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■娘たち、男と女の間には(5)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-10-18
 
2017年1月7日の24時近く、アクアとコスモスが泊まっている部屋に突然千里が来訪した。千里は7日のオールジャパン準決勝が終わった後、少し仮眠した上でここに来ている。龍虎がどこに居るかは実は《こうちゃん》の居場所から分かってしまうので、そこに《くうちゃん》に頼んで転送してもらったのだが、自分が利用されていることに《こうちゃん》は気付いておらず、この時は驚いていた。
 
「コスモスちゃんも一緒だったんだ?ごめんね〜。お楽しみの所」
 
「あの、誤解しないで欲しいんですけど、私と龍虎は何もしてませんから」
と宏美が緊張した顔で言う。
 
宏美(コスモス)としては、かなり後ろめたい。しかし千里は言った。
 
「そりゃ当然。連結器が無いからね。そのあたりについて、少し突っ込んで話したいんだけど、ちょっと河岸(かし)を変えない?」
 
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「いいですけど」
 

そこで、千里は《こうちゃん》に自分たち3人を“乗せて”仙台まで飛んでと命じた。
 
『いいの〜〜?龍虎はいいとして』
『いいから、いいから』
 
それで《こうちゃん》は、前から龍虎、宏美、千里の順に3人を背中に乗せて上空に舞い上がった。龍虎は小学1年生の時以来の飛行に、はしゃいでいた。
 
「何これ〜?」
と宏美(コスモス)は驚いている。
 
「暴れないでね。落ちるから」
「しっかり捉まっている!」
 
「でも私、空を飛んでいる気がするんだけど」
「今夜の出来事は全部夢だと思って」
「そうする!」
 

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やがて3人は30-40分の飛行で、仙台市内の何かのお店の前に立っていた。
 
「ここは私のお友だちが作ったばかりのメイド喫茶クレール。まだオープン前なんだけど、オープン前なのをいいことに、ライブ会場として使われているんだよ。取り敢えず3月までは毎週土曜日に女子高生トリオのボニアート・アサド、日曜日は東北在住のセミプロ・アーティスト数名のジョイントライブ」
「へー!」
 
「ここは音響が素晴らしい。ここの客室はローズ+リリーのケイが監修して2000万円掛けて良い音響で音楽が聴けるように設計施工されているから」
「凄い!」
 
宏美は実際客室に案内されて、末広がりのホールのような形になっていて、壁に吸音板が貼り付けてあるのを見て驚いていた。
 
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(この時点では実はまだ1000万円しか掛けていない。2-3月に美大生2人の手でアール・ヌーヴォー風の絵が吸音板の上に描かれるが、この描画に更に1200万円掛かる。吸音板の効果を落とさないため刷毛(はけ)が使えず、マスキングして色単位でエアブラシで吹き付けていくという根気の要る作業だった。結果的に合計2200万円掛かった)
 
「こういう音響の素晴らしいライブハウスはめったにないし、ここは普通のライブハウスみたいなチャージ制じゃないんだよ。あくまでカフェであって、音楽はお客様へのサービスという位置づけ。楽器とかも無料で使える。だから§§ミュージックの研修生とかに度胸付けさせるのにここで歌わせたりバンド演奏させたりするのもありだと思うよ。普段の客席はゆったりと70人くらいだけど、テーブルや椅子を取っ払ってオールスタンディングにすると700人くらい入るから」
 
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「それいいね!」
 

客席に案内され、和実がラテアートでコスモスの模様、龍の模様、鳥の模様を作って持って来てくれると、また宏美は歓声をあげていた。
 
龍虎が写真撮ってもいいですか?と言い、和実もどうぞどうぞというので龍虎はスマホで写真を撮影していた。
 

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3人は店の奥、厨房から最も遠いテーブルに陣取って、話をすることにした。
 
