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その後ふたりはコンビニで着換えを買ってからホテルに戻り、またダブルベッドの上に並んで腰掛け、千里が時々貴司にボディタッチしたり、わざわざ目の前で「目を瞑ってててね」と言って着換えたりして、貴司を生殺しにしたまま朝近くまで会話は続いた。
律儀だなあ。こんな時こそ私を押し倒しちゃえばいいのに、そしたら確実に阿倍子さんとの婚約は破棄にできるのにと千里は思ったが、貴司は頑張って我慢しているようだった。
貴司は変な所で頑なである。
もっとも、千里は知らないことだが、実際には半年にわたって睾丸の無い身体を使っていたので男性ホルモンが少なく、性欲が弱いのもあった。
4時近くになって
「もう寝ようか」
と言った後、貴司はカーペットの上で千里のコートをかぶったままあっという間に深い眠りに落ちたようだった。千里はふっと微笑むと、その上に毛布を掛けてあげた。
なお、この時期は千里は通常の時間の流れの外で《出羽の山駆け》に参加していた。4時で寝ることにしたのも、その時間から出羽に行くためである。千里はその日、本当に無心・無表情で丸一日の山駆けをした。安寿さんが
「千里の表情が怖い」
と言うくらいだった。そしてこの日は美鳳が心配して
『今日はさすがに少し寝なさい』
と言い、結局湯殿山の温泉に入った後、6時間くらい寝ている。
なお“新婚旅行”の間の山駆けは免除してもらい、1月下旬〜2月上旬にその分を追加することになった。
12月23日、大阪Nホテルの一室で千里は5時頃起きだしてフロントに行き、先に精算の手続きを済ませてから部屋に戻り、貴司を起こして部屋を出た。フロントに鍵を返却して5:45の地下鉄に乗る。貴司は眠ってしまったので、取り敢えずいいことにして、貴司の身体は《りくちゃん》に勝手に動かしてもらい、新幹線に乗り継いだ。《こうちゃん》なら絶対悪いことするに決まっているので、こういう時は《りくちゃん》を使う。
新大阪駅での“みどりの券売機”での切符購入も貴司のカードを勝手に財布から取って使い、千里がした。貴司は結局広島駅に到着する直前に目が覚めた。
「全然ここまでの記憶が無い」
などと言っていた。
まあ眠っていたのだから仕方ない。
広島駅の待合室で千里が(実際には《たいちゃん》が)コンビニで買っておいたお弁当を一緒に食べてからジョギングでグリーンアリーナに向かう。
「本当にジョギングするのか」
「目が覚めるでしょ?」
「確かに」
でも貴司は23日は観戦中にも結構眠っていた!この日のお昼は牡蠣飯弁当を食べた。またふたりとも着換えが無かったので、しまむらに行って大量に確保した。
「でもこれ荷物にならないかな?」
「宅急便で送ればいいよ」
「あ、そうだね」
この日は18時前に試合が終わったので、ふたりで歩いて広島駅まで行き、貴司が新幹線口に行くのを見送った。
そして千里は予約していたホテルに行きチェックインした。なお、代金は既に決済済みであった。この代金は2月12日に貴司の口座から引き落とされるはずである。
そして・・・部屋に入ると千里は頑張って年賀状を書いた。
この時、佳穂さんが「いい筆ペンあるよ」と言って、1本くれたので、それで住所・宛名、そして裏の挨拶と文章を書いていった。
「私も手伝うよ」
と《いんちゃん》と《たいちゃん》も言って、ふたりも佳穂さんから筆ペンを1本ずつもらい、宛名と定型文までは“千里の筆跡”で書いてくれたので、千里は個別の文章だけ考えながら書いた。(でもこれがいちばん大変である)
でもこの筆ペン、凄く書きやすいけど、何か仕掛けがありそうだなあ、などと思いながら千里は文章を書いていく。
