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■△・落雷(15)

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《きーちゃん》は都内のホテルから電車で葛西のマンションまで行った。
 
「きーちゃん、ここ数日、ほんとに大変だったでしょ?お疲れ様」
と千里2は笑顔で言った。
 
「えっと!?」
 
「だって、3人の私がかち合わないように調整するのって凄く大変だよ。まあ昨夜は1人が経堂で、1人は用賀に戻ったから、私は葛西に来たんだけどね」
などと千里2は言っている。
 
「千里、自分が3人になったこと知ってるの〜〜!?」
 
「だってここ数日の桃香とのやりとり、京平の何か隠しているかのような言動を考えていたらさ、そういう結論に至るよ。そもそも眷属に負荷を掛けすぎてるから一時的に交信できないようにする、なんて話もあまりにも嘘くさい」
 
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「ごめーん」
 
「最初、2人に分裂したのかなと思った。だけど自分と同じ波動が無いかって、ずっとアンテナを広げていったら、明らかに別個体と思われる2人を見つけた。だから私は3人に分裂したと判断した」
 
「千里、凄い」
 
千里2はそれで実は5月3日の和彦の一周忌にも自分が行ってくると朋子たちに言ったことを話した。その時期、千里は本来アメリカ合宿をしているのである。
 
「他の2人も3人に別れたことは気付くかな?」
と千里が言う。
 
「それなんですけどね」
 
《きーちゃん》はその3人に《千里1》《千里2》《千里3》という仮称を付けたことを話した。
 
「なるほど、私は千里2な訳ね」
「3人は完全に同一に別れた訳ではなくて、どうも偏りがあるみたいなんです」
「へー」
「千里1と千里2は女の子だけど、千里3は男の娘なんですよ」
「ちんちんあるの?」
「無いです。だから性転換手術をした身体を引き継いだみたい」
「なるほどー」
「千里1と千里2が女の子の身体みたいで、その辺りは私もよく分からないんですけどね」
 
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「たぶん、どちらかが女性生殖器を移植された身体で、もうひとつは本来は小春の身体なんだと思う」
「ああ、そういうことか!」
「私は小春とも交信できない。小春はどちらかの千里に付いているんだろうか。あるいは・・・・」
 
《きーちゃん》も小春が落雷の際に千里の身代わりになって死亡した可能性は考えていた。
 
「千里さん、小春さんと交信できる鍵を私に渡せます?それで各々の千里さんのそばに居る時に交信を試みます」
「うん。お願い」
 
と言って千里2は《きーちゃん》の手を握ると、彼女にその鍵を渡してやった。
 
「この暗号鍵、桁数が多い!」
「ふふふ」
 
「やはりこの千里が霊的なパワーはいちばん強いみたい」
「ああ。そっちのパワーにも差があるんだ?」
「千里2が一番凄くて、1はその半分くらい、3は1の更に半分くらいだと思う」
 
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「かなり差が出たね」
「こんなこと言って怒らないでね。1は桃香のことが心配、2は京平のことが心配、3は雨宮先生を心配した。その心配の量の差がパワーの差になったんだと思う」
「ああ。それなら、そのパワー差は納得できる。京平とは母子だもん」
「それはあるかもね」
 
「もうひとつ、千里が情熱を傾けているものも表しているよね。京平はバスケの象徴でもあり、桃香は普通の生活、そして雨宮先生は音楽活動」
「ああ、そんなものかも。でも私って考えてみると、そのいちばん軽いかも知れない音楽活動でお金を得て、バスケットにお金を注ぎ込んでいる」
「確かに確かに」
 
「性格も違う?」
 
「それは少し感じてます。千里1は消極的で悪い意味の女性的な面があります。2は積極的で知的、3は純情でちょっと男性的な部分も持っているんですよ」
 
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「これって、その内、また1人に戻るの?」
「時間は掛かるけど、戻るということです」
「今私は千里1とも3とも交信できないけど、これって多分交信しない方がいいんだよね?」
 
「実は3人の千里からのテレパシーの区別を付けるため、2と3の鍵を強制的に変更させてもらいました。それで私と京平君は、誰からの交信かを区別することができます。でも、千里同士の交信、それ以前に遭遇は思わぬ事故を誘発する危険があると思います。何か伝えなければいけないことがあったら、私を使ってください。私が伝えます」
 
「分かった。それ頼む」
 
「でも千里は、他の千里の居場所が分かるの?」
と《きーちゃん》が訊く。
 
「いったんキャッチしたから、その後はずっとフォローしてる。ちゃんと分かるよ。だから、桃香のお見舞いもできるだけ千里1に任せようと思う。千里3は桃香が入院していることに気付いてないんだよね?」
「気付いてません」
 
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「だったら何とかなると思うよ。あと千里1も3も25日からの合宿に出て行こうとすると思うんだけど、これを何とか調整する必要がある」
 
「それどうしようと思っていた」
 
「私は合宿に行かなければいいんだけど、1と3の遭遇を避けなければいけない」
「ええ」
 
「3人のバスケットの力は?」
「3人の練習している所を見ていたんですけど、千里3がバスケットの力はいちばんあるみたいです。次に2で、千里1はやや弱くなっています。これもしかしたら、落雷の影響をまともに受けた0と合体しちっゃたからかもと思うんですけどね」
 
「なるほど」
と言ってから千里2は少し考えてからこう言った。
 
「だったらさ、こうしない?」
「はい」
 
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「千里3が練習している所に、きーちゃん、風田コーチに化けて出て行ってさ。アジア大会は4位以内に入ればいいんで、今回は君が居なくても大丈夫だと思う。若手中心にやらせるから、むしろ君は来年のワールドカップを念頭において、武者修行してきてくれないかと言う」
 
