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■△・死と再生(7)

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8月5日。WBCBLは全米ファイナルのトーナメント、準々決勝と準決勝がミズーリ州のセントルイス(St.Louis)で行われた。
 
ヴィクトリア(千里2)の所属するスワローズは午前中の準々決勝には勝ったものの、午後からの準決勝には僅差で敗れた。
 
この結果、スワローズは今季はBEST4に終わり、翌日の決勝に進出することはできなかった。
 
しかし昨シーズンは地区プレイオフの決勝で敗れて地区2位に終わっていたので、今季大健闘であった。
 
チームは6日の決勝を見学した後、現地で今季の解散式をした。
 
「ヴィクトリア、来年も来る?」
「特に何かの事態が起きない限り来たいです」
「じゃよろしく」
 
と言って、千里2はキャプテンのリンダたちやコーチのアトキンスさん、オーナーのカーターさんなどと握手をした。
 
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決勝戦が終わったのが現地時刻(CDT = UTC-5)で16時頃であった。
 
セントルイスからは各々自分の地元に戻るようであったが、フィラデルバーグに戻る人たちだけは、チームで切符を用意して20時の飛行機で戻った。
 
千里2はセントルイス市内で1泊した後、次のような連絡でフランスのマルセイユに渡った。今回は大西洋を横断したので、日本には寄ってない!
 
STL 8/7(Mon) 10:45 (UA4896 ERJ-135) 13:48 IAD (2:03)
IAD 17:25 (UA915) 8/8 6:55 CDG (7:30)
CDG 9:55 (AF7662) 11:15 MRS (1:20)
 
STLはセントルイス市内のランバート・セントルイス国際空港、
IADはワシントンD.C.の玄関口になるワシントン・ダレス国際空港、
CDGはパリのシャルル・ド・ゴール国際空港、
MRSはマルセイユ・プロバンス空港である。
 
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マルセイユ・プロバンス空港からタクシーでサンベージュ体育館に駆けつけると、マルセイユ・バスケット・クラブのメンバーは午前中の練習を終えて、お昼を食べに出ようとしていた所であった。
 
「ボンジュール」
と千里2は彼女たちに声を掛ける。
 
「キュー!」
「戻って来たのね?」
 
「どうも済みませんでした。今回はちゃんと就労ビザを取ってきました。滞在許可証も取りました」
と言ってパスポートや書類を見せる。
 
そのあたりの手続きは、実は5月頃から《えっちゃん》がフランス国内で進めておいてくれたのである。就労ビザの取得は結構大変なのであるが、バスケットのプロリーグ運営会社は充分社会的な信用があるし、千里自身が日本代表になる程の選手ということで、わりとすんなり取得することができた。
 
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「だったら、今シーズンのリーグに参加する?」
「良かったから参加させて下さい」
 
4-7月は無報酬で単に練習に参加していただけだったのでビザ不要の短期滞在ということで良かったのだが、選手として登録されてリーグ戦に参加するには就労ビザと滞在許可証が必要である。
 
「よし。キューがいれば去年より2つくらい順位上げられるな」
「優勝しましょう」
 
それで千里2はキャプテンのオリビエや割と仲の良いエヴリーヌなどと握手した。
 
千里3が千里1に代わって日本代表になったので、千里2が千里3の代わりにMBFに参加することにしたのである。フランスの女子プロリーグのリーグ戦は10月に始まって5月上旬に終わる。つまり日本のWリーグとほぼ重なる日程である。千里2はこちらのリーグ戦が終わってから、また来季はアメリカWBCBLのPSF(フィラデルバーグ・スワローズ)に参加する予定である。
 
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千里2がフランス・マルセイユのMBFに参加して以降の3人の標準的な日程はこのような感じである。これがフランスの夏時刻が終わる10月28日まで続く。
 

 
MBFの練習は基本的に平日だけなので、実は土日は千里は深夜の深川の体育館でひとりで練習をしている。たいていマルセイユのアパルトマンで寝ていることが多いが、作曲作業のために葛西に来ていることもあり、そのまま眠ってしまうこともある。また週に1〜2度はフィラデルバーグのアパートにも寄って、掃除をして空気を入れ換えたりしている。
 
