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■△・落雷(4)

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この日冬子や千里たちは成田空港に来ていた。
 
アメリカのWNBAのチームに加入する花園亜津子と、アメリカの大学に留学する須佐ミナミが2人ともこの日旅立つのである。須佐ミナミは17:05のロサンゼルス行きに乗り、花園亜津子は18:15のニューヨーク行きに乗る。
 
実際にはまだ2人とも姿を見せていない。
 
この日千里は都内で合宿中だったのだが親友の海外への旅立ちを見送るために抜け出してきていたらしい。
 
「そういえば雷ちゃん(上島雷太)から頼まれたんだけどさ」
と雨宮先生が言った。
 
「江戸娘のオーナーになったのはいいけど、全然試合とかにも顔を出せなくて済まないと言ってね」
 
「だって上島先生は忙しすぎますもん」
と冬子が言っている。
 
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「それで申し訳無いから、誰か代わってくれないかというんだけど」
と雨宮先生。
 
「だったら、マリちゃん、やる?」
と千里が言った。
 
「それ何すればいいの?」
と政子が言う。
 
「お金を出せばいい」
「いくら?」
「チームの維持費用としては、大会などへの参加費用と旅費・宿泊費とかの負担。これは年間100万円程度だと思う」
 
「そのくらいなら別に構わないけど」
「まあ、マリちゃんのおやつ程度だね」
「代わりにユニフォームにお寿司食べてるマリちゃんの似顔絵とか入れてもいいし」
「あ、それはいいなあ」
 
「でも株式の買い取りもかな?」
と冬子。
「うん。そちらが大きい」
と雨宮先生。
 
「株?」
「昨年体育館を建てるのに出資しているから、上島の負担分の株式と債券、12億円くらいなんだけど」
と雨宮先生。
 
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「12億円〜!?」
さすがの政子もびっくりしたようだ。
 
「それマリちゃんがきついなら、私がいったん引き受けるよ」
と千里が言う。
 
「ああ、そうしようか。だからマリちゃんには、大会参加費用とかの年間100万円程度だけを出してもらえばいい。ユニフォーム新調するならその費用も。それで株式・債券は千里が引き受ける」
と雨宮先生は話を進める。
 
「私貯金幾らあったっけ?」
と政子が冬子に尋ねる。
 
「15億円くらいだと思うけど」
と冬子は言っている。
 
「15億のうち12億はさすがにきついね。じゃやはりそれは千里に頼もう」
「いいですよ」
 
恐らくこの件は最初から千里が引き受けるつもりだったのだろう。
 
「千里は12億あるの?」
と政子が訊く。
 
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「今資産は30億くらいだけど、この体育館に既に15億円くらい出しているから合計出資額が27億円くらいになるかな」
と千里は言っている。
 
「それ50%は越えないよね?」
「47%くらいだと思います」
「だったら問題無いね」
 
「でも資産のほとんどがこの体育館への投資になってしまう訳か」
と冬子が心配するが
 
「元々があぶく銭だから問題無い」
と千里は言っている。
 
「じゃそれは時間と場所をセッティングするから、直接上島と会って取引してくれない?」
と雨宮先生は言ったが、
 
「私ほんとに時間が無いんですよ。だから雨宮先生が代行してください。振り込みについては、葵照子に連絡してもらったら、彼女が私の口座から振り込みできますから。株式と債券の書類を上島さんから受け取って彼女に振り込みをさせて下さい」
と千里は言う。
 
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「あんたid/passを葵照子に預けてるの?」
「私がやるとしばしば振り込み失敗するので」
「私の口座に間違って1億円振り込んできたことあったね。すぐ戻したけど」
と冬子。
「うん。川崎ゆりこの口座にも間違って振り込んでびっくりした彼女から連絡あったことある」
と千里。
 
「あんたコンピュータ技術者のくせに」
と雨宮先生は呆れているが
 
「千里は機械音痴、ソフト音痴なんですよ」
と冬子が言うので、雨宮先生は腕を組んで悩んでいた。
 

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須佐ミナミは14時半頃姿を見せ、40 minutesのメンバーの多くに見送られて手荷物検査場を通過して行った。
 
彼女と入れ替わりになるように花園亜津子が16時頃姿を見せ、エレクトロウィッカの武藤博美・加藤絵理・中丸華香・馬田恵子、出身高校の元チームメイトである日吉紀美鹿・入野朋美、中学の時のチームメイトである木崎みどりらに見送られて旅立って行く。
 
