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■娘たちの収縮(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-05-25
 
女になると言う女装の千里に激怒して日本刀を振り回した武矢は、所轄署のベテラン警部が来て、みっちりお説教をくらうと、さすがに少し反省した。しかし男の身体にメスを入れて女の形に変えてしまうという“息子”に対する怒りと嫌悪感は納めようが無かった。
 
日本刀は妻と警部に促されて権利放棄して警部が持ち帰ってしまったし、酒は1ヶ月間禁酒を言い渡されたし(日本刀を持って“暴れた”時、新ジャンルのお酒を3缶開けていたことも問題にされた−不味いと言いながら3缶空けていたのである)、ふてくされて寝てようかと思ったが、放送大学のスクーリングがある。
 
それで5月3日、武矢はぶつぶつ言いながら、お酒代わりにと玲羅から渡されたコーラを飲みながら高速バスで札幌へ出かけて行った。普段は旭川のサテライトに行っているのだが、ゴールデンウィーク期間中に札幌のセンターで行われる特別講義を聴きたかったのである。
 
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なお武矢は運転免許を持っていない。免許くらい無いと就職先が無いといって取りに行ったものの、教習車を2台壊して(損害賠償は求められなかったものの)退校処分になっている。教官からは「あんたは性格的に運転に向いてないから、取らない方がいい」と言われた。確かに武矢のようにカッとなりやすい性格は運転者としては危険である。
 

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講義を聴いてから学習センターを出る。ラーメン屋さんで夕食を取った後、スーパーで夜食を買うが、つい習慣で菊正宗180mlを買おうとして、妻の怒った顔を思い出し、すんでで諦める。
 
「あいつの教育が悪いんだ」
などと文句を言っている。
 
代わりにオレンジジュースの紙パック1Lを買って帰って飲んだものの、どうも不愉快だ。それでともかくも安ホテルの堅いベッドの上で、ふて寝する。武矢は実は「柔らかいベッド」が苦手で、こういう安ホテルの堅いベッドの方が好きである。長年漁船内の狭くて堅いベッドで寝ていたからで、実は安ホテルのベッドにしても「広すぎて」落ち着かない。できたらシングルの半分くらいのサイズが良い。
 
そのような中で放送大学の講義を受け、最後の宿泊日となった5月5日の晩のこと。武矢が寝ていると、
 
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「お父ちゃん」
という声がする。それで「へ?」と思って目を開けると、千里が立っている。
 
「出てけ!お前の顔など見たくもない」
と言うが千里は
 
「お父ちゃんに私を見て欲しいの」
と言うと、着ていた白いドレスを脱いでしまった。
 

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武矢はごくりと唾を呑む。
 
それはあまりに美しい曲線美だった。
 
胸はかなり巨大だ。武矢的には「ボイン」という感じである(この言葉を使うと、それは死語だと玲羅から馬鹿にされるので口にはしない)。形も良く、上向きでツンとしている。
 
ウェストは細くくびれていて、腰は安産型である。道産娘の白い肌が魅惑的だ。武矢はそれが自分の“息子”であることを忘れて見とれていた。
 
しかし・・・お股の所には既に何も無く、むしろ縦の線が茂みの中に見える。千里は確か7月に手術を受けてチンコを取ると言っていた。でも既に無いじゃん!
 
「お前、まさかもう性転換手術ってしてしまったの?」
「ごめんね。もう終わっているの。そこまで言ったらお父ちゃん怒るかなと思って、あの時はこれから受けるみたいなこと言ったの」
 
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と言葉にする千里は、あまりにも可愛い。武矢は自分のあそこが立つのを感じた。
 
「私の身体をよくよく確かめて」
と言うと、千里は武矢にのしかかってきた。
 
ちょっと待て〜〜〜!!!
 

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「お父ちゃんの身体で私の新しい身体を確かめて」
と千里は言うと、武矢を抱きしめた。思わずあそこは完全に立ってしまう。
 
すると千里は武矢の浴衣の裾を開き、トランクスを下げると、そこに立っていたものに素早く避妊具を付けると自分の中に入れてしまった。
 
うっそー!?
 
