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■娘たち、男と女の間には(6)

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話が終わってから、朝御飯代わりに各自1つずつのオムライスとカフェラテのお土産を作ってもらい、《こうちゃん》に龍虎と宏美を元居た栃木県のホテルに送り届けさせた。龍虎は戻るとすぐベッドに入って、すやすやと眠ってしまう。宏美はその寝顔を見て微笑んで部屋を出てからホテルの駐車場に駐めたままの愛車ロードスターの中で、『時のどこかで』の和田プロデューサーに電話した。
 
「物語の最終展開ですが、やはりA案でお願いします。はい、和夫が誤って性転換されてしまい、女の子になってしまったから仕方なく女子中学生として通学することになるというのではなく、性転換される代りに女体偽装ボディスーツを貼り付けられるものの1ヶ月間は外せないので、その間、性別疑惑の中で男子中学生生活をするというので。ええ、ここだけの話ですけど裸に剥いてちゃんと男性器が存在することを確認しましたから。でもほんとに小さいんですよ。まあ女の子とセックスするのは無理ですね。だからA案の方がアクアの実態に近いです」
 
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宏美が車の中で電話している時、龍虎はお腹の調子が変な気がして目を覚ましトイレに行った。昨日あたりから怪しいなと思って念のためナプキンを付けておいたのが正解だったようである。
 
「また今月も来たのか。これ面倒くさいなあ」
と言いながらナプキンを交換して使用済みのナプキンは汚物入れに捨てたが、宏美さんにお股を見られた時はまだ始まっていなくて良かった、と思った。
 
ナプキンを交換すると、龍虎はまたベッドに戻ってすやすやと眠った。
 

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《こうちゃん》に乗せて龍虎と宏美を送り出した後、千里はオムライス2つとカフェラテ1つ、ホットミルク1つを追加で作ってもらい、2時間後にまた来ていいか?と尋ねる。
 
「寝てると思うから起こして」
「御免ね。疲れている時に」
「それはお互い様だね」
 
それで千里は青葉が調整したクレールの結界を再調整してから、大阪に転送してもらった。京平にカフェラテを見せると「かわいい!」と喜んでいる。但し京平が飲むのはホットミルクのほうである。1歳児にコーヒーを飲ませる訳にはいかない。朝御飯にオムライスを千里、たいちゃん、京平の3人で一緒に食べてから、また仙台に転送してもらい、今度はオムライス4つとカフェラテ3つ、ホットミルク1つを頼む。
 
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「ミルクはお子さん?」
「そうそう。さっきはうちの息子」
「ああ、京平君か」
「今度は娘がお腹の中に入って居る人」
「桃香か。もう赤ちゃんの性別は分かったんだ?」
「分かってないけど、女の子として生まれてもらう」
 
「ああ、強制性別変更ね。それもいいんじゃない?徳川家綱は実は女の子だったけど、徳川家光の跡継ぎが必要だからというので天海和尚の法力で変成男子(へんじょうなんし)にしたと言うし。子供ができなかったのは、そのせい(**)」
 
それで千里は大宮の彪志の家に転送してもらい、彪志・桃香・朋子と4人でオムライスを食べた(結局千里はオムライスを2回食べた)。桃香たちもカフェラテのラテアートが美しいと喜んでいた。
 
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千里はその後、用賀のアパートでぐっすり眠ってから、昼過ぎにチームに合流し、今夜のオールジャパン決勝戦に備えた。
 
(**)徳川家綱は正室との間には子供ができなかった。2人の側室が1度ずつ妊娠しているが、1人は死産、1人は流産した。子をなさないまま亡くなったので老中堀田正俊は独断で弟の綱吉を死の床に呼び“亡くなる前に”養子にしたことにして将軍を継がせた(この付近は諸説あり)。徳川家が断絶するのを機会に皇子(みこ)将軍をと主張していた大老酒井忠清は失脚。掘田が大老に就任した。
 

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2017年1月8日深夜(1月9日午前2時)安曇野の会議に出席した面々はこのように集まった。
 
ケイ(冬子)と青葉はローズ+リリーの金沢公演を1月8日に行い、その後、金沢に駆けつけて来た佐良さんの運転するレンタカーのヴォクシーで安曇野に向かった。到着したのは1:30AM頃である。
 
和泉は新潟に親戚の集まりで行っていたのだが、従姉に安曇野まで送ってもらったらしい。和泉はおそらく日本で唯一の“フルビッターのペイパードライバー”である。到着したのは0時前だったらしい。従姉さんには部屋で休んでもらった。
 
