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■△・落雷(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-10-07
 
4月18日(火)。
 
この日千里2は朝から京平をプラドに乗せて東京ディズニーランドに連れて行った。
 
普通の1歳10ヶ月の子供にはまだ東京ディズニーランドの面白さは分からないだろうが、京平は中身が人間でいうと11-12歳なので、充分楽しめる。但し、身長が85cmしかないので、ジェットコースター系は全く乗れない。それでも年齢制限の無いアトラクションで充分楽しんでいたようである。アリスのティーパーティーなども
 
「目が回る〜!」
などと叫びながらもとても楽しそうであった。
 
「USJも好きだけど、ディズニーランドも楽しいね」
と京平は言っていた。
 

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この日京平はお気に入りの青いスカートを穿いていた。それで千里はトイレはどっちを使うのか?と訊いた。
 
「僕は男の子だから、男の子トイレを使うよ」
「それはいいけど、だったら個室を使いなよ」
「どうして?」
 
「小さな子供だから、男女どちらのトイレにいても咎められないけど、スカートを穿いた子が立っておしっこしてたら、みんながびっくりするからね」
 
「そういうもの?でも座ってする方が楽だし、今日はそうするよ」
 

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千里2が京平と一緒にTDL内でお昼を食べていたら、そこに《きーちゃん》がやってくるので、千里2はびっくりした。《きーちゃん》は昨年春の40 minutes運営会社設立の時に見せていた姿を取っていた。
 
「あ。きーちゃんさん」
と先に京平が声を出す。京平は全ての擬態を見破ってしまう。
 
「きーちゃん!心細かったよぉ」
と千里2も声を出した。
 
《きーちゃん》は最初に千里2の手を握った。これで鍵が交換されてふたりは心の声でも話すことができるようになる・・・と千里2は思ったのだが、本当は鍵の交換は昨夜のうちに済ませている。《きーちゃん》はあの後、福島まで往復してきたのである。
 
『千里、ごめんねー。なかなか連絡が取れなくて』
と《きーちゃん》は心の声で言った。
 
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それで《きーちゃん》は半日ほど前に千里3にしたのと同じような説明をした。
 
『分かった。私も眷属の力を使いすぎたかもね。でもきーちゃんとは連絡が取れるのなら、きーちゃん通して色々頼むよ』
『うん。遠慮無く使ってね』
と《きーちゃん》は言ったが、千里2と会話していて何か違和感を感じていた。しかしこの時の《きーちゃん》にはそれが何か分からなかった。
 

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《きーちゃん》はTDLで千里2・京平に会った後、二子玉川駅まで行き、Jソフトの入っているビル地下にあるレストランに入った。そして《せいちゃん》のスマホ(Fujitsu Arrows NX F-01J white)にショートメールを送り、トイレにでも行く振りをして下のレストランに来て欲しいと伝えた。
 
《きーちゃん》と《せいちゃん》は同じ富士通Arrowsシリーズの同色スマホを使用している。メールはIMAP4で管理しており、端末の固有メール機能は(二段階認証でログインするような場合以外)使用していない。それで送られて来た一般の電子メールは、常に2人とも閲覧することができる。
 
しかし昨日3人の千里は《きーちゃん》の端末に設定した固有メールアドレスにメッセージを送って来た。それで“異変”には《きーちゃん》だけが気付いたのである。
 
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千里に擬態した《せいちゃん》はレストランに入って来て《きーちゃん》の姿を認めると、そのまま少し離れた席に就いた。
 
『単刀直入に』
『何だい?』
『当面の間、Jソフトのお仕事は青龍が1人でやってくれない?』
『何でだよ?』
 
『実は千里から秘密のミッションを頼まれたんだよ』
『そうなのか!?』
『それで昨夜も福島まで往復してきたし、夜中中ずっとオペレーションしてた』
『お疲れ様!』
『この作業が2〜3年続きそうなんだよ。だからとてもソフトの仕事までしている余裕が無いから、悪いけどそちら1人でやってくれないかと思って』
 
『だけど1人では裁けないぞ、ここの仕事』
『だから裁ける量で止めておくんだよ』
『あ、そうか』
『考えてみたら私たち2人で分担して凄い量の仕事をこなしているから、結果的に物凄く優秀なSEであることを会社に見せていることになる。これでは絶対に専務は辞表を受け取ってくれないよ』
 
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『それ言えるなあ』
『だから青龍ができる範囲で仕事して、それで怠慢だと思われたら、それこそ辞めさせてもらえるチャンスじゃん』
 
