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■娘たちの振り返るといるよ(3)

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10月8日(月).
 
貴司は何かに動かされるような気持ちで会社に休みたいという連絡を入れ、朝から新幹線に乗り込んだ。東京駅から総武線に乗り千葉に移動。千里が住んでいるアパートに行ってみた。
 
新大阪6:33-9:03東京9:26-10:05千葉
 
ドキドキしながら呼び鈴を鳴らすと「はーい、今開けるね」という声が聞こえるが、千里ではない。そういえば千里は女性の友人と一緒に住んでいるんだった。そのルームメイトだろうか? 貴司は千里のルームメイトと会った時のことを何も想定していなかったので焦った。
 
ドアを開けたのは千里と同年代か少し上くらいの感じの女性である。妙に派手な化粧をしている。そして貴司はこの女性を過去に1度見たことがあるような気がした。やはりルームメイトさんかな?
 
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「あ、えっと・・・どなたでしたっけ?」
と彼女は言った。
 
「すみません。私、村山千里の友人なのですが、村山は今日は・・・」
と貴司はややしどろもどろに答える。
 
「あぁ、大学院を受けることになったというので、ここ数日、大学の図書館に行って勉強しているみたいですよ。携帯通じませんでした?」
 
「あ、いえ。このあたりを通りかかったので、急に立ち寄っただけですので、すみません」
 
「ああ、なるほど。じゃメールとか送ってみるといいですよ」
「そうします。どうもすみませんでした」
 
と言ってから貴司はふと訊いてみた。
 
「そちらは村山さんのルームメイトさんでしたっけ?」
「いえ。大学のクラスメイトです。ここはクラスメイトの溜まり場になっているんで」
「そういえば、そんな話を聞いたような」
 
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「千里のルームメイトの桃香も図書館に行って勉強してるんですよ。ふたりとも大学院受けることになって」
 
「へー。でも大学院の入試っていつでしたっけ?」
「既に終わっていたんですけどね」
「あら」
 
「でも教官に言ったら、小論文と面接で入れてもらえることになったみたいです。二次募集という名目で」
「それは良かった」
 
「桃香は何にも就職活動してなかった!とか言って、取り敢えず大学院に進学して2年後に就職を狙うとかで」
「勉強に夢中になってて忘れていたのかな?」
「あの子の場合はバイトが忙しくて忘れていたかも」
「ああ・・・」
「千里は大学出たら彼氏と結婚するからというので卒業した後は就職もしないつもりだったらしいんですけどね」
 
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貴司はドキっとした。
 
「その彼氏に振られちゃったらしくて。それで人生プランが崩壊して、先のことを考え直すのに2年間大学院に行くと言ってました」
「そうですか・・・」
 
罪悪感が貴司の心を苛んだ。
 
「話聞いたら酷いんですよね。結納まで交わしていたのに、いきなり別の女を妊娠させてそちらと結婚するからといって婚約破棄されたらしいんですよ」
「あぁ・・・」
 
「そんな悪い男は死刑にすべきですよ」
「そ、そうですね」
「千里ともし会ったら、少し慰めてやって下さい」
「はい。とにかくメールしてみます」
「ええ」
 
それで貴司は彼女に御礼を言って、とぼとぼとアパートの階段を降りていった。
 

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「誰?」
 
と部屋の中から朱音が美緒に声を掛けた。
 
「何か声は聞いた記憶があったんだけど」
 
「千里を振った彼氏」
「え〜〜〜!?」
「以前1度見てたからね」
 
その時はこのアパートの1室で千里と貴司が、1室で美緒と清紀が、隣同士の部屋で一夜を過ごしたのである。あれはお互いの音が丸聞こえで楽しかったなあ、などと美緒は思い起こす。
 
「そうか。それで私も聞いた記憶があったんだ」
と朱音が言っている。朱音も千里と貴司がこのアパートに泊まった日に居合わせたことがある。
 
「だからあれこれ言ってやったら、かなりショック受けてる様子だった」
「ああ、それでわざと良心が痛むようなこと言ったんだ?」
 
「私なら、あんな男のちんちん切り落としちゃうけどなあ」
と美緒は言っている。
 
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「美緒、清紀君のちんちん切り落としてあげたら?きっと涙流して喜ぶよ」
「そんな親切なことはしてやらない」
 
「でもあんたたち結婚するんでしょ?」
「まさか。だってまだ一度もセックスしてないのに」
「清紀君は美緒にしてもらったと言ってなかった?」
「ああ。私があいつに入れただけ。私は入れてもらってない。私は自分に入れてくれない男には興味無い」
 

