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■△・落雷(10)

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「そうだ。雨宮先生に電話しなくちゃ」
と千里は言ったが、
 
「無理だと思うけど」
と言って、枕元に置かれている携帯を指さす。
 
「きゃー!真っ黒」
「たぶん携帯をポケットに入れてたから、雷がそこに誘導されて、身体の中心を通らなくて助かったのではと先生が言ってた」
 
「わあ、だったら私の身代わりになってくれたのか」
「どこかに連絡しないといけないの?」
「うん」
 
「電話番号分かるなら、私のスマホ貸そうか?」
「あ、貸して貸して」
「千里、その前にベッドの骨組みに触ろう」
「そうだった」
 
それで千里はベッドの骨組みに触って静電気を逃がした上で、玲央美のスマホを借り、(紙の住所録で)番号を調べて、雨宮先生に電話してみた。玲央美はコンビニに行ってくると言って席を外してくれた。
 
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「おはようございます。村山です」
「ああ、千里か。ほんとにありがとね。助かったよ」
 
助かったって・・・どうにかなったのかな?と千里は考えた。
 
「じゃ、何とかなりそうですか?」
「うん。おかげで。空港で渡すというのは納得してくれたみたいだから、もう到着したのなら今から一緒に空港に移動するよ」
 
「あ、はい」
 
やはりどうにか解決したようである。だったら後は放置でいいなと千里は考えた。
 
「じゃ着いたら連絡するから」
「分かりました」
 
それで電話を切った。
 
何か話がチグハグな気はしたのだが、まあいっかと思う。
 

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その後、千里1は京平にチューンしてみた。
 
寝息が聞こえてくる。
 
よく寝ているようだ。だったら無理に起こさなくてもいいかなと思い、そのまま接続を解除した。それにどっちみち今日は会いに行けない。病室から自分がいつの間にか居なくなっていたら大騒動だ。
 
『そうだ、きーちゃんを転送しなきゃ』
と千里が思い出したように言うと
『青龍を転送したよ』
と《くうちゃん》は言った。
 
『ああ。それでいいね』
『貴人は酷く疲れているから、ホテル取って休めと言った』
『それがいいかも』
 
普通は千里が吸収してたっぷりの気のエネルギーの海の中で休ませるのだが、今の千里には眷属を癒やしてあげるだけの余裕が無い。
 
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『でも携帯どうしよう?』
『またコピー携帯作るのは手間が掛かるよね?』
『あれ作るの結構な時間が掛かるらしい。それにそもそもこの携帯が黒焦げになっているのを何人も見ているから、他の機種で作らないといけないし』
『千里、普通の新しいスマホでもよければ、9時になってから携帯ショップに行って買ってくるけど』
『取り敢えずそれお願いしようかな』
 
それで《すーちゃん》が千里に擬態して買いに行ってくることにした。《すーちゃん》は玲央美が戻って来る前に、千里の運転免許証と財布を持って病院の外に出た。
 

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やがて玲央美が戻って来たので彼女のスマホを返す。
 
「ありがとね」
「うん。どう?体調は?」
「特にどこか変な所は無いんだけど、少し身体がふわふわするような感じ」
「2〜3日入院していればいいよ。それとも自宅に戻って寝る?」
「病院はよけい緊張するから自宅に戻ろうかな」
「うん」
 
やがて病院の朝御飯が来たので、それを食べながら、コンビニのお弁当を食べる玲央美とおしゃべりしていた。
 

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千里が元気っぽいので、玲央美は合宿所に戻ることにし、今日の練習に参加したようである。
 
千里1は9時を過ぎた所で病院の公衆電話から桃香に電話して、取り敢えず携帯が壊れたので今病院の電話から掛けていることを伝えた上で、再度転院の方針を確認する。それでいったん電話を切り、今度は大間産婦人科に電話する。すると話を聞いて出産まで入院しているのはOKということであった。それで再度桃香にそれを伝える。桃香もいったん電話を切り、F産婦人科の人と話すということであった。
 
