広告:彼が彼女になったわけ-角川文庫-デイヴィッド-トーマス
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■娘たち、男と女の間には(8)

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エレメントガードのメンバーが交替することになった。
 
キーボード担当のハルは近い内に結婚したいと思っているので引退させて欲しいと12月上旬ヤコに申し入れ、コスモス社長・ゆりこ副社長とも話し合いの上、年末年始のツアーを最後に引退することになった(実際には忙しすぎて体力がもたないのでというのが本当の理由っぽい)。
 
後任のキーボード奏者はなかなか見つからなかったのだが、年末年始のアクアのドームツアーで追加ミュージシャン(B組)として参加した大学4年生女子・宮城海夏(みやぎ・みなつ)さんに打診したら、
 
「実はバンド活動とコンビニのバイトに夢中になりすぎて就職活動してなかったんです」
 
ということで、ぜひやらせてくれということだったので、採用することにした。ステージ名は“ナツ”である。
 
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「私時々名前を宮城海・夏(みやぎうみ・なつ)と誤読されるんですよね。それで結局中高生時代、友人からはナツと言われていました」
 
「それではまるでお相撲さんのようだ」
「実際に昔、宮城海ってお相撲さんいたらしいです(**)」
「へー!でもあんたの体格では男の子だったとしてもお相撲さんは無理だね」
「中学時代、陸上部で長距離走っていたんですが、あんた軽すぎてロードレースで風に飛ばされるから、せめて体重を50kgにしろと言われたんですけどね。でも、いくら食べても太れなくて」
「運動部は消費カロリーも凄いからね。でも元長距離選手というのは頼もしい」
 
(**)宮城海清人(1941初土俵 1953廃業。幕内に1949-1952の3年間在位。気仙沼出身)
 
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「ところで、ナツちゃんは宮城県出身ではないよね?」
「実は岩手県生まれの秋田県育ちなんです」
「岩手生まれ・秋田育ちの宮城さんか!」
「なんか似たようなこと言ってた人が1人」
 
などと言っていたら、白鳥リズムが「え?」と言って、こちらを見ていた。
 
白鳥リズムは北海道生まれ・新潟育ちで苗字は秋田である。
 

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ドラムスのレイはハワイ出身の日系人で国籍はアメリカだった。両親が彼女をアメリカ国籍にするため、出産の時だけハワイに里帰りしたらしい。
 
彼女は永住権は取っておらず(申請すれば取れるはずとユイは言っていた)、子供の頃は日本に長年住む両親の“家族滞在”資格で定住しており、学校卒業後は就労ビザを取って更新していた。今回の就労ビザの期限が12月だったのだが、仕事があまりにも忙しくて、ビザ更新の申請をうっかり忘れていた。ハッと気付いたらビザ期限の翌日だったという。期限当日までに申請していれば、審査が行われる間、最大2ヶ月間は特例で在留できるのだが、翌日ではどうにもならない。
 
§§ミュージックの顧問弁護士が法務省と交渉した結果、いったんアメリカに帰国してから再度申請すれば考慮するということになった。それで1月中に一度退去してほしいということ、それまでの期間は違法滞在とはみなさない、と言ってもらい、1月末までの暫定在留許可証を書いてくれた。
 
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しかしいったん帰国しなければならないし、いつ日本に戻れるかも不明なので、エレメントガードは続けられないことになり退任となった。再度就労ビザが降りて来日できた場合は、誰か他のアーティストのバックバンドメンバーとして考慮するとコスモス社長が言ったので、そういう方向で考えることにした。従って§§ミュージックとの雇用関係は持続する。
 
彼女はハワイの祖母の家(両親は現在台湾在住!)にいったん帰国する際、わざわざ見送りに来てくれたコスモスとアクアに
 
「私が辞めた理由はハワイで性転換手術受けるためとでも言っておいて下さい」
などと言って旅立ったので、コスモスもアクアもそれが冗談か本当か判断に悩んだ。
 
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「あの子、男の子になりたいんだっけ?」
とヤコに尋ねる。
「実は男の娘で本当の女の子になってパスポートの性別も女性に変更して来日したりして」
「え?男の子だったの?」
「温泉に一緒に入った時は女に見えたけどなあ」
「アクアだって温泉に入れると女の子に見えるよ」
「アクアちゃんは元々女の子なのでは?」
 

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後任については、度々アーティストのボディガードに駆り出されている川井唯が務めることになった。ステージ名は“ユイ”である。
 
