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21:45からローズ+リリーの演奏は始まったのだが、開始早々落雷があって会場の電気が全部落ちるハプニングがある。
イベンターのスタッフが場内に車を入れ、多数の車のヘッドライトで場内を照らした。音響スタッフは車に積んでいたテスト用のミキサーを車のシガーから取ったインバーター電源で動かす。ただしマイクは6本しか使えないのでケイとマリが共同で1本使うほかはステージの5ヶ所に分散して置いた。場内に多数設置しているサブスピーカーはバッテリー駆動で動かして、これでPAを確保した。そしてローズ+リリーはアコスティックの曲をひたすら演奏した。3〜4割の曲がアコスティック楽器で演奏されるローズ+リリーだからできた対応である。
その中でクレールは千里が置いて行った懐中電灯で営業を続けた。玉子を焼くのも、お湯を沸かすのもガスを使っているので、調理は停電の影響を受けない。おかげで、停電の中でも営業している!というので演奏中にもたくさんお客さんが来たようである。
停電は東北電力のおかげで1時間もしない内に復旧する。会場の照明が復活し、メインスピーカーが復活した時は大きな歓声が起きた。雷は避雷針が守ってくれる範囲のギリギリ外にあった、避雷用の設備がたまたま壊れていた電柱に落ちたのだが、電力会社では隣の無事だった電柱から線を引いてきて、配電盤を新しいものと交換して、復旧させたのである。
1月1日0時のカウントダウンを経て演奏は0:15くらいで終了。その後退場に関するアナウンスがあり、0:20にスピーカーの電源は落とされた。
青葉と千里は主な出演者たちと一緒に2台のバスに分乗して遠刈田温泉の宿に移動した。到着したのが1時半頃である。全員いったん大広間に入り、TKRの松前社長の音頭で乾杯した後、深夜なので即解散した!
その後、飲みたい人たちは朝まで飲んでいたようだが、千里と青葉は1時間ほどで部屋に引き上げた。
その1時間の間に今年の東北復興支援イベントの話がまとまり、千里はゴールデンシックスを出演させることを決めて花野子に連絡した。今年の復興イベントはレコード会社の協力が得られないので“08年組”(Rose+Lily, KARION, XANFUS) だけでやろうかと言っていたのだが、これに同年代のよしみで Golden Six が加わることになり、費用もケイ、マリ、和泉、千里の4人で分担することになった。
そして翌日にはコスモスから「うちは参加するつもりで準備していたよ」と言われ、§§ミュージックの歌手たちも参加することになり、費用分担はアクア・コスモスを含めた6人で分担することになった。1人1000万円程度の負担であるが、1000万円を“負担”と感じない6人である(更に紅川会長が地元のいくつかの企業の協力を取ってくれて、フリードリンクなどが用意された)。
今日のカウントダウンのお部屋は相部屋が基本で、青葉と千里は、鮎川ゆま・近藤七星・呉羽ヒロミと5人部屋であった。性別の怪しい人の部屋だが、あまり怪しくない七星さんはゆまのお目付役である(ゆまがヒロミをレイプしたりしないよう気をつけている)。もっともゆまは大部屋で飲み明かしたので、朝まで戻って来なかった。
千里は深夜、青葉が熟睡しているのを見て、監視役で起きていたふうの《雪娘》に手を振ってから部屋を出た。《雪娘》は千里を追うかどうか悩んだようだが、結局青葉のガードを優先して付いて来なかったようである。それで千里は旅館の1階の自販機で暖かいレモンティーを買って飲み、トイレにも行ってから、大阪にいた《げんちゃん》と交替で、貴司のマンションに行った。
阿倍子は寝室で、貴司は書斎で寝ており、リビングに寝ているのは京平だけである。京平が目を覚ますので「明けましておめでとう」と言って、遠刈田温泉の宴会場から持って来た鶏の唐揚げや、ローストビーフ(冷却剤を入れておいた)を出した。京平は鶏の唐揚げが特に大好きなようである。
