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■娘たち、男と女の間には(12)

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12時。
 
生放送が始まる。レポート役の穐村アナウンサーが緊張した面持ちで
「アクアさんの性別検査を生放送します」
と言って最初に通りがかりのお婆ちゃんを呼び止めて
 
「この3つの箱の中のひとつを選んで下さい」
と言う。
 
お婆ちゃんがひとつ選ぶと、“愛のブレスレット”が2個入っている。これをアナウンサーはアクアの腕と自分の腕に装着した。お婆ちゃんには御礼のビール券を渡して解放する。アナウンサーは言う。
 
「これはご存知の方もあるかも知れませんが、同じ番号のブレスレットは世界にこの2つだけしか存在しません。カメラさん、この番号を写して下さい」
と言う。カメラが撮す。どちらも 86351324 という番号である。アシスタントがこの番号を穐山のTシャツに!マジックで書き写した。
 
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選ばなかった2つの箱を開けてみせる。そちらにもやはりブレスレットのペアが入っている。不正ができないように、装着するブレスレットをこの場で第三者に選ばせたのである。
 
「このブレスレットを外す鍵を今、吉本アナウンサーに渡しました。吉本さん、それでは今から高崎まで行って、今日の製造年月日の入った焼きまんじゅうを買って下さい」
 
「分かりました。行ってきます」
と行って、彼はカメラマンと一緒に病院を出ていく。彼の行動はこの後、ずっとテレビ画面の左下にコーナーワイプで表示される。
 
そして病院側である。
 
「最初にこの人がアクアさん本人であることを確認するため1曲歌って頂きます」
と言って、アクアはその場で電子キーボードを自分で弾きながら、『希望の鼓動』を歌った。この曲は3オクターブの声域が必要な曲で、これを生歌唱できる人はそうそう居ない。これでここにいるアクアが本人で、そっくりさんの類いではないことが分かる。アクアの本人確認には、とてもいい方法である。
 
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更にアナウンサーは今日の朝刊を手に持ちカメラに撮させた。これで確かに今日撮影しているということが分かる。
 

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最初に尿と血液を採取するのだが、カメラは採血の場面を撮影する。更に尿に関しては看護師さんにカテーテルを入れてもらい、直接膀胱から採取させてもらった。絶対に誤魔化し不可能な方法である。
 
その後でリアルタイムMRIに入ってもらい、身体の中身を検査する。これで卵巣や子宮の類いが存在しないこと、前立腺が存在することが確認される。
 
その上で医師の診察を受ける。さすがに性器は撮さないものの、医師が性器のサイズを測っている所を、アクアの背中側から撮影させてもらう。
 
《今回はアクアさん側から性別疑惑を払拭したいという希望があり、御本人の希望でこのような撮影をしております》と書かれたメッセージボードをアシスタントが持っている所も撮される。。
 
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「ペニスは長さ2cmですね。睾丸は8mlで、これは小学3-4年生くらいの睾丸のサイズです」
と医師は言う。かねがねアクアが言っている、自分の性器は思春期が始まる前くらいのサイズであるというのが、この医師の言葉からも裏付けられる。
 
アクアは陰茎を勃起させられないので、代わりに皮をいっぱいに引っ張った長さも測る。これが4cmで、もし勃起する場合はこのサイズになることが予想された。
 
「これセックスできますか?」
とアナウンサーが尋ねる。
「無理ですね。最低7cm程度はないと、女性の膣に挿入することができません」
と医師は言い、アクアが性的に未発達であることも再確認された。
 

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彼の睾丸に針を刺し組織を採取して調べるという検査が行われる。アクアはまだ思春期の発毛が無いので、剃毛の必要はなく消毒と部分麻酔だけして針を刺す。
 
「これマジで物凄く痛いんですけど」
とアクアは本当に辛そうな顔で言った。
 
しかしおかげで組織は採取された。
 
「お股を鉄棒(かなぼう)で100回打たれたくらい痛かったです」
とアクアが言ったので男性の視聴者たちから
「身の毛もよだつ話だ」
などと言われ、またツイッターのトレンドに“鉄棒で100回”というのがあがる騒ぎになる。
 
医師が顕微鏡で確認する。
 
「生殖細胞は正常ですね。精子もいますよ」
と医師は言った。
 
許可を得てアナウンサーも覗いてみるか、素人の彼にも精子が確認できた。顕微鏡に取り付けられるカメラのアダプターを持って来ているので、アクア本人の許可を得て撮影させてもらう。
 
