広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■娘たちの収縮(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-05-26
 
フェニックスでの女子日本代表候補の練習は続いていた。
 
日本で連休明けとなった5月7日、千里はまた練習終了後に日本に転送してもらい、戸籍の分籍の手続きをした。千里の新しい戸籍自体はそのまま実家の住所に置いておくことにした。
 
5月8日の夕方からはこれまで散々お世話になったマーキュリーとの練習試合をする。第1ピリオドでは34-16とダブルスコアになったが、第2ピリオドで向こうが主力を下げると日本は互角の戦いをし26-21と5点差で持ち堪えた。更に第3ピリオドでは14-22とこちらの方が点が多かった。しかし最終ピリオドでは向こうが主力を戻したので28-14とまたダブルスコアでやられ最終的には102-73で敗れた。
 
「勝負になる相手ではないけど、最後にまた主力をコートに呼び戻しただけでも君たちはよくやったと思う」
と村出監督は言った。
 
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5月9日、半月滞在したフェニックスを離れて、午前中に1時間半のフライトでロサンゼルスに移動した。夕方から高梁王子が留学中のトロイ大学に行き、そこの体育館で練習をさせてもらった。今回はどうも代表選手の関わっている所に協力してもらっている感じだ。
 
10日は朝から15時くらいまで練習した所でいったん休憩する。
 
そして夕方からロサンゼルスを本拠地とするWNBAチーム、ロサンゼルス・スパークス(Los Angeles Sparks)と練習試合をした。
 
最初は向こうが油断していたようで、第1ピリオドは14-19とこちらが5点リードする展開。しかし第2ピリオドになると向こうは主力を投入してきて、25-17, 合計で39-36とし、逆転される。更に第3ピリオドでは32-20と大差をつけられ、第4ピリオドでは主力は下がったものの、控え組の選手も頑張って24-21と向こうがリード。結局95-77で敗れた。
 
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しかし8日の試合にしても今日の試合にしても、日本女子代表の力はWNBAの1つのチームの控え組に並ぶ程度にはあるんだなというのが分かった。
 

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ロサンゼルスには2日滞在しただけで、最後の合宿地シアトルに向かう。
 
11日朝8時の飛行機に乗り、2時間45分ほど飛んで、10:45くらいにシアトルに到着する。今回フェニックス、ロサンゼルス、シアトルは全部UTC-7の時間を使用しているので、とっても分かりやすい。
 
シアトルにはWNBAチーム、シアトル・ストーム(Seattle Storm)もあるのだが、千里たちが最初に対戦したのはジョージア州(*1)のアトランタ・ドリーム(Atlanta Dream)であった。ともかくもここシアトルでは13日までの間にいくつものチームと練習試合をした。
 
(*1)ジョージア州はアメリカ南東部の州。南隣がフロリダ州。北はテネシー州。東はサウスカロライナ州、西はアラバマ州。
 
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全ての日程は13日中に終了し、14日の午前中には束の間の自由時間でお土産などを買う。そして14日午後の飛行機に乗り込んだ。
 
SEA 5/14 14:20 (DL155) 5/15 16:45 NRT
 
アメリカに行く時には1日、日がダブるのだが、帰る時は1日どこかに行ってしまう。日本代表候補チームは成田で記者会見した後、解散。千里は取り敢えず葛西のマンションに戻り、ひたすら寝た。
 

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5月16日(水).
 
