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■△・死と再生(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-10-28
 
アジアカップの選手宿舎はベンガルール市内の一流ホテルを2つ借り上げているようである。20日の朝、朝食に行くと、韓国選手団、ニュージーランド選手団、インド選手団と時間帯がぶつかった。インドの子たちが、顔見知りが多いので
 
「オハコンバンチワー」
「ムラヤマ!サトウ!マリハラ!また会たっね」
などと日本語で話しかけてきて、その後、主として英語で会話が進む。向こうのテーブルを動かしてきて!こちらにくっつけて、話し込んでいた。
 
なお、今回韓国は1部で上位4位以内でワールドカップ進出を目指しているが、インドは2部で、1部昇格が目標である。
 
センターのアーラーサーナーが千里たちに訊いてきた。
 
「日本のみんなは、マルジャンマは見てきた?」
「マルジャンマ?」
「バンガロール付近のあちこちの寺院でこの時期行われているお祭りだよ」
「お祭りかあ。でも私たち昨日着いたばかりだしね」
「きれいなお祭りだよ。見る価値あるよ」
「へー」
 
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アジアカップは1部リーグ8ヶ国と2部リーグ7ヶ国で行われる。1部リーグの上位4ヶ国が来年のワールドカップに出場することができる。1部リーグは下記のAB2グループに分かれて予選を行い、A1-B4, A2-B3, A3-B2, A4-B1で準々決勝、その勝者で準決勝、その勝者で決勝が行われる。
 
つまり予選リーグの成績が何であっても、とりあえず決勝トーナメントには組み込まれる。そして準々決勝で勝ちさえすれば、ワールドカップに行けるのである。要するに今回の大会でいちばん大事なのが7月27日に予定されている準々決勝であり、それにさえ勝てば、後はわりとどうでもいいとも言える。
 
しかし日本はこの大会、2013,2015年と連覇している。今回優勝すれば3連覇なので、それを達成したい日本と、阻止したい中国、今回からアジアカップに参加することになったオーストラリアとの戦いということになる。
 
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グループ分けは次のようになっていた。括弧内はFIBA Ranking
 
GrpA CHN(10) NZL(38) TPE(34) PRK(64)
GrpB AUS(4) JPN(13) KOR(15) PHI(49)
 
つまり予選リーグでまずはオーストラリアとぶつかるのである。
 

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インドは2009年のU16アジア選手権、2010年のU20アジア選手権で訪れている選手も結構あり、朝から食べるカレーに
 
「おお、この味が懐かしい!」
 
などと言っている子もいた。もっともベンガルールは「インドのシリコン・バレー」とも呼ばれるIT都市で、外国人も多いし、インド人でも様々な民族の人が集まっている街なので、ヨーロッパ風の料理なども結構ある。朝からカレーは入らない!などという人はヨーロッパ風のパンにチキンなどをチョイスしていた。
 
大会は23日からなので、20-22日の3日間は練習場所に指定された中学校の体育館で基礎練習と紅白戦を中心に練習をした。
 
千里3はインドに来ても全く調子を落とすことなく、ますます冴えてきていたので、結局7月14日時点のオーダーのまま選手登録は行われた。
 
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一方、アメリカでは、7月15-16日の試合で、WBCBLのレギュラーシーズンは終了した。今季はヴィクトリア(千里2)の活躍で全勝で地区優勝した。
 
7月22日に地区プレイオフが行われる。1位と4位、2位と3位が戦い、勝者で決勝をして、最終的な勝者が全米ファイナルに進出する。1日2試合というスケジュールである。
 
千里たちのプレイオフはバージニア州のハンプトンで行われた。ここもペンシルバニアやフロリダと同じ東部夏時間(EDT)が使用されている。
 
準決勝は7/22 12:00 EDT (= 7/23 1:00 JST = 7/22 21:30 IST)から行われ、スワローズは4位のチームに快勝した。
 
14:00から2位と3位の準決勝が行われ、2位のチームが1点差で勝利した。その後18:00 EDT (= 7/23 7:00 JST = 7/23 3:30 IST)に決勝戦が行われる。スワローズは2位のチームと延長戦にもつれる大接戦の末、最後は同点の場面から残り5秒で相手にゴールを決められたものの、その後、エマからのパスを受けたヴィクトリアの、ブザービーターのスリーで1点差逆転勝ちをした。
 
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ブザービーターを決めた時、千里2はチームメイトからぼこぼこ殴られて
「Ouch! Ouch!」
と叫んだ。
 
