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■娘たち、男と女の間には(10)

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谷崎聡子がなかなか気付かないようなので、千里は谷崎潤子・聡子の姉妹を千葉の玉依姫神社に連れて行ってあげた。聡子は《パール》と《オニキス》をキャリーに入れて連れてきていた。
 
「こんな所にいたんだ」
と言って、聡子は神社の神殿前に立つ招き猫の前で立ち尽くし、涙を流した。キャリーは2つとも潤子が持ってあげた。
 
結局聡子は招き猫を抱きしめたが
「ルパン元気そう」
と涙目のまま言った。
 
「私も分かった。これはルパンだ。毎月のように来ているのに全然気付かなかったよ、ごめん」
と潤子が言う。
 
「飼い主本人しか気付かないかもね。亡くなったのいつだっけ?」
と千里が訊く。
 
「パールとオニキスを飼い始めたのが2014年6月くらいでその1年ちょっと前に亡くなったから、2013年春。もうすぐ五回忌ですね。可愛い三毛猫だったんですよ」
と潤子。
 
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白猫のパールと黒猫のオニキスはこの神社近くにダンボール箱に入れて捨てられていたのを千里が見付けて(正確には姫様が千里に教えた)潤子が保護し、それ以来聡子が飼っているのである。
 
「デートレイプされそうになった女の子を助けてあげたり、盗撮魔をやっつけたり、暴走族に絡まれそうになったカップルを守ったり、色々活躍しているみたい」
 
「あんた、頑張ってるね!」
と聡子は言った。
 
「時々来てあげるといいかもね」
「うん、そうする!」
と聡子は言った。その日はルパンが好きだったという、ちゅーるスティックをお供えしていた。
 
そして聡子は“ルパン”の前に2つのキャリーを並べて
「あんたの後輩だよ。嫉妬しないで優しくしてあげてね」
と言った。
 
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玲央美は言った。
 
「アキちゃん、あんた合同練習の時は手を抜いてたね。実際はハルちゃんよりバスケが上手いじゃん。ジャンプ力も凄い」
「猫だから身軽だし」
「バスケットができる猫というのは初めて知り合った」
と言ってから、玲央美はハッとした。
 
バスケットができる猫って、誰かとそういう話をしたぞ・・・。
 
「ねぇねぇ。ちょっとバイトしない?報酬は払うからさ」
「じゃ銀のスプーンの小魚入りで。ハルが買ってくれるロイヤルカナンはヘルシーだけど味は微妙だから」
 
「ああ。でも長生きのためには、そちらがいいんじゃないの?」
「ボク、そもそも物理的な生命体ではないし」
「それは大した問題じゃ無い気がする」
「うん。ボクも気にしてない」
 
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そんなことを話しながら、玲央美は『糖尿病とか高血圧症の龍とか麒麟ってのもいるんだろうか?』などと考えていた。
 
「そういえばアキちゃんって、ボク少女だったっけ?」
「違うよ。ボクは男の子だよ」
 
「三毛猫なのに男の子なの!?」
 
「たまに居るじゃん。だからボクは元々生殖能力は無かったよ。ちんちんはあるけどね。睾丸は機能していなかった。どっちみち去勢されちゃったけど」
「まあ飼い猫が去勢されるのは仕方ない」
 
「うん。だからボクは外見的には最初から女の子なんだけど。それに乗じて結構女装して出歩いている。女の子は可愛い服着れて楽しいし。ハルとお揃いの女子制服も着るよ。女子トイレ使うのは最初は恥ずかしかったけどだいぶ慣れた。ボク普通の男の子に生まれていたら女装男子になっていたかも」
 
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それって、何かこないだ《すーちゃん》と話したまんまじゃん!!
 

3月11-12日(土日)に宮城ハイパーアリーナで“08年組”主催の東北復興支援ライブが行われた。これに千里も参加した。
 
例によって“利益”ではなく“売上”の全額(ぴあの手数料を除く)を寄付するイベントで、出演者は、ギャラ無し、アゴ・アシ・マクラ自腹で参加している。大量のボランティアに支えられたイベントであるが、会場使用料、著作権使用料やアクアのライブの警備費などは、ケイ・マリ・和泉・千里・コスモス・アクアの6人が個人的に負担している。
 
今回は★★レコードの協力が得られなかったため、TKRの社員が家族や友人などまで誘って宮城県に集結して手伝ってくれた。交通費はその家族・友人の分までTKRが出すという話だったが、経営規模の小さなTKRには極めて高負荷なので、背任に問われる恐れがあると思った、ケイ・マリ・千里・蓮菜・アクア・コスモスの6人が350万円ずつ支援させてもらった。それでTKRの負担は100万円未満で済んだはずである。その他、宮城県のテレビ局とFM局もスタッフを派遣してくれて、今回はそれがとても助かった。
 
