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■△・死と再生(4)

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バスケット協会は翌7月14日(金)、大野百合絵の怪我に伴い、村山千里を日本代表に緊急召集したことを発表した。
 
このニュースに一番驚愕したのが青葉である。
 
青葉はすぐに千里に電話してみたのだが、繋がらない!?
 
青葉はiPhoneの番号に掛けたのだが、iPhoneは東京駅の事故のため実は故障していた。そのことに千里1自身がまだ気付いていない。
 
青葉は少し考えてみて、アドレス帳に並んでいる3つの番号の内、別の電話番号に掛けてみた。これが実は元からのフィーチャホンの電話番号であった。それで青葉の電話は千里2につながった。
 
「代表復帰おめでとう」
「ありがとう。春先から調子落としていたからね。でもちょっと奮起したよ」
「ちー姉、電話を通してもパワーが伝わってくる。だいぶ元気になったね」
「うん。まあ打たれ強いのが私の長所だし。ただごめん。青葉をしばらく霊的にサポートしてあげられないかも」
 
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瞬嶽の遺言に近い依頼でここ数年青葉のサポートをしてきたのだが、正直、青葉はそろそろ独り立ちすべきではと千里は思っていた。青葉は霊的な能力は大きいものの、そのあたりの覚悟が天津子に比べて弱すぎるし、それが青葉の弱点になっていると千里は考えていた。
 
「うん。いいよ。そちらはちー姉の回復を待つから、焦らず回復に努めて」
 
そう言って青葉は電話を切ったものの、この電話をしている最中に青葉の後ろに居候している《姫様》が実に奇妙な顔をしたことに、青葉は気付かなかった。
 

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千里1の持っている壊れたiPhoneだが、《きーちゃん》の手で解約しておくことにした。するとそこに掛けた時『この番号は現在使用されていません』のメッセージが流れるので、前の番号も保存している人はそちらに(つまり千里2に)掛けてくれるだろう。千里2が電話を受けた場合はどうにでも処理できる。
 
そもそもiPhoneの番号を知っている人は、この端末を4月に買った時の経緯から、ほとんどバスケの日本代表関係者である。その人たちにはたいてい千里3がAquosの番号を再通知しているし、分からなければレッドインパルスに連絡して来るだろう。またJソフト関係の連絡は電話が通じなければメールしてくるはずなので、これは《せいちゃん》が処理できる。元々個人の携帯のアドレスは取引先などには開示しておらず、会社のサーバー上に定義したアドレスからIMAP4で取るようにしていた。
 
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また本人はiPhoneから電話できなくても自分の操作が悪いのだろうと考え、家電などから電話をしている。千里1は3人の千里の中でも特に機械音痴度が大きく、機械音痴の人にスマホは辛い。
 
つまり千里1の持っているiPhoneが使えなくても、本人も周囲も誰も困らないのである。
 

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千里3が緊急帰国した後の3人の千里の標準的な行動パターンはこのような感じである。
 

 
千里1の就寝中に、羽衣は千里1の治療を主として行っている。壊れた霊的な回路を少しずつ修復していく、時間の掛かる作業である。この時期は実は羽衣自身もけっこうな怪我を負ったままで、自分の治療と同時に千里の治療も進めている。
 
「でもこの子、確か前見た時は、男の娘で、卵巣と子宮を偽装していたはずなのに、今は卵巣と子宮が本当にあるじゃん。移植でもしたのかな?」
 
と言って、羽衣は首をひねっていた。
 

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この時期、千里1は度々信次にお茶に誘われ、仕事上の関係で断れないものの、困ったなあと思っていた。
 
事故の衝撃があまりに大きかったため、千里1は様々なことを忘れていた。例えば自分が葛西に秘密のマンションを持っていたこと、アテンザを所有していたことも忘れている。小学生の頃に覚えたような「焼き付け」に近い知識だけが残っているので、今の千里1には簡単な一次連立方程式さえ解けない。但し車の運転のような小脳的記憶はしっかり残っている。
 
