広告:兄が妹で妹が兄で。(3)-KCx-ARIA-車谷-晴子
[携帯Top] [文字サイズ]

■娘たちの振り返るといるよ(8)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

12月23日(日祝).
 
この日龍虎が通うバレエ教室では毎年恒例の発表会が行われた。
 
今年の演目はチャイコフスキーの『くるみ割り人形』で、龍虎が踊るのは《スペインの踊り》の男性側である。龍虎はこの日、母と一緒に市内の文化ホールにやってきた。ここには太陽・月という2つのホールがあるが、その内の太陽ホールで今日の発表会は行われる。9月にはピアノ教室の発表会が行われた場所である。
 
『くるみ割り人形』の第2幕舞踏会で様々な踊りが披露されるが、その順序は“本来は”こんな感じである。
 
情景 クララと王子
→スペインの踊り→アラビアの踊り→中国の踊り→ロシアの踊り→フランスの踊り→ジゴーニュおばさんと道化たち→花のワルツ
→金平糖の精と王子(パドドゥ→王子のバリエーション→金平糖の精のバリエーション→コーダ)
→終幕のワルツ
 
↓ ↑ Bottom Top

しかしこの公演では第1幕の曲も加えてこのようにアレンジしている。
 
行進曲(全員)
→雪片のワルツ(クララ・王子+女子全員)
→ロシアの踊り:トレパック(男子5人)
→アラビアの踊り:コーヒー(男男女×3組)
→中国の踊り:お茶(男女ペア+バック6人)
→フランスの踊り:葦笛(男女ペア×2組)
→スペインの踊り:チョコレート(男女ペア×2組)
→金平糖の精の踊り(金平糖)
→花のワルツ(全員)
 
曲の並びは実は『くるみ割り人形組曲』の方に近い。但し組曲にはスペインの踊りが入っていない!
 
なおクララと金平糖は兼任で、中学3年生の雪乃さんが演じる。彼女にとっては、この教室最後の発表会である。
 
↓ ↑ Bottom Top

行進曲の時に“くるみ割り人形”の扮装をする中学3年の渡辺君はかぶり物を取って王子として雪片のワルツを踊る。女子は全員ロマンティックチュチュで行進曲→雪片のワルツを踊る。
 
(ロマンティックチュチュは下半身が普通のスカートのようになっている衣裳。これに対してクラシックチュチュは裾が水平になっている衣裳で『くるみ割り人形』では金平糖の精などが着る)
 
その後、男子5人(小4〜中3)によるトレパックがあるので、アラビアに出る女子はその間にロマンティックチュチュからアラビアの衣裳に着替える。雪乃さんは雪片のワルツの後はしばらくお休みでクライマックスの金平糖で素敵な踊りを披露。そして最後に全員で花のワルツである。
 
↓ ↑ Bottom Top

龍虎の場合は行進曲に出た後、しばらくお休みで最後から3番目にスペインで踊ってから、金平糖を見学し、花のワルツに参加である。龍虎は一応小5男子なのでトレパックにも出る?とも言われたのだが、背が低くて
 
「小学2年の“女の子”が無理矢理参加しているように見える」というのでキャンセルされた。
 

↓ ↑ Bottom Top

さて・・・・。
 
この手のイベントで突発的な事態が発生するのは、いつものことである。
 
「日出美ちゃんがお休み!?」
「39度の熱が出て、とても動けないらしくて」
「あらぁ・・・」
「インフルエンザかもということで」
 
「アラビアの踊りどうしましょう?」
「うーん」
 
と言って先生が悩んでいる。その時、龍虎は何気なく先生を見ていた。先生が龍虎に気付く。
 
「ねぇ、龍ちゃん、アラビアを踊ってくれたりしないよね?」
「え?でも衣裳は・・・?」
 
「誰か代役さんが使うだろうからといって、日出美ちゃんのお姉さんが、今こちらに持って来てくれるらしい」
 
「それ女の子の衣裳ですよね?」
と龍虎が言うと
 
「龍が女の子の衣裳着るのは全く問題無い」
と鈴菜が言う。彼女は龍虎と同じ5年生で、アラビアの後方左で踊る。
 
↓ ↑ Bottom Top

「龍ちゃん、おちんちんを病気で取っちゃったんでしょ?だから女子の衣裳も着れるんだよね?」
とアラビアの前方で踊る蓮花ちゃんが言っている。
 
「どこからおちんちんを取ったなんて話が・・・」
 
「だってサポーターとか使ってないのに、お股に盛り上がりとか無いし」
「龍ちゃんはお股は女の子とほとんど同じ形だから、サポーターを付けると止めるものがなくてサポーターが動き回ると聞いた」
 