千里はオールジャパンの優勝祝賀会を途中で抜け出して、矢鳴さんが運転するアテンザで安曇野に来たが、安曇野に行くと聞いて、チームメイトの渡辺純子と黒木不二子が同行。ふたりは矢鳴さんともども部屋で休んだ。
 
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上野陸奥子と今井葉月は、上野が愛知県小牧市の夫の実家に行っていたので、葉月が迎えに行く形で新幹線とJRを乗り継いで小牧に行き、結局上野の夫が車で安曇野まで送ってくれたらしい。上野の娘(葉月の従姉)の紅良々も付いてきた。上野たちは途中で中央道の事故による渋滞に巻き込まれ、到着が1:45くらいになった。夫と紅良々は部屋に行って休んだ。
 

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アクアとコスモスはお昼頃栃木県のホテルをチェックアウト。ロードスターで北関東道を走り、高崎でゆりこと落ち合う。ゆりこはフォルクスワーゲン・ポロを持ってきており、休憩後コスモスたちがそちらに乗り移って、ゆりこの運転で3人で上信越道→長野道で安曇野に向かった。夕方到着して部屋でゆっくり休んだ。
 
「それでアクアは筆下ろしをしたの?」
などとゆりこが訊く。アクアは真っ赤になってしまったものの、コスモスは
 
「筆はまだ出荷前で使用できなかったよ」
と答える。
 
「出荷前ね〜。でもアクアちゃんがコスモス社長に筆下ろししたらしい、なんて噂が広がるとコスモス社長、暗殺されるね」
「ああ、怖いね」
とコスモスも笑っていた。
 
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「ところで墨汁は存在したんだっけ?」
「存在するみたいだけど、自分では出せないらしい」
「でも墨汁の冷凍保存したよね?」
「あれは出荷前の工場内で特殊な方法で採取したらしいよ」
「ほほぉ」
 
ゆりこは工場内にたくさん男性器がぶら下がっていて、機械で1本1本絞り取っては、瓶詰めしていく様を想像した。なかなかシュールだ。
 
「ちなみに生理もあるよね?」
「ああ、今生理中みたいだよ。ナプキンもしてるし」
とコスモスがいうので、龍虎は『ばれてる〜!』と思って、真っ赤になった。
 

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「でも今夜の会議はお風呂の中でやるから、タンポンにしなよ」
「た、タンポン?」
「使ったことない?」
「だったら2〜3個あげよう」
と言ってコスモスがタンポンを渡す。
 
実はホテルの生理用品入れに使用済みナプキンが入っていることに気付いたので、龍虎が寝ている間にコンビニで買っておいたものである。千里の説明によれば本物の龍虎の男性器は取り外されていてどこかで治療されているということだったが、代わりに女性器が付いているのだろうか??などと考えていた。
 
「入れてあげようか?」
「自分でやります!」
と言って龍虎は真っ赤な顔でタンポンを持つと多目的トイレに行った。普通の個室では入れきれない気がしたからである。
 
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『でもこれどうしよう?』
と龍虎は戸惑う。《こうちゃんさん》が
『俺が入れてやろうか』
などと言っているが
『絶対嫌!』
 
と言った。そんなことさせたら、タンポンの前に自分のを入れてくるのでは?という気がする。彩佳や社長の子供なら産んでもいいけど《こうちゃんさん》の子供を産むなんて嫌だ、などと龍虎は思ったが、思考が混乱していることに気付いていない。
 
『でも龍、それ自分でできないだろう?』
 
などとやりとりしていたら、青い和服を着た凄くきれいな女の人が姿を表す。
『私がしてあげるよ。勾陳は後ろ向いてな』
『分かった分かった』
と言って彼が後ろを向く。
『私が入れていい?』
と女の人が言うので、こくりと頷く。
 
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それで床の上に横になって、入れてもらったが、全然痛くなかった。
『処女は傷つけてない筈だから』
『ありがとうございます』
 