これで結局スワローズは今季無敗のまま、全米ファイナルに進出である。
 

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さて、インドでは7月23日からアジアカップが始まった。
 
日本は7/23 13:15(=7/23 16:45JST)からフィリピンとの試合をおこなったが、主力を出さないままダブルスコアで大勝した。
 
千里2がアメリカでプレイオフの決勝を戦ってから約半日後である。
 
翌日7月24日は同じく13:15から今度は韓国との試合をする。これはマジな布陣で戦う。しかし千里3や玲央美・王子などの活躍で14点差で快勝した。
 
韓国はこれまで何度もやられているので王子対策をしてきていたが、それでも王子はパワーで相手を粉砕してしまった。
 
そして7月25日には、やはり13:15から、グループB首位を掛けてオーストラリアとの試合をする。むろん全力である。
 
第1ピリオドでは日本がリードしていたのだが、第2ピリオドでオーストラリアが逆転する。こちらも必死で頑張ったのだが、じわじわと離されていき、結局11点差で破れた。
 
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これで日本はB組2位で予選ラウンドを通過。A組3位の台湾とワールドカップへの切符を掛けて準々決勝で対決することになる。
 

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アクアは7月9日(日)に『ときめき病院物語III』の撮影がクランクアップし、翌週7月15-17日(土日祝)の連休から映画『キャッツ▽アイ−華麗なる賭け』の撮影に入った。
 
主要4人が1人2役なので、各自結構混乱する。
 
平野刑事(フェイ)と武内刑事(ヒロシ)の会話シーンだったはずが、フェイはうっかり瞳の格好をしているし、ヒロシはうっかり泪の格好をしていて
 
「あ、間違った」
などとやっている。
 
「着換えて来ます」
 
「いいです。それなら瞳と泪のシーン24番に行きます」
と助監督が言ってそのシーンを撮影するなど、撮影現場は混乱しがちな所を何とか収集して行った。
 
アクアは来生3姉妹の末妹《愛》と(瞳の恋人の)内海俊夫刑事を演じているのだが、アクアの場合、2人のアクアが最初から愛の衣装と内海刑事の衣装を着けていて、着換えたりメイクを変えたりせずに、2つの役を演じていた。
 
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どちらかの役が長時間続く場合も、もうひとりのアクアが同じ衣装を着けていて、シーン撮影のインターバルにチェンジしている。そのあたりは《こうちゃん》が瞬間入れ替えしているので、スムーズである。アクアは『これ楽〜。さすが、こうちゃんさん』などと思っていた。これまではトイレに行くとか言って交代していたのである。
 

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「去年の撮影ほどではないけど、やはり結構なハードスケジュールだね」
「まあ、忙しい人が多いし、中高生の役者さんは稼働できる日が限られるし」
 
と楽屋で待機しているふたりのアクアが話している。
 
「ところでこうちゃんさん、今日はボクが男アクアだと思っている気がする」
「そして私が女アクアだと思っているよね〜」
 
「今日はボク男装したい気分だったし」
「今日は私、女の子の服を着たい気分だったし」
「やはり3人の見分けが付いてないよね」
「こうちゃんさんって、わりとアバウトな性格っぽい」
「実は誰が誰でもいいのかも」
「ボクたちも服装を適当にチェンジしてるからね〜」
 

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「ところでMは女の子になりたくないの?わりとよくスカート穿いてるみたいだし」
「それは自分の中では決着がついている。私は女の子の服が好きなだけで、女の子になりたい訳では無い。Fはどうなの?」
 
「ボクは女の子になれて良かったと思ってる。ちんちんが無くなってる。嬉しい!と思ったよ。この身体凄くいい。みんな女の子になっちゃえばいいのに」
 
「私とFって、たぶん女の子になりたい気持ちと男の子になりたい気持ちが独立しちゃったんだろうね」
とアクアMは言う。
 
「そんな気はしてた。男の娘アクアもあれ、曖昧な性別のままでずっと居たいという気持ちが独立したんだよ」
「結局誰が本体かってのは考えるだけ無駄だよね」
 
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「多分20歳頃までに2人は消えて誰か1人が残る。それがアクアが最終的に選択する性別」
 
ふたりはしばし見つめ合う。
 
「それって殺し合うの?」
「まさか。合体するんだと思うよ。むしろ私たち1人が死んだら全員死ぬかもね」
 
「安いオカルト映画とかにありそうな設定だ」
「合体しても3人の意識は全部残りそうな気がする」
「アクアがずっと男役も女役もこなしていたら、役の性別に合う子が表面に出ればいいのかな」
「たぶんそういうことになると思う。身体はどれが残るか分からないけどね」
 

