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■△・死と再生(6)

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「このマルジャンマは英語で言うとreborn(再生)ということ。サティーの死からシヴァの放浪、パールヴァティーとしての再生と、シヴァとの再婚までを一連の踊りにしているんだ」
 
とアーラーサーナーが説明する。
 
「踊り手の付けている衣装がきれーい」
「あれが夜になると、もっときれいなんだけどね。冠の燈籠に火も灯すし」
 
きっと山鹿の燈籠祭みたいな感じになるのでは?と千里は想像した。
 
「熱くないの?」
「別に髪を燃やす訳ではないから大丈夫」
「髪に火を点けたらマジでサティーになってしまう」
「それは嫌だ」
 
千里はじっとその踊りを見ていた。金色の飾りを付けた男女の踊り手が美しい仕草で踊りを踊っている。シヴァは108種類の踊りを踊ったという。アーラーサーナーによると、実際のマルジャンマのお祭りで男の踊り手が踊る踊りは9種類、女の踊りは18種類らしい。それを覚えないとこの祭で踊れないらしいので、なかなか大変である。この地域の男の子や女の子は小さい頃からこの踊りを練習していて、地域の学校などで行われたコンテストの上位入賞者がこういう晴れ舞台で踊るらしい。
 
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今日千里3たちの前で踊っていたのは中高生くらいの男女が多いようであった。
 
死と再生か・・・。私、何か最近死んだ気がするんだけど、きっと気のせいだよね。死んでたら、私生きてないもん、などと思いながら千里3はその踊りを見ていて、心の中に何か新しい活力のようなものが育って行くのを感じていた。
 
「ケララにも時期が冬至の頃になるけど、プラジャーマンと言って似た祭があるんだよ。私も踊り手を務めたよ」
とケララ人のレーミャが言う。
 
「凄いね。やはりたくさん踊り覚えるの?」
「覚えた。でもさあ。私、背が高いから男役をやらされて」
「それもいいんじゃなーい?」
「ちなみに私の弟は背が低いから女役をやらされた」
「それもいいと思う」
 
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「女の服を着るなんて嫌だぁ!と言っていたけど、強引に着せられてた」
「あはは」
「ちなみにいっそのこと、ちんちん取ってヒジュラになる?とか言われて、それは絶対嫌と言っていた」
「弟さんって可愛い?」
「私よりは美人だな。私とあいつはいつも男女逆ならよかったのにと言われていた。実際ふたり並んでいると、よく兄と妹だと思われる」
 
「ああ。そういう姉弟は割とよくある」
「でもバスケットのインド代表になったから、男ならよかったのにと言われなくなった。結婚しろというのも言われなくて済んでいる」
 
「良かった良かった」
 
「でも弟はいまだに女の子なら良かったのにと言われているようだ」
「ほんとにヒジュラになっちゃったりして」
 
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7月27日。アジアカップは準々決勝が行われる。
 
日本は17:45(=21:15 JST)に台湾と対戦。日本は終始台湾を圧倒し、57-73で快勝した。
 
これで日本はワールドカップの切符を掴んだ。
 
続いて28日17:45からは中国との準決勝に臨む。
 
どちらも全力勝負である。
 
第1ピリオドでは日本がリードしたものの、第2ピリオドでは中国が盛り返して同点に追いつく。第3ピリオドでも中国の勢いは止まらず中国がリードする。しかし第4ピリオド、日本は序盤に猛攻を掛けて逆転に成功。その後激しい争いが続いたものの、最後は3点差で逃げ切った。
 
これで日本は決勝に進出した。
 

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そして7月29日。
 
この日11:00から行われた7-8位決定戦でフィリピンが北朝鮮を破り、北朝鮮は2部陥落が決定した。そして17:45から行われた2部の決勝戦でインドが優勝。インドは来季1部昇格が決定した。
 
そしてこの大会の最後。
 
20:00から、オーストラリアと日本との決勝戦が行われた。両軍のスターターはこのようになった。
 
JPN 13.水原由姫/15.村山千里/6.佐藤玲央美/10.鞠原江美子/9.馬田恵子
AUS 4.Walker / 6.Jones / 8.White / 10.Brown / 9.King
 
相手のポジションはWalkerがポイントガード、Jones, White, Brown はフォワードで、Kingがセンターで登録されている。オーストラリアにはシューティングガード登録の選手はいない。
 
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向こうは日本側に背番号の大きな選手が多いので、控組で様子を見に来たかと思ったような感じもあった。
 