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「そんなこと言いながら、あんたたち既に2年くらい続いている気がする」
「ただの友だちだよ〜」
 
「同棲している男女の友だちなんて聞いたこと無い」
「ただの同居だよ〜。私たちお互い恋愛対象外だし」
「千里みたいなこと言ってる」
 
千里と桃香は2年生の終わり頃からこのアパートで一緒に暮らしているが、桃香が2人の関係を恋人だと友人たちに言いふらしているのに対して、千里は2人は友だちであると主張している。
 
「だって桃香はレスビアンで私は男だから恋愛対象外。私はストレートだから恋愛対象は男の人。だから桃香は恋愛対象外」
などと千里は言うが、前半で自分を男だと言い、後半では女だと言っているのは矛盾だと、玲奈などには指摘される。
 
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そして美緒と清紀もちょうど千里たちと同じ頃から共同生活している。清紀はゲイなので男の子にしか興味は無い。美緒はセックスしてくれない男の子には興味が無い。それで美緒も清紀も各々の恋人(どちらも男!)を連れ込んで勝手にセックスしている。
 
美緒としては本当に「女友だち」と共同生活している感覚に近いのだが、清紀が自分のことをどう思っているのかは、美緒としても実はよく分からない。
 
取り敢えずお互いに相手がいない時は一緒のお布団で(裸になって)寝たりはするし相互自慰とかシックスナインくらいはするけどね〜などと美緒は考えていた。
 
(美緒にとってはシックスナイン程度は性行為の内に入らないらしい)
 
でももし清紀が私に結婚してくれなんて言ったら・・・・
 
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やはり私がタキシードであいつがウェディングドレスかな?
 
などと考えると少し楽しくなった。
 

アパートを出た貴司は、千葉駅まで戻り、Pasmoで改札を通ってから総武線快速(久里浜行き)に乗り、ボーっとしていたが、船橋まで来た所でハッとして電車から降りた。
 
(総武線だけならこの当時もICOCAで乗れたが、貴司は関東出張も多いのでPasmoも持っていた)
 
「えーっと」
と考えてから、東武線に乗り換えることにする。それで、流山おおたかの森駅でつくばエクスプレスに乗り換え、守谷駅で関鉄常総線に乗り継いだ。何とも複雑な乗り継ぎだが、常総線沿線への連絡はどうやっても面倒なのである。
 
千葉11:41-11:55船橋12:07-12:48流山おおたかの森12:55-13:02守谷13:23-13:51石下
 
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石下駅で降りてから、偶然客を乗せて駅まで来たタクシーを掴まえ、“常総ラボ”まで行く。
 
誰かいるかな?
 
と思って入って行くと、白鳥さんがひとりで練習していた。
 
「こんにちは」
「こんにちは〜、細川さん」
と彼女は笑顔でこちらに挨拶してくれた。
 
「今日は白鳥さんひとりですか?」
「そうなんですよ。だからもう帰ろうかと思っていたんだけど、細川さん、よかったら練習相手になってもらえません?」
 
「こちらこそよろしく」
 

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それで貴司は彼女と1時間くらいマッチングの練習をした。
 
むろん勝負としては貴司が圧勝するのだが、貴司はMM化学のチームメイトとの練習では得られないレベルを感じていた。MM化学のメンバーで貴司が多少とも考えて突破しなければならないのはキャプテンの藤元さんくらいで、他のメンバーは貴司が何も考えていなくても反射神経だけで突破できる。しかし、白鳥さんはかなり頭を働かせないと突破できない。
 
「さすが男子日本代表!凄く気持ちいい汗流せました」
と白鳥さんは言っている。
 
「いや、僕の方こそ、凄くいい練習ができました。うちのチームでは白鳥さんレベルの相手がいないんですよ」
 
「でも日本代表は凄いでしょ?」
「あのレベルは凄いです。でもこれからバスケシーズンに入るから、日本代表の活動は春以降だし」
 
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貴司がそんなことを言っていたら、白鳥さんは考えるようにして言った。
 
「細川さん、大阪でしたよね?」
「ええ」
 
「私の友人が参加しているバスケチームが市川にあるんですけど、あのメンツもかなり強いですよ。もしお時間が取れたら参加してみません?細川さんのレベルなら歓迎してもらえると思う」
 