「ね。ちゃんと女の子の形になっているでしょ?」
「あ、うん」
 
「ちゃんと男の人を満足させられるんだよ」
と言って、千里は腰を動かす。武矢は一瞬つながっているのが自分の“息子”であることを忘れてしまった。
 
実は・・・・武矢はもう長いことセックスというものをしていない。10年ほど前に津気子が乳癌になった時、セックスに応じる体力が無いし、セックスすることで女性ホルモンの分泌が促されると、それが乳癌によくないからと言われてセックスお断りされて以来、していないのである。もう既に乳癌の再発は心配無い状態になっているはずだが、それでも一度途絶えてしまった習慣はなかなか復活させられない。
 
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それで武矢にとってはこのようなことは10年ぶりの体験になった。
 
武矢はあっという間に逝ってしまった。
 
「気持ち良かった?」
「うん。気持ち良かった」
とうっかり言ってしまってから、待て、こいつは俺の息子だぞ!?息子とセックスしてしまうなんて。。。しかも女になった息子とするなんて。。。
 
「だから私、ちゃんと男の人のお嫁さんになって、赤ちゃんも産むから、私のこと、良かったら娘と思って欲しいの。私、婚約指輪ももらったんだよ。今年中には私お嫁さんになるから」
 
「そうなのか・・・」
「だから、私が赤ちゃん産んだら、孫の顔を見に来てね」
と千里は言った。
 
「分かった。見に行く」
と武矢は言ってしまった。
 
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「でも、今の・・・で赤ん坊ができたら?」
「ちゃんと避妊したから大丈夫だよ」
と言って、武矢のものにかぶさっている避妊具を取り外し、千里は丁寧に後をティッシュで拭いてくれた。
 
「あ、そうか。付けてたから大丈夫か」
「万一避妊失敗していたら、私の結婚相手の子供ということにしちゃうし」
「いいんだっけ?」
「そのなの分からないって。じゃまたね」
 
と言って千里は避妊具をバッグに入れ、ベッドから出ると、さっきまで来ていた白いドレスを裸の上に着た。そして可愛く手を振って、部屋の外に出て行ってしまった。
 

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武矢はボーっとしたまま、その扉を見ていた。
 
しかしその後で猛烈な自己嫌悪に陥る。
 
「俺は、俺は、結婚して以来初めて浮気してしまった」
「それに息子とセックスするなんて、同性愛で、近親相姦で」
 
しかし悩んでいる内に武矢は眠ってしまう。
そして翌朝起きた後、玲羅に電話してみた。かなり叱られたので妻には話しにくいのである。
 
「千里のことだけどさ」
「少し考え直してくれた?」
「あ、いや、あいつ嫁さんになるんだっけ?」
「そうだよ。そのあたりまで話そうとしてたのに、お父ちゃんったら暴れ出すんだもん。結婚式は12月くらいの予定だから、よろしくね」
「うっ・・・」
 
息子が・・・嫁になる!?あいつまさかウェディングドレスとか着るのか?
 
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きれいかも知れない!と武矢は思ってしまった。
 
昨夜の千里の白く美しい裸体が目に浮かぶ。
 
「指輪ももらったって?」
「うん。私も2月に見たよ。お父ちゃん、ちょうど札幌に行ってたから見せられなかったんだよね。1日こそお父ちゃんに見せようとしていたのに。写真撮らせてもらってるから、追ってそちらにメールするよ」
 
「そっか。千里は・・・今どこに居るんだっけ?」
 
「姉貴、4月下旬からずっとバスケットの合宿に入っているんだよ。1日は特に許可もらって抜け出して留萌まで来たみたいだけど、5月15日までは缶詰だと言っていたよ。話し合いたいなら、私から連絡するよ」
 
玲羅が千里のことを「姉」と呼んでいるのはひじょうにムカつく。しかし今武矢は千里の顔を見るのが“恥ずかしかった”!
 
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しかし・・・千里がどこかに缶詰になっているのなら、ひょっとして昨夜のは夢だということはないだろうか?? そう考えると、夢だと考えた方がいい気がしてきた。
 
「あ、いや、また後で少し考える」
 
と武矢は玲羅に返事したので、玲羅は武矢は早期に軟化するかもと思った。実際この“夜の訪問者”のおかげで、既に軟化していたのだが、武矢はプライドだけ高いので「振り上げた拳を降ろす」のが恥ずかしくて、意地を張ったままになり、千里のことを許すと言い出すのは、7年後になる。
 

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昔の体操着といえば、男子は短パン、女子はブルマであったが、1990年代半ばにブルマ反対運動が起きて、だいたい2000年代半ば頃には、ほぼ見なくなり(*1)全国的に、男女ともハーフパンツ(一部の学校ではショートパンツ。また男子はショートパンツで女子はハーフパンツという所も)となった。
 
(*1)「アイシールド21」で「(夕陽ガッツのマネージャー)今時ブルマですよ」といった言葉が出てくるのが2004年のジャンプ40号掲載・第102話である。
 
龍虎の小学校でも2003年の新入生から男女とも上は白いジャージで、下は水色のハーフパンツという仕様になった(それ以上の学年では任意切り替え)。2003年から入れ替えが始まったので2008年には全学年体操服は新仕様になった。実際には各児童は成長に合わせて新しい体操服を買う時に新仕様のものを買っていたので2006年頃までにはほぼ全生徒、男女共通仕様の体操服を着ていた。
 