「千里、今年は負けたけど、向こうで派手な成績あげるから、千里は日本で派手にやってくれよ」
と花園亜津子が言う。
 
「そうだね。私は鳥の居ない島の蝙(こうもり)で頑張らせてもらうよ(*2)」
と千里は言った。
 
ふたりは硬く握手し、ハグしあう。それから花園亜津子は笑顔で手を振って手荷物検査場に消えて行った。
 
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なお、雨宮先生もどこかに行く予定だったらしいが、見送り不要と言っていた。冬子や千里たちに見られるとまずい女性と一緒に海外旅行なのかな、と千里たちは考え、先に帰らせてもらった。
 

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(*2)元々の言葉は「鳥無き里の蝙」(鳥が居ない里では、蝙が空を飛べるというだけで鳥のように威張っているという意味)だが、織田信長が、四国の覇者となった長宗我部元親を揶揄してこの言葉をもじり「鳥無き島の蝙」(大した器量も無いくせに四国に有力武将がいないから偉そうにしているという意味)と言ったので、その後この形の引用も多い。
 

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お互いのことを知るよしもない成宮真琴(フェイ)と桃香は似たような時期に妊娠しており、ふたりとも、青葉と千里がその妊娠期間中の体調管理をしている。ここで、真琴は自然妊娠→人工出産(帝王切開)であるのに対して、桃香は人工妊娠(人工授精)→自然出産であった。そして受精日は近いのだが出産日は大きく違うことになった。
 
真琴が自然受精に到るセックスをしたのは2016年8月2日、桃香が人工授精をしたのは同年8月17日で、両者は半月しか違わない。しかしフェイは本来男の娘なので産道が狭く、赤ちゃんが通れるサイズ無いため、8ヶ月目に入った2017年3月3日に帝王切開で出産させた。一方、桃香は自然に出てくるのを待つことにしていた。予定日は5月11日である。
 
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桃香が妊娠した後、会社を首になったことを母に言うと、母は高岡に戻ってきて、こちらで産みなさいと言った。しかし、それをやると次は子供が小さい内は実家に居なさいと言われ、小学生の内は田舎暮らしの方がいいよと言われ、・・・ということで、結果的に2度と東京に出てくることはできない気がした。それで桃香は「千里もいるし、東京で産むよ」と母には言っていた。
 

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ところがである。
 
千里は物凄く忙しいようである。
 
昨年8月はずっと外国に行っていたようだし、9月は北海道から沖縄まで飛び回っていた。そして10月以降は、週末ほとんど出ていて全国を駆け巡っているようである。平日も夜10-12時頃しか居ない。夜9-10時に帰宅して、一緒に晩御飯を食べた後、12時くらいには出て行ってしまう。用賀の自分のアパートに戻っているというのではなく、夜12時からまたお仕事があるようである。
 
桃香は不安になって訊いた。
 
「予定日の前後はうちに居てくれるよね?」
「4月6-17日が合宿。その後、20-29日が合宿で、30日から5月13日までアメリカ」
「予定日過ぎちゃうじゃん!」
「5月18-23日は合宿。24日から6月13日までヨーロッパ」
 
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「千里が居ない時に産まれそうになったらどうすればいいのよ?」
「高岡に帰ってる?」
「嫌だ。それは絶対嫌だ」
「それが楽だと思うけどなあ」
 
と言いつつ、
「それなら誰か友だちに頼るしかないよ」
と言います。
 
「誰に頼ろう?」
「まあ遠慮無く頼れるのといえば、まず朱音」
「そうだ!朱音がいた!」
 
「あとは彪志君、あきら、冬子。深夜とかなら冬子がいちばん遠慮要らないよ」
「それは言えてるなあ」
 
「ちなみに、冬子は1時くらいで寝るけど、政子は朝5時くらいまで起きてるから」
「あの子、普通の人と生活時間帯が6時間くらいずれてない?」
「うん。起きるのはだいたい昼過ぎだし。でも音楽関係の人にはお昼過ぎに会社に出てきて、夜中過ぎに帰宅って人多いよ」
「変な業界だ」
 
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しかし朱音と彪志がいるというのを認識したことで、桃香は少し安心したのであった。
 

実際、千里は4月5日(水)の夜アパートに寄っただけで、その後どうも合宿に入ったようである。メールはだいたい半日程度以内に返ってくるのだが、電話には出られない状態のようであった。
 