「いや、済みません。市川市ならここよりは東京駅から近いけど、頻繁には東京方面に来られないので」
 
「いえ、千葉県市川市(いちかわし)ではなく、兵庫県市川町(いちかわちょう)なんですよ」
「兵庫に市川ってありましたっけ!?」
 
「JR播但(ばんたん)線の甘地(あまじ)駅の近くに練習場があるんですよ。ここより広いですよ」
 
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「播但線・・・?」
貴司は必死でその付近の地理を思い出す。
 
(播但線は山陽本線の姫路から山陰本線の和田山までを結ぶ路線。播磨と但馬を結ぶので播但。ほとんどが各駅停車だが、大阪−鳥取(浜坂)間の特急はまかぜは播但線を経由する)
 

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「でも細川さん、確か千里(せんり)でしたよね?」
「はい」
「だったら、中国自動車道から播但連絡道路に入って、市川南で降りたらいいですよ。お車はお持ちでしたよね?」
 
「あ、はい。それ、中国自動車道からどのくらいですかね?」
「ちょっと待って」
 
と言って白鳥さんは壁際に置いていたバッグの中から全国高速道路地図を取り出す。それで兵庫県付近を開く。
 
「市川南はここですよ」
「ああ、福崎ICから分岐してすぐか(*2)」
 
「近いですね。播但連絡道路自体は、姫路から山陽道・中国道と交差して、9号線沿いの和田山まで行きますね。和田山から舞鶴若狭道の春日ICまで北近畿豊岡道で連絡されています。和田山からは更に豊岡市まで伸びる予定みたいですね」
 
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(*2)貴司のマンションから市川までの行き方は
 
千里IC(中央環状線3.5km)中国豊中IC(中国自動車道70.9km)福崎IC(播但連絡道3.3km)市川南ランプ
 
となり、ラッシュに引っかからなければ1時間ちょっとで行ける。料金は播但道路の福崎北−市川南間は50円、中国自動車道の豊中−福崎間は
2007年の料金表で2050円、2018年現在の料金は2120円である。2012年時点の料金は資料が無く不明。2018年現在は全区間ETCで走行できるが、2012年時点では播但道路は通行券方式である。
 
なお貴司は行きは21-22時頃、帰りはAM2-3時頃になるので、当時は早朝夜間割引(2005.1.11-2014.3.31)が適用され往復ともに50%引きの約1000円で利用できていた。
 

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「紹介状書いてあげますから、直接行ってみればいいですよ」
と白鳥さんは言う。
 
「ありがとうございます。やはり活動は休日の日中とかですか?」
と貴司が尋ねると
 
「あの人たちはみんな会社勤めしてるんで、平日の仕事が終わった夜9時か10時頃から始めるんですよ」
 
「へー!」
「それでだいたい夜中12時くらいまで。基本的に練習は平日だけど、休日もたいてい何人かは出てますよ」
 
「それなら・・・・私はもしかしたらチームの練習が終わってから間に合うかも」
「日によって変動があるから、夜10時頃行けば間違い無いです」
 
「ありがとうございます!行ってみます」
 

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貴司は何だか嬉しくなり、白鳥さんが書いてくれた毛筆!の達筆な(実は達筆すぎて読めない!)紹介状を持ち帰途に就いた。なお帰りは白鳥さんがここに来るのに使っているという、BMW F650GSのタンデムシートに乗せてもらって石下駅まで行った。
 
しかしバイクなので身体が密着する。貴司はしっかり白鳥さんに抱きついている。彼女の引き締まった筋肉質の身体が千里を思い起こさせた。この人、ほんとに身体を鍛えているんだなあ。千里が居なかったら興味持ってしまうかもなどと思ったりしている。しかし貴司は彼女に訊かれた。
 
「細川さん、もしかしてバストがあります?」
 
しまったぁ。これ胸が白鳥さんの背中を圧迫しているよな?でも密着していないと危険だし。
 
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「あ、ちょっと胸の筋肉が発達しているかも」
などと貴司が言うと
 
「あ、そうですよね。男の人におっぱいがある訳ないしと思いました」
と言われて貴司は冷や汗を掻いた。
 
貴司の身体は千里との婚約破棄の時に夢の中??で「死刑の執行猶予」にされた時に「男性性を没収」されて、まるで女のような身体になっているのである。取り敢えず立っておしっこができない身体だし、スポーツ用ブラを着けておかないと、身体を動かすのにバストが邪魔である。
 
やがて石下駅に到着するので、貴司は白鳥さんによくよく御礼を言い、
 
石下15:20-15:52守谷16:07-16:40秋葉原16:48-16:52東京17:10-19:43新大阪
 
というルートで大阪に帰還した。
 
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娘たちの振り返るといるよ(3)

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