桃香との微妙な関係も忘れてしまったのだが、桃香がいいように教え込んで、早月は2人の愛の結晶であると教育したので、千里1は今、桃香と自分は大学生の時以来の恋愛関係にあると思い込んでいる。結果的に貴司との関係も忘れており、京平のことさえ覚えていない。また小春からこの人と結婚してと言われたことも忘れていた。
 
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その付近は、羽衣と千里2が独立して千里1の治療を日々していたことから、年末くらいに掛けて少しずつ思い出していくのだが、かなり思い出した頃には既に信次と婚約してしまっていた。
 
信次は千里1と色々話していて、なぜ自分はこの子に興味を持ってしまったんだろうと自問していた。凄く女らしい子なので、普通なら恋愛対象外である。信次は基本的に男性にしか恋愛的興味が無いので春に言い寄ってきた多紀音という女の子の求愛も断っていたが、実は男っぽい女の子はギリギリ許容範囲である。この子、もしかしたらレスビアンかな?などとも考えていた。だったら、優子と付き合った時みたいに、自分がネコになれるかもなどと妄想もしていた。
 
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一方、フランスから緊急帰国した千里3が加わったバスケ女子日本代表チームは7月14日の夕方から18日まで味の素ナショナル・トレーニング・センターで第五次強化合宿を行った。
 
「サン凄すぎる!」
とみんなが言う。
 
実際千里3はハイレベルなフランスリーグのチームで無茶苦茶鍛えられていた。マルセイユのチームの中で千里は6番目か7番目くらいのプレイヤーであった。自分よりずっと高いレベルの選手にもまれて、千里3はこの3ヶ月で物凄く進化していた。
 
7月19日、日本代表チームはインドに渡った。
 
アジアカップは23日からである。
 

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《こうちゃん》は“彼女”と極秘に会っていた。
 
「鱒渕の容態がかなり悪化しているんです。助けてあげられませんか?」
 
「私は神様じゃないし、人の寿命までは関知できないけど」
「あなたならできるでしょう?」
 
“彼女”は少し考えていた。
 
「まあいいか。鱒渕ちゃんが死んだら《私のおもちゃ》が悲しむだろうし」
「じゃ助けてくれますか?」
 
「紹嵐光龍君の労働奉仕20年くらいで」
「いいですよ、虚空さん」
 
と言いながら、俺最近何人もから本名呼ばれているなと思う。
 
彼女は棚から硝子の瓶を取り出した。
 
「これ今ストックが5本しか無いんだよ」
「何かの薬ですか?」
 
「賭けをしよう。この薬を注射してごらん。90%の確率で回復に向かい出す」
「残り10%は?」
「すぐに死ぬ。もし死んじゃったら労働奉仕は無しでいいや。あと副作用で稀に性別が変わることもある」
 
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「お預かりします。性別は変わった時は変わった時で。どっちみち彼女はこのままにしておくと年内には死にそうです。助ける道はこれしかないと思います」
 
「君の希望通りになるといいね」
 
と言って虚空は微笑んだ。
 

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「それとついでみたいで申し訳ないのですが、千里は復活しますよね?」
と《こうちゃん》は彼女に尋ねた。
 
「復活する。但しあの子は来年、あと1回死にかけるから」
「え〜〜〜!?」
 
「落雷と羽衣ちゃんのミスは物理的なショックだけだったけど、次は精神的ショックも来る」
「あいつ厄年ですか〜?」
 
「でも死なない。君が思っているようにね。あの子は100歳まで生きるんだよ」
と虚空は言う。
 
「数百年生きるのかと思ってた」
と《こうちゃん》。
 
「まあ人間としての寿命は100歳までってことさ」
「なるほどね〜。じゃ千里って今はまだ人間なんですか?」
「もちろん。私も人間だよ、念のため」
「千里は人間かも知れないけど、虚空さんが人間だというのは絶対嘘です」
 
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虚空はそれには答えず、こういうことを言った。
 
「だけどどうも君は気付いてないようだね」
「何にですか?」
「いいよ、いいよ、だけど労働奉仕20年は何してもらおうかなぁ」
「新しい大陸でも作りますか?」
「それも楽しそうだけどね」
 