それで千里2は朝は葛西で御飯とお味噌汁を食べ、昼はフランスで鴨のコンフィとブリオッシュを食べ、夜はアメリカでハンバーガーとフレンチポテトを食べるなどといったことをしたりする。もっとも、千里自身、どれが朝御飯でどれが夕ご飯なのか判然としない。ちなみに千里2は腕時計(貴司からもらったスントの腕時計)は面倒なので日本時間のままにしている。だからMBFの練習は千里2の時計では、夕方16時から夜中1時くらいまでしていることになる。
 
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8月28日(月)。
 
○○建設との打合せに出ていた千里1はシステムの契約に至るのだが、その後、また川島信次からお茶に誘われる。困るんだけどなあと思いつつも断ることもできないので付き合ったら、いきなり結婚して欲しいと言われてしまった。
 
千里1は仕事も絡むことなので即答できないと答えて、翌29日、山口社長に相談する。山口は困ったと思ったものの、千里に性別を変更していることを川島に言ってもらえないかと要請した。千里1も仕方ないのでそうすることにする。
 
それで翌29日、千里1は社長と一緒に○○建設に赴く。向こうはこちらの社長が出てきたので驚いて所長も一緒に出てくる。
 
千里1はこんな人数がいる場所で言わないといけないのか?ともう逃げ出したい気分だったが、仕方ないので、2012年7月に性転換手術を受け、同10月に性別を変更していることを話した。
 
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その上で、山口社長は、2人の関係が破談になった場合は、さすがに村山を担当にできないので自分が直接陣頭指揮を執ってシステムを完成させるので、システムについては心配しないで欲しいと所長さんに言った。
 
信次は少し考えさせてくれと言ったが、翌30日返事をしたいと連絡をしてきて、結局31日(木)の午後、また千里、信次、こちらの社長、向こうの所長の4人で会うことになる。
 
その場で信次は千里の過去の性別は気にしないから、結婚して欲しいと再度千里にプロポーズした。
 
こういう流れになってしまうと、千里1はこのプロポーズを断るすべが無かった。結局同意してしまうものの、絶対川島さんの親が反対するだろうからこの縁談は破談になると思った。
 
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千里1はこの再求婚された日を含めて信次と数回デートし、4回目のデートではとうとうホテルに行ってセックスをしてしまう。
 
この時期、千里1はやっと貴司と京平のことも思い出していたので(ただしこの時点で千里1は京平のことを単に貴司の息子と思っている)、
 
「貴司ごめん。桃香ごめん」
と心の中で謝りながら信次を受け入れた。信次は実際にはホテルに行った後、
 
「千里ちゃん、前で受け入れられるんだっけ?なんなら、僕が女役で千里ちゃんが男役でもいいけど」
などと言うので千里は苦笑して
 
「大丈夫だよ。私のヴァギナはちゃんと男の人を受け入れられるよ。それに私、男役はできないよ」
 
と言って、信次が男役、千里が女役という(千里の感覚で)普通の結合をした。千里は「変なこと言う人だなあ」と思ったものの、まさか信次が本来は男性同性愛の女役であるとは、思いも寄らなかった。
 
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このふたりが初めて結合した日、信次は千里に、来週の日曜日にでも母と会って欲しいと言ったが、千里は絶対お母さんは認めてくれないよと言った。信次は説得するからと言うので、千里も渋々了承した。
 
本当に困ったことになりつつある。どうやってこの縁談をぶち壊そうかと悩んだ千里1は、気分転換に、お茶教室に行ったのだが、そこで以前から親しかった康子さんから息子と見合いをしてくれないかと頼まれた。
 
「困ります。私、恋人がいるんです」
と千里は言う。
 
ところが康子が言うには、息子が変な女に引っかかって結婚すると言っているが絶対その女に騙されている。だから息子の目を覚ますために、こんな素敵な女性もいるのだということを示すために見合いして欲しいと言われるのである。
 
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こういう状況に追い込まれたのが千里2や千里3であったら、こういうものに流されずに、きちんと信次のプロポーズも断り、康子の見合い話も断っていたであろう。しかし千里1はそもそも2や3に比べて受け身的で、流されやすい性格である。それで結局千里1はこの見合い話にも同意してしまうのである。
 