10時半頃、《すーちゃん》が新しいスマホを買ってきてくれた。
Apple iPhone7 plus 256GB gold である。
 
「きれいな色だね」
「待って。触る前にこれを」
と言って《すーちゃん》は千里に丸いリングを渡す。
 
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「何これ?」
「静電気防止ブレスレット」
「こんなん効果あるんだっけ?」
「5個くらい付けておけば少しは効果あるよ」
「5個!」
「それ以上の電気を解放するにはアース付きのが必要だと思う」
「アース引きずって歩くの〜?」
 
ともかくも、千里は念のためベッドの骨組みにも触ってからそのスマホを操作し、桃香に電話した。ついでに、新しいスマホを買ったことを伝え、番号も伝える。それで桃香の方は、結局今日の夕方、F産婦人科から大間産婦人科に移動することになったということであった。
 

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千里1は、この日の午前中いっぱい、様々な検査を受けることになった。昨夜雷に撃たれた後、最初どうしても意識を回復しなかったのが、突然意識を回復したので、どこかに異常があったら大変ということで、まさに頭の先から足の先まで調べられることになる。
 
それで結局色々慎重に分析したいから退院は夕方以降ということになってしまった。
 
お昼すぎにやっと検査が終わって病室に戻る。
 
疲れた!入院なんてよほど体力がなきゃやってられないね!などと思う。しかし夕方まで入院していなければならないとすると、夕方の桃香の転院を手伝えない。それで新しいスマホを使って桃香に電話してみた。
 
「ごめーん。こちらどうしても夕方まで開放してもらえなくて、午後そちらの転院に付き添えない」
 
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千里1はその後、今朝連絡が取れなかった京平にコネクトしてみた。これが12:30頃である。
 
『あ、お母ちゃん』
『今朝は会いに行けなくてごめんね。私入院しちゃって』
『え?』
『何とかなってる?』
『うん。ボクひとりでも大丈夫だよ。適当に他の子と遊んでいるから』
 
“他の子”というのは、きっと伏見の子狐たちだろうなと千里1は思った。
 
『ママの方は戻って来た?』
『ママは一週間くらい入院するってお母ちゃん言ってたじゃん』
『え?そうだっけ?。でも京平ひとりになっちゃうね。誰かお世話係で行かせるね』
『要らないよ。お母ちゃんがいればそれだけでいいし、あさってにはパパとも会えるし』
『あれ?今ひとりじゃないんだっけ?』
 
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京平は千里と会話していて、何か変だと思った。そして何かおかしなことが起きていることに気付く。それで更に面倒なことが起きないように誘導することにした。
 
『ママのお友達が来て、僕の面倒を見てくれているんだよ。だから、そちらから誰も来なくても何とかやっていけるから』
『そうだったんだ!分かった。じゃまた明日連絡するね』
 
それで千里1は今日《たいちゃん》に大阪に移動してもらうのはやめたのである。阿倍子のお友達が来ているなら、こちらからも行くとややこしくなる。また眷属達もみんな今は何かあった時のために千里から離れたくないと言った。
 

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SAで仮眠していた千里2が目覚めたのは10:30頃である。
 
京平はひとりで遊んでいたようである。真二郎さんが話し相手になってくれていたようだ。
 
京平がこの後は起きているというので、ベビーシートを外して3列目にセットしていたチャイルドシートを2列目中央にセットした。再度トイレに行く。京平はやはり「男の子トイレに行くね」と言って、そちらに入って行った。スカート穿いたまま男子トイレに入っていいのかなあと思ったが、子供だからいいだろうと思う。戻って来た所で、京平をチャイルドシートに座らせて車を出す。1時間弱で用賀のアパートに辿り着いた。
 
千里は桃香にも御飯作ってあげないといけないよなあと思い、京平の荷物を置き、汗を掻いた服を着換えると、京平を連れてプラドに乗って、経堂駅の所の小田急OXに行った。買物をして、桃香のアパートに行く。
 