千里は合宿と合宿の合間を縫って、放送局の打合せに出て行った。
 
昨年の秋から今年春に掛けて放送した「ハート・ライダー」がひじょうに好評であったことから「ハートライダー2」をオリジナル脚本で作ることになったらしい。やはり群像劇なのだが、ライダーグループの他にドライバーグループも出てくるということで、オープニング曲をライダーをテーマにした曲、エンディング曲はドライバーをテーマにした曲を書いて欲しいということだった。
 
「誰が歌うんですか?」
「オープニングは堂本正登」
「わぉ!堂本さん復帰ですか」
「うん。やはり彼は男らしいイメージがあるから、皮のライダースーツ着せて。ドラマの中にもカメオ出演させる予定」
「だからAOR (Adult-Oriented Rock) という感じで頼む」
「Chicagoみたいな雰囲気ですね」
「そうそう」
 
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「オープニングは海野博晃に歌ってもらう案もあったんだけど、照会したら性転換手術を受ける日程入れているからダメと断られた」
「あの人性転換手術受けるんですか?」
「冗談だと思う」
「海野博晃はもう何年も前から性転換すると言っているけど、一向に性転換する気配は無い」
「まあ性転換するつもりはないんだと思うけど」
「あの人はそういうジョークを言うのが好きなだけだと思う」
 
「エンディングは小野寺イルザで」
「へー!じゃアイドルっぽい感じですか?」
「それだけど、彼女は歌自体がしっかりしているから、少し大人の歌手という側面も見せていこうよということで、アイドルというよりポップスという路線でお願いできればと」
「分かりました」
 
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「名義は、堂本のは醍醐春海、小野寺イルザのは鴨乃清見で」
「了解です」
 
「ついでにイルザがフェラーリを運転している所を富士スピードウェイで撮影して、エンディングのビデオに組み込もうと」
「彼女運転免許持っているんですか?あの子幾つでしたっけ?」
「1993年10月10日生まれの18歳。先日自動車学校に通わせて、免許取得しました」
 
「初心者にサーキット運転させるんですか〜!?」
「うん。だから大半は醍醐が代わりに運転するということで」
「まあいいですよ」
 

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「イルザは日本人初の女性F1ドライバーを目指すキャラとしてドラマにも出演」
「ちょっと待って下さい。そういう役どころなら、本職のレーサーさんに代行してもらってください」
と千里は言った。
 
「でも醍醐先生もA級ライセンスをお持ちなんでしょう?」
と和田ディレクターが言う。
「“国内A級”ですけどね」
と千里。
 
「国内?」
「自動車競技のライセンスは、国内B級から始まって国内A級、国際C級・B級・A級とあがっていきます。F1に出るには国際A級ライセンスの更に上のスーパーライセンスが必要です」
と千里は説明する。
 
「ああ、国内A級ライセンスと国際A級ライセンスがあるんですか」
「国内A級は、取り敢えずサーキットを走ってもいいよというライセンスですね。持ってる人はごまんと居ますよ」
と千里が言うと
 
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「いや5万人はいない。たぶん2万人くらい」
と雨宮先生は言った。
 
実際には資料を確認すると、2012年での国内A級ライセンス発給数は16,963人、国際ABCが合わせて2405人なので、雨宮先生が正しい。むろん千里は「五万」と言った訳では無く、数が多いという意味で「ごまんと」(*1)と言っただけである。
 
(*1)「ごまんと」は数が多いことを表す古語「まんと」の派生語で近世になって使われはじめたもの。「五万と」と書かれることもあるが当て字。
 

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「B級は?」
「講義受けたらもらえるライセンスで、まあ自動車レースのファンクラブ会員のようなものです」
「そうだったのか」
 
「でも一応サーキットを走れるライセンス持っているなら醍醐さんでいいと思うよ」
と橋元プロデューサーが言った。
 
「ええ。むしろF1を目指す女の子だから、今は必ずしもテクが凄くなくてもいいんです。ですから職業レーサーさんに代役してもらうより、アマチュアのドライバーさんの方が映像的に使えると思います」
と脚本家の桐生も言う。
 
「分かりました。私でもいいというのであれば運転しますが、下手すぎると思ったら遠慮無く他の方に交代して下さい」
 
「うん。それは遠慮無くそうさせてもらう」
と橋元さん。
 
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このあたりをストレートに言うのは、さすが番組の責任者である。
 

「でも女性のF1ドライバーって今までいたんでしたっけ?」
と出演者代表(このドラマには明確な「主役」は居ない)で出てきている俳優の暁昴(あかつき・すばる)が言う。
 