結局9月16日、千里1は見合いならこれかなあと考えて訪問着を着て、ミラを運転して、康子の家を訪問した。
 
康子の家では見合いしろという康子と、そんなのしないと言って、ヒゲも剃らずに、パジャマのままの信次が言い争いをしていた。そこに千里が入って行く。
 
信次はびっくりして棒立ちになる。
千里も驚いて立ち尽くす。
 
康子は何が起きたのか分からず、ふたりの顔を見比べていた。
 
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ふたりの話を聞いて、いちばん衝撃を受けたのが康子であった。康子はひどくガッカリして座り込んでしまう。
 
千里1は言った。
 
「私の性別のことを言ってなくてごめんなさい。私は身を引きますから、信次さんには、もっといい女性を探してあげてください」
 
正直自分は身を引きたい!と千里1は思っている。
 
しかし信次は、身を引くなんて言わないで欲しい。自分は千里の過去の性別のことも気にしないし、子供を作れないことも気にしない。だから結婚したいと主張した。
 
身を引きたいと言う千里と、結婚したいという信次が言い争う形になってしまったのだが、そこで康子が発言した。
 
「千里ちゃん。私は千里ちゃんのこと気に入っているもん。だから信次と結婚してあげて」
 
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うっそー!?と千里1は思う。
 
しかし康子がふたりの仲を認めてしまったことで、千里1はもうこの縁談を断るに断れなくなってしまった。
 

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やばいよぉ、どうしよう?と思いながら、千里1は桃香の許を訪れ、婚約してしまったことを言う。当然のことながら桃香は激怒した。
 
「何〜〜〜?結婚するだとぉ?」
 
そして桃香は言う。
 
「取り敢えずセックスするぞ」
「ちょっと待ってぇ!」
 
千里が足腰立たないほどまでやってから、桃香は言った。
 
「他の男と結婚してもいいけど、条件がある」
「うん?」
 
「私と交換した指輪は持っていて欲しい」
「うん。それはずっと持っておくよ」
「私ともずっとセックスを続けること」
「勘弁してぇ。不倫になる」
「私がレイプするんなら、千里の意志でセックスするんじゃないから不倫じゃないよな?」
「変な理屈!」
「どうせ千里、細川さんともセックスしてる癖に」
「してないよぉ」
「嘘つく子はおしおきするぞ」
「これ以上やったら壊れる〜!」
 
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「早月におっぱいはあげること」
「うん。ちゃんとおっぱいあげるよ。私の娘だもん」
 
「1年後には離婚して私の所に戻って来ること」
「そんな無茶な!」
 

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何か変な条件を呑まされた感じはしたものの、取り敢えず千里は桃香の許可をもらい(?)、信次との結婚を進めることにした。
 
でも1年後に離婚って、どうやって切りだそう?などと悩んでいる。
 
千里は川島信次と結婚するということをまず青葉に伝えた。青葉は当惑する様子であったものの、朋子は「良かったじゃない」と喜んでくれた。ただ、千里が相手の名前を伝えた時、一瞬「え?」と言った。
 
それから千里1は貴司に手紙を書き、貴司との愛の証である金色のリング状のストラップも同封し、別の男性と結婚することを報せ、もう会わないようにしようと告げた。保志絵さんから返された婚約指輪と結婚指輪は置いていたはずの場所に見当たらないので、再度保志絵さんに返したんだっけ?などと思った。
 
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貴司は「結婚おめでとう」という返事を書いてきてくれた。そして会わないことには同意するが、リングのストラップは持っていて欲しいと言ってそれは送り返してきた。それで千里1は桃香と交換したダイヤの指輪も、貴司と交換したストラップもそのまま持っておくことになった。
 
貴司のお母さんには手紙では済ませられないと思い、電話してそのことを伝えた。2017年9月24日(日)15時すぎであった。
 
お母さんは最初千里1からの電話を受けた時「へ?」という声をあげたものの、千里1の話を聞くと
 
「ずっと貴司が曖昧な態度を取っていて悪かったね。幸せになってね」
と言ってくれた。
 

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