千里は最初に龍虎の去勢疑惑について説明した。
 
「中学3年にもなって声変わりがしないというのは、普通は去勢でもしてなきゃありえない。だからみんな疑惑というより、去勢していることを確信していると思う」
 
「それについて本人からは、青葉さんのセッションで睾丸から出る男性ホルモンが男性器の近くのみに作用して、身体の他の部分には広がらないようにしているので声変わりが来ないこと、結果的に女性ホルモンが微妙に多い状態になっているけど、その女性ホルモンは胸の付近には作用しないように、これもブロックしているので、バストは膨らまないのだという説明を受けました」
と宏美は言う。
 
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「そうそう。青葉がやっているのが化学的な操作。だから龍虎は化学的な去勢状態にある。そして私がやっているのが物理的な操作。実は龍虎の睾丸は物理的に取り外している」
と千里は言った。
 
「ほんとに去勢してるの!?」
「但し復元可能な状態でね」
「そんなことできるんだ?でもそしたら青葉先生の操作は?」
 
「コンピュータの仮想化技術を考えてもらうといい。リモートプリンタに印刷するのもパソコンの隣にあるプリンタに印刷するのもアプリケーションからは何も違いはない。あたかもそばにあるプリンタのように扱うことができる。データを保存する時もパソコンに直接繋がっているディスクに書くのも、LAN上の別のパソコンに繋がっているディスクやNASに書くのも同じ」
 
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と千里は説明したが、本当に説明しているのは小春である。千里本人にはこういう話はちんぷんかんぷんだ。
 
「だから青葉が龍ちゃんの身体に付いている睾丸と思って操作しているのは実は別の場所で治療を受けている睾丸なんだな」
 
「治療というと?」
 
「やはり小さい頃にした病気の治療のために強い薬を使ったことで、龍ちゃんの睾丸はほとんど死んでいたんだよ。それを私の友人が、取り外してある場所でずっと治療している。龍ちゃんとの約束では20歳になったら本人の身体に戻すことになっている。だから20歳になるまでは絶対に声変わりは起きないんだよ」
 
「うーん・・・」
と宏美は悩んでいる。
 
「一昨年龍虎の精液を冷凍保存したけど、実はそれはその治療している場所で龍虎の性器に直接刺激を与えて射精されたものを病院に持ち込んで冷凍してもらったんだよ」
「面白いことするね」
「だから龍虎は自分では性的快楽を体験できなかったのに精液が採取された」
 
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「未来の人間の生殖はその方式になったりして」
「あり得るかもね。男子は小学校にあがる時に性器を取り外されてその後は人工培養。精液はそこから採取する。睾丸の付いている人間がいなければ争いも減って平和な世の中になるかもよ」
「安いSFにありそうな設定だ」
 
「ちんちん付いている人がいないから、トイレは男女に分ける必要ないし、中学校の制服は全員セーラー服かな。オリンピックも男女を分けない」
 
「それむしろ小学5年生の時に、男と女のどちらになりたいか本人に決めさせて、女性になりたい人には必要なら女性ホルモンを投与してバストを発達させ、男性になりたい人には男性ホルモンを投与して声変わりも起こして男らしい体格を作り上げるというのでもいいかも」
 
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「ああ、そういう設定でもいいよね。男子を選択する天然女子はその時点で卵巣を除去する。でもちんちんは付けない」
「付けないんだ!」
「レスビアンセックスでいいじゃん」
「確かにそれでいいかもね。ビアンは気持ちいいし」
 
アクアが困ったような顔をしている。しかしコスモスがまるでビアンの経験があるような言い方をするのは気にしないことにした。
 
「小学4年生は試行期間でホルモンは投与しないまま、男子になりたい子はズボン、女子になりたい子はスカートで1年間過ごしてもらう」
 
「女子を選択してヴァギナが無い子は18歳の段階で造膣する」
「全員がビアンなら、別にヴァギナ作らなくてもいいかも」
「それは一理ある」
 
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「それで、龍虎が20歳になった時、男性器を戻すというのは、本人がその時点でそれを戻して欲しいと思っているならだけどね」
と千里は言ったが、龍虎は言った。
 