書くのは遠距離順にする。
貴司が持って来たUSBメモリーに入ったExcelのデータを自分のパソコンにコピーし、郵便番号でソートした上で、遠い所優先で書いていったたのだが、このあたりの操作は《げんちゃん》にしてもらった:千里にExcelが扱えるわけがない!そしていんちゃんたちに手伝ってもらったおかげで、この日は北海道・関東方面の分約50枚を書くことが出来た。
「私が現地に持って行って投函してくる」
と《てんちゃん》が言い、この年賀葉書を持ってまずは自力(*3)で東京に飛び、早朝都内の郵便局で関東方面分を投函。羽田空港に移動して朝一番の飛行機で新千歳に飛び、札幌市内の郵便局で北海道分を投函してくれた(帰りは飛行機で東京に戻って取り敢えず葛西で待機してもらった)。
千里はおかげで0時過ぎには寝ることができた。この日は山駆けも免除してもらったので、ホテルのふかふかのベッドの上で朝までぐっすり眠った。
(*3)こうちゃん、りくちゃん、せいちゃん、とうちゃん、などは龍なので、自力で空を飛び、すーちゃんも鳥なので普通に空を飛び、げんちゃんは亀だがガメラのように空を飛ぶ。びゃくちゃんは虎なので基本は走って移動だが、その速度は特急列車並みである(彼女は実はバイク魔でもあるが、そのことを千里は知らない)。
きーちゃん、いんちゃん、たいちゃんは天女なので、その手の移動方法を持たない。彼女たちはもっぱら交通機関を使うか、りくちゃん、せいちゃんなどに乗せてもらう。きーちゃんはフォードT型の時代から車を運転していたらしいし、それ以前は馬車を走らせたり、馬自体で草原を駆けたりしていたらしい。
くうちゃんは神様なのでどこにでもすぐ行ける、というより遍在している。
てんちゃんは元々航海の神の娘であり、母から貸与された陸海空を行く3種の乗り物を持っており、その乗り物で移動する。ただし現代では陸を行くと、うっかり自動車などにぶつかりやすいのでたいてい空路か海路である。今回は空路を使っているが、速度は自動車並みらしい(びゃくちゃんとどちらが速いのかについて千里は敢えて問わない)。大阪から東京まで4時間ほど掛かるが、自動操縦式なので、本人は寝ていてもよい!のが便利な所である。千里が今回彼女に頼んだのは本人があまり疲れないで済むからであった。
なお、この乗り物は定員2名らしいが、他の眷属はあまり同乗したがらない。理由について、千里は敢えて問わない。
さて、広島駅から姫路方面に向かっていた貴司は、岡山をすぎたあたりで唐突に女のような形に変化し、慌ててトイレに行きスポーツブラを着けた。
「えーん。またちんちん無くなっちゃった」
実は、《こうちゃん》としては貴司を女子選手ということにして市川ドラゴンズに入れたので、練習中は女になっていてもらわないと困るのである。また貴司は男性器が無い方が集中して練習できると《こうちゃん》は考えていた。
貴司がため息をつきながら市川ラボに行くと、監督が
「あ、細川さん、細川さん専用の宿泊部屋を作ったから」
と言った。
「え!?」
どうも今まで倉庫として使っていた1階の部屋を改造して宿泊できるようにしたようである。貴司がこれまで使っていた宿泊室の中にあった荷物は全部そちらに移動されていた。なお1階倉庫の中にあった荷物は地下の倉庫に移動したらしい。
部屋は6畳ほどの広さのフローリングの洋間に、トイレと洗面台・シャワー付きバスまで完備されている!
「浴槽はおとな2人入れる広さにしようと思ったけど、居室が狭くなるからこのサイズで妥協した」
などと言っている。
大人2人って何のために!? それに、いつの間に工事したんだ!?