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「財政が厳しいので協力金とかが払えないので、労働力で」
などとテレビ局の常務さんが言っていたが
「いえ、その労働力がいちはんありがたいです」
とケイが常務さんに答えていた。
 
今回は本当に手作りイベントの感があった。
 
アクアは11日、12日の両日の午前中に登場して熱唱した。
 

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2017年3月19-21日、前橋市で全日本クラブバスケットボール選手権大会が開かれ、千里がオーナーを務める 40 minutes が優勝し3連覇を達成した。準優勝は冬子がオーナーを務めるローキューツ、3位は上島雷太がオーナーを務める江戸娘であった。
 
千里と冬子は前橋までこの大会を見に行った(政子も付いてきた)が、上島は多忙のため欠席し、予算の執行などについては冬子に託していた。
 

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3月20日(祝).
 
龍虎は母に付き添ってもらってC学園高校の入学説明会に出席した。龍虎は彩佳・桐絵と同じクラスになっていた。
 
他に歌手の松梨詩恩(本名:天羽飛鳥)、星原琥珀(本名:岩下静夜)などが同期になることが分かった。また芸術コースに入る男子は、龍虎の他はピアニストの武野昭徳くんと、ヴァイオリニストの田中成美ちゃんだった。成美ちゃんは女子制服を着ており、声変わりもしていなくて、普通に女子にしか見えなかった。
 
実際には龍虎もほとんど女子にしか見えないので武野は「男子は僕1人?」などと悩んでいた。
 

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2017年3月22日(水).
 
アクアの8枚目のシングル『星の向こうに/ナースのパワー』が発売された。『星の向こうに』は岡崎天音(マリ)と大宮万葉(青葉)の作品、『ナースのパワー』は葵照子(蓮菜)と醍醐春海(千里)の作品である。
 
当日はいつものようにエレメントガードをバックにアクアが生歌唱してから会見となる。今回出席したのは、アクア、コスモス、青葉、千里、三田原課長である。
 
エレメントガードのメンバーが交替していることに気付いた記者があり、コスモスが交替の事情を説明した。
 
曲自体に関する質疑応答、第3シーズンに入る『ときめき病院物語』の話題も出た上で、青葉・千里のアクアとの過去の関わりの話にも質問が及ぶ。千里とアクアの出会いが極めてドラマティックであったことが明らかにされたことでこの後、その話を元に映画を作ろうという話に発展するのだが、それはまた後の話である。
 
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4月1日(土).
 
この日は公立の学校はお休みなのだが私立のC学園では入学式が行われた。しかしそのお陰で公立高校の教師をしている龍虎の両親が入学式に出席することができた。
 
当日は1時間ほど第1体育館(黄金)で式が行われた後、各々の教室に入り、生徒手帳の配布と、全生徒の自己紹介が行われた。また各種委員の選任も行われたが、芸能人の生徒はさすがに委員会活動は無理なので外してあった。しかし武野君は美化委員に任命された。美化委員は男子も1人いると助かるが3人の男子生徒の中では武野君がいちばん時間が取れるかもという気はした。彩佳は図書委員に任命された。
 

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ところで龍虎は彩佳に唆されて、女子制服を作ってしまったのだが、その制服が赤羽のマンションに送られて来た時、たまたま母が来ていた。母は龍虎が女子制服で通学するつもりなのかと困惑する。
 
龍虎は親に内緒で所有しておきたかったのでマンションの方に送ったのに、その到着日に限って母が来ているなんて、と思ったものの、見苦しい言い訳をする。しかしその言い訳をしている最中に唐突に思いついた。
 
「そうだ!この女子制服の上だけ着てさ、下は中学の時に穿いていた学生ズボンにしたらC学園の男子制服っぽくない?」
 
「はぁ!?でもそのブレザーは左前だよ」
「右前か左前かなんてボク気にしないもん」
「そうね。“あんたは”気にしないかもね」
と母は投げ槍に言った。
 
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そういう訳で4月1日の入学式に龍虎は“自主的に設定した”男子制服で学校に行ったのだが、これを誰かが盗撮し、ネットにアップしてしまった。
 
あっという間に拡散する。
 
盗撮のため写真はピンぼけなのだが、それでもアクアの上半身が写っており、どこの制服であるかは“女子高生制服専門家”!の目には一発で分かった。
 
「アクアがC学園の制服を着ている!?」
「C学園って女子校だよね?」
「まさかアクア女子高生になったの!?」
「やはりきっと性転換していたんだよ。『時のどこかで』のラストはそれを意味していたんだ!」
 