『お風呂からあがったら、また処置してあげるから』
『すみません』
 
龍虎はその後、タンポンの紐と、更にアプリケーターまであそこに挟んだまま割れ目ちゃんを接着してしまった。
 
『あんた何やってんの?』
『あたかも女体偽装しているように見せるんです。アプリケーターはおちんちん代わりです』
『面白いことするね〜』
 

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ともかくもそれで部屋に戻った。
 
「かなり時間が掛かったね」
「苦労しました!」
「ライブに生理がぶつかった時もタンポン使うといいよ」
「そういう時また考えます」
 
「龍ちゃんがいつも持ち合いている生理用品入れにはタンポンも買って入れておくといいね」
「そうしようかな」
 
そんな会話をしながら、いったんアクアはどこにタンポンを入れたんだ?とゆりこは疑問を感じていた。
 

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最初は少し広い部屋(12畳くらい)に入り、お疲れ様でした、などといって軽い食事を取る。この時点で居たのは、アクアたち3人とKARIONの和泉である。和泉がアクア・プロジェクトのディレクターになってくれることになったとコスモスから紹介される。
 
「よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
 
アクアは、ゴールデンシックスの花野子さんとかなら、女の子の服ばかり着せられそうだし、マリさんなら間違いなく性転換手術を受けさせられると思い、和泉さんで良かったぁ!と思った。
 
「何か飲まれますか?」
と仲居さんが言うので、和泉さんは安曇野産の赤ワインを頼む。龍虎はコカコーラ・ゼロを頼んだ。コスモス社長・ゆりこ副社長は、私たちは司会だからと言って、お茶にしたようである。
 
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この部屋に移動して間もなく千里さんが到着する。千里さんはヱビスビール琥珀を頼んでいた。
 
少し話した所で「じゃ打合せする場所に移動しましょう」とコスモスが言う。
 
「あ、ここで会議するんじゃなかったんだ?」
 

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それで行ったのは大浴場である。
 
「え?女湯でやるんですか?」
「私たちは男湯に入れないしね」
「あ、そうですよね」
と言って、アクアは何の抵抗もせずに他の4人と一緒に女湯に行く。脱衣場で服を脱ぐが、アクアも別に何も気にせず服を脱ぐ。和泉さんはアクアの裸を見て
 
「冬子の女体偽装も美事だったけど、アクアちゃんも上手いね〜」
と言って、胸のプレストフォームの境目などを触っていた!
 
アクア自身は『タック偽装はバレてないみたいだ』と思って少しドキドキしているのだが、演技力で平静を装っている。
 
「女性の裸を見ても平気みたいね」
「ええボク、別に女性の裸を見ても何も感じません」
「男性の裸は?」
「見た経験がないので・・・」
「子供の頃、お父さんに連れられて男湯に入ったこととかない?」
「温泉とか行った経験がないです」
 
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実は一度だけ曖昧な記憶がある。長期の入院から退院して、田代家に来た時「家族になった記念に」と言って、3人で温泉に行ったのである。その時、男湯と女湯のどちらに入ったのか記憶が曖昧だ。
 
「龍は小学校の修学旅行では、女湯に連れ込まれたらしい」
と千里さんが言っている。
 
「なるほどねー」
 
浴室に移動し、各々身体を洗ってから浴槽に入る。少しおしゃべりした所で冬子と青葉が到着した。更には「え〜!?女湯に入るんですか?」という声とともに水着を着た葉月と、叔母の上野陸奥子がやってきた。
 
西湖は龍虎のヌードを見て「性転換していたんですか?」と驚いていたが「偽装だよ」と言って、お股も触らせる。
 
「あ、ちんちんある。ほんとに偽装だったんですね」
と西湖は言ったが、実は西湖が触って“棒がある”感触を感じたのはタンポンのアプリケーターである!
 
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しかしこの西湖の“ちんちんチェック”により、みんなが龍虎は女体偽装しているのだと信じてくれた。
 

それで深夜の安曇野の温泉女湯で、アクアの今後の営業方針に関する会議が始まったのであった。
 
最初にコスモスはあらためてアクアに尋ねた。
 
「この場だけで、みんな忘れるから、正直に言いなさい。君は女の子になりたいのか、男の子になりたいのか」
 
「ぼくは男の子です」
とアクアは即答した。
 
「その前提が違っていると、全てが変わってくるからね」
とコスモスは言った。
 
アクア本人が女の子になりたいというなら、事務所としてもその方向で売っていくし、男の子でいたいというなら、そういう売り方をするとコスモスは言った。
 
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それでアクアは
 
「女の子にはなりたくないです。女の子の服を着るのは好きだけど、ぼくにとってはファッションの一部なんです」
と明快に答える。
 
コスモスと2日間ホテルで一緒に過ごしてコスモスとしてもアクアの本音を引き出すことができたし、アクアとしてもコスモスとゆっくり話して自分の気持ちを整理することができた。それ故の即答である。
 

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娘たち、男と女の間には(6)

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