と言って虚空は本棚から世界地図を取った。
 
「どこに作る?やはり太平洋の真ん中?」
「ほんとに作るんですか!?」
 

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千里3を含むバスケット女子日本代表チームはデリー乗り継ぎでアジアカップの行われるインド・ベンガルールに渡った。
 
NRT 7/19(Wed) 11:15 (AI307 787-8) 17:00 DEL
DEL 20:30 (AI504 A321-Sharklets) 23:15 BLR
 
千里はこの連絡は、2010年にU20アジア選手権でチェンナイに行った時と同じパターンだなと思った。あの時はデリーからタミルのチェンナイ(旧マドラス)に飛んだのだが、今回はカルナータカ州のベンガルール(旧バンガロール)に飛ぶ。前回はタミル語圏だったが、今回はカンナダ語圏である。
 

 
ベンガルールの位置は、大雑把に言うとチェンナイの真西280kmくらいで、ひじょうに近い。カルナータカ州には実はタミル語を話す人たちもかなり住んでいて、文化的にも近い。同じ《南インド》文化圏である。
 
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ベンガルールのケンペゴウダ国際空港(BLR)に到着したのは23:15だが日本とは3.5時間の時差があるので、日本時間では7/20 2:45である。大半の選手が機内で寝ていたし、ホテルに入ると、そのまま寝た。千里3も半分眠りながらベッドに辿り付き、熟睡した。
 

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今回日本代表としてインドに渡航したのは下記の12名と補欠4名である。数字は生まれた“年度”である。
 
PG 5.武藤博美(EW.1983) 13.水原由姫(BM.1993)
SG 15.村山千里(RI.1990)
SF 6.佐藤玲央美(JG.1990) 4.広川妙子(RI.1984) 11.湧見絵津子(SB.1992) 14.前田彰恵(JG.1990) 12.渡辺純子(RI.1992)
PF 10.鞠原江美子(RI.1990) 7.高梁王子(JG.1992)
C 8.森下誠美(4m.1990) 9.馬田恵子(EW.1985)
 
補欠 16.平田徳香(PF.SB.1988) 17.夢原円(C.SB.1992) 18.宮川小巻(PG.SS.1993) 19.伊香秋子(SG.FM.1992)
 
1990-1993生が主力で、それ以上の年代で入っているのはキャプテンの広川妙子、ポイントガードの武藤博美、センターの馬田恵子、補欠参加になった平田徳香の4人である。
 
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今回は「因縁の2人」馬田恵子と森下誠美が同じセンターとして代表になった。2009年に馬田恵子は日本代表にするという「口約束」を元に日本に帰化し、エレクトロウィッカに加入。そのため選手枠から弾き出された森下誠美はローキューツに移籍した。その後、バスケ協会はなかなかこの2人を同時に同じチームには呼ばないようにしていたので、結果的に森下誠美はなかなかフル代表に呼んでもらえなかった。ところが昨年は馬田さんが調子を崩していたことから、森下誠美がフル代表に呼ばれた。そして充分な活躍をしたので結局今年は調子を戻した馬田さんと2人が呼ばれることになったのである。
 
協会はかなり神経を使い、双方に親しい、数人の選手と一緒に2人が同席する食事会(玲央美も呼ばれた)を開き、そこで懇親を図ろうとしたが、ふたりは
 
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「食事よりマッチアップがいい」
 
と言って、体育館に行き、たくさんマッチアップをしたり、リバウンド争いをした。それですぐにふたりは仲良くなってしまったのである。
 
今回千里が15番の背番号を付けているのは15番を付けていた大野百合絵と交代で入ったからである。7月4日までは実は7番を付けていた。
 
昨年のリオ五輪では補欠は3人リオまで同行したのだが、今年は4人インドに連れていくことになった。実はシューティングガードの伊香秋子はインド渡航のわずか2日前に頼むと言われて、補欠に加えられた。
 
それは何と言っても、千里が「また調子を落とさないか」という首脳陣の心配から《保険を掛けた》ものである。インドで調整している最中に千里がおかしくなってしまった場合は、千里を急病ということにして、伊香秋子と交代させるつもりである。
 
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