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■娘たちの振り返るといるよ(6)

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「ごめーん。この後、また練習に行かないといけないんだよ」
と貴司は言った。
 
(実際、市川体育館にはいつでも行っていいし)
 
「大変ね」
「じゃ、また」
 
と言って貴司がもう帰りそうなので、阿倍子は恥を忍んで言った。
 
「あの、悪いんだけど」
「何?」
「実はお金が無くて。お母ちゃんの入院費も払えなくて」
 
本当はそれ以前に自分の食費が無い!
 
実は手持ちの現金が残り143円で、19円の豆腐と、17円のうどんと、どちらを買ってこようかと悩んでいた状態だった。
 
「それは大変だ。いくらくらい必要?」
「もしよかったら、毎月3万くらい貸してもらえると助かるんだけど。とは言っても、いつ返せるか分からないんだけど」
 
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「阿倍子さん、今、何で暮らしているんだっけ?」
 
「まだ体調が良くなくてバイトとかにも出られないの。夏まではお父ちゃんの会社から、傷病手当金で給料の7割をもらっていたんだけど、お父ちゃん亡くなってそれももらえなくなったし」
 
「じゃもしかして今無収入?」
 
阿倍子はコクリと頷く。
 
「だったら、取り敢えず毎月10万くらい阿倍子さんの口座に振り込むよ」
「ほんと?助かる」
「口座番号教えて」
「うん」
 
それで阿倍子が通帳を出してそれを見ながら口座番号をメモすると、貴司はそのメモを持ち「これ当座の資金に」と言って5万円渡してから帰っていった。
 

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阿倍子は「これで何とか年を越せる〜」と思った。
 
でも阿倍子はふと思った。
 
キスしてくれなかった・・・・・。
 
でも・・・そもそも、最後にキスしてもらったの、いつだっけ??
 
阿倍子はしばらく考えていた。
 
ひょっとすると6月に貴司と京都のホテルで一晩一緒に過ごして以来キスしてない!??
 
その日、阿倍子“が”貴司をほぼレイプするに近い状態でセックスをし、その結果妊娠してしまったので、それで彼を当時の婚約者(たぶん結納の時に姿を見せた女)から奪い取った。しかし、その子供は結局流産してしまったのである。
 
「赤ちゃん流れちゃったし、私最終的には捨てられるかも」
と阿倍子は弱気な気持ちで呟くように言った。
 
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2012年12月22日(土).
 
この日は土曜日なので会社は無い。市川ドラゴンズも練習はお休みのはずである。(行けば誰かいるだろうけど)
 
貴司は手帳を開いて、今日の日付の所にハートマーク♥が描かれていることを認識する。それはもう先月の頭くらいからずっと認識していた。正確にはここにハートマーク♥を書いた6月以来、常時認識し続けていた。
 
本来は今日は千里との結婚式をする予定だった。
 
なんでこんなことになってしまったんだろう・・・と貴司は物凄く落ち込んだ。
 
朝から何も食べずにボーっとした状態で過ごしたが、11時すぎ、居ても立ってもいられなくなり、マンションを出ると千里中央駅から北大阪急行(御堂筋線直行)に乗り、いつも通勤で降りる会社最寄りの心斎橋駅で、今日は降りずに乗り換え、某駅まで行く。そこから少し歩いてNホテルに入る。
 
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中に入るなりウェディングドレスを着た女性を見かけてギョッとする。
 
むろん千里ではない。今日ここで結婚式を挙げた女性のようである。ドレスのまま友人と立ち話をしているようだ。物凄く幸せそうな顔をしている。ああ、本当は千里も今日こんな顔をしていたはずだったと思うと、また罪悪感が貴司の心を苛んだ。
 
しばらく見とれていて、ふと振り返った。
 
そちらにはラウンジがありレストランになっている。そして貴司はそのラウンジ・レストランの中に信じがたい人の姿を見つけた。
 

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貴司がラウンジに入っていくと、千里がこちらに気付いて笑顔で手を振ってくれた。貴司は緊張した顔のまま、千里の向かい側の席に座った。
 
アジアカップの時に会って以来3ヶ月ぶりだ。ただ、あの時は数十mの距離があった。こんなに至近距離で会うのは千里に婚約破棄を告げた7月6日以来である。
 
「何かこちらに用事あったの?」
と貴司は千里に訊いた。
 
「まあ、お昼でも食べない?」
と千里は笑顔で言う。その笑顔を見ていて貴司は涙が出てきた。
 
「うん、それもいいかな」
と貴司が言うと、千里はボーイを呼んで
「こちらにもスペシャルランチを」
とオーダーした。そして千里は
 
「モエ・エ・シャンドンの何か美味しいのあります?」
とボーイに訊く。
 
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モエエ・・・?って何だっけ?
 