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オタマジャクシの形をした精子が存在することがカメラの映像で確認できる。但し不活性である。ほとんど動いていない。
 
「1年前も2年前も性器が未発達と言われたということは、まだまだ思春期の到来には時間がかかるかも知れませんし、15歳でまだ声変わりもしていないのもそのせいでしょうけど、睾丸は確かに生きているので、いつかはちゃんと思春期が来て、男の子らしい発達をするようになるでしょうね」
 
と医師は診断した。
 
「男性ホルモンを投与すれば、思春期は早く来ますか?」
とアナウンサーは質問する。
 
「来ます。患者さん、それを希望しますか?」
と医師は答えてから龍虎に質問した。
 
「性ホルモンの投与は希望しません。ボクは自分の自然な発達に任せたいんです」
とアクアは答え
 
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「本人がそう言っているから、それでいいでしょう」
と医師も言った。
 
最後にアナウンサーから上半身の裸を見せてくださいとリクエストされるので、アクアは上半身の服を脱いでみせた。
 
「まあ普通の男の子の上半身ですね」
と医師も言う。
 
実際、カメラには真っ平らで乳首も小さいままのアクアの胸が映る。この瞬間、
 
「ああ、アクア様には絶対おっぱいがあると思ったのに」
という女性ファンたちの嘆きの声が出ていた。
 
ただ頻繁に女装させられているおかげでブラジャーの跡もついている。それがかえってこれがアクア本人であることの証拠にもなった。
 
「あらためてアクア君に訊きますが、女の子になりたいですか?」
 
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「ボクは可愛いとか女の子みたいと言われて、小さい頃からしょっちゅう女の子の服を着せられてきましたし、もうそれに慣れちゃって、スカートとかセーラー服も自分の普段着の一部という感覚になっているんですけど、別に女の子になりたい訳ではありません。普通に男性の俳優になりたいですし、女性と結婚して子供も作って普通の家庭を築きたいと思っています」
 
とアクアは笑顔でカメラに向かって述べた。
 

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カメラは吉本レポーターのほうに切り替わる。彼はわざわざ切符で乗っており、その切符に 29.-4.17 という日付が印刷されている。ちょうど高崎駅に着くので下車した後、走って近くの焼きまんじゅう屋さんに入った。焼きまんじゅうを買い求めて、製造年月日を見せる。確かに 2017-04-17 という日付が入っていた。鍵を持っている所も見せる。鍵の番号も撮される。86351324 である。
 
カメラは病院の方に戻される。尿と血液の検査結果が出ている。それで染色体が間違いなくXYであること、男性ホルモン・女性ホルモンの量が思春期前の男児の標準値の範囲であることが確認された。
 
最後にアクアと穐村アナウンサーがつけているブレスレットの番号が番組冒頭で撮した番号 86351324 と同じであり、穐村アナのTシャツに書かれた数字とも一致することが確認されて、
 
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「そういう訳でアクア君は取り敢えず今の所はまだ男の子であることが判明しました」
という穐村の報告で番組は終了した。
 

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しかしアクアは撮影終了後、病院から出ようとしてロビーに大量のファンが押し掛けているのを見てギョッとした!
 
生放送なので、映像からどこの病院かが分かってしまい、それでファンが大量に集まってしまったのである。病院はロピーの患者を待避させるのに苦労した。
 
テレビ局がスタッフの応援を頼み、多数の警備の人たちに守られて、何とかアクアは脱出してテレビ局の車で事務所まで送ってもらったが、この車はドアミラーが破損し、バンパーやフェンダーまで曲がっていた。またファンの圧力でテレビ局のスタッフ5人が軽症を負ったらしい。この件でテレビ局は病院側から、撮影の体勢がきちんとされていなかったとして強い抗議を受けて社長が病院まで謝罪に行くはめになる。
 
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しかしここで“生のアクア”を見た人たちの報告で、検査を受けたのが確かにアクア本人であったことが追認された。
 

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この生放送が12時から行われたのは、病院が本来は休んでいる時間帯を利用してスムーズに検査をしたかったことと、お昼休みの時間帯で視聴率が確保できることからであるが、実際物凄い視聴率になった。
 