彼はドラマの中ではハーレーダビッドソンBlackline (1584cc)に乗っているが、個人ではスズキのブルバードM50 (805cc)に乗っているらしい。
 
800ccなのに50という名前が付いているのは50立方インチだからである。1 inchは 2.54cm なので 1 cu in = 2.543 = 16.387 cm3 になる。従って 805 / 16.387 = 49.1 cu in (cubic inch) なのである。
 
彼はバイクに乗る俳優というイメージが定着しているので、よく人から
「暁さん、個人的には、どんなバイクに乗っているんですか?」
と訊かれ
「ああ。俺のは小っちぇえよ。50だから」
と言うので、みんなてっきり50ccのスクーターにでも乗っているのかと思い、へー意外にと思うのだが、実際に彼が愛車に乗ってくるのを見たら巨大な車なので、みんな仰天するらしい。
 
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なお、ブルバード(Boulevard)M50というのは、アメリカでの名前で日本国内の名前は素直にBoulevard 800である。但し国内販売は2006年10月に終了しており、暁さんが買ったのはアメリカからの逆輸入もので、本当にM50なのである。
 
ちなみによくブルーバードと誤記されるが、青い鳥ではなく大通りBoulevardである。
 
でも暁昴のバイクには青い鳥のステッカーが貼られている!
 

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「女性F1ドライバーは今までに5人いますね」
と言って桐生さんが説明した。
 
Maria Teresa de Filippis (1926.11.11-2016.1.8) イタリア.1958-1959に参戦。1958ベルギーGPでは予選を19位通過、決勝10位完走。同年ポルトガルGPとイタリアGPでも予選通過したが決勝はリタイア。1959は予選通過ならず引退。後にマセラッティの名誉会長を務める。
 
Maria Grazia "Lella" Lombardi (1941.3.26-1992.3.3) イタリア.74,76ブラバム, 75,76マーチ, 75ウィリアムズで参戦。1975年F1スペインGPで6位入賞して0.5Pt獲得。これは女性ドライバーが入賞した唯一の記録であり、また生涯獲得ポイント0.5は、F1の生涯獲得ポイント最小記録である!
 
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Divina Mary Galica MBE (1944.8.13-) イギリス。1976サーティースおよび1978ヘスケスのチームで参戦。1976イギリスGPにはレラ・ロンバルディも参戦しており、F1史上唯一、複数の女性ドライバーが出走したレースとなった。
 
Giovanna Amati (1962.7.20-) イタリア。1992年にブラバムと契約して3戦に参加するが全て予選落ち。解雇されてデイモン・ヒルが後任となった。
 
Maria de Villota Comba (1980.1.13-2013.10.11) はスペインの女性ドライバー。2012年3月にロシアのマルシャF1チームと契約して今後の活躍が期待される。
 
(とこの時桐生さんは説明したのだが、彼女は2012年7月3日風力テスト中にサポートトラックに激突し重傷を負う。この怪我が元で10月11日死去。33歳。結果的にF1のレース自体には1戦も参加していない)
 
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「男性でも、日本人のF1ドライバーは今まで20人もいませんからね(*1)。日本人女性の体格でF1ってどのくらい現実味があるのかとは思うんですけどね。まあ、夢物語ということで」
 
と桐生さんは言っていた。
 
(*1)F1に参戦した日本人ドライバーは参戦年の順に鮒子田寛、高原敬武、星野一義、長谷見昌弘、高橋国光、中嶋悟、鈴木亜久里、服部尚貴、片山右京、鈴木利男、井上隆智穂、野田英樹、中野信治、高木虎之介、佐藤琢磨、山本左近、井出有治、中嶋一貴、小林可夢偉、の19人。この他に中谷明彦はブラバムチームと契約したものの、スーパーライセンスの条件を満たしていないとしてFIAからライセンス発給拒否され、代わりに採用されたのが女性ドライバー、ジョバンナ・アマティである。
 
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娘たちの収縮(13)

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