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■△・死と再生(2)

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合宿所では千里1の身代わりをしていた《すーちゃん》が強制召還されて居なくなっていたので、集合時刻に千里が居ないというので騒ぎになっていた。電話もつながらない(実は東京駅での事故の際に、iPhoneも壊れてしまったのである)。それで千里1が戻ってくると
 
「何やってたんだ?」
と叱られた。
 
そして間もなく、メディア公開した練習試合が始まった。
 
千里1はスターターで出て行ったものの、全くいい所が無かった。スリーが全然入らない上に、かなり相手選手からスティールされた。
 
それで短時間で交代した。
 
風田コーチが
「村山君どうしたの?風邪でもひいた?」
と心配していた。
 
青葉と彪志は千里(千里1)の様子が明らかにおかしかったので、ナショナル・トレーニング・センターまで付いてきた。千里の親族だと言って中に入れてもらう。そして実際に千里のプレイを見て、さっきの事故の影響がもろに出ていることを感じた。
 
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そして青葉は千里がその霊的な力をほとんど失っていることにも気付いた。
 

練習試合の終了後、マーシャル監督は千里に代表落ちを通告する。風田コーチは何とかかばおうとしたのだが、勝手に外出して集合時刻に遅れた上にあのプレイでは他の選手に示しが付かないと監督は言った。坂口代表も今日のプレイではやむを得んねと言った。そして千里にこう言った。
 
「君はやはりまだ落雷事故の影響が残っているんだと思う。今年いっぱい休養に務めなさい。来年のワールドカップの代表候補には必ず呼ぶから、それまで英気を養って、再起して欲しい」
 
「分かりました。大変申し訳ありませんでした」
 
さすがに意気消沈している千里1に青葉と彪志が寄ってくる。
 
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「ちー姉、とりあえずアパートまで送るよ」
 
それで青葉と彪志は千里(千里1)の合宿所の部屋の荷物の整理を手伝い、合宿所に駐めていたミラを青葉が運転して、千里を経堂のアパートまで送って行った。青葉は本当はアクアの打合せに行かなければならなかったのだが、姉が事故に遭ったのでと言い、夕方に変更してもらった。
 

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千里1がいったん死亡したことから、千里の守護を巡って、後ろの子たちの意見が割れた。
 
彼らは真の主(あるじ)である美鳳から、千里が死ぬまで守護するよう命じられていた。ところが千里は死んでしまった。これで自分たちの任務は終了したので出羽に帰還すべきという意見と、千里は生き返ったのだから任務は継続しているという意見が出て、議論するも結論が出ない。議長役をしていた《きーちゃん》も困って結局、リーダーである《とうちゃん》に決めて欲しいと言った。
 
それで《とうちゃん》は「3年待ってみよう」と提案した。
 
3年の間に、千里が霊的な力を復活させ、自分たちとの交信ができるだけのパワーを回復させたら自分たちは引き続き千里の守護をすればいい。3年経っても回復しなかったら、出羽に戻ろうと。人間の数十倍の寿命を持つ自分たちにとって3年なんて誤差の範囲だから出羽に戻るのにそのくらい掛かっても命令違反にはならないと《とうちゃん》は言った。
 
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それでみんなは納得し、3年間、千里を守護しながら、千里の霊的な力の回復を待つことにした。
 
実際には千里は2年くらいで霊的な力を回復させるのでは?と、《とうちゃん》や《こうちゃん》など、千里の“丈夫さ”を知る眷属たちは思っていた。
 

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千里1が死んだ時、千里3はフランスにいて当地は朝5:10である。マルセイユのアパルトマンで寝ていたが、ショックで目を覚ます。
 
どうしたんだ?
 
と思った時、誰か聞いたことのある声で
「千里、ちょっと力を貸して」
と言われる。
 
「うん」
と言って、声のした方に手を伸ばした。そこから少しエネルギーが吸い上げられる感覚がある。30秒ほどそうしている内に
 
「成功。ありがとう」
という声があった。
 
千里3は、今誰からの交信だったんだろう?などと思いながら起き上がると朝御飯を作り始めた。
 

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千里1が死亡した時、千里2は日本に居たが葛西のマンションで仮眠中だった。しかしショックで目を覚ます。何だ何だ?と思う。そばで自分も目を覚ました《きーちゃん》が
 
「千里1が死んだ」
と言った。
 
「うっそー!?なんで?」
 
と千里が言った次の瞬間、《きーちゃん》の姿が消える。《くうちゃん》に強制召還されたなと千里2は思った。
 
集中して千里1の様子を伺う。千里2は千里1と3の位置を常にフォローしている。
 
ありゃあ、ホントに死んでいる。やばいじゃん。しかも完全放電してる!身体自体の損傷は無いけど、これでは助けようが無い。
 
(完全放電してしまった携帯電話は充電のために必要な回路も動かせないのでUSB経由では充電できないのに似ている)
 