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それで龍虎がこの小学校に通った時期(2009.1-2014.3)には、体操服だけを見ると男女の差は無くなっていた(ここ大事)。
 
また男女混合名簿は2000年に東京都で提案されて以降少しずつ広まっており、龍虎の小学校では2010年から男女別名簿が男女混合名簿に切り替えられた。それで龍虎は小学3年生以降、男女混合名簿になっている。つまり、出席番号を見ただけでは性別は分からない。
 

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2012年4月、田代(長野)龍虎は小学5年生になった。
 
今年龍虎たちのクラスの担任になったのは“今年転任してきた”増田先生という30代の女先生だった。先生は体育が専門なので、通常の科目に加えて体育も教えていた。それで先生は龍虎がダンスに非凡な才能を持っていることに気付く。
 
「田代さん、凄く手や腕の動きがいい。ダンス教室か何かに行ってるの?」
と先生が訊くと、1年生の時以来の親友である彩佳が
 
「龍ちゃんはバレエ習っているんですよ。年末の公演では『眠りの森の美女』の《青い鳥とフロリナ王女》(*1)を踊りましたから」
と言う。
 
「あら、フロリナ王女を踊ったんだ!」
と増田先生は言うが、むろん龍虎が踊ったのは青い鳥(=チャーミング王子)のほうである。彩佳はわざと誤解されるように言っている。
 
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龍虎がどう訂正しようかと思い「えーっと・・・」と言っている内に先生は言った。
 
「だったら、田代さん、運動会のダンスの前面で踊ってくれない?」
「はい?」
 
この時クラスメイトたちは素早く視線の交換をしていたが、やがて全員《龍ならいいよね》という雰囲気になった。
 
(*1)「眠りの森の美女」(1890)第3幕の祝賀会の場面で出てくる「青い鳥」はメーテルリンクのチルチルとミチルの物語(1908)ではなく、オルノワ夫人の童話集(1697)に見る、チャーミング王子とフロリナ姫の物語(フランス語ではシャルマン王子とフロリーヌ姫)である。継母により青い鳥に変えられた王子とそれを助けようとする姫の愛の物語。メーテルリンクの作品の方が、眠りの森の美女より後の時代に作られている。
 
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そういう訳で運動会に向けて5年1組の“16”人による『Everydayカチューシャ』のダンス練習が始まったのである。最前列に並ぶ4人は、バレエを習っている龍虎と空手を習っていて身体の動きが良い桐絵がまず確定で、あと2人は練習の状況を見て決めることになった。決まるまでは日替わりで色々な子がその場所で踊ってみる。先頭で踊る人は誰も見ずに踊らなければならないので、振り付けを完璧に覚えておく必要がある。実際には数日の内に、真智と弘恵がうまいので最前列固定となった。
 
ちなみにこの小学校の5年生は男子58人・女子44人の合計102人で、3クラス作られており、各クラスは男子19-20人・女子14-15人である。龍虎の所属する5年1組は男子19人・女子“15人”で4人差なので、行進とかフォークダンスとかで、男女組になるような場合は、男子から2人女子の列に借り出されるが、男子の中からだいたい背の低い2人、龍虎(125cm)と立石君(138cm)が回るのが常になっていた。龍虎は男女通して身長がいちばん低い。立石君は女子の平均付近より少し下である。
 
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さてクラスの中の“16人”でダンスの練習をさせていた増田先生は、最初、龍虎は背が低いので、背の高い桐絵(149cm)と真智(152cm)を中央に置き、125cmの龍虎と132cmの弘恵を両端にしようと思った。
 
しかし数人の女子が言った。
「龍ちゃんが真ん中のほうがいいと思います」
「うん。龍ちゃん、手足がピシッと伸びているから、身長は低くても凄く目立つ」
 
先生も
「確かにそうかも」
と言い、結局左端から、弘恵132-龍虎125-真智152cm-桐絵149cmと並べてみた。
 
すると確かに静止している時は龍虎は弘恵より低いのが分かるが、踊り出すと、龍虎の方が高い所まで手が上がっているし、27cmもの身長差のある真智と並んでも全く背の低さを感じさせない動きであった。
 
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「龍ちゃんすごーい。あんた、きっとダンサーか歌手になれるよ」
と先生は言った。
 
「龍ちゃんは歌もうまいから、きっとアイドル歌手になれますよ」
「そうそう。可愛いミニスカートとか穿いて、踊りながら歌ったりして人気になると思うよ」
 
と女子たちからは声が出ていた。
 

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娘たちの収縮(9)

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