「少々お待ち下さい」
と言ってボーイはソムリエを呼んできた。それで貴司はそのモエエ何とかというのはお酒の名前か、と思い至る。
 
「今日は私たちの結婚記念日なの。モエ・エ・シャンドンのシャンパンで何かふさわしいものあるかしら?」
と千里が言うので貴司は心臓をグサッと刺されたような罪悪感を感じた。
 
「それではモエ・ロゼ・アンペリアルの2004年ものはいかがでしょうか?」
「うん。じゃ、それで」
 
ソムリエがシャンパングラスにそのシャンパンを注ぎ
 
「結婚記念日おめでとうございます」
と言ってくれる。
 
「私たちの幸せを祈って」
と言って千里がグラスを掲げるので、貴司も意を決してグラスを掲げた。それでグラスを合わせてから一口飲むと物凄く美味しい。
 
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「これ美味しい」
「うん。私も美味しいと思った」
と千里は笑顔で言った。
 

2人は食事をしながら、シャンパンを飲みながらおしゃべりをした。話題は主として貴司のチームの大阪リーグでの戦績である。
 
「このままだと優勝できるんじゃない?」
「AL電機と最終戦で当たるんだよ。それが全て」
「ああ、MM化学にとっては天敵だよね」
「まあ大阪実業団の全てのチームにとって天敵というか」
「私が見てなくてもちゃんと練習してる?」
「自分なりに頑張っているつもり」
と言ってから貴司は千里に尋ねた。
 
「千里今日は時間あるの?手合わせできないよね?」
「私は貴司に振られちゃったからね。新しい彼女と手合わせしたら?」
 
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また貴司は罪悪感が心を刺す。
 
「まあでもこの婚姻届を私、役場に提出しちゃおうかなあ。そしたら貴司と手合わせしてもいいな」
と言ってハンドバッグから婚姻届けを取り出した。
 
ギクッとする。
 
結納式の時にふたりで書いて、双方の親の署名ももらった婚姻届けである。むろん千里が提出すれば、それはそのまま受け付けられるであろう。
 
「あらためて済まない。その提出はしないで欲しい」
と貴司は言った。
 
「まあいいや。この婚姻届けはこの後も度々貴司を責めるためにとっておこう」
と言って千里はそれを自分のバッグにしまった。
 
やはり俺を責めているのか!
 

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「だいぶここ長居しちゃったね。千里、僕のマンションにでも来て少しゆっくり話さない?」
 
貴司は何の下心も無しにそう言った。
 
「でもマンションには阿倍子さんがいるんでしょ?」
「彼女とは同居していない。結婚式が延びたから、同居開始もそれまで延びた」
「・・・・セックスはしてるんだよね?」
「してない」
「なんで?」
 
どう説明しよう!?
 
「いや、実は立たないんだ」
「ああ。とうとう立たなくなったのね。女をたくさん泣かせてきた天罰ね」
「うっ・・・」
 
また心臓に千里の言葉が突き刺さる。
 
「もう役に立たないおちんちんは取っちゃって、女の子になる?」
 
むろん千里はジョークで言っているのだろうが、貴司は今本当に「取られてしまっている」状態だ!
 
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「えーっと・・・」
 
貴司の反応がいつもの「やめて」とか「勘弁して」とかではなく、戸惑っているようなので、千里は貴司の気持ちを図りかねた。まさか本当に女の子になりたいとか?
 
貴司はこの時唐突に尿意をもよおした。
 
「ちょっとごめん。トイレ行ってくる」
「どうぞ」
 

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それで貴司はラウンジを出て1階フロント近くのトイレに入る。一瞬迷ったものの、ちゃんと男子トイレに入り、個室がうまい具合に空いていたので、そこに入る。
 
なんで男子トイレの個室って1つしか無いんだろう?困るよ、などと思っている。貴司は7月6日以来、個室でしかおしっこをすることができない身体になっている。
 
それでズボンを下げて、トランクスを下げて便器に座り、おしっこを出した時、何か物凄く妙な感覚だった。
 
え!?
 
と思って見ると、ちんちんがある!
 
嘘!?
 
なんでちんちんがあるの〜〜!?
 
ハッとして胸を触る。
 
胸が平らになってる!
 
嬉しい!!!!
 