そういう訳でアクアの性別疑惑は今年もクリアされたのである。
 
但し、今回の“性別検査生放送”は、たとえ本人の同意を得たものであっても、アクアが未成年でもあり、プライバシーの保護という面から極めて不適切であるとしてBPOから厳しい警告を受ける。それでテレビ局の社長がこれも謝罪する騒動となった! それで今後はこういう形の撮影はできないことになった。
 
しかしキャロル前田が去勢していて、将来は女の子になりたいと記者会見で述べたこと、一方でアクアは恐らく誤魔化しは無かったと思われる方法で性別検査を生放送して確かに男の子であることが確認され、本人も自分は女の子になりたい訳ではなく、将来は男の俳優になりたいとあらためて語ったこと。この2つのできごとは、視聴率の明暗を分けた。
 
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アクアが出演(主演ではない)している『ときめき病院物語III』がこれまでにない高い視聴率を出したのに対して、キャロル前田主演『変身ポンポコ玉』は壊滅的に低い視聴率となった。
 

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龍虎が性別検査を受けた4月17日の夜、タイまで日帰り往復、というよりとんぼ返りしてきた千里がマンションに来訪した。でもよく見たら千里ではない。
 
「よく分かるね。私は千里の代理のわっちゃん。今千里は工作活動中なのよ、状況次第でちゃんと千里に対処してもらうから、取り敢えず話を聞かせて」
と言って、状況を尋ねる。
 
そこで3人の龍虎が《わっちゃん》の前に並ぶと、《わっちゃん》は仰天していた。(この時、こうちゃんも工作活動中で不在だった)
 
龍虎はなぜか3人に分裂しちゃったけど、好都合なので3人で分担して仕事をしていこうかと思っていると正直にわっちゃんに説明する。しかし今週末にタイに行って写真集の撮影をするのをどうすればいいか悩んでいると言った。
 
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「ああ、それなら問題無い。1人だけパスポートで渡航して、あと2人は転送してあげるよ」
 
それで3人とわっちゃんは“入れ替わり撮影”の計画を練ったのであった。
 

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実は龍虎の3分裂と同時に千里も3分裂(正確には4分裂後0番と1番が合体)したのだが、龍虎たちが相談したのは3番の千里であった。
 
1番:胎動に苦しむ桃香を入院させた後、日本代表の合宿に戻る。
2番:大阪でインフルエンザの阿倍子を入院させ、京平を数日預かることにして東京に連れてくる。
3番:タイで立ち往生していた雨宮を連れ帰る。
 
龍虎たちから連絡があったのはタイに立つ直前で、帰国後《わっちゃん》を龍虎たちの所にやったのである。
 
3人の千里はアクア同様、パスポートの入ったバッグを持っている時に分裂したのでお互いクローンの関係にあるパスポート M1 M2 M3 を所持している。
 

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翌4月18日(火)、龍虎は普通に学校に出て行った。しかしクラスメイトから取り囲まれてなかなか大変だった。
 
「テレビ見たよ〜」
「ほんとに男の子だったのね」
「てっきり龍ちゃんは女の子だと思ってた」
 
「男の子だよ〜」
「でも今日はスカートなんだ?」
「ズボンに朝カレーをこぼしてしまって。そのまま穿いては来られないから、こちら穿いてきた」
「ああ、それは悲惨」
 
「洗い替えを買っておきなよ」
「さっそく注文した〜」
「スカート注文したの?ズボン注文したの?」
「ズボンだよぉ」
「スカートの替えを用意すればいいのに」
 

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実際にこの日、龍虎が注文したのは次のものを各1である。
 
・ブレザー左前(通常の女子仕様)
・ブレザー右前(左右交換版)
・学生ズボン(Mが採寸に行き、きちんと測って作ってもらう)
 
それで3人のアクアはこのように制服を着るつもりであった。
 
M ブレザー(左右交換)+ズボン(中学時代のもの)
F ブレザー(女子仕様)+スカート(先月作ったもの)
N ブレザー(真悠改造)+新たに頼むズボン
 
実際にはFがズボンを穿いて行ってしまいMがやむを得ず(?)スカートを穿いたりするような変則的(?)なこともしばしば起きた。
 
それで結局、更にブレザー(左右交換版)、スカート、ズボンを1着ずつ頼んで予備を作ることにした。
 
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娘たち、男と女の間には(12)

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