龍虎は困ったような顔をしているが、母は笑っている。
 
「龍、あんた踊れるんなら、代わってあげなよ。先生、出番は連続してはいないんですか?」
 
「そうなんです。アラビアを踊ってから、2つ挟んでからスペインなので、その間に本来のフラメンコの衣裳に着替えられるんですよ」
 
↓ ↑ Bottom Top

「じゃ、やりましょう。いいよね、龍?」
「うん。だったらやります」
 
「それに日出美ちゃん、背が小さいし、あの子の衣裳が入る子は限られる気もする」
「うん。龍ちゃんなら入る」
 
と他の子たちが言っていた。
 
それで龍虎は急遽、日出美ちゃんのピンチヒッターでアラビアの踊りも踊ることになったのである。
 

↓ ↑ Bottom Top

本番開始が迫る中、龍虎が取り敢えず普通の練習着のレオタードのままアラビアの右後ろの女子役を演じた。
 
「凄い。ノーミスだった」
 
「夏休みに蓮花ちゃんが旅行中に練習した時は左側だったから、それと対称になるように踊った」
と龍虎は言っている。
 
「それが一発でできる所が凄い」
と蓮花が言っている。
 
そんなことをしている内に日出美ちゃんのお姉さんがやってきて日出美ちゃんの衣裳を先生に預けた。お姉さんも以前この教室にいたのだが、もう卒業している。
 
「ちょっと着てみて」
「はい」
 
それで龍虎が着てみると少し大きいくらいである。
 
「大きいのは問題無いね」
「龍ちゃん、小さいからなあ」
 

↓ ↑ Bottom Top

「じゃ龍ちゃんは行進曲・雪片のワルツの後、トレパックの間にアラビアの衣裳に着替えて、アラビアが終わったらフラミンゴに着換えて、フラミンゴを踊った後は、そのままの衣裳で花のワルツに参加、で」
 
と先生は言った。
 
「待って下さい。ボク、雪片のワルツにも出るんですか?」
「あ、ごめん。それは女子だけだった」
と言ってから先生は言った。
 
「ロマンティックチュチュ着て雪片も踊る?」
「雪片踊れるとは思うけど、チュチュは勘弁して下さい」
 
「ん?」
 
「踊れるんだっけ?」
 
龍虎はしまったぁ!と思った。
 
「日出美ちゃんは雪の精4で、4・5・6が並んで踊るから、先頭に立つ4を省略すると結構雪の精5の人が戸惑うのよね」
 
↓ ↑ Bottom Top

「龍ちゃんは見たことのある役なら自分で踊れるんですよ」
と蓮花は言っている。
 
「ちょっとそのアラビアの衣裳のままでいいから雪の精4を踊ってみてよ」
 
それで他の女子も入ってやってみると、龍虎は完璧にこなした。
 
「すごーい!」
「初めてでこんなに踊れるなんて」
「だって、4・5・6は、1・2・3と対称な動きだから、1の一恵さんの動きを感じとって動けばできますよ」
「一恵ちゃんが見えない位置もあるのに」
「見えなくても感じられますよ」
「すごーい」
 
(龍虎は千里ほどではないが、本来視界の外にある人の動きをけっこう把握する力がある)
 
「龍は他の人の練習を見学する時に、いつも脳内でシミュレーションしながら見ているから、できるのよね」
と長く龍虎を見てきている蓮花は言っている。
 
↓ ↑ Bottom Top

「じゃ龍ちゃん、雪片もお願い。チュチュはたぶん日出美ちゃんのが入るんじゃないかな」
 
「あはは・・・結局チュチュを着るのか」
「あんたいつもスカートとかドレスとか穿いてるし、今更でしょ?」
と母から言われてしまった。
 

↓ ↑ Bottom Top

11時頃にお昼を軽く取って休憩してから発表会は13時に始まる。
 
龍虎は休憩時間の間に、母の車の中で練習用の下着を本番用に交換し、ついでにそのままロマンティックチュチュを着てしまった。普通の靴を履いたままホールに戻り(龍虎は人前にスカート姿を見せるのは平気である)、控室前の廊下でバレエシューズに履き替える。男子の生徒の中には黒いバレエシューズを使う子もいるが、龍虎はいつも白を使っているので、他の女子たちの中に入っても違和感が無い。
 
