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■△・死と再生(3)

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なお、7月5-12日の3人の千里の標準的な行動はこんな感じである。
 

 
千里A(千里1)はJソフトには《時々》呼び出されていて、通常Jソフトには千里C(せいちゃん)が居る。
 
千里1は京平のことを一時的に忘れているし、そもそも霊的な力を喪失しているので、思い出したとしても、京平に会いに行くこと自体ができない。そして桃香に教育されて桃香Loveになっているので、桃香には毎日会っている。それで千里2は桃香と会うのは千里1に任せていたが、ある意味、桃香にとっては一番幸せな時期であったし、千里1がたくさんお世話をしてくれるので、生まれて間もない早月を抱えていて、桃香はとても助かっていた。
 
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その日、《こうちゃん》は《きーちゃん》を都内の個室のある飲食店に呼び出した。
 
「私たちが言葉で会話するというのも不思議ね」
「こういう形で会えば、他の眷属には聞かれないからな」
「で何? こないだから何やら工作しているみたい」
「それはそのままそちらに返す」
 
ふたりは微笑んで見つめ合う。
 
「それでちょっと協力して欲しいんだけど」
と《こうちゃん》は言う。
 
「なんだろう?」
と《きーちゃん》
 
「頻繁にポジション換えを使いたいんだ。貴人の力を貸してくれない?」
「誰をポジション換えするの?一般の人にはこの力は見せたくないんだけど」
「それがさ」
 
と言って、《こうちゃん》が説明したことに《きーちゃん》は驚愕する。
 
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そして考えた。
 
これは多分・・・千里が増殖した余波だ。
 
そもそも龍虎の生命というのは、小学1年生の時に燃え尽きるはずだったのを千里が《命の水》を使って45年延長したのである。つまり、龍虎の寿命は2053年、52歳の年までのはずである。
 
恐らくは龍虎の寿命が延びたこと自体が千里の(本人も自覚していない)能力によるものではないかという気がしていた。ところがその千里が増殖して3人になってしまったために、龍虎も3人になったのでは?
 
だから多分2〜3年後に千里が1人に戻れば龍虎も1人に戻るのだろう。
 
「分かった。私の入れ替え能力をいつでも使えるように、紹嵐光龍ちゃんにそのスイッチを預けるよ」
 
「ちょ・・・っ。お前、なんで俺の本名知ってんだよ!?」
 
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「本名を呼ばないと渡せないからね。手を貸して」
「うん」
 
それで《きーちゃん》は《こうちゃん》に瞬間入れ替えの起動スイッチを渡した。
 

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実際問題として現在《きーちゃん》は《くうちゃん》から預かっているスイッチを使って、瞬間移動の方ばかり使っている。しかし龍虎のケースはむしろ自分が元々持っている瞬間入れ替え能力の方が使えると感じた。
 
「じゃあ、あまりおイタがすぎないようにね」
と《きーちゃん》は注意しておく。
 
「正直、今の龍虎の使われ方では早々にあいつ健康を害すと思っていた。だからそれを緩和するために俺はあいつのマネージャーになろうと思ったんだけど、思わぬ事態で、仕事の量はちゃんとこなしながら、あいつを充分休養させられる」
と《こうちゃん》。
 
「それ男の子と女の子と男の娘なんでしょ? そのままにしておくと、各々の体型の差が出てこない?ホルモンの状態が違うんだから」
 
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「全員同じホルモン状態にさせる。だからボディラインは変わらない。食事の量もしっかりコントロールする」
 
「じゃ、男の子龍虎もおっぱい大きくするの?」
 
「それは青葉がブロックしているから大丈夫。だから3人はおっぱいの分だけ体重が違うことになる」
 
「なるほどね〜」
 
「あ、ちんちんの重さの分もね」
「ふむふむ」
 
「でも男龍虎はこれまでより、男としての自覚が出てくるだろうな。ドラマや映画で女役する所は、女龍虎を使って、男龍虎には男役しかさせないから」
と《こうちゃん》は言う。
 
「それが彼がおとなになるということなのかもね」
と《きーちゃん》。
 
「まあ男の娘龍虎は今のままのモラトリアムだけど」
「その子が本体?」
「俺にも分からん。本人たちも分かってないらしい」
「ふーん」
 
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7月12日。
 
千里2は冬子に電話した。青葉が先日の東京駅の事件のことを冬子に話してしまったようなので、こんな話を持ちかけるには絶好のタイミングだと千里2は思った。
 
「ローズ+リリー用に私3曲書くと言っていて、2曲までは書いて5月に送ったけど、もう1曲がなかなか思いつかなくて」
 
「あまり無理しないで、療養していた方がいいと思うよ」
などと冬子は言っている。
 
「それで、このままでは冬が困ると思ってさ。同じ雨宮グループの作曲家で、まだ自分の名前では曲を書いていないんだけど、琴沢幸穂(ことさわ・さちほ)ちゃんって人がいてね、凄くいい曲を書くんだよ」
 