ドラマ『時のどこかで』のラストはアクア演じる芳山和夫がトイレに行って仰天するシーンで終わっており、様々な憶測を呼んだ。
 
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「たぶん男の娘タレントはやめて4月からは女の娘タレントになるんだ」
「女の娘って何??」
「女の子になったアクア様って、きっと可愛くて素敵よね」
「アクアが女の子になったんだったら、俺の嫁になってくれ!」
 
などとネットの噂は暴走していく。
 

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コスモスは真夜中の2時!に龍虎のマンションにやってきた。
 
それで事情を聞いた。
 
「なーんだ。そういうことだったのか。だったらこうしようよ」
と言って、コスモスは今所有している女子制服のジャケットのボタンを左前仕様から右前仕様に改造することを提案した。
 
「あ、そういうことできます?」
「できると思うよ。誰かできそうな人を呼ぼう」
 
それでコスモスは少し考えてから、門脇真悠を呼び出した。
 
さすがに深夜なので出るまでに少し時間が掛かったものの、コスモスからの電話なので彼は出てくれた。
 
「おはようございます、門脇です。何かありましたか?」
「おはよう。真悠ちゃん、お裁縫できたよね?」
「わりと得意です。実は布を買ってきて自分が穿くスカートを手縫いで作ったりしてたんです」
「偉いね!」
「単にスカートを買いに行くのが恥ずかしかったからなんですけどね」
 
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「ボタン付けできる?」
「できますよー」
「じゃ申し訳無いけど、今からこちらに来てボタン付けをしてくれない?実は女物のジャケットを男物に改造したいのよ」
「だったらミシンも持って行った方がいいかな」
「ミシン持ってるの?」
「はい」
「多分あった方がいい気がする」
 
「場所はどこですか?」
「赤羽のアクアのマンション。一方通行が多くて入り方が難しいから、赤羽駅の西口で落ち合おう。そこに私がいてタクシー料金も払うから」
「分かりました!」
 

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それでコスモスは出かけて30分ほどで真悠と一緒に戻ってきた。真悠は可愛いライトブルーのブルゾンとミニフレアースカートを穿いている。アクアは思わず
 
「まゆちゃん、可愛い!」
と言った。彼は照れていた。
 
「このジャケットのボタンを左前から右前に改造したいんだけどできる?」
「30分もあればできますよ〜」
 
と言って、彼は作業を始めた。
 
まずは左前身頃に付いているボタンを全部リッパーで外してしまう。左右の前身頃を合わせ、右前身頃のボタン穴より少し低い位置にチャコで印を付けた。
 
「ずれてない?」
「ずらすんです」
「へー!」
 
ミシンを使って《ボタン穴かがり》をする。その上でかがった糸の中央の部分をリッパーとハサミで切る。この時切りすぎないように、端の所に待ち針をあらかじめ刺しておく。
 
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「穴を開けてから、かがるんじゃなくて、かがってから穴を開けるんだ!」
とアクアが感心する。
 
「先に穴を開けちゃったら、かがれないよ。水を溜めてからダムの土手を作ったりはしないでしょ?」
と真悠。
 
「いや、私も知らなかった」
とコスモスも言う。
 

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その後は左前身頃の元からあるボタン穴の下の部分にボタンを糸で留めていく。ここは手作業だが、真悠はとても手際が良い。
 
「そうか。元のボタン穴の下にボタンを付けるから、新しい穴は元の穴より少し低い所に開けたのか」
「穴が空いている所にはボタンは留められないからね」
 
それで結局20分ほどで左前の女子仕様のブレザーが右前の男子仕様のブレザーに変身してしまった。
 
「ありがとう!本当に助かる」
とアクアは真悠に御礼を言った。
 
「でも20分で女の子から男の子に変身するって凄いね」
「人間も20分で性転換できたらいいね」
 
「これ、元の右前身頃にもボタンホールが残っているから、ボタンだけ移せば元の女子仕様に戻せるよ」
 
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「元の性別に戻れるってのもいいね」
 
「アクアさん、もし後で男の子に戻れるなら女の子への改造手術受けたいでしょ?」
「受けたい!まゆちゃんもでしょ?」
「絶対手術受けますよ」
「毎年性転換しちゃうかも」
「1年おきに男と女をするのもいいね」
 
などと2人が会話をしているのでコスモスは腕を組んでしかめっ面をしていた。
 

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娘たち、男と女の間には(10)

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