ティップオフこそKingが取り、そのままKingがゴールを決めたものの、向こうがやや油断して掛かっていた感じの所に日本側は畳み掛けるように正確な攻撃を繰り出し、あっという間に2-8になる。向こうはいったんタイムを取ってポイントガードの Walker とスモールフォワードの Jones を下げてセンターのMartin, Strong を入れて来た。
 
それで向こうは総攻撃態勢のようになり、あっという間に追いついてくる。こちらは恵子を下げて王子(きみこ)を投入した。スピード重視の布陣である。
 
予選ラウンドでは195cmのKingには190cmの恵子でないと対抗できないのではと考えて彼女を当てていたのだが、Kingは背が高くてパワフルなだけでなく、かなりのスピードと瞬発力を持っていて、しばしば動きで振り切られる場面があった。そこで体格としては184cmで恵子に劣るもののスピードで勝る王子をぶつけてみたのである。
 
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そしてこの試合ではこのKingと王子の対決がひとつのポイントとなった。
 
(彰恵が「王様と王子様の勝負だ」と言っていた)
 

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Kingが攻めて来る。王子が腰を落とし、手を広げてディフェンスする。
 
一瞬のフェイント。王子はそれに引っかかったかのように見えた。逆方向にKingが突っ込むが、その前に王子が反応して、きれいにボールをはじき飛ばす。フェイント自体には引っかかったものの、その後の反射神経で対応してしまった。こぼれ球を江美子が取ってターンオーバー。
 
王子がパスをもらって中に飛び込んで行く。Kingが待ち受けている。王子はフェイントも入れずにそのままシュートに行く。物凄い跳躍力である。Kingがジャンプするが王子は構わずシュート。Kingの指がボールに触れたものの、ボールの勢いが凄いのでKingはブロックできず、ボールはそのままゴールに突き刺さる。
 
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指が軽い突き指状態になり、指を押さえながら王子を睨むKing。しかし王子は柳に風である。
 
しかしKingも負けてはいない。フェイントとかの通じる相手ではないと判断して、次の攻撃では、パワーと高さできれいにボールをゴールに放り込んだ。そして次の王子のシュートでは指では停めきれないと考え、王子がフェイントを入れないのを見越して予測場所で思いっきりジャンプし、掌でボールを弾き返した。一瞬王子もKingを睨んだ。
 
しかし次の対戦では王子の方が勝つ。
 
ふたりはお互いにダンクをブロックしたし、ゴール下の争いでかなり激しく身体がぶつかりあったりもする。それでお互いに1回ずつファウルを取られたものの、それで臆することなく、ぶつかり合っていく。
 
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小細工無しのパワーとスピードの戦いに、観客も大いに沸いていた。
 

結局前半は39-33とオーストラリアの6点リードである。
 
ハーフタイムは地元の女子高生たちによる。ダンスパフォーマンスが行われた。秋のお祭りナヴラトリで踊られる踊りをベースにしたオリジナル・ダンスということであった。複雑なコンビネーションが、まるでアルゴリズム体操みたいだと千里3は思った。
 
「あれよくぶつからないね〜!」
などという声もあがっていた。
 
「たぶん練習中は結構ぶつかっている」
「あり得るあり得る」
 

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後半が始まる。
 
6点差ではあるが、充分挽回可能な点差と考えて、こちらは普通に出て行く。第3ピリオドは、彰恵/千里/玲央美/江美子/誠美と、1990年度組で出て行った。
 
もう何年も一緒にやってきているメンバー同士なので、一瞬のアイコンタクトで全てが分かり合える。
 
複雑なコンビネーション・プレイにオーストラリアが翻弄される。向こうの選手が「え〜〜!?」という顔をしていた。誰も居ない所にボールを放り投げ、そこに思わぬ選手が走り込んでキャッチして突破などというのもきれいに成功させる。相手をうまくトラップに誘い込み、行き場を無くして結果的にボールを奪ったり、3秒ルールや5秒ルールでこちらのボールにする。
 
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あっという間に逆転し、日本はオーストラリアを大きく引き離した。
 
第3ピリオドは14-26というダブルスコアでここまで53-59と逆に6点差にする。
 

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第4ピリオドでは、最初、ベテラン組中心のラインナップで始めたのだが、向こうの必死の攻撃に、じわじわと点差を詰められる。1点差まで詰められたところで、逆に若手中心のラインナップに変更する。由姫・絵津子・純子といったスピード型の選手が走り回って、相手の攻撃を早め早めに停めるようにする。これで向こうの勢いを止める。
 
その後、シーソーゲームが続く。
 
残り1分、2点リードされている局面から、由姫と江美子を下げて、千里と王子を投入する。
 
向こうのKingが王子を鋭い視線で見つめている。
 
投入された王子がいきなりKingを蹴散らしてゴールを決める。審判はファウルを取らない。これで同点である。向こうが攻めてきて、今度はKingが王子と接触したものの倒れながらシュート。ボールはゴールに飛び込む。しかし笛が吹かれる。
 
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王子のファウルでバスケットカウント・ワンスロー?
 