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そう思った時、千里1にごく僅かながらどこかから生命エネルギーが流れ込んできた。よし、これなら蘇生できると千里2は思い、千里1に呼びかけた。
 
「千里、手を出して」
そして精神的に千里1の手を握ってあげた。
 
そこからエネルギーを注入する。これは千里3と一緒にやった方がいいと思ったので、千里3にも呼びかけて、一緒に注入した。
 
ショック状態にあった千里1の生命維持システムが再稼働し始める。
 
が、まだ心臓が停まったままだ。これをどうやって動かそう?私にはAEDなんて効かないし、と思った時、千里1のそばに青葉が来たので、いったん作業を中止する。青葉が蘇生処置を施した。それで千里1の心臓が動き出す。よし、さすが青葉!と千里2は思った。
 
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このようにコネクションの取れている相手の傍の状況をまるでそこに居るかのように視覚的に感じることができるのは千里の持つ特異な能力なのだが、本人はそれが特別なことであることを認識していない。もっとも3人の千里の内、これができるのは千里2のみである。
 

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千里1は代表落ちしたことから、Jソフトの山口社長(6月末に専務から社長に昇格した)に家電から電話して、代表から落ちてしまったので、明日から会社に復職しますと連絡した。
 
この連絡に、結果的にそこで仕事をすることになる《せいちゃん》が悲鳴をあげた。
 
『女装生活復帰おめでとう』
などと《こうちゃん》が言う。
 
『お前、女装好きだよな?お前が代わりにやらない?』
『俺、コンピュータなんて全然分からないもん』
 
もっとも《こうちゃん》も色々社会体験したおかげで、Excelくらいは扱えるらしい。
 

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翌日の朝、羽衣が千里の眷属たちにコネクトしてきた。
 
『私の失態で千里ちゃんを壊してしまって申し訳無い。実は美鳳さんに酷く叱られた』
 
美鳳が介入してきたことを知ったことで、眷属たちの多くはやはり千里を引き続き守護しておいてよいのだろうなと思った。
 
『それで私の眷属のヤマゴというのを千里ちゃんに貸したから。千里に何かさせた方がいいことがあったら、ヤマゴに話してもらえないだろうか。そしたら、ヤマゴが千里ちゃんに伝える』
 
ヤマゴというのは、羽衣が択捉島で捕獲したリスなのだが、羽衣が自分の眷属にして、千里のストラップに擬態させている。彼は『心の声』で伝えられたことを千里にだけ聞こえる声で伝え直すことができる。無線LANを有線に変換しているようなものだ。
 
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『分かりました。利用させて頂きます』
と眷属を代表して《とうちゃん》は答えた。
 
『千里ちゃんの身体は私も全力で修復に努めるけど、大まかな修復に1年くらい、完全な修復には2年くらい待って欲しい』
 
『分かりました。それもよろしくお願いします』
 
ただ、多くの眷属は羽衣がその修復に成功する確率は50:50ではないかと考えていた。
 

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《きーちゃん》から千里1に小春の気配が全く感じられず、恐らく亡くなったのだと思うと聞くと、千里2は覚悟していたこととはいえ、涙が止まらなかった。
 
千里1が死んだ直後に僅かにエネルギーが流入してきた。それで千里1を蘇生させることができた。あのエネルギーが多分小春由来だったのだろうと千里2は思った。千里の身体と一体化していた小春だからこそできた処置だ。元々小春は春頃からエイリアスも作れないほど衰弱していた。多分あれで力尽きたのだろう。
 
用賀のアパートに行き、小春を追悼する祭詞を奏上した上で
 
「今日は飲む」
と宣言して、フォックストロット(ラム+オレンジキュラソー+レモンジュース)を作って、1杯飲み干した。
 
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これは実はかなり効く。千里もクラクラっと来た。
 
その後、ビール片手に、子供の頃の小春との思い出にふけった。
 
《きーちゃん》も今日はお酒に付き合ってくれた。千里は彼女に小春のことをたくさん話した。
 
「だったら千里って小春さんがいなかったら、とっくの昔に死んでたんだ?」
「たぶん10回くらい死んでいると思う」
 
「でも小春さんを千里が産み直してあげるんでしょ?」
と《きーちゃん》は言う。
 
「うん。そう約束している。それを世間的に誰が産んだことにするかが問題なんだけどね」
と千里は言った。
 
「小春は、1年くらいでこの世に戻って来るつもりだと言っていた。小春という名前にふさわしいように、秋に産んでくれたら理想と言っていたから、10月に産むなら、来年の1月くらいに妊娠するのが理想かな」
 
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「誰かの精子を搾り取ってきて、千里妊娠しちゃえば?」
「千里1に産んでもらうのが助かるんだけどね。そしたら、私も千里3もバスケ活動を中断しなくて済む」
「なるほどー」
 