そして4月16日(日)の夜のことであった。この日は日曜だったこともあり、朱音が来てくれてお腹に触り
 
「だいぶ大きくなったね〜」
などと言ったりしていた。朱音は買物までしてくれて、1週間分くらいの食材のストックができ、桃香は大いに助かる。しかも桃香の性格が分かっているので、レトルトカレー、カップ麺、インスタント味噌汁、缶詰、お茶漬け、などが大量にある。これが千里や青葉の買物なら、その手の物がまず含まれていない!千里も青葉も「そんなの美味しくないよ」と言うのだが、桃香は味より手間である。
 
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夕食には松屋の牛メシをチンして食べる。ビールでも飲みたい気分なのだが、生憎アルコール類は料理酒に至るまで完全撤去されているし、物わかりのよい朱音でさえ、アルコールはダメと言っていた。こんなに長期間禁酒(されている)状態を続けているのは高校時代以来だなと桃香は思っていた。
 

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22時45分頃。テレビを見ていたらあくびが出てきたので、寝るかなと思いテレビを停める。トイレに行って来てから、布団に入る。スマホでHな漫画見ていたら何か急にお腹に痛みが走る。
 
何だ?何か悪いものでも食べたっけ?と考えるが、心当たりがありすぎる!
 
それで取り敢えず念のためスマホを持ったままトイレに入る。
 
しかし・・・どうもこれは・・・胃腸系統ではないような気がする。まさか、これって・・・腸より前の方にある器官か?
 
そう考えた途端、下腹部が物凄く痛いような気がしてきた。これは病院に行ったほうがいいか?
 
桃香は取り敢えずトイレを出た。健康保険証・母子手帳・診察券・非常用現金に印鑑まで入った「持ち出し袋」を取る。そして、電車で病院に行こう!と思ったのだが、あまりにも痛くて、台所でうずくまってしまった。
 
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ダメだ。これではひとりで移動しようとして途中で動けなくなった時にどうにもならない。誰か呼ばなくては。
 
桃香は決断力だけは速い。
 
それで千里に電話してみた。このくらいの時間帯なら、反応してくれないか?
 

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「はい?」
 
幸いにも千里はすぐ出た。助かった!!
 
「あ、千里、よかった。つながった!」
「どうした?」
と千里も異変を感じたようで、訊いてくる。
 
「生まれるかも。なんか苦しい」
「うっそー!?もう??」
 
「臨月に入っているし」
 
臨月には13日に突入した。但しまだ正産期ではない。正産期は37週目に入る20日からである。しかしいつ出てきてもおかしくない時期ではある。
 
「とりあえず、そっちに向かう」
 
と千里は言った。今、北区にいるらしく30分くらい掛かるとは言われたが、千里が来てくれると聞いただけで、桃香はホッとしたし、俄然精神的に余裕が出てきた。
 

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今穿いているパンティはちょっとやばいよな、などと思って穿き替えたりする。水分取った方がいいかな?などと考え、冷蔵庫に“入れていない”野菜ジュースを飲む。そしてお腹を圧迫しないように横になったまま、毛布をかぶり、結局スマホで漫画を読んでいる。
 
待っている間に青葉から電話が掛かってきた。
 
「桃姉、どんな感じ?」
「おお、青葉か!もしかしたら産まれるかも知れない感じで」
「こちらからリモートで体調管理するから」
「助かる!」
「ちー姉はどのくらいで到着するの?」
「たぶんあと20-30分じゃないかなあ。北区に居るらしくて」
「分かった。もしちー姉が遅れているようだったら、連絡して」
「ありがとう」
 
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それで電話を切ったが、なぜ青葉は、今陣痛が来ていることと、千里がこちらに向かっている最中であることを知っていたんだ?と疑問を感じた。あるいは千里が青葉にも連絡したのか?
 
実際には青葉の眷属・小紫が桃香に付いていて、青葉に連絡したからである。なお、千里も自分の眷属の《いんちゃん》を様子を見に行かせた所だった。
 

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桃香から連絡を受けた千里は、北区の味の素ナショナル・トレーニング・センターで日本代表候補の合宿をしていたのだが、むろんこの時間は練習は終わっている。桃香からの報せですぐ合宿所の駐車場に駐めているアテンザで経堂のアパートに行こうとした。
 
あいにく大雨である。雷鳴もたくさんしている。
 
やだなあ、こんな日にとは思ったものの、右手で傘を差し左手には携帯を持ったまま、駐車場まで走る。
 
ところがそこで物凄い音と光があった。
 
千里は一瞬何が起きたのか分からなかった。
 

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龍虎は呆然として、目の前にいる人物を見つめていたが、やがて言った。
 
「君たち誰?」
 
 
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