 
しかしそこにちょうど羽衣と天津子が到着したので、クロガーは4人にとどめを刺すことができず、そのまま羽衣と対決する形になった。ふたりは戦いながら結局東京駅の構内に入り、そしてホームにあがってしまう。
 
羽衣はとんでもない相手に興奮するとともに、ちょっとこいつはヤバいかもと思い始めていた。実際不意を突かれてすんででやられる所をギリギリ防御した。もう自分の戦闘エネルギーはほとんど残っていない。相手は次の攻撃態勢に入っている。ダメだぁ!と思った時、ちょうどそこに千里1が来たのを見た。羽衣は千里1のエネルギーを勝手に引き出し、そのエネルギーをまとめてクロガーにぶつけた。
 
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クロガーは一瞬で蒸発した。
 
しかし羽衣は自分自身もかなりダメージを受けているのを認識した。こりゃまた全治半年かなと思った。
 

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千里が倒れたのを見て天津子が駆け寄る。
 
ところが千里は瞳孔が開いており、手首を取って脈をみたが脈が無い。更に息もしていないことを認識する。
 
うっそー!?まさか、千里さん死んじゃった!??
 
天津子は焦る。
 
ちょうどそこに青葉が彪志と一緒にこのホームに来た。
 
「青葉! どうしよう。千里さん死んじゃったよ!!」
 
青葉はじっと千里を見ると、いきなり右足を持ち、数回振るように動かした。千里は過去に何度か青葉や桃香に言っていた。私って、時々心臓が勝手に停まっちゃう時あるけど、そういう時は、たいてい足を激しく動かしたら蘇生するから、と。
 
これは千里によればバッテリーがあがったバイクの押し掛けのようなものらしい。足を振ることで強制的に血流が作られ、その血流が心臓を動かすと千里は説明していたが、かなり怪しい説明という気はした。
 
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しかしまずはやってみる価値があると青葉は思った。
 
そして青葉が実際に足を動かしたら、千里は目をぱちりと開け、むっくと起き上がった。
 
天津子が「きゃっ」と言って腰を抜かした。
 

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千里1は何かきれいな景色の所に来ていた。あれ〜?私どこに居るんだ?と思う。
 
草原のような所を歩いている。花がたくさん咲いていた。向こうの方に川が流れていて、人がいるようなので、そちらに行こうとしたら
 
「千里」
と呼ぶ声がする。小春の声である。
 
「小春?」
と言って、千里1は振り返って数歩戻ると、そこに小さな池があった。
 
「手を出して」
とどこかで聞いたことのあるような声がするので左手を差し出すと、池の中からも左手が出てきて、千里の左手をしっかり握った。
 
「あっ・・・」
 
その池の中から出てきた手から千里1の中に何かパワーのようなものが流れ込んでくる感覚があった。
 
「さあ、もう立ち上がれるよね?」
と池の中から手を出した人は言った。
 
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「うん。頑張る」
と千里1は答えた。
 
そこで目が覚めた。
 
左手にはまだ握られた感触が残っていた。千里1はしなければならないことがあったことを思い出して立ち上がった。
 

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羽衣がいきなり千里1の全エネルギーを持っていった時、後ろの子たちもその衝撃に皆悲鳴をあげた。多くの子が、千里のエネルギーのついでに自分固有のエネルギーまで結構奪われた。
 
この時、千里1についていたのは、遍在していて別格の《くうちゃん》を除くと、《とうちゃん》《りくちゃん》《てんちゃん》《いんちゃん》《げんちゃん》《たいちゃん》《びゃくちゃん》の7人である。
 
エネルギーを奪われるのと同時に千里とのコネクションも切れてしまった。
 
ここに居なかったのは4人である。《すーちゃん》は千里が経堂まで往復している間の身代わりで合宿所に居た。《きーちゃん》は千里2に付いていた。《こうちゃん》はアクアのマネージャーになるべく工作活動をしていた。《せいちゃん》は運転の練習をしていた。
 
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しかし《くうちゃん》が別行動だった4人を即召喚した。
 
(せいちゃんが運転中の車はくうちゃんがエンジンを停め駐車場に転送した)
 

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羽衣がうっかり千里1が死んでしまうほど、エネルギーを引き出してしまった要因は主に2つである。
 
・千里1は午前中青葉経由で菊枝からかなりエネルギーを引き出されていて、エネルギーの水位が下がっていた。
 
・千里1は実は元々の千里の2〜3割のパワーしか持っておらず、以前の千里を見ていた羽衣が、千里1の容量を勘違いしてしまった。
 
その上、羽衣自身、自分が死ぬかクロガーが死ぬかという瀬戸際で、焦っていたこと、また千里1は青葉のことを気にしすぎていて、自分の防御がおざなりになり、パワーが全部持って行かれるのを放置してしまった。
 

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《小春》はもう自分の寿命が尽きるのを静かに待っていたのだが、その時にこの事故に遭い、残っていた僅かな生命エネルギーも大半をこの事故で奪われた。
 
『ああ、とうとう死ぬのか』
と思った時、ふと、千里が先に死んでしまっているのに気付く。
 
『何やってんのよ!?私が死んでいる間に勝手に死ぬなと言っておいたのに!』
と言って、小春は自分に残ってる、ごく僅かな生命エネルギーを全部千里にあげてしまうと同時に肉体から離れようとしていた千里の魂を強引に肉体に引き戻した。
 
その直後に青葉が蘇生処置をしたので、千里1は生き返ったのである。
 
小春は全てのエネルギーを失って死亡したが、その時、自分とポジションを入れ替えるような感じで、この世に呼び戻した千里に、小春は呼びかけた。
 
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『私の愛しい人が今ホームから転落したの。あの人を助けて。ついでに、もし彼が気に入ったら私の代わりに千里、あの人と結婚してあげて』
 
それが小春の遺言となった。
 
深草小春は今度は人間の子供・細川緩菜として再びこの世に生まれるまで、415日間、中有の世界で休眠することになる。
 

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小春の献身と青葉の処置で蘇生した千里1(第3世代)は、最初に小春から言われた人を助けなければと思った。
 
人だかりのしている所が、その人が落ちた所だなと思ってそこに駆け寄ると、電車が近づいているのは意識したものの、迷うことなく線路に飛び降り、倒れている男性を抱き抱える。そして、そのまま隣の線路に待避した。
 
その直後、急ブレーキを掛けた電車がそれでも凄い速度で入って来て、千里たちの横をかなり行きすぎてから停止した。
 

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千里が助けた男性は川島信次と名乗った。
 
「ありがとうございます。命拾いしました。急にふらふらとして落ちてしまったのですが、今度は気が動転して動けませんでした」
「貧血ですか?」
「疲れが溜まっているんじゃないかと思うんですけどね」
「一度病院に行った方がいいかも」
 
「病院嫌いなもので。でも、あなた凄く太い腕ですね。スポーツか何かしてるんですか?」
「ええ。趣味程度ですけど、バスケットを」
「僕、腕フェチなんですよ。太い腕が大好きで」
「変わった趣味ですね」
「よく言われます」
 
千里はまさか信次が「男性の太い腕が好き」だとまでは思いもよらない。
 
結局、千里は信次と電話番号だけ交換して、合宿所に急いだ。
 
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