と多くの人が思ったのだが、よく見ると、審判はトラベリングのジェスチャーをしている!
 
Kingが天をあおぐ。
 
当然得点は無効になり、日本ボール。
 
絵津子と純子のワンツーパスで攻め込む。ふたりが左右に展開しているので相手は防御の的を絞りきれない。結局純子がシュート。Martinがブロックしたものの、こぼれ球を玲央美がきれいに決めて、これで日本の2点リード。
 

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相手が攻めて来る。残りは20秒ほどである。Kingにボールが渡ったので王子が激しくディフェンスするのだが、Kingはワンステップ後ろに下がるとそこからいきなりスリーを撃った。
 
これが決まってオーストラリアの1点リード。残りは12秒。
 
この人は体格もいいがスリーも上手いのである。この日3本目のスリーである。
 
純子から絵津子→千里と渡るが、向こうはスリーを警戒してMartinとJonesが2人がかりでディフェンスする。さすがの千里もこれでは撃てない。時間は過ぎていく。千里はバウンドパスでいちばん近い所に居た王子にボールを送る。しかしKingがすぐに寄ってきて激しい近接ガード。
 
千里は彼女の後ろに走り寄り、ハンドオフでボールをもらうと、そのまま身体を斜め後ろに飛ばしながら、フェイダウェイ・シュート。
 
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直後に試合終了のブザーが鳴った。
 

両チームの選手が、そして大観衆が千里の撃ったボールの行方を見る。
 
ボールはリングに当たって跳ね上がったものの、落ちてきてそのままゴールに飛び込んだ。
 
近くに居た玲央美が千里に飛びつく。そこに王子も飛びつく。少し離れた所では絵津子と純子が抱き合っている。
 
日本がアジアカップで3連覇した瞬間であった。
 

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整列して審判が日本の勝利を告げる。挨拶した後は、お互いに健闘を称えあった。
 
王子とKingが殴り合っているので、審判が驚いて近寄ったが、友好の殴り合いのようだ!と判断して、TO席の方に戻って行った。
 

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試合の後、22時から表彰式が行われた。
 
1位日本、2位オーストラリア、3位中国と表彰され、金銀銅のメダルをもらう。千里は「やはり金メダルっていいなあ」と思っていた。4位の韓国までが、来年スペインで開かれるワールドカップに進出する。
 
得点女王は意外に北朝鮮のキョン選手が獲得した。北朝鮮は今回の大会では1部最下位だったのだが、一部選手の個人成績は良かったようである。キョンは実はブロックでも2位であった。
 
リバウンド女王とブロック女王はオーストラリアのキング、アシスト女王は玲央美、そしてスリーポイント女王は千里が獲得した。
 
MVPはキング、ベスト5は、千里・玲央美・王子・キング・マーティンと、優勝した日本から3人、準優勝のオーストラリアから2人選ばれた。王子とキングが名前を呼ばれて出てきた時、ハグしていた。すっかり仲良くなったような感じである。
 
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千里は2008年のU18アジア選手権以来、花園亜津子が出ていないアジアの大会では出場すればほぼ3P女王を取っている。自分でもいくつ取ったか分からなくなりつつあった。
 

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千里3たち日本A代表のメンバーは下記の便で日本に戻った。
 
BLR 7/30(Sun) 13:30 (AI501 A321-Sharklets) 16:10 DEL
DEL 19:35 (JL740 787-8) 7/31 7:25 NRT
 
そして千里3たちがデリーから成田への飛行機に乗っている最中、スペインではU19日本女子代表がU19ワールドカップで4位という好成績をあげていた。U19代表には旭川N高校出身の福井英美などが入っている。英美はリバウンド女王も獲得したというおまけ付きであった。高校時代さんざんインターハイやウィンターカップで様々な賞を取った英美はとうとう世界の勲章を手に入れた。東京五輪ではフル代表に来るだろう。
 
成田についてからその報せを聞き、千里3たちは
「やられたね!」
「こちらの優勝がかすんでしまう」
と言って、喜んだ。
 
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U19日本女子代表は明日帰国するらしい。
 
取り敢えず今日の記者会見(12時より都内のホテルで行われた)は千里たちが主役である。
 

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