「へー」
 
「良かったら、私の作品の代わりに使ってもらえないかと思って。とりあえずそちらにデータ送っていい?」
 
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「うん。それは聴いてみてから」
 
千里の予想通り、冬子は既に3曲もらっているとはこの場では言わなかった。たぶん厳しいスケジュールで動いているので、もらえそうな曲があったら全部見てみて取捨選択したいのだろう。
 
それで楽譜とCubaseのデータを送ったら、やはり冬子の反応が良い。
 
「これ素敵な作品だね。ぜひ使わせて」
 
と言った上で、
 
「ところで千里からは私風の作品2つと、もうひとつ醍醐春海名義の『縁台と打ち水』という作品ももらっているんだけど、こちらも使っていいんだっけ?」
 
などと言う。
 
千里2はしらばっくれる。
 
「あれぇ?そんな作品書いてたっけ?最近私、物忘れが酷いんだよ。でも私が送った作品で気に入ったのあったら、自由に使って」
「うん。じゃ使わせてもらうね。でもほんと千里、身体大事にね」
「ありがとう」
 
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そういう訳で、千里2は“新人作曲家”琴沢幸穂の売り込みに成功したのである。この作品『フック船長』は、先月『お嫁さんにしてね』を書いた後、1ヶ月掛けて練りに練って書き上げた、渾身の作品であった。
 

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千里1の思わぬ事故で、対策を話し合った、千里2と《きーちゃん》は千里3を帰国させることにした。
 
それでフランスに居る《えっちゃん》に連絡して、バスケ協会から緊急の呼び出しがあったので日本に戻ってきて欲しいと伝えた。
 
千里3は良く分からないまま、日本行きの飛行機に乗った。アパルトマンにも荷物は放置したままである。洗濯物まで放置したままである!
 
《えっちゃん》はマルセイユ・バスケット・クラブ側に、千里3の帰国を
「90日間の短期滞在可能な期間が過ぎるので、その対策でいったん帰国させるが、また後で来仏させる」と説明した。
 
MRS 7/12(Wed) 9:35 (AF7669 A319) 11:05 CDG
CDG 7/12(Wed) 13:35 (AF276 777-300ER) 7/13 8:20 NRT (11:45)
 
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それで7月13日8:20 千里は3ヶ月ぶりに日本に戻ってきた。入国手続きをしてから《きーちゃん》が運転するアテンザに乗って北区の合宿所に入る。到着したのは、10時頃であるが、本人もよく分からないまま風田コーチを呼んでもらった。
 

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「済みません。ちょっと来てと言われて来たのですが」
と千里が言うと、その千里3の表情を見て、風田コーチはこれは先日までの生気の無い村山とは別人のようだと思った。
 