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するとFは少し考えるようにして言った。
 
「ね、女の子の身体が残った場合、どんな感じになるか、ボクのを見せてあげようか?」
 
「別に見なくてもいいよ。自分の身体だし」
「なんならセックスしてもいいよ」
「・・・・」
 
「どうかした?」
「私とFがセックスして万一妊娠したらどうなるんだろう?」
「それはきっと、もうひとりアクアが生まれるんだよ」
「うーん・・・・」
「だって自分の精子と自分の卵子で受精したら、完全に自分の形質を受け継ぐことになるし」
 
「クローンに近い?」
「少し違うとは思うけどね」
 
「Fが3人くらい産んでくれたら6人になるな」
「産んでもいいよ。バレーボールができるね」
「産むなら、男の子と女の子と男の娘で」
「男の娘ってどうやって産むのよ!?」
 
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「ところで私のトランクスが全然無いんだけど、Fが持ってる?」
 
「持ってるよ。ボク、トランクス好き〜。女役の時は仕方ないからショーツ穿くけど。Mこそ女の子の服が好きなんだから、ショーツ穿いてればいいじゃん」
 
「女装の時はショーツでもいいけど、学校行く時とかは私はトランクスが穿きたい。ショーツは男の娘アクアに穿かせればいいんだよ」
 
「ああ、あの子は女の子パンティが好きみたいね」
 
「あの子は唆すと性転換手術受けちゃうかも」
「おっぱいも大きくしたがってる。ボクのおっぱい見て、いいなあとか言うし」
「おっぱい大きくするのも唆すといいよ。胸を曝す必要があったら、そのシーンは私がすればいいし」
 
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「男の娘アクアが女の子になる手術受けちゃったら、私たちがその内1人に戻った時、手術で作った女の子の身体が残ったりしてね」
 
「それか、ボクたち3人が合体したら、ふたなりになったりしてね」
 
「ふたなりも悪くないな。おっぱいはいらないけど」
とアクアM。
「ふたなりも悪くない。ちんちんは要らないけど」
とアクアF。
 
ふたりは見つめ合って忍び笑いをした。
 

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アジアカップは23-25日の予選リーグが終わり、決勝トーナメントは27日からである。それで間の26日、日本は練習は休みにして(ハメを外さない範囲で)オフにした。それで千里たちはインドの子たちが言っていた、マルジャンマを見に行くことにした。
 
本当は夜の方がきれいらしいのだが、夜は治安も悪化するので、午前中に行ってきた。
 
ベンガルール市内でも特に大きな寺院に一緒に行く。
 
細長い舞台が作られていて、そこに美しい衣装を着けた多数の男女の踊り手が入っている。踊りはその舞台を端から端まで移動しながら続いて行くのだが、その先頭付近に炎を模した紙細工があり、そこは女性の踊り手だけが通過するようである。
 
「あれはサティー?」
と玲央美が言う。
 
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「そう。嫌な習慣だよね。私たちも100年前に生まれていたら、夫が死んだ時点で夫の火葬の火で一緒に焼き殺されていた」
とアルカが不快そうな顔で言う。
 
「なんでそんなおかしな習慣が生まれたんだろう?だいたい妻の方が夫より若いことが多いから、結果的に女はほぼ全員焼き殺されることになるじゃん」
と彰恵も不快そうに言う。
 
「お産で死ぬのが先か、サティーで焼き殺されるのが先かって話だね」
 
「でもそのサティーという野蛮な習慣の名前の語源になったのが、このサティーとシヴァの物語」
と言って、ステファニーが解説する。彼女はキリスト教徒なので、部外者的にこの物語を語ることができる。
 
「サティーはシヴァと結婚したんだけど、サティーのお父さんがシヴァを酷く嫌っていて、祭礼に夫のシヴァを呼ばなかった。サティーは父親に抗議して、火の中に自分を投じて自殺してしまう。だからサティーは夫が生きている時に自死しているから、ヒンズー教の習慣のサティーとは状況が違うけどね」
 
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「確かに」
 
「サティーの死でシヴァは頭がおかしくなってしまって、彼女の遺体を抱いたまま、各地を放浪して回った」
 
目の前で展開している踊りでも、男の踊り手が女の踊り手を抱き抱えて歩く部分がある。あれ男性は大変そう!と千里は思った。
 
「でもサティーはやがてヒマラヤ地方の娘、パールヴァティーとして生まれ変わる。生まれ変わってもシヴァのことが好きだったから、再度シヴァと結婚したんだよ」
 
舞台には山の絵が描かれた書き割りがある。たぶんあれがヒマラヤなのだろう。
 
「悲しいけど美しい物語だよね」
と江美子。
 
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