「武者修行?」
「こういうことを考えたんだよ」
 
と言って、千里はその計画を話した。
 
「それ行けると思う」
と《きーちゃん》も言う。
 
「少し仕掛けが必要だけど、すぐやります。私、向こうの知り合いに連絡して、お膳立てしてもらいますよ」
 
「大変だろうけど、お願い。それで遭遇の危険を取り敢えず数ヶ月は回避できるだろうし」
と千里。
 
「だったら、私の友人の天女を誰か、一時的にでも千里3に付き添いさせますよ」
 
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「ああ、それはいいかもね」
 

そういう訳で、3人の千里をかち合わせないための作戦は、《きーちゃん》、京平、千里2の3人の共同作戦で進めることになったのである。特に調整対象のひとりである千里2自身が協力することになったことで《きーちゃん》の負担は、ぐっと小さくなった。
 
「アパートだけどさ、千里3が帰国した後、川崎あたりにアパートを1つ契約させない?レッドインパルスの練習に便利とか言いくるめて。用賀と経堂は近すぎるんだよ。偶然の遭遇が怖い」
 
「やってみます」
 
「それから千里3も私と同じフィーチャフォン持っているんでしょ?」
「ええ」
「それを何かうまいこと言って取り上げようよ。そしたら、千里1はiPhone, 私はフィーチャフォン、千里3はAquosと使い分けることになる」
「ああ、それは助かります」
 
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「国盗りは千里3にやらせようよ。私がやりたい気分だけど、フィーチャフォンでは11月いっぱいで国盗りができなくなるから(*2)、スマートフォン持っている子が続ければいい」
 
(*2)リアルではこの方針は5月12日に発表された。
 
「それとも千里3のアクオスをこちらに持ってくる?うまい理由付けて」
と《きーちゃん》が言う。
 
「借りたばかりの端末を取り上げるのは難しい。きーちゃんが持っている端末が調子悪くなったからとか何とか言えば、フィーチャフォンは取り上げられると思う」
と千里。
 
「分かった。じゃ、その辺はその線で」
 
「あと、作曲に関してはさ、きーちゃん負荷が大きくなるのを承知で頼みたいんだけど、私と千里3のマネージャーになってくれないかな」
 
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「ああ、それはいいですよ」
「だから作曲関連のお仕事は全部、きーちゃんを通してもらう。直接交渉が必要な場面は私を使って。そうだ!何か適当なペンネームでっちあげてさ。その名前で千里2・3の作品は発表すればいいと思う。そしたら千里1の作曲活動とぶつからない」
 
「じゃそれもちょっとやり方考えます」
 
「きーちゃんの負荷が物凄く大きくなりそうで申し訳ないんだけど」
 
「実は3人の千里が遭遇しないようにすること、それと複数の千里と会った人ができるだけ不審に思わないようにすることは、ほんとに大変で。ここ数日だけでも私にできるかなと不安になって来ていた所なんですけど、千里自身が協力してくれるなら、何とかなりそうな気がしてきました。それに他の子たちに内緒でこういう凄い大胆な操作をするのって、何か楽しい気もする」
 
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「うん。じゃ私が1人に戻れるまで、よろしく」
「こちらこそよろしく」
 
それで千里2と《きーちゃん》は握手したのである。
 
「そうだ。千里には私の本名を教えちゃおう」
と《きーちゃん》は言ったのだが
 
「天徳帰蝶でしょ?」
と千里が言うので
 
「なんで知ってるの〜〜!?」
と《きーちゃん》はマジで驚いて言った。
 
「じゃ私のことは帰蝶と呼んで下さってもいいですよ」
「了解、そう呼ぶかも」
 
この瞬間、大神様の配慮で《きーちゃん》は美鳳が千里に貸している眷属“役名”《天一貴人》だけではなく、千里2の直接の眷属・帰蝶になったのだが、そのことをふたりとも認識していない。
 

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《きーちゃん》は、友人の天女で、絵姫(えひめ)という子と、月夜(つきよ)という子に接触して自分に協力してくれないかと頼んだ。2人ともひじょうに口の堅い子である。それで絵姫は千里3に、月夜は千里2に付くことにした。
 
これで《きーちゃん》自身の負荷も小さくなるし、千里2・3も人間の力を越えることを頼む時に助かる。また2人とも車の運転ができるので、その面でも千里の活動をサポートできる。
 
この2人も千里2の眷属ということになる。絵姫は千里2が千里3にレンタルする形になる。
 
《きーちゃん》は千里2に頼んだ。
 
「3人いると車の割り当てが難しいんです。何か1台適当な車を買ってもらえません?」
「いいよ。だったら、きーちゃんに任せるからMT車で何か買ってきて」
「MTなんですか〜?」
「えっちゃん(絵姫)、つーちゃん(月夜)はMTの運転は?」
 
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「そりゃできますけどね〜」
と言って、《きーちゃん》はぶつぶつ言っていた。
 
結局《きーちゃん》はTOYOTA AURIS RS 1797cc(2ZR-FAE) 6MT Orange-Metallicの新古車を202万円で買ってきた(新車価格は246万円)。
 
「まあ、オレンジ色も悪くないかな」
と言って、千里2も割と気に入ったようである。この車はその後、千里2の専用車として24万kmを走り、ほぼ乗りつぶすことになる。
 

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