(昨夜、貴司が年末年始ずっとここに通う話が決まった時点で、この手の造作事が好きな《げんちゃん》が《せいちゃん》と2人で1日で改造したものである)
更に本棚とテーブル(LAN端子付き)、電子レンジ・オーブントースター・全自動洗濯機乾燥機まで置かれていて全部自由に使ってと言われた。
「この部屋は体育館に入らなくても直接出入りできるから。これ鍵ね」
「ありがとうございます。あのぉ、家賃は?」
「不要不要。オーナーさんが、別に減るもんでもなし、タダでいいと言ってた」
「ありがとうございます!オーナーさんにもよろしくお伝え下さい」
「OKOK」
この結果、市川ラボはこの後、すっかり貴司の“住所”になってしまうことになる。
「しかしダブルサイズのベッドまで置いてあるな。こんなにしてもらっていいのかなあ」
などと貴司は呟いたが、ダブルベッドを置いたのはここで千里が貴司と一緒に寝られるようにという《こうちゃん》の深慮(?)である。
貴司は23日、1日千里と過ごせて物凄く精神的に充実していたので、練習にも熱が入り
「今日は凄いな」
と青池さんから言われるほどだった。
0時すぎに練習を終え、みんなは帰るが貴司は1階の“細川さんの部屋”に行く。シャワーを浴びて身体を拭くと、裸のままベッドに眠り込んで熟睡した。
翌24日の朝は5時に目が覚めたので近くのコンビニ(この体育館の近くにはローソンがあり、これまでも夜食・朝食の調達に使っていた)でパンと牛乳を買ってから播但線に乗り、姫路で新幹線に乗り継ぐ。車内でパンを食べ牛乳を飲んでから仮眠しておいた。広島に着いた時、そっとお股に手をやると、ちんちんが復活していたので、思わず笑みがこぼれる。寝ている間に戻ったようである。胸も無くなっていた。
改札を出たところに千里がいるので、軽くキスをする。一緒にマクドナルドで朝御飯を食べ、またジョギングで会場に入った。
クリスマスイブなのでお昼はパーラーでケーキを食べた。
この日は19時半近くまで試合があったが、最後の時間帯の試合は見ないことにして18時すぎに一緒に会場を出て広島駅まで歩く。そして貴司がキスして改札口に消え、千里はホテルに戻って、残りの年賀状を書いた。この日も《いんちゃん》と《たいちゃん》が手伝ってくれた。
この日書いたのはだいたい大阪近辺のものばかりだったので《りくちゃん》が「郵便局に持って行ってくる」と言い、夜中に大阪中央郵便局まで飛んで行って投函してくれた。
眷属たちの協力のおかげで、この年の貴司の年賀状は全部1月1日にきちんと届いた。
なお千里は自分自身の年賀状はとっくに出している。それで例によって千里と貴司の共通の知人の所には、同じ筆跡で書かれた年賀状が届くことになる。
12月25日は23日同様18時前に試合が終わったので、全部の試合を見てから広島駅に移動した。この日はクリスマス本番だが、昨日ケーキを食べたので、今日はチキンを食べた。
26日のお昼は“みっちゃん”でお好み焼きを食べた。この日は15時前に試合が全部終わってしまったので、
「少しホテルで休んでいく?」
と誘って(誘惑して)、ふたりで一緒にホテルに戻った。
「でもシングルで借りている部屋に2人で入っていいのかな?」
「それなら大丈夫」
と言って千里はフロントで友人が泊まるので1部屋シングルが空いてないかと尋ねた。
「違うフロアになりますが1室ご用意できます」
「ではそこで」
それで料金を払い、鍵をもらったが、もちろん一緒に千里の部屋に入る。
「疲れているでしょ?ここセミダブルのベッドだから心地良いよ。夕方まで仮眠しているといいよ」
と千里は言った。
「そう?千里は?」
「悪いけど、ちょっとしておかないといけない作業があるのよ」
「分かった」
「シャワー浴びてくるといいよ」
「そうする」
それで貴司がシャワーを浴びて、服を着て出てくると、千里は机に向かってパソコンを開き、本当になにか作業をしているようだった。
千里は貴司を振り返って言った。
「服なんか着ないで裸で寝た方が疲れは取れるよ」
「そうかな」
「私が脱がせてあげようか?」
「千里は脱がないの?」
「脱いでもいいけど、私はベッドに入らずに作業を続けるから、私が裸の方が辛い気がするよ」
「そんな気がする!」
それで貴司は自分で裸になってベッドに横になり、すぐに眠ってしまったが、おちんちんが立っているのを見て、千里はつい触ってしまった。
「寝ているのに立っているなんて、貴司ってホントに助平なんだなあ」
などと呟くが、別に助平でなくても男性の器官は生理的な反応で立つ。このあたりも千里は男性の身体の仕組みが分かっていない。
千里が触っている内に貴司が眠ったまま、まるで逝きそうな反応をするので千里はそこで刺激を中止する。
そういう訳で結局生殺しである。
少し我慢汁が出たのは、縮むのを待ってから舐めてあげた。
「わーい。久しぶりに舐めちゃったよ」
と千里は喜んでいる!?
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娘たちの振り返るといるよ(12)