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これが12:10頃である。
 
アパートには誰も居ない。
 
(千里2は桃香が入院したことを現時点では知らない)
 
コンビニにでも行っているのかな?と思い、取り敢えず部屋の掃除をしようとしたのだが、掃除機の吸い込みが悪い。掃除機の紙パックがいっぱいになっているようだ。紙パックのストックも見当たらない。
 
「京平、ちょっと紙パック買ってくるからひとりでお留守番していられる?」
「うん。大丈夫だよ」
 
それで千里2は近くのダイソーまで走って行ってきた。
 
ちょうどその不在の時に実は千里1から京平に直信があった。それで京平は大いに混乱することになるが、同時に何か変なことが起きていることにも気付いた。
 
やがて千里2が戻って来る。
 
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「京平ひとりで大丈夫だった?」
「うん。ボクは平気だよ」
 
と答えながら京平は、どうも千里が2人居るようだということを認識した。今朝もふつうに声を出して会話できる距離に千里がいたのに、千里から直信が飛んできた。だから直信してきた千里とあの時車を運転していた千里はきっと別人だ。
 
でもどっちもボクのお母ちゃんだ!
 

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千里2は掃除をひととおり終えると、手を洗ってお昼ごはんを作り、京平と一緒に食べた。
 
食べ終わったのが13:00頃である。千里2はこんなに長時間桃香がアパートを開けているのは変だと思った。
 
まさかどこかで倒れてないよね?と思い、桃香のスマホに掛けてみた。
 
「桃香今どこに居るの?」
「えっとまだF産婦人科だけど」
「病院?診察にでも行っているの?」
 
「えっと・・・入院中なのだが・・・」
と桃香が戸惑ったように答える。
 
「入院したの!?」
と千里が驚いたように言う。
 
「千里が昨夜病院に連れて来て入院させてくれたじゃないか」
「赤ちゃんは!?」
 
「まだ1ヶ月くらい先じゃないかと医者は言っている」
「もしかして早産しかかったの?」
「早産というか、普通に出産かと思ったのだが・・・って千里がそこに駆けつけてきて、私をこの病院に連れて来てくれた訳だが」
と桃香は本当に困ったように言っている。
 
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うっそー!? 私大阪に行っていたのにと思うが、すぐに多分桃香に付いていた《いんちゃん》が桃香を病院に連れて行ってくれたのだろうと判断する。それにしてもその《いんちゃん》ともコネクトが取れない。どうしたんだろう?
 

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「病院はどこ?」
「えっと、ここ名前なんだっけ?・・・F産婦人科だよ」
「電話番号分かる?」
「ちょっと待って」
 
それで桃香が伝えてくれた病院の電話番号を千里はメモした。
 
「それで千里に言われて夕方には大間産婦人科の方に移動するということになったのだが・・・」
 
「それ何時頃?」
「こちらの病院を4時に退院して向こうに移動することにしたのだけど、千里が来れないというから、朱音にさっき付き添いを頼んだ所だったのだけど」
 
「4時に退院ね。分かった。じゃ3時半頃、そちらに行くから」
「あ。来れるようになったの?」
「今日1日休ませてもらうことになったんだよ。次の予定は24日の夕方からだからそれまでは桃香のお世話もできるよ」
「そうだったのか。助かる」
 
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それで桃香は首をひねりながらスマホをオンフックした。そして桃香は今千里が「壊れた」と言っていた前の携帯の番号から掛けて来たことに気付いた。
 
まさかオレオレ詐欺?・・・な訳ないか!
 

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千里2は、眷属たちと全然コネクトが取れないことを疑問に感じ《心の声》ではない連絡手段のある唯一の存在である《きーちゃん》のスマホに、こちらの状況を簡単にまとめたメールを送った。
 
どうしてもみんなとコネクトが取れないのだけど、不調だろうか?あるいは出羽の方で何かあったのだろうか?といったことを書き添えた。
 

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