『分かった。じゃこちらは当面それで行くよ。Unix系OSの操作とかで分からないところだけ教えてくれ』
『了解了解』
 
『どっちみちこの後は日本代表の活動に入って休職するから休める』
『世間ではこれからゴールデンウィークなんだけど』
『ソフト業界にはゴールデンウィークもシルバーウィークも無いから』
『この業界はもう60年前から全く体質変わらないよな』
『全く全く』
 
《せいちゃん》も《きーちゃん》もプログラマーの能力があるが、《せいちゃん》は端末系に強く、《きーちゃん》はサーバー系に強いという違いがある。ウェブサーバーの設定などは《きーちゃん》にしかできないが、逆にブラウザ上で動くソフトなどは《せいちゃん》は得意だが、《きーちゃん》は不得意である。
 
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《きーちゃん》は“汎用機”IBM360(*1)ができる前の、コンピュータが事務計算用と科学技術計算用で別物だった時代からホスト系のプログラムを書いてきているし(この時代長期間アメリカ暮らしをしている)、Linuxが普及する前のUnix/BSD, Solaris, Vax/VMSなどもたくさんいじっている。一方、《せいちゃん》は歴史上最初の“マイコン”と言われるアルテア以来パソコンのプログラムを書いている。Z80, 6502, i8086などのアセンブラで鍛えた熟練の端末プログラマーである。
 
(*1)この名機の名前は事務計算でも科学技術計算でも、全方位の処理ができるという《360度》から来ている。
 
ふたりとも古い時代の非力なマシンを経験してるので、物凄くコンパクトで高速に動くプログラムを書くことが出来る。しかも散々チーム開発で苦労した経験から、ソースコードがとても読みやすい。
 
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山口専務がこんな優秀なプログラマを手放す訳がないのである。たとえ1年の3分の1をバスケ活動で休まれたとしても。
 
『でも山口専務、ずっと専務のままなのかなあ』
『恐らく、今年の株主総会あたりで社長になるんじゃないの?だって今社長はほとんど会社に出てきていない状況だし』
『そうだよね〜』
 
社長は専務の実兄なのだが、年齢が16歳も離れている。最近は体調がよくないようで、ほんとにたまにしか会社に顔を見せず、代表権の無い専務が実質会社を取り仕切っている。
 

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4月18日、《きーちゃん》と別れた千里3は磐梯山SAから出発し、磐越道を新潟まで走り、そこで降りてフェリーに千里だけ乗って佐渡に渡った。矢鳴さんはしばし休憩である。
 
千里は佐渡島内でレンタカーを借りてあちこち走り回る。金鉱の中にも入ったが、ここでとうとう千里は
 
「・ミラソファミレミ・ミラソファミレミ」
 
という哀愁を帯びた旋律で始まる楽曲の着想を得ることができた。
 
坑道の中で素早く五線紙に音符を書き込んだ。
 
早く帰りたいので、ジェットフォイルで新潟港に帰還する。矢鳴さんが運転する車の中で楽曲をまとめることにし、北陸道を西行して上越JCTから上信越道に入ってもらった。
 
まだ日暮れ前なので霧も発生していない。
 
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更埴JCTをすぎたあたりでだいたい楽曲がまとまったので、パソコンを起動してCubaseに入力しはじめた。《きーちゃん》に頼めば、《たいちゃん》に依頼してくれるという話ではあったが、千里3はこれまで眷属に負荷を掛けすぎていたと反省したので、自分でやろうと思って作業開始したのである。
 

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一方、経堂のアパートで寝ていた千里1は18日朝、アパートを出ると、電車を乗り継いで桃香が入院している大間産婦人科に行った。アテンザは合宿所に駐めたままだし・・・と千里1は思っている。
 
「昨日は転院を手伝えなくてごめんねー」
と言うと、桃香は怪訝な顔をして
「・・・千里、F産婦人科に車で来て、私をここまで連れてきてくれたじゃん」
と言った。
 
「え?嘘?」
「千里、記憶が混乱してる?」
「あれ〜?」
 
千里1は《きーちゃん》あたりが、手伝いに行ってくれたのかな?と思った。《きーちゃん》は疲労の蓄積が激しいので、休んでいるということだったが、桃香が手伝いが必要なことに気付いて、行ってくれたのだろうか、と考えてから「あっ」と思う。
 
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《きーちゃん》は落雷で焼損したガラケーのクローン携帯を持っている。それで桃香がその電話番号に掛けたら、彼女につながり、動いてくれたのかもと思う。それで千里は
 