全員整列し、スタンバイする。やがて行進曲の音楽が流れ始めるので順番に2人ずつ入場していき、行進曲を踊る。バレエ教室では女子が圧倒的に多いので先頭の数組は男女ペアになるが、その後ろは女子同士のペアである。この行進曲の段階ではクララは端の方に立っている。くるみ割り人形はかぶり物をしたまま、マネキンのように不動の姿勢で立っている。
 
↓ ↑ Bottom Top

やがてクララとくるみ割り人形を残して全員退場。くるみ割り人形はかぶり物を取って王子となり、最初は王子だけが中央で踊る中、雪の精役の女子たちが3〜4人単位で走り回る。ここで龍虎は4・5・6番の子3人の先頭に立って走り回った。
 
トレパックに出る男子たちが出てきて舞踏会が始まる。彼らが出ている間に龍虎は蓮花・鈴菜と一緒に“女子控室”に入ってロマンティックチュチュを脱ぎ、アラビアの踊りの衣裳を着けた。
 

↓ ↑ Bottom Top

「行くよ」
とリーダー格の蓮花が言い、すぐ舞台袖に向かう。アラビアの衣裳を着けた6人の男子たちも“男子控室”から出てくる。9人でコサックダンスのようなトレパックを見ている。
 
「そろそろ終わる」
と先生が言う。
 
トレパックが終わる。そして9人で出て行こうとした時・・・
 
蓮花が躓いて倒れてしまった。
 
「蓮花ちゃん!?」
 
彼女は足首を手で押さえている。
 
「どうしたの?」
「足をくじいたみたい」
「大丈夫?」
 
トレパックの男の子たちが退場したのにアラビアの踊り手たちが出て来ないので音楽担当の先生が慌ててCDの再生を停めている。
 
「蓮花ちゃん、踊りどうしよう?」
 
「踊れるとは思うけど多分充分な演技ができないです。鈴菜ちゃん、悪いけど前面で踊ってくれない?たしか鈴奈ちゃんも前面の踊り練習してたよね?」
と蓮花は言った。
 
↓ ↑ Bottom Top

「え〜〜?夏休みに蓮花さんが旅行で休んでいた時に少しやったけど、その後やってないから自信無い」
と鈴菜は言っている。
 
「だったら・・・」
と前面で踊る男の子が言う。
 
「田代君が前面で踊るしかない」
「え〜〜〜!?」
と言ったのはむろん龍虎ひとりであり、他の子はどうもそれしかないと思っている様子である。
 
アラビアの子たちがなかなか出て来ないので客席はざわめいている。
 
「仕方ない。今日は龍ちゃん、前面で踊って。前面の踊りはできるよね?」
と先生まで言った。
 
「はい」
と龍虎は答える。
 
「だったら、前が龍ちゃん、左が鈴菜ちゃん、右が蓮花ちゃん」
「よし、それで行こう」
 

↓ ↑ Bottom Top

それでアラビアの9人が出て行く。CDの再生が再開される。
 
龍虎は予定していた右後ろではなく前面に立ち、2人の男子に支えられるようにして、なまめかしい感じの“コーヒー”を踊った。その男子たちにリフトされたまま踊る所も、美しく踊った。
 
3分半ほどのダンスが終わり、退場する。代わって中国の踊りの子たちが入ってくる。
 
龍虎は鈴菜と一緒に蓮花を支えるようにして“女子控室”に戻る。
 
「湿布しておこう」
と言って先生が薬箱から湿布薬を取り出してきて蓮花の足首の所に貼る。
 
「龍ちゃん、すぐフラメンコに着換えて」
「はい」
 
それで龍虎は急いでアラビアの衣裳を脱いで、スペインの踊りの男の子の方の衣裳を着た。少しざわめきがある。
 
↓ ↑ Bottom Top

「龍ちゃん、なんで男の子の衣裳を着るんだっけ?」
「女の子は、妃呂ちゃんと、唯花ちゃんですー」
と龍虎は答える。
 
「あ、男子の頭数が足りないから、男役だったのね?」
「でも龍ちゃんは背が低いからもっと背の高い子が男役をすれば良かったのに」
 
「今から私の衣裳と交換する?」
と身長140cmでスペインの女の子の方の衣裳を着けている妃呂が言う。
 
「いや、時間がないから、そのままの配役で」
と先生が言い、それで妃呂・唯花といっしょに出て行く。“男子控室”から、もうひとりの男役の井村君が出てきた。
 
それで龍虎(125cm)と唯花(135cm)、井村君(160cm)と妃呂(140cm)のペアで舞台に出ていく。軽快な音楽に乗せて、スペインの踊り(チョコレート)を踊った。
 