京平がお年玉が欲しいなどと言うので、ちょうど持っていた(予定調和)ポチ袋に五百円玉を入れて渡そうとしたのだが「ぼくはまだおかねがつかえないから」と言って、お菓子がいいと言った。それで、京平に「眠っているふりをしていて」と言って、抱っこ紐で抱っこして、コンビニに行き、思念で会話しながら、結局“お正月ケーキ”を買ってきて食べさせた。食べた後のゴミは千里が持ち帰った。それで結局2時間ほどしてから遠刈田に戻った。こちらをじっと見ている《雪娘》に手を振って朝まで寝た。
6時頃起きたら青葉もすぐ起きたので一緒にお風呂に行った。途中で冬子・和泉とも一緒になり、4人で入浴した。
「この中で最初から女湯に入っていたのは私だけ?」
などと和泉が言うが
「この中に男湯に入ったことのある子は居ないよ」
という指摘に、腕を組んで悩んでいた。
千里はオールジャパンがあるので、お昼前に温泉を出た。その時、青葉が遠刈田のコケシをお土産にと買ってくれた。2つ買って1つをくれるのかなと思ったら、青葉は2つともくれたので「ありがとう」と言って受け取り、そのまま東京に向かった。(千里が心配したように、実は1つは自分用だったのだが、うっかり両方千里に渡してしまった。青葉はそのことに数日後まで気付かなかった)
帰りの新幹線の中で《小春》が千里に様々なことを語った。
本当は15年くらい前に死ぬはずだったのが、様々な偶然で生き延びてきたが、もういい加減寿命であること(彼女は人間の年でいえぱもう140歳くらいらしい)。彼女の“思い人”のこと。彼と会えるようにするから、もし気に入ったら自分の代理で結婚して欲しいということ。
また自分は多分今年の夏くらいまでには死ぬと思うが、再度この世界に生まれてくるまでの1年間ほどの間、千里がうっかり死んだ時に蘇生させてあげられないから“簡単に死なないで欲しい”ということ。自分は千里の娘に生まれ変わりたいから、千里が自分を産んでほしいということ。
要するに小春としては、彼女の思い人(川島信次)と千里の間の娘として生まれたいということのようであった。千里は、貴司以外の人との結婚は考えられないけどなあと思ったものの、何か大きな運命の輪に既に巻き込まれている気はした。
小春が名前は《環菜(かんな)》がいいというので千里は訊いた。
『結局人間の女の子として生まれてくるんだっけ?』
『それがどうしても許可が下りないのよ』
『男の子で“かんな”という名前はあり得ない』
『私が生まれたらすぐ去勢して女の子として育ててくれないかな』
『日本じゃ法的に難しいよ』
『そこを何とか』
『そうだなあ』
2017年1月1-9日の各々の動き。
■和実
1日 朝カウントダウンの打ち上げ 午後からTKRで打合せ/明日の営業準備
2日 ボニアート・アサドのライブ
http://femine.net/j.pl/wbp/06/_hr011/smart
3日 TKRで今後のイベントの打合せ
4-5日 開店に向けての様々な準備
6日 明日の営業用仕込み作業
7日 ボニアート・アサドのライブ/明日の仕込み(深夜千里とアクア来訪)
8日 TKRイベント初日
■冬子(ケイ)
1日 遠刈田で休み
2日 札幌に移動
3日 ローズ+リリー札幌公演
4日 東京に移動
5-6日 東京に滞在
7日 宮城公演
8日 金沢公演。夜間安曇野に移動して会議。
9日 埼玉公演。
■政子(マリ)
ほぼケイに同じだが、安曇野には行かず、金沢公演の後は金沢市内で泊まり、翌日埼玉に移動した。安曇野の会議のことは誰も言わなかったので知らないまま。
■青葉(大宮万葉)
ほぼケイに同じだが、宮城には6日の内に移動し、和実の店《クレール》に寄って、結界の調整をし、またマキコに去勢を唆す。マキコのバイクで会場まで送ってもらう。金沢公演後はケイと一緒に安曇野へ。
■千里(醍醐春海)
1日 昼頃遠刈田から東京に戻る
2-3日 レッドインパルス練習
4日 3回戦(茨城TS大学)勝利
5日 レッドインパルス練習
6日 準々決勝(40 minutes)勝利
7日 準決勝(ビューティーマジック)勝利
オールジャパンの詳細は↓
http://femine.net/j.pl/wbp/05/_hr005/smart