「私もなんか夢で見た内容と混乱しているみたい」
と言って、話を合わせることにした。
 
「やはり千里、混乱してるよな? 昨日は新しいスマホ買ったというメール、2回も送って来たし」
「そうだっけ?ごめん。私、一昨日雷に当たったから、その後遺症かも」
 
「雷!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「今聞いた?大丈夫なの?」
「うん。昨日は徹底的に検査されたけど異常無いって」
「その状態で転院の話をまとめてくれて、転院自体も手伝ってくれてありがとね」
「ううん。大丈夫だよ。私自身はいたって平気だから」
 
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「結局スマホは買ったんだっけ?」
「あ?これ?」
と言って、千里1は《すーちゃん》に買ってきてもらったiPhoneを見せる。
 
「おお、アイフォンか。いいなあ」
「ショップの人に勧められて乗せられただけだけどね」
「それの番号は?」
「番号、どうやって見るんだっけ?」
と言いながら千里はどうも悪戦苦闘しているようだ。
 
「ちょっと貸して」
と言って桃香はそのiPhoneを借りると、ほんの4〜5タッチで電話番号を表示させた。
 
「ほら、こうすれば自分の電話番号が分かる」
「へー」
と千里は言っているが、これを表示させるの、自分には絶対無理だと思った。ガラケーなら、Menu 0 で簡単に表示されるのにと思う。
 
「でも壊れたのなら、機種変更すればそのまま同じ番号で移行できたのに」
「そんなことできるの?」
「・・・普通にできるけど」
「知らなかった!」
 
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「まさか君は、デジカメのSDカードがいっぱいになる度に新しいSDカード買う人じゃないよね?」
「SDカードって、運転記録証明を取ればもらえる奴?」
 
ダメだこりゃ!
 

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お昼くらいまで桃香と話してから病院を出る。
 
千里1は思わぬ時間が余ってしまったので、最初桃香のアパートで食料ストック作りをしようかと思ったのだが、出産まで病院に居るのなら当面作らなくてもいいなと考え直した。じゃ何しようかな?と思っていた時に、体育館の前を通りかかる。
 
やはり時間があったらバスケだよね〜、と考えた。幸いにもバッシュとボールはいつも持ち歩いている。
 
受付で手続きをし、バッシュを穿くと気が引き締まる。ボールを空気入れで膨らませて、千里1はシュート練習を始めた。
 

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この日、4月18日にはバスケット日本女子代表候補が19名まで絞り込まれて発表された。むろん千里や玲央美、アメリカに行っている花園亜津子なども入っている。
 
18日、千里1は秋川の体育館での練習の後、また電車の乗り継ぎで経堂のアパートに行きシャワーで汗を流してから御飯を食べて寝た。疲れたので(アテンザを置いているつもりの)合宿所に車を取りに行くのは明日にすることにした。
 
一方、千里2は京平とのTDLからの帰り、深川の体育館に寄り、17:00-19:00の2時間ほどバスケの練習をした。京平が真剣なまなざしで千里のプレイを見ていた。その後、用賀のアパートに帰り、電話で桃香と話した。
 
「あれ?結局携帯の番号移行したの?」
「移行??私別に携帯は変えてないけど」
「アイフォン買ったんだろ?」
「そんなの買ってないよ」
 
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桃香はもういいや!と思ってこの件は考えないことにした。
 
結局30分くらい桃香と話しながら御飯を作った。それで京平と一緒に食べてから、お風呂にも一緒に入り、その後、寝た。千里2はプラドを使用している。
 

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また、アテンザを運転して東京に戻った千里3は20:00すぎに深川の体育館に寄った(矢鳴さんは自宅の最寄り駅で降りて、その後は千里が運転した)。体育館は既に閉まっていたが、千里は警備を解除した上で自分の持っている鍵で体育館を開け、22:00くらいまで練習した。その後、警備を復活させ、鍵を閉めて(近いので)葛西のアパートに戻る。御飯を食べ、シャワーを浴びてから楽曲の整理をしている最中に眠っていた。
 
千里3はアテンザを使用している。
 

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この日《きーちゃん》は千里3と会った東北から戻り、ディズニーランドで千里2と会ったあと、二子玉川で《せいちゃん》と密談し、その後、都内のモーテルにミラごと入り、そこの部屋の中から色々操作をした。
 
夜中の2時頃京平を大阪に転送した上で、2:00-3:30に千里1も大阪に転送し、デートをさせた。この後、本来は5:00-6:30に千里2のデートタイムを設定しているのだが、今夜千里2は京平と一緒に寝ているので、わざわざデートの必要は無い。それで京平はそのまままた用賀のアパートに戻した。
 

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