↓ ↑ Bottom Top


この後の出番は花のワルツだが、それには今着けている衣裳のまま出ることになっているので、もう着換える必要は無い。雪乃さんが美しく金平糖を踊っているのを見ながら、舞台袖でみんなと一緒に待っている。
 
やがて雪乃さんの踊りが美しく終了し、音楽は『花のワルツ』に変わる。全員で出て行き、ワルツを踊り始めた。龍虎はスペインの踊りをペアで踊った唯花ちゃんとそのままペアを組んでワルツを踊った。
 

↓ ↑ Bottom Top

演奏が全て終了してから、唯花や鈴菜たちと一緒に“女子控室”に戻った。
 
「何か色々トラブルはあったけど、何とかなったね〜」
「中国の踊りで燈籠が倒れたりとか、トレパックで佐藤君が倒れそうになってそのままバク転しちゃったとか」
「あれはかえって受けてた」
 
「蓮花ちゃんと龍虎ちゃん、なんで逆になったの?」
という質問がある。
 
「あれ私が舞台袖で出る直前に転んで足をひねっちゃって」
「あらら」
「それで充分な演技ができない感じだったから、代わってもらったのよ」
「確かに前面のポットは動きが激しいもんなあ」
「でも龍ちゃんがいて良かった」
「蓮花ちゃん、足大丈夫?」
「湿布を貼ってもらったから、もう大丈夫」
 
↓ ↑ Bottom Top

「でも龍ちゃんのコーヒーって凄いセクシーだったね」
「あ、思った思った。あれは中学生女子の演技だよ」
「まああまりセクシーすぎると、バレエ教室の発表会としては問題があるかもね」
「龍ちゃんって、本来は身長無いのに、舞台の上ではけっこう大きく見えるのよね」
 
「そうそう。普通にしてると小学2年生くらいの女の子に見えるのに、ステージの上では中学生女子に見える」
などと言われている。
 
それで龍虎が
「あのぉ、ボク男の子ですけど」
と言うと
 
みんな顔を見合わせている。
 
「なぜ男の子が“女子控室”に居る?」
「え?ここ女子控室だっけ?」
「私たちが男に見える?」
「ごめーん。男子控室ってどこだったっけ?」
「いや、龍ちゃんは女子控室に居ていい」
 
↓ ↑ Bottom Top

「なんか小さい頃の病気で、ちんちん取っちゃったんでしょ?」
「ちんちん無いなら、女の子と同じでいいよね?」
「だいたい、龍ちゃん、女子トイレ使っていた」
「だって女の子の衣裳着けて男子トイレに入れないもん」
 
「いや、ふだんから龍ちゃんは女子トイレでよく見かける」
 
龍虎は多くの場合、男子トイレに入ろうとしても「君こっち違う」と言われて追い出されるのである。
 
「そもそも龍ちゃん、立っておしっこはできないんでしょ?」
「確かにできないけど」
 
龍虎はちんちんが短すぎるので、ズボンの前開きから出しておしっこすることができない。もっとも、そもそも龍虎は女子用のズボンを穿いていることが多いので、ちんちんの位置が合わず、もし長さが足りたとしてもそこから出すこと自体ができない。
 
↓ ↑ Bottom Top

(女子用ズボンのファスナーは単なる着脱用で短いので、ペニスの位置まで降りない)
 
「じゃ、やはり女子控室にいて全く問題が無い」
とみんな言っている。
 
そういう訳で、龍虎はこの発表会で、女子用のロマンティックチュチュで行進曲と雪片のワルツを踊り、アラビアの踊りでも女子用の衣裳を着て踊り、最後だけスペインの踊りの男子用の衣裳でスペインと花のワルツを踊ったのであった。
 
 
↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 
娘たちの振り返るといるよ(8)

広告:オトコの娘のための変身ガイド―カワイイは女の子だけのものじゃない