「ボクも随分悩んだんですけど、20歳すぎたら、戻してもらえませんか?まだ治療が完全でなくても」
と龍虎は言った。
 
「いいよ。そうしよう」
と千里も答えた。後ろで《こうちゃん》が『まあ仕方ないかな』という顔をしている。
 
「何となく20歳くらいになったら男になってもいいかなという気がしてきているんです。それまでは曖昧な性別をむさぼりたい気分」
と龍虎は素直な気持ちを言う。
 
「いいんじゃない?女の子の服を着るの好きでしょ?」
「好きです。男に戻っても着たいくらい」
 
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「それは着てもいいんだよ」
と千里も宏美も言う。
 
「じゃ着ちゃおうかなあ」
と龍虎は言った。
 

「実際問題として、龍って、20歳くらいになったらアイドルはやめるつもりでしょ?」
と千里は言う。
 
「その話も宏美さんとしました」
と龍虎が言うが、宏美も頷いている。
 
「ボク、基本的には俳優になりたいんです。でも音楽が好きだから、撮影にかかってない時期はロックバンドとかやりたいんですよね」
 
「龍ちゃん、ギターがうまいし、ピアノやヴァイオリンもうまいもんね」
「ボクはボーカル兼ピアノ担当で、ギターとベースとドラムスの人をスカウトしたいんですよね」
 
「ピアノの弾き語り、ベースの弾き語りはわりと行けるんだよね」
「ギターの方がベースより多いかも」
「どっちだろうね」
「ドラムスの叩き語りになるとかなり少ない」
「ドラムスだと、カーペンターズのカレン、イーグルスのドン・ヘンリー、C-C-Bの笠浩二(りゅう・こうじ)、稲垣潤一、あたりかな」
「BUCK-TICKのあっちゃんは本来ドラマーだったんだけど、ボーカル転向後はドラムスを打ってないから叩き語りはしてない」
「ヴァイオリンの弾き語りは昔の演歌師がやっていたけど、フルートの吹き語りは少ない」
「それ不可能だと思う!!」
 
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明け方、だいたいアクアの今後の方針などについて話がほぼまとまり、この件を再度今夜安曇野で関係者一同の前で話したいとコスモスは言った。
 
「連続徹夜で申し訳無いけど」
「いや、昼間寝ているからいいですよ」
「千里さん、試合は?」
「夕方からだから、それまで寝てますよ」
「お疲れ様」
「試合やった後、温泉に入ったら即眠ってしまいそうな気はする」
「私も寝てたりして」
「ボクも寝てたりして」
 
深夜はサブチーフのマキコが対応してカフェラテのお代わりや軽食などを作ってくれていたのだが、明け方また和実が出てくる。イベントの形式によってテーブルと椅子を運び入れたり撤去したり大変でしょう?などと言うと
 
「最初は2階の倉庫に格納するつもりだったんだけど、移動距離が長くて物凄く大変だと分かったから、今は自宅の方に運び込んでいる」
などと言う。
 
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「自宅に運び込むのも大変だと思う。1階には倉庫は無いの?」
「裏ロビーに置けたらいいんだけどね」
 
末広がりの客室を作ってしまったため、三角形の微妙な空間が余ってしまったらしい。見せてもらったが、微妙すぎて、全てのテーブルを収納しきれないという。しかし龍虎はその空間を見て「積層書庫みたいにしては?」と提案した。
 

 
「要するに中二階を作るわけか」
「中三階・中四階くらいまで作ってもいいかもね」
 
この龍虎の案は採用され、ここに業務用倉庫などにあるような、スティール製の中二階・中三階が作り込まれ、リフト(エレベータ)でテーブル・椅子の類いを運び込めるようになる。
 
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コスモスはまた和実に、ボニアート・アサドがメジャーデビューした後、現在の毎週のイベントが月1回に減るのなら、その後の枠に月1回くらいでも、うちの信濃町ガールズを出演させられないかと打診した。
 
それで調整の結果、ボニアート・アサドが高校生のトリオなので、信濃町ガールズは中学生以下のメンバー限定で公演すると、ボニアート・アサドの妹分のように思ってもらえるかもということで話がまとまり、中学生以下のピックアップ・メンバーで毎月来演することが決まった。
 

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