■龍虎(アクア)
1日 千歳に滞在
2日 札幌でアクア公演。東京に戻る
3日 東京滞在
4日 アクア東京公演(1)
5日 アクア東京公演(2)
龍虎は5日の公演の後は6-8日は3日間休みになっていたのだが、コスモス社長に誘われて2人きりでゆっくり話し合うことになる(ほぼデート)。この件の詳細は↓
http://femine.net/j.pl/wbp/10/_hr012/smart
「今夜はアクアと社長の秋風コスモスではなくて、龍虎と宏美で」
「それもいいですね」
龍虎はホテルの一室で裸に剥かれて男性器の存在確認と、それが立たないことの確認、そしておっぱいは膨らんでいないことを確認された(セクハラ、というよりほとんどレイプ)。
(胸は《こうちゃんさん》が工作してくれた。男性器は偶然にもタックされた状態だった。龍虎は1月8日に生理が来る予定だったが5日夜はまだ無事だった)
彩佳との関係もあらためて訊かれ、裸で抱き合う所まではしたが、セックスはしていないこと、そして30歳になったら結婚しようという約束をしたことまでは語った。「好きなのね?」と訊かれたが、本当に自分は恋愛というものが分からないのだと言い、龍虎の様子からそれを信じてくれた感じであった。
あらためて女の子になりたいかと尋ねられた。龍虎が女の子になりたいのなら、今後そういう方向の売り方をしていくし、それで売上げが落ちても何とかしていくから正直に言って欲しいと言われた。アクアは本当に女の子になりたい訳ではないが、女の子の服を着るのは好きだと答えた。
「まああんたは女の子にならなくても、頻繁に女装させられるだろうね」
「プロデューサーさんとかから『こういうの着るの好きでしょ?』とか言われるんですよ」
「実際好きでしょ?」
「まあ・・・好きかな」
「よしよし。今日の龍ちゃんは素直でよい」
龍虎は自身の小さい頃からのことなどもあらためて色々訊かれて、答えると、宏美はたくさん泣いてくれた。龍虎も胸のつっかえが取れたような感じで結構泣いた。そして将来のこともたくさん話した。歌も好きだけどやはり自分は役者さん志向だと言い、
「だったら歌って踊れる俳優という線で」
「ええ、それがいいです」
「マツケンさんみたいなの、わりと好きでしょ?」
「松山ケンイチさんって、どんな曲歌ってましたっけ?」
「まあいいや。それとも歌って踊れる女優という線?木の実ナナさんは・・・知らないだろうな。ジュリアン・ハフとか?」
「あ、ジュリアン・ハフさん好きです」
「やはり歌って踊れる“女優”のほうなんだ?」
「えー?どうしよう?」
「自分の性別は男でも女優というのもありだと思うよ。歌舞伎の女形(おやま)さんは全部それだ」
「うーん・・・」
「ピーターさんみたいに、性別は男の娘で男優・女優どちらもこなすという線は?ピーターさんって知ってる?」
「はい、もちろん。あの人の若い頃の写真とか見せてもらいましたけど、凄い可愛いですね。あの人は若い内に去勢したんですか?」
「本人は否定しているし、何人かの過去のボーイフレンドも否定しているけどね」
「去勢せずにあの美貌を保っていたとしたら、それがまた凄いです」
「あるいは龍ちゃんと同様、体質的なものもあるかもね。龍ちゃんも、そういうの狙っているんだ?」
「役者としての路線はひょっとしたら似ているかも知れないですけど、ボクは男の娘じゃないですよ。普通の男の子のつもりです」
「うん。それは最初の数時間のやりとりで私も認識した。もし私とセックスしたくなったら、いつでも言ってね。させてあげるから」
「ごめんなさい。それはパスで」
「でもこの2日で、龍ちゃんの気持ちが随分分かった気がするよ」
「確かに宏美さんと、こういう話をする機会がこれまでありませんでしたね」
夏のロックフェスティバルの後も同じホテルに一緒に泊まったが、あの時は超多忙な中で、話すどころではなく、ひたすら眠っていた。
「デビュー以来2年間、何も考える暇も無いくらい疾走してきたからね」
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娘たち、男と女の間には(4)