男の身体に戻れた。
 
貴司は思わず涙が出てきた。
 
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個室を出て手を洗ってから、貴司は涙の跡を千里に見られないように、ウエットティッシュで顔を拭いた。そしてラウンジの席に戻る。
 
そしてつい貴司は千里に言ってしまった。
 
「ねえ、千里、僕とセックスしてよ」
 
すると千里は吹き出した。
 
そして少し考えるようにして言った。
 
「私大阪に来て、貴司を何とか誘い出して、そのままホテルに連れ込んで、再略奪しようと思っていたのに」
 
貴司はドキッとする。
 
「でもしない」
と千里は言った。
 
「どうして?」
「貴司が阿倍子さんときっちり別れたら、セックスしてあげる」
 
「悪いけど結婚は阿倍子とする。でも千里とセックスしたい」
と貴司が言うと
「なんかとんでもないこと言われている気がするけど」
と千里は言った。
 
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確かにとんでもないこと言っているかも知れないと貴司自身も思った。しかし千里は厳しい顔で貴司に通告した。
 
「私は貴司の妻ではあるけど、貴司の愛人でもないし、私は売春婦でもないから、そういう話はお断り。私とセックスしたいなら、阿倍子さんと別れて私に再度プロポーズすることね」
 
「だよなあ、それは分かっているんだけど」
と貴司は肩を落として言った。でも千里が「自分は貴司の妻だ」と断言したことが貴司はとても嬉しかった。千里ってなんて健気なんだと感動する。
 

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結局その後ふたりは、オープンサンド、パンケーキ、サラダ、チキンなどを適宜追加注文しながら2時間くらいバスケの話題を話した。会話はとても盛り上がり、千里にしても貴司にしても、とても楽しい気分になった。
 
それでさすがにそろそろ出ようか、と言っていた時、思わぬ人たちの姿がある。
 
「吉子ちゃん!」
「藤元さん!」
 
それはチームの主将の藤元さんと、奥さんであり千里の従姉でもある吉子であった。
 
「これは面白い遭遇だ」
と藤元さんが笑顔で言っている。
 
「デートしてたの?」
「今別れようとしていた所で」
「だったら、お茶だけでも追加しない?4人で話そうよ」
 

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藤元さんたちは買物に出てきたらしいが、荷物は車に積んでいるらしい。冬なので劣化の心配をする必要が無い。それで結局藤元さんたちはパスタを頼み、千里と貴司はコーヒーを頼んで、4人で1時間ほど話し込んだ。
 
親戚の噂話なども出たのだが、貴司はやはり自分と千里の結婚問題がこの2人には知られていないことを再確認することとなった。
 
「でもそちらいつ結婚するの?」
と藤元さんから尋ねられると、千里は例の婚姻届けを取り出す。
 
「婚姻届けは書いたんですよ。後は日付を記入して提出するだけ」
「おお!ちゃんと親の署名ももらってるじゃん。まだいつ提出するか決めてないの?」
 
「貴司が妊娠しているみたいだから、その赤ちゃんが生まれてからかな」
などと千里が言うので
 
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「貴司君の方が妊娠してるの!?」
と思わず吉子も藤元さんも言った。
 
「それ赤ちゃん産まれる前に籍を入れなくていいわけ?」
「私が認知したから大丈夫」
「千里ちゃんの方が認知したんだ!?」
 

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かなり盛り上がったあとで藤元は言った。
 
「それでさ、まだこれ他の奴には言わないでいて欲しいんだけど」
「はい?」
「俺、今度の3月でこのチームやめるから」
「え?そうなんですか?」
 
「bjの千葉ロケッツに移籍する」
「bjに行っちゃうんですか?」
「千葉ロケッツは来シーズンから新リーグのNBLに合流するんだよ」
「おぉ!!」
「だからトップリーグになる」
 
長らく対立してきたbjとJBLが、麻生会長(元総理)らの尽力もあり、やっと統合されることになり、来年から両者を統合したNBLという新しいリーグが発足することになっている。それで千葉ロケッツは現在はbjに所属しているものの、来シーズンからは新しい統合リーグのチームになるのである。
 
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そこに藤元さんは行くらしい。
 
「藤元さんならトップリーグでできますよ」
と貴司が言うと
 
「細川もトップリーグで行ける」
と藤元は言った。
 
「来期は体制が大きく変わるチームが多いと思う。だからチャンスだよ。細川も幾つかチーム巡りしてみなよ。日本代表なんだし、絶対取ってくれる所あるぞ」
 
「それ私も賛成」
と千里が言った。
 
「ほら奥さんもそう言っている」
「少しくらい給料減っても、私が何とかするからさ」
「うーん・・・」
 
「あまりゆっくりしていると、どこも陣容が固まってしまうぞ。年内にも動き出した方がいい」
 
「少し考えてみます」
と貴司は言った。
 

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