彼女は桜野みちるの妹・羽藤玲香(ステージ名レイア)がドラムスを担当しているアマチュアバンド《赤羽ドラゴン》のギタリストである。ギターもかなり弾くのだが、実はキーボードもドラムスもうまい。赤羽ドラゴンではレイアというスーパードラマーがいるのでギターを弾いているものの、実は兼任している他のバンドではドラムスを叩いていた。
 
コスモス社長としては柔道でインターハイBEST4まで行き、現在は柔道の師範代をしていて、元女子プロレスラーでもある彼女がバックバンドにいることで、万一の場合の備えにもなると考えたふしもある。
 
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それでお願いすることにした。彼女も実はアメリカ国籍なのだが、日本の永住権を持っているので、どんな仕事をするのも自由である。
 
そういう訳でエレメントガードのメンバーは、ハルがナツに、レイがユイに交替したのである。
 

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千里は1月14日に長岡市でWリーグ・オールスターに出た後、1月21日から再開されたWリーグの試合に出場していた。レギュラーシーズンは2月7日に終わり、レッドインパルスは3位でプレイオフに進出する。
 
1月16日(月)の夜、正確には17日の午前1時頃、どこかに出かけていた《こうちゃん》が戻ってきたが、千里と目が合うと慌てて視線をそらした。ああ何か悪いことしてきたな(**)と思ったが、気にしないことにした。
 
(**)クレールの男の娘メイド・マキコをちょっと女の子に変えてきただけである!
 

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《こうちゃん》は千里に、和実の金銭感覚が崩壊していて、放置しておくと危険であると注意した。
 
「若葉も冬子も言っていたなあ」
と千里は呟くと、ある人物に電話をした。
 
「ハウンちゃん、お久〜。ハウンちゃん、確か会計の資格持ってたよね。ああ、アメリカの公認会計士(CPA)の資格持っているんだ?凄い!そんな凄い専門家に悪いんだけど、私の友人のカフェの経理というより財務を見てあげてもらえないかなあ。あ、いい?それでさ、ハウンちゃんのプライドを傷つけるようで申し訳無いんだけど、こういう作戦で」
 
と言って、千里は彼女が和実に採用してもらえるように、ある作戦を伝授したのだが、面白そうだからやっていいよと言ってくれた。
 
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「公認会計士の資格持っているなんて言ったら、給料高くしないといけないかと思われて不採用になりそうだもんね。でも私、日本の日商簿記2級も持っているから、それを取り敢えず履歴書に書いておくよ」
 
「ああ、それは面白い」
 
彼女は“金子由貴”の名前でクレールの会計係として雇われ、暴走気味の和実のお目付役の役割を果たしてくれることになった。
 
「ところでハウンちゃん、手術は終わっていたっけ?」
「眠っている間に勝手に手術されちゃってて、5年前から私は女の子」
「まぁ、乱暴ね!」
「朝起きてトイレに行って仰天した」
「なんか似た話を聞いたことあるなあ」
 
「やはりそういうのよくあるのかな?私は外見が女に見えないのがネックなんだけどねー。心は物心付いた頃から女の子だったから」
「それなら、女の子の分類で全く問題無い」
 
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電話を終えてから、千里は東北地方の地図を見ながら呟いた。
 
「あの子たちにも練習場所を作ってあげないといけないなあ」
 

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今年もアクアへのヴァレンタインのプレゼントが1月中旬くらいから送られてき始めた。ファンクラブの会員や入会していなくても熱心なファンの間には「できるだけ実際のチョコではなくギフトカードで」という“お願い”が浸透してきたこともあり、3年目の今年はほとんどのチョコがギフトカードになり、チョコ本体が贈られてきたのは東京に支店の無いチョコショップのものなど“チョコ”全体の3割程度に留まった。しかし洋服・文具などの類いは相変わらず多く、大田区のサテライトオフィスを使って行われた仕分け作業でも衣類の分類作業が最もたいへんだった。ただ衣類は“腐らない”のでチョコに比べたら随分神経を使わなくて済む。
 
無論衣類は全部女の子用である!アクアに男物の衣類を贈ろうとするファンはまず居ない。様々な高校の女子制服まで大量に送られて来ていた(高いのに!)。
 
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相変わらず、女性ホルモンの類い(プエラリア・ミリフィカやエステミックスを含む)を贈ってくるファンはいるが、これは全て廃棄させてもらった。
 
「プエラリア・ミリフィカはもらっておく?」
「要りません!」
「おっぱい大きくなるよ」
「おっぱい大きくするのは、まだいいです」
 
なお、アクアの所には毎月、松浦紗雪とマリから、プレマリンとプロベラが女性的な身体を発達させ維持するのに必要な分量、送られてきているのだが、アクアはむろん飲まない。廃棄するにはしのびないが倍の量あってもしかたないので、半分は西湖に分けてあげていた。
 
「アクアさんはこれ飲んでいるんですか?」
「飲まない、飲まない」
「じゃボクも飲まずに取っておきます」
「ボクが飲むなら君も飲むの?」
「考えてから決めます」
 
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2017年1月23日(月).
 