「あの子、体力と精神力を回復させるのに多分2年くらい掛かるでしょ?」
「正直、状況を聞いて蘇生したのが凄いと思った。やはり千里って死なないようにできているんだと思うよ」
 
「赤ちゃん産んだ方が頑張ろうという気になるだろうし」
「ほんとに産ませちゃう?」
「千里1は妊娠できるよね?」
「1と2は妊娠可能。3は卵巣と子宮を持ってないからNG」
 

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千里2は《きーちゃん》に頼んだ。
 
「必要なら私自身が大神様にお願いするけど、こういうことにしてくれない?貴司に常に監視を付けておいて、貴司がセックスしようとした相手の女性器を私の女性器と交換して欲しい。すると貴司が誰かとセックスすることで私は妊娠することができる」
 
「《私》というより千里1の女性器と交換すればいいんだよね?」
「うん。それが理想」
「それはできると思う。それに近いことを過去にしたことあるから」
「へー!」
「まあ大神様の許可がなければできないけどね」
 
「うん。その辺りよろしく。それにこれをやると貴司は結果的に浮気できないんだよ。だって誰とセックスしても、私の女性器とセックスする訳だから」
 
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「究極の浮気防止策だね」
 

「ところで千里、貴司さんが5月頃から、公子さんって男の娘と付き合っているの知ってる?」
と《きーちゃん》は訊いた。
 
「知ってるけど。放置している。どっちみちセックスできないし」
「まあ女性器が無いからね」
「私これまで自分の嫉妬から、貴司が浮気する度に相手を排除してきたけどさ」
「うん」
「それで結果的に貴司と阿倍子さんの結婚は維持されていた」
「うん」
「だから、それを放置していれば、貴司の結婚は破綻するんじゃないかと」
 
「わざと放置しているんだ!」
「まああまり長時間の浮気は本気になると怖いから、そろそろ壊そうかな」
「ああ、やはり壊しに行くのね」
 
「それでさ」
「うん?」
 
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「貴司が誰か女性と付き合って、妊娠させればその人が小春の名目上の母親になる。本当に妊娠するのは私だけどね」
「うーん。。。。」
 
「ただ、その人と結婚される危険があるんだけどね」
「千里、それやはり凄く危険な戦略という気がするよ」
 

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「ところで事故の時に、千里1のiPhoneが壊れてしまったみたいなんだけど」
と《きーちゃん》が言った。
「どうする?」
と千里は尋ね返す。
 
「本人、壊れたことに気付いてないみたいだから当面放置で」
「OKOK。適当にフォローするようにするよ。iPhoneの電話番号を通知した人の一覧とか無いよね?」
「朱雀が持っていると思うから彼女からコピーしてもらう」
「よろしく〜」
 

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バスケ女子日本代表チームでは、千里を代表落ちさせたものの、花園亜津子はWNBAに行っているのでそちら優先で参戦できない中、シューター不在はチームの破壊力を著しく下げた。
 
7月8-9日の壮行試合対オランダ戦は、相手がもう30年ほどユーロバスケットからも遠ざかっている弱小だったので、何とか勝てたものの、スリー成功率が2割という不安すぎる結果であった。
 
背の高い選手を相手にする国際試合でスリーが入らないのはどうにもならない。そんな中、7月10日、スリーが入らない場合、突破口となるべき大型選手の一人大野百合絵が練習中に足をくじいてしまった。
 
幸い、骨などには影響が無く、しばらく静養していればいいという医者の話であったが、この時期に怪我をされると、7月23日からの本戦に出していいものか首脳陣は悩んでしまう。悪化させてしまうと、来年のワールドカップで困る。
 
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首脳陣は、やはり誰かを緊急召集しようという方向になり、誰を入れるかの検討を始めた。
 

千里の眷属たちは、千里が精神力をできるだけ早く回復できるようにするためには色々仕事をさせるのが良いのではと話し合った。それで今まであまりさせていなかった、Jソフトでの営業的な仕事を積極的にさせようと話した。
 
7月10日。ちょうど新規のシステム作成の話があり、千里C(せいちゃん)は社長と一緒に千葉市内の建設会社を訪問したのだが、この時、会社までは千里Cが行って、現場で千里A(=千里1)とスイッチした。
 
そして千里1はその建設会社の担当者と会ったのだが、その時、眷属たちにも予想外のことが起きてしまう。
 
「あっ」
「あっ」
と千里と向こうの担当者が同時に声を出していた。
 
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「どうしたの?もしかして知り合い?」
 
「いや、先日ちょっと東京駅で出会って」
「電話番号だけ交換したのですが」
とふたり。
 
「え?まさか恋人同士?」
と向こうの所長さんが言ったので、信次は焦ったような顔をし、千里も顔を赤らめてしまった。
 

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