「君ちょっと来て」
と言って、練習場に連れて行く。マーシャル監督にも声を掛ける。練習場には明日からの合宿に備えて、既にNTCに来ていた玲央美が居た。
 
玲央美は千里3の姿を見るなり、鋭いパスを送った。
 
バシッと音を立てて千里はそのパスを受け取ると、ドリブルで玲央美の方に向かって行った。
 
一瞬にして千里3は玲央美を抜くと、スリーポイントラインの所まで行き、そこから美しいフォームでシュートした。
 
ボールはダイレクトにゴールに飛び込む。
 
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「おぉ!!」
とマーシャル監督が声を挙げる。
 
「千里、復活したね」
と玲央美が言う。
 
「玲央美もスペインから呼び戻されたの?」
と千里3は訊いた。
 
「スペイン?何それ?」
「玲央美はスペインリーグに行ってたんでしょ?」
「そんな所行ってない」
「え〜〜〜!?」
 
「やはりまだ脳内は混乱しているようだが、バスケットは復活しましたよ」
と風田さんがマーシャルさんに言った。
 
「千里の顔を見ただけで、これはこないだまでの千里ではないと思いました」
と玲央美も言う。
 
風田アシスタントコーチはマーシャル・ヘッドコーチと見つめ合い、頷きあった。
 
「大野君が怪我したんだ。村山君、代わりに日本代表に復帰してくれない?」
と風田コーチが言った。
 
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「はい、やります!」
と驚きながら千里3は答えた。
 

その後、玲央美は千里3に言った。
「千里、使っている携帯見せて」
 
千里3は「へ?」という顔をして
「これ?」
と言ってAquosを取り出してみせる。玲央美はなぜか頷いている。
 
「その携帯の番号教えて」
「あ、うん。伝えてなかったっけ?」
 
などと言いながら、千里3は玲央美にAquosのデータを渡した。玲央美も自分の電話番号とアドレスを渡したので千里3はその番号で玲央美のデータを上書きした。
 
「千里、その番号、コーチにも伝えておこう」
と玲央美が言う。
 
「あれ?村山君、また携帯変えたの?」
と風田コーチが言うので、千里はコーチにもAquosの電話番号とアドレスを送信した。
 
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7月13日(木)の朝、千里1はヤマゴの指示で川崎のレッドインパルスの体育館に行った。実はちょうど千里3が帰国後ナショナル・トレーニング・センターに行った頃である。
 
この時点ではみんな千里が代表落ちしたのを聞いている。
 
「サン、日本代表は残念だったね」
「また頑張ろう」
などと声を掛けたのだが、千里1は松山コーチに言った。
 
「済みません。本当に心苦しいのですが、今物凄く調子が悪いんです。今の状態では、とてもレッドインパルスの1軍選手としても戦えません。私をいったん2軍に落としていただけませんか?」
 
「え〜〜!?」
 
それで松山コーチは千里にシュートをさせたり、何人かの選手とマッチアップさせたりした。
 
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「ほんとに君どうしたの?」
とコーチは千里の体調を心配した。
 
「既に今年は1軍・2軍の登録期限が過ぎているんだよ。登録していなかった選手を8月に追加登録することはできるけど、既に登録している選手を外すことはできない」
「申し訳ありません。年俸を返上しますので、扱いだけ2軍選手ということに」
「分かった。それではそういうことにしよう」
 
それで千里1は翌日から、川崎市内の1軍が使用している体育館ではなく、横浜市郊外にある2軍が使用している体育館の方に練習に行くようになったのである。
 

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レッドインパルスでは、松山ヘッドコーチ・黒江アシスタントコーチ・小坂代表が川崎の体育館に集まり、緊急の会議をしていた。千里が物凄い不調で、この状況では秋からのリーグ戦で全く使い物になりそうにない。それで彼女に代るシューティングガードをどうするか?場合によっては誰かをスカウトして8月までに追加登録するかというのを検討し始めていた。
 
ところが13時頃、千里3がキョロキョロしながらやってきた。実はナショナル・トレーニング・センターを出て、合宿の準備のためにいったん用賀に向かったところを《きーちゃん》に川崎まで行ってと言われて来たのである。
 
その様子を見て、小坂代表が出て行く。
 
「村山君、どうしたの?」
「いえ。何かよく分からないのですが、川崎の体育館に来てという連絡があったので」
「待って」
 
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それで小坂代表は、松山か黒江が呼んだのだろうかと思い、声を掛けようとしたのだが、それ以前に黒江咲子アシスタントコーチが出てきて、鋭いパスを千里に送った。
 
しっかりとボールをキャッチする。
 
「シュートして」
と黒江さんが言うので、千里3はそのボールをドリブルして、スリーポイントラインの所から美しくシュートした。
 
きれいに入る。
 
「おぉ!」
 
「あのぉ、どうかしたんですか?」
と千里3は戸惑うように言った。
 
「この子、午前中に来た子とは別人だと思いません?」
と黒江咲子は言う。
 
「うん。だからこういうことにしない?」
と松山ヘッドコーチは言う。
 
「2軍に落とした村山君は村山十里、ここにいる村山君は村山千里くらいで」
 
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「ああ、そんな感じでいいと思いますよ」
と黒江咲子。
 
この時点で、松山や黒江は、おそらく千里が二重人格状態になっていて、片方は極端にバスケの力が落ちているものの、片方は今まで以上にバスケが強くなっているのではと考えていた。
 
「何のことですか?」
と千里3は松山らが言っている意味がさっぱり分からないので、首をひねっていた。
 
「あ、そうそう」
と千里3は言った。
 
「協会から連絡が入ると思いますが、怪我人が出たので、私、日本代表に再召集されちゃったんですよ。ですからアジアカップが終わるまで、こちらに出てこられなくなりましたので、済みません」
 
「なるほどー」
「そりゃ再召集もされるだろうね」
 
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(千里3のいう『再招集』というのは、4月に代表から外れていたのが、再招集されたということなのだが、松山らは7月4日に代表落ちした後の最召集と捉えている)
 
「こちらは何とかやっていくから、アジアカップ頑張ってきてね」
「はい!」
と千里3は元気に答えた。
 

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△・死と再生(3)

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