C学園高校の推薦入試分の合格発表があり、芸術コースの合格者もここで一緒に発表された。翌24日には龍虎の所にも合格通知が送られてきた。龍虎は24日の内に、母に頼んで入学手続きをしてもらった。母は合格通知の書類に
 
《長野龍虎・2001年8月20日生・性別女》
と印刷されているのは気にしないことにした!
 
実は、田中成美の所にも性別女と書かれた合格通知が届いたが、龍虎と同様放置して、そのまま入学手続きをした。武野昭徳の所にもやはり性別女と書かれた通知が届いたが、彼はびっくりして学校側に問い合わせると、学校側は謝り、すぐに性別を男に改めた合格通知を送ってくれた。実は合格通知の性別欄はデータベースの値を無視して固定で“女”と印刷されるプログラムになっていたらしい。即修正してくれたということ。学校側は龍虎と成美からは照会も無かったので、特に再発行などの対応は取らなかった!
 
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現在のシステム担当者が知らなかったことだが、元々生徒データベースには性別という項目が存在しなかったので、当時作られたプログラムでは性別は固定印刷になっていた。性別という項目が設けられたのは、実はスリファーズの牧元春奈が編入した時である。但し彼女はその時点で既に性転換手術が済んでいたので、戸籍上の性別に合わせて男と記録していただけで、何も特別な扱いはしていない。
 
2012.04.09(月) 春奈が公立高校に入学(女子制服での通学許可)
2012.04.22(日) 春奈16歳の誕生日
2012.08.15(水) 春奈の性転換手術(アメリカ)
2013.01.07(月) 春奈がC学園高校に転校
 
春奈は多忙のため、公立高校のままだと出席日数不足で留年確実の情勢だったが、C学園は進級に必要な出席日数が公立より少ないので2013年4月に無事2年生に進級できた。
 
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春奈の卒業生データベースでの性別は、昨年春に彼女の戸籍上の性別が女に変更された時点で、本人からの届け出により女子に変更されたので、その後、今回3人の男子が入学するまで、男子の在校生・卒業生は居ない状態になっていた。
 

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C学園高校の一般入試は2月10日(金)に行われ、翌日には合格発表が行われた。彩佳は(推薦も含めた)全体5位で校費全額免除、桐絵は全体9位で8割免除(実際には公的支援により負担金はほぼゼロ)になるとの通知があり、各々の親の承認を得て、2月13日(月)に入学手続きをした。ふたりとも寮には入れるということだった。彩佳は入学金も免除になるので書類のみの提出。桐絵は入学金は28万円の8割免除で56,000円の支払いが必要だが、お父さんも「そのくらいはいいよ」と言って出してくれた。
 
ちなみに龍虎は億単位の収入があるので一切の減免措置が無く、芸術コースは授業料も高いので、入学時に約150万円納付しており、毎月10万円ほどの支払いが必要である。むろん龍虎には全く負担感の無い金額である。
 
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2月11-12日の土日、アクアは新しいシングル『星の向こうに/ナースのパワー』の音源製作をおこなった。12月下旬から1月頭にかけて話し合った内容では青葉と和泉が中心になって制作するということだったのだが、今回は和泉はKARION自身のアルバム製作で忙しく、北陸からこの週末出てきた青葉と、長尾泰華の2人の主導で製作は行われた(主導しているのが2人とも元男の娘!)。
 
また今回はエレメントガードのメンバーが2人交替して新体制になって最初の音源製作であった。新参加のナツとユイは、この製作を実質指導する長尾泰華が妥協を許さないし、細かなミスもよく聴いているので、凄い!と思った。
 
さすがミリオン売る歌手の制作は厳しいんだなと認識し、2人ともかなり気合いが入ったようであった。
 
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「過去に参加した音源製作では10分でOK出ること多かったんですよ」
とユイは言っていた。
 
「まあ、プロのミュージシャンなら1発で合わせられるべき、と言う人もいるよね」
「そうそう、それ言われました」
 
「でも10分で合わせた音楽は、10分で合わせた価値しかないよ。それは素人の耳で合ったように聞こえるだけで、結局やっつけ仕事に過ぎないんだな。超プロが集まったベルリン・フィルとかは演奏会前に物凄い練習やってるよ」
と泰華は言っていた。
 
